この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

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act10 怪物祭に散弾を

「――それで、ケンって子の方はどうするんだい?」

「う~ん、それなんだけどね……」

うんうんと悩むヘスティアに、ヘファイストスもまた頭を悩ませていた。

 事の始まりは、ガネーシャ主催の神の宴。ヘスティアが、土下座してこの鍛冶の女神にオーダーメイドの武器を用意して欲しいと訴えた事からだ。

 このオラリオにおいて、ヘファイストス・ファミリアの武器がどれだけの価値が在るのか、一時期彼女の脛をかじってグウタラしていたヘスティアも十分に理解している。もちろん彼女が、鍛冶師としてだけではなく商売人としても厳しい事もだ。

 故に、宴から抜けても。ヘファイストスが自分のホームに帰っても。延々と追いかけてきて頼み込んでくるヘスティアに、ヘファイストスは頑として首を縦には振らなかったのだ。

 振らなかったのだが……この神友が余りにうっとおしかった事と、

『ボクは、ベル君とケン君の為に自分がやれる事をしたいんだ!

 待っているだけじゃ、イヤなんだ……』

 と、脛をかじってグウタラしていた頃には見る事のなかったヘスティアの本気に当てられ、自身が打つと言って折れてしまった。もちろん代金は、何百年でも何千年かかってでもキッチリ払わせると言質を取ってだ。

 一瞬、ヘスティアの背後に死んだ様な目をした彼女の子供の一人を幻視したが……ヘファイストスは気のせいだろうと頭を振った。

 閑話休題。

 さて、ココで問題となったのは、どの武器をヘファイストスに打ってもらうかだ。ベルは、普段から使っている主力武器のナイフと決まった。もう一人の眷属――ケンは、

「ケン君の武器は、弓矢だよ」

 一応ねと、念を押すように言うヘスティア。それに多少いぶかしみながらも、ヘファイストスは考える。

「弓……鍛冶じゃなくて木工職人を頼るべきね。

 私でも、金属製の物なら弓矢一式作れなくはないけど……」

「それだと、ケン君の腕力じゃ扱いきれないよ。何より、ケン君のスキルで出す矢は弓とセットなんだ。別の弓じゃ使えない制限もかかっているみたいだし……」

 それではケンの利点を潰す事になると言うヘスティアに、ヘファイストスは米神を押さえてため息を吐く。スキルの内容の開示は子の神とは言えご法度だが、ヘスティアがヘファイストスを信じている事と……予めケンから、ココまでは教えておいて構わないと言う範囲しか教えていない。

「面白いスキルだけど、厄介ね……」

 さて、そうなると主力武器以外の物にならざるをえないが、

「ケン君には、武器よりも防具の方がいいかもしれない」

 ヘスティアのその呟きに、ヘファイストスは暫し考え……それはやめておいた方が良いと返した。

「何でだい? ケン君は、その……耐久力が恐ろしく低いんだ。少しでも防御力を上げないと……」

「防具だけ頑丈でも、着ている本人が脆かったら……」

 防具だけ残して、ミンチよりも酷い事になる。そう言われてヘスティアは、キレイに防具だけ残して死んでいる自身の眷属を想像してしまい――必死に首を振ってそれを吹き飛ばした。

「そうね……彼、遠距離主体でサポーター紛いな事もしてるのよね? なら、戦闘だけじゃなくて作業用も兼ねた短剣が無難そうね」

 ヘファイストスの提案に、ヘスティアはその考えはなかったと納得して頷く。これで打つべき物は決まった。

「……さて、駆け出し冒険者用の一流武器を二振り」

 それも片方は武器と言うよりは作業用具……。

 どの様に打ち上げようかと、ヘファイストスは炉に鉄塊をくべた。

 

 

 幾日か経ち……怪物祭(モンスターフィリア)当日がやって来た。

 ギルドは閉店状態だというのに、ベルはいつもの様に身支度をしてホームを出て行く。

 あいつは知らないのだろうか? ケンはそう思いつつも、ベルは既に声をかけるには遠い。

「……まぁ、いいか」

 もうポツンとしか見えないベル後姿を見送りながら、ケンもゆっくりと身支度を始める。寝巻きを脱ぎ、普段着……と言う名の冒険者装備一式を身に着ける。いい加減これ以外もそろえるべきなのだが、彼はため息をついて結論を先延ばしする事にした。

 うん、きっと買わない。

 新しい防具と交換するまで買わない。

 朝から晩までたぶんずっとこのカッコ。

 そう、これはジャージみたいなものなんだ。

 そんな情けなくてズボラな予定を立てつつ、ベルの後を追うようにホームを後にした。

 サポーターバッグは背負わない。今日はダンジョンに潜るわけではなく、祭りに参加するのだ。武器も――普段背負っているファントムも持っていない。身に着けているのは、最低限の護身用としてサヴァイバル・ナイフが一本に、拳銃のREXだけだ。

「流石に、今日くらいは尾行しないでくれたらいいんだが……」

 ここ数日、どうにも着けられている。先日のスリの仲間なのか、それとも別のなのかは判らないが、用心するに越した事はない。

 ……まぁ、最悪の場合はスキルを全力で使ってでも逃げよう。

 そう決めたケンの頭の中では、AC-130にフルトン回収してもらってオラリオから離脱するプランが練られていた。

 脱出後、ヘスティアやベルには、手紙を出して安否を知らせればいい。エイナさんには厳重注意を受けるかもしれないが、状況が状況なら背に腹は変えられない。

「……」

 ソコまで考えて、何でオレがそんな事しなければいけないんだと、ショットガン――SPAS-12のポンプをスライドさせた。

 ジャコンと言う音と共に初弾を装填、そのまま次の弾を流し込んでいく。

 大丈夫、散弾だから流れ弾が沢山だ。

 大丈夫、フルチョークで絞ってるから殺傷力は高いよ。

 大丈夫、一発(複数)だけなら誤射かもしれない。

 だから、たまたま流れ弾で手足が吹っ飛んでも、お腹に大穴が空いてもぜんぜん不思議じゃない。

 連日のストーキングと、止せばいいのになんども狙ってくる馬鹿なスリ共に、流石のケンもいい感じに頭が茹って来ていた。余りにも不吉で不謹慎な事案を羅列しながら彼は、着々と祭りへと出発する準備を進めていく。

「光学サイトにレーザー系も外して、後は……」

 余計なアタッチメントを取り外し、ストックを折りたたんで布を巻く。コレでこのショットガンは、傍目にはただの棒にしか見えない。ケンはソレを背負うと、祭りでにぎわうオラリオの街へと繰り出していった。

 その後姿は、客観的に見ると――ただ祭りの中で散弾銃を乱射しようとするテロリストに見えなくも無い。だが、それを指摘し咎めてくれる愛しの幼女神は、生憎とここには居なかったのだった。

 閑話休題。

 大衆の神ガネーシャ・ファミリア主催の一大イベントだからなのか、普段は出店していない珍しい屋台がオラリオの街並みに所狭しと並んでいた。

 さて、祭りの出店といえば何が思い浮かぶのだろう?

「お、そこの兄ちゃん! 出来立て、買っていかないか?」

「……ん、一つもらうよ」

 定番と言えばたこ焼きにクレープ、

「おっちゃん、ソレを一つ!」

「あいよ!」

 あとは焼きソバに綿アメ、

「たくさん買うね~お兄さんや」

 お好み焼きとかシシケバブに、

「ああ、自分で稼げるようになったからね」

 アイスクリームやコロッケ、イカの姿焼きに冷やしたパインも棄てがたい。

 全部食い物ばかりじゃないかって?

 ……いいんだよ。

 射的屋は的が倒れない。

 金魚すくいはポイがすぐ破ける。

 型取りは簡単に砕ける。

 クジ系は当たるなんて事はまず無い。

 ついでに言うと、遊戯系は値段が高すぎる。

 玩具を売ってる出店も、大型スーパーや専門店が充実してきて食指が伸びない。

「……擦れてるなぁ」

 そうぼやくケンは、両手に持った食い物を頬張りながら、街角の広場で腰を落ち着けた。

 彼の周りには誰も居ない。

 いや、いるにはいるが、それぞれが仲間内で集まっている。和気藹々とした雰囲気を出す他者を見ながら、独りで祭りを楽しむのはちょっと辛いと感じていた。

 そんな彼がする事と言ったら、ただ食べるだけ……。

 食い倒れるまで屋台巡りをするのもまた一興なのだろう。祭りと言う行事に久しぶりに参加したは良いが、これだけでも楽しもうと思えば楽しめるはずだ。

「金なら、沢山あるしな」

 アブク銭とも言えるが、子供の頃からすると考えられない位の大金。本来、駆け出しの冒険者なら防具なり武器なりを揃える為に使うべきなのだろう。だが、ケンに関してはそんなに気にする必要が無い。基本、武器はスキルで用意できる。防具は、ステータス的にまだ買い揃える時期ではない。買うとしたら、六階層以降にソロで普通に潜るようになってからだろう。

「はぁ……」

「ん?」

 やけに暗いため息が耳に入ったので気になって見てみると、どこかで見た事のあるようなクセ毛の女の子が塞ぎ込んでいた。

 誰だっけ? ココ最近見た事がある気がするのだが、肝心の名前が思い出せない。顔を見れば思い出せるかもしれないが、抱え込んだ膝に顔を埋めていて見る事も……、

「……」

「……」

 目と目が合う。彼女の羨ましそうに見つめてくる視線に、ケンは思わずジトッとした目を返し、

「……シルさん、どうしたんです?」

 諦めた様に問いかけた。

「お財布、無くしちゃいました……」

「……ああ、スリか」

 人で賑わう祭りゆえか、そこによからぬ考えを持ってやってくるヤツも引き寄せられる。彼女はその被害者なのだろう。さっそくコイツの出番かと思っていると、

「あ、いえ、無くしたというか……忘れた?」

「取りに戻れ」

 シルの訂正に、優しさのない即答を返すケン。哀れに思った事すらおかしく、彼は鼻で笑いながら肩をすくませた。その仕草に傷ついたのか、涙目で非難の声を上げる。

「酷いですよケンさん! 女の子が困ってるのに、鼻で笑うなんて……」

「う……」

 彼女の訴えに、確かにそうかもしれないとそのまま閉口するケン。彼が元来そう言う気が回るような性格なら、そもそも鼻で笑うなどと言う事もなかっただろう。ここで無理やり会話を打ち切る事もできたが……シルの視線が、物欲しそうにケンの口元に注がれていた。もっと言うと、今も口に運ばれている屋台の食べ物に……、

「……食べるか?」

 そう言ってケンは、未だ手を着けていないフランクフルトや大判焼きを彼女の前に差し出す。すると暗かったシルの顔が一変してパァッと明るくなり、

「ありがとうございますケンさん!」

 礼を言いながら受け取ると、ハム、ハムと、いかにも可愛らしい効果音を響かせながら受け取った品を食べていく。

 ……なんだろう? 彼女の行動は極普通なのに、ケンはどこかアザトイと感じてしまう。一つ一つの仕草がまるで計算されているかのように見えてしまうのだ。

 ブン、ブン……。

 演技のように感じてしまうのは、自分が擦れているからかもしれないと頭を振る。もし演技だとしても、酷く騙されている訳ではないなら別に構わない……かもしれない。などと、彼は良く分からない問答を頭の中で繰り広げながら、彼女が食べている姿を堪能した。

「……ん、でも良いんですか?」

 食べてから言うのもなんだがと、シルは申し訳なさそうに言う。だがケンは、

「いや、まだまだ沢山あるし……。

 それに、これからもっと買うから」

 ホレと、シルに追加の食べ物を与える。それを嬉しそうに頬張るシルをみながら、彼は餌付けしているみたいだと笑う。

「え、餌付けって……ケンさん!」

 私は犬や猫じゃないと抗議するシルに、ケンは尻尾はムリだが着け耳くらいは売ってないかと屋台の方に目を向ける。お面の類はよく目に入るが、着け耳を扱っている屋台は……無いわけではなかった。

「分かってるじゃないか」

 ケモミミや尻尾の仮装具を扱っている屋台。店番しているのは……驚くことに神だ。いたいけな少女たちにケモミミと尻尾を装着させ、彼の神の眷属が一瞬でその姿をスケッチしていく。ソレも二枚。出来上がりも写真並みだ。

「ありがと~」

「うむ、やはりケモミミ少女はすばらしい!」

 色々と業が濃いなあの神様。それにうなずく眷属もだが。

「な、なんだか、楽しそうですね」

 なにが楽しそうなのかはあえて聞かない。さて、気を取り直してシルにはドレが似合うだろう? やはり定番の猫耳だろうか? いや、確かに彼女は猫っぽいが、犬耳の方が似合いそうだ。

「ほう、犬耳か……」

「ああ、それもピンっと立っている耳じゃなくて垂れているのが良い」

「分かっているではないか子供よ」

 などと、意味不明な会話キャッチボールをしながらニヤつくケンと――いつの間にか参加していた名も知らぬ神。

「もう、からかわないでください!」

 そう言って怒るシルだが、その頭にはすでに彼の神の眷属がイヌミミを装着させ終えていたのだった。

 

 

 所変わって豊穣の女主人、そこで白兎が一人途方に暮れていた。

「にゃー、だから判らんのかニャー?」

 ニャーニャーと鳴く猫人の店員の言う事がまったく分からない。彼女には、言うべき事をまったく言ってくれない事を指摘すべきなのだろう。だが、生憎と初心なベルに女の子にそう言う指摘をする事も難しい。

「アーニャ、それでは説明不足でクラネルさんも困ってます」

 助け舟を出してくれたのは、猫人の同僚のエルフ。丹精な顔立ちや佇まいに目を奪われるが、彼女はベルに一礼して詳しい訳を補足してくれた。

「――と、言うわけです」

「そう言うわけですか……判りました!」

 怪物祭に向かった同僚のシルが忘れたガマグチ財布。コレを彼女に届けるお遣い(クエスト)を受けたベルは、祭りで賑わうコロッセオまで走っていった。だが……、

「み、見つからない」

 再び途方に暮れてしまう。

 右を見ても左を見ても、後ろも前も人! ヒト! 亜人! ついでに神! 普段もヒトが多いが、祭りのせいで人口密集度が普段の倍以上に膨れ上がったオラリオ。ベルはその中で溺れてしまっていた。

 思い返せば、オラリオに来る前に住んでいた村ではこんな事を経験した事はなかったなと、ベルは現実逃避する。そしてよくよく考えてみれば、シルがどの様なカッコをしているのかを聞いていない。お店の制服でお祭りに……などという事は無いだろう。

「顔だけで、見つけられるかな?」

 帽子とか被ってなければ……あと、いつもの髪型ならあるいはと、不安げに辺りを探すベル。そんな彼を見つけたのは、

「べ~ル君!」

「か、神様!?」

 愛すべき紐幼女神だった。

 ベルの腕に抱きつき、その豊満すぎる果実を押し付け、フニフニと形を変えさせて甘えてくる。そんな女神の行動に、ベルは湯だったタコのように顔を赤くして硬直した。

 ただの三日とは言え、ベルから離れ離れとなってしまった事でベル君成分が不足――さらに過酷な三徹までやった為に枯渇していた。ソレを補給するためにか、ヘスティアはベル君ベル君と何度も彼を呼びながらその肢体をベルへと擦り付けていく。

「すまん、甘すぎる……」

「おい、苦い茶ねぇか……?」

「なんかこう、来るモノが在るな」

 周囲で彼女らを見ていた通行人が、その気に当てられて一斉に砂糖を吐きながら苦いものを求めて歩き出す。中には、そんなロリ神を見て前屈みになるモノも……。

「――っと、今日はお祭りだ! 一緒に回ろうじゃないか!」

「え、でも、ボク、ヒトを探してるんですけど……」

「なら、祭りを回りながら探せば良いじゃないか!」

 正気に戻ったヘスティアが、ベルの手を引いて歩き始める。祭りを楽しもうと言うヘスティアにベルは、ちゃんとヒトを探しながらですよと言いながら引っ張られていく。……もっとも、屋台を数件回る頃には探し人の事をちゃっかり忘れてしまうのだが、ソレは致し方ない。

「――ん? ベルに、ヘスティアか?」

「え、クラネルさん? え、どこですか?」

「ん~、もう見えなくなった。気のせいかもな」

 すれ違うのもいたし方がない。

 何せ今日は、お祭りなのだから。

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