この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

14 / 32
act14 帰り道にはご用心

 それからベルは、店の隅で埃を被っていたヴェルフ・クロッゾ作の軽装鎧一式を手持ちのほぼ全額を出して購入。対するケンは――気に入った鎧一式が見つからず――単品コーナーから皮製のハーネスを中心に、金属製の胸当てや弓篭手に脚鎧。それから各種アイテムを入れておくためのサイドパック類を選択した。

 その事にエイナ氏は白目を向いて――すぐさま再起動してケンに考え直せ! こっちの皮鎧一式なら射撃手用だから! などなど最初こそ説得しようとしたが、どれも無銘ながらそれなりに品質のよい物を引き当てていたようで、

「もう……次からは、こんなムチャな選び方はしちゃだめだよ?」

 今回は一応だが許してもらえた。

 だが、余りこの人の胃にダイレクトアタックするような事は控えたほうがいい。只でさえ彼女には負担をかけているのだからと、その後にエイナ氏を精神的に労うため沢山間食を提供した。

 ベルはスッカンピンなので、主にケンのお財布で……。

 そして夕刻。

 エイナ氏からエメラルド色の篭手をプレゼントされたベルは、ケンと共に今日の戦利品を手に持ちホームへの帰路についているのだが……、

「待ちやがれ!」

「?」

 殺してやるとか言う物騒な声が聞こえてくる方に目を向けると、走ってくる人影が二人。どうにもこうにも自分達は、トラブルに巻き込まれる星の下に居る様だった。

 そのまま先頭を走っていた女の子とベルがぶつかり、追いかけてきた若い男が抜き身の刃物を……。

「っ!? なにしやがるテメェ!」

 咄嗟に二人の間に立つベル。振り下ろされた男の刃は、鞘に収まったままのヘスティアナイフで受け止められた。

 ケンはと言うと、ため息をつきながら自分達とぶつかって倒れた小柄な――最初は子供かと思ったが、ベルが小人(パルゥム)だと訂正してくれた。彼女を起こし、怪我は無いかと質問しながら確認する。派手に転んだ様に見えたが、幸いな事に膝や手の平を擦りむくなどと言う事もなく、多少顔が汚れているくらいだ。

「お、落ち着いてください。ね?」

「テメェら……ソイツの仲間か?」

「いや、初対面なんです、けど……」

「なら、なんでソイツの味方するんだ?」

「お、女の子、だから?」

 そこで何故疑問系になるんだと、思わずため息を吐いてしまうケン。ガナリ立てる男を呆れたように見ながら、

「刃物振り回して、殺してやるなんて言いながら追いかけてる男と……」

 次いで立たせた女の子を見て、

「追いかけられてた女の子見て、どっちに味方するかなんて……」

 分かりきった事だろ? その問いの、男は赤面しながら五月蝿いとわめき散らした。

 この男が、小人の女の子を追いかける理由は分からない。だが、このままこの男が私刑を執行していくのを見てみぬ振りをするわけにも行かないだろう。

 男は見たところ冒険者のようだ。

 小人の女の子はどうなのだろうか?

 おなじく冒険者なら……、

「トラブルって言うなら、殺すじゃなくて――」

「うるせぇ!」

 ギルドに連れて行けと言い終わる前に、男が駆け込んでくる。突然の事に、ベルも反応できずにすり抜けられ、ケンの……いや、少女の方へと迫る。だが、

「ガフッ!?」

 今度は、ケンが間に立った。

 【戦場遊戯(バトルフィールド)】で呼び出した盾――バリスティックシールドで、男が振り下ろした剣を弾き飛ばし、そのまま男の顔目掛けてシールドバッシュをお見舞いする。

「テ、テメェ!」

 ぶっ殺してやると、痛む鼻頭を押さえながら睨みつけてくる。男は完全に切れてしまったようだ。

 まったくとため息をついたケンは、物理的に説教をかましてギルドに突き出してやろうかと、腰のサイドアームに手をかけた所で、

「おやめなさい」

 夕暮れ時に現れた、通りすがりのウェイトレスによってこの場は納められた。

 なんと言えばいいのだろうか? 言い表すとすればそう、リューが如くだった。喧嘩バトルこそなかったが、ほぼ一喝で男を退散させたあの威圧感は只者でなかったとだけ言える。

「まじパネェっす。リューさん」

「でしょ? リューってスゴいんですよ!」

 後日、豊穣の女主人で今日の件を話題に出し、件のエルフのウェイトレスが困った様にしていたのは別の話だ。

 余談だが、助け起こした女の子はリューの登場に目を奪われていた隙に居なくなってしまっていた。事情を聞ければよかったのだが……後でエイナ氏に連絡しておこうと決め、その日はホームへと帰った。

 明くる翌日、

「それじゃ、行って来るな」

「うん、ちゃんと帰って来るんだよ?」

 新装備を身に着けたケンは、ヘスティアに見送られてホームを後にした。

 いつもどうりだが、早起きのベルは既にダンジョンへと行っている。しかしケンが遅いのではなく、元農家――ベルの朝が早すぎるのだ。だがしかし、あの怪物祭(モンスターフィリア)での出来事もあってなのかは知らないが……、

「あ、ケン! こっちこっち!」

 おおよそケンがバベルへと到着する頃に、決まってベルが地上の入り口で堂々と待っているようになっていた。他の冒険者と一緒に――他と比べて自分の装備とかが恥ずかしくて――ダンジョンへと下りれなかったベルが、だ。

 ベルの呼びかけに、手を上げて返答を返すケン。それにしてもと、目を細めながら今日は妙なモノと一緒に居ると思案した。それは、ベルの身の丈を越える、呆れるほどデカイバックパックだ。

「あの方が、ベル様の言っていた同僚の冒険者様ですか?」

「うん、そうだよリリ!」

 バックパックばかりに気を取られていたが、ソレを背負っている――やけにちいさな人に気がついた。フードで顔が隠れているが、体型からして子供……ダボダボのローブ越しでも分かる体型からして女の子だろうか? ケンは膝を曲げ、自分の背丈の半分くらいの少女と目を合わせられるようにする。

「あ、すいません冒険者様。態々そんな……と、自分はサポーターのリリルカ・アーデです!」

 初めましてと、フードを上げて挨拶してくれた彼女の顔を見て、ケンは一瞬いぶかしんだ。いや、不快に感じたわけではなく……、

「昨日の女の子?」

「……ベル様もおっしゃられていましたが、リリはお二方とは初対面ですよ?」

 そう言いながら、リリはフードの隙間から動物の――犬の耳と尻尾をパタパタと動かしている。青の薬屋の店員、ナァーザと同じ犬人(シアンスロープ)。昨日ぶつかった女の子は小人(パルゥム)。獣耳や尻尾など生えていなかった。

 ベルは、種族が違うからまったくの別人だと言う。だがしかし、

「……姉妹とか親戚?」

 可能性はある。

 若干記憶が曖昧だが、この少女と昨日の少女は恐ろしく似ている気がする。もしかしたら、並べたら鏡写しと言えるかも知れないほどだろう。親戚はともかく、混血の双子なら或いは……。

「はい?」

 ケンの発した言葉に、リリはなにを言っているのか分からず頭を傾げてしまう。そして、姉妹は存在せず冒険者だった両親とは死別したと何ともない様にして言う。

「……なんと言うか、スマン」

「いえいえ、気にしないでください」

 どうにも場が気まずくなった様な気がする。

 その後、あたふたするベルが場を取り直してくれて……改めて仕切り直した。

「では改めまして……リリをよろしくお願いします。ベル様、ケン様!」

「本当は、ケンと相談してからの方が良かったんだろうけど……」

 新たにパーティメンバーに加えられたリリルカ――改めリリは、ペコリとその大きなバックパックごとお辞儀をしてくる。バランスを崩したりせず、中身が飛び出ないなどと、いったいどうなっているんだとケンは感心が費えない。

「それは、まぁ、大丈夫だ」

 それほど積極的にパーティを組んでいる訳ではない……とは、さすがのケンも言葉を飲み込んだ。ソレを好意的に受け取ったのか、ベルはリリとうれしそうにしている。

「……しかし、いいのか?」

 サポーターのリリを誘った事ではなく、自分も一緒に居てと言う意味でベルに質問する。彼女は、子供とは言えもう少し成長すれば十分女性。個人的にリリの顔立ちはいい。服の上からでも発育の良さが分かり、将来有望であろうケモ耳少女と二人っきりに成れるチャンス。ハーレムを目指すベルとしては、気まぐれにしかパーティを組まないケンの事など気にする必要ないのではないのだろうか? と言うより、二人でダンジョンでしっぽりと探索(デート)するべきじゃないのだろうか?

「え? なんで?」

 だがベルは、ベルの中では、ケンはパーティの固定メンバーの様だった。逆にへんな事を聞くと、ベルに真顔で返されてしまう。

 ケンはまいったなと頭を掻き毟ると、今日だけだと心の中で決めてダンジョンへと潜っていった。

 

 

 ダンジョンの壁や床、天井からドンドン湧き出すモンスター達。

「よ~し、次のキラーアント来るぞ!」

「リリ、ペースが速いけど大丈夫?」

「はい、ベル様! リリは大丈夫です!

 ……あ、ケン様! 引き抜いた魔石はリリがお持ちします!」

 サポーターのリリが加わった事で、モンスタードロップなどを背負う負担がなくなったベルとケンの動きは、普段のそれよりも数段軽く鋭くなっていた。今も湧き出てくるモンスター――キラーアントを手にしたヘスティアナイフで切り裂き、ファントム・ボウが撃ち貫いていく。

 快進撃を続ける二人だが、ケンはついついいつもの調子で魔石を引き抜いていた。

 モンスターを解体する必要なく、ほぼ一突きで魔石を回収できてしまう“本体置いてけ”。今日は外部の人をパーティメンバーに加えているからと、潜る前に気をつけるように決めていたのだが……ついついいつもの調子で使用してしまった。

 最初こそリリに驚かれたが、冒険者のルール――相手のスキルやステータスを詮索しないで通した。……ただ、リリも自身のスキルのさわり程度を教えてくれたので、スキルの中の“本体置いてけ”だけを教えた。リリの言葉を借りるなら、そんな大したスキルではないから。精々、魔石狙いで攻撃して砕いてしまう心配が無い程度、と言うのがケンの認識だった。

「ベル様、危ない!」

 ゴウ! っと言う音と共に、紅蓮の塊がベルの死角から襲い掛かって来たキラーアントを焼き払う。火炎放射……ではない。火の魔法? 多才だなと思わず漏らしたケンに、ベルがリリの手に持ったナイフともショートソードとも言えないモノを見て目をキラキラさせた。

「魔剣!? リリ、そんなすごいの持ってたの?」

「え、あ、はい。そんなに回数は使えませんが……」

 魔剣と言うどうにも気になる単語が出て来たが、ソレよりも先に彼は視界の端に有るソレに目が行った。

「っ!? リリ、その壁から離れろ!」

 レーダーに反応。リリのすぐ横の壁からだ。

「へ?」

 間の抜けた声を出して壁の方を見るリリ。そのタイミングで壁が音を立てて砕け、キラーアントが湧き出て来る。

「リリ!」

 壁から湧き出て来たキラーアントに、咄嗟にファントムを構えるが……。いつの間にかリリの前に立っていたベルが、一薙ぎでキラーアントを屠ってしまった。先ほどまでかなり前に居た筈なのだが、

「早いな……」

 と、思わず零してしまう程の早業だった。

 そう言えばとケンは、ベルは敏捷の上がり方が特に凄いんだったなと思い出す。

 ……あの速さを捕らえられるだろうか?

 思わずファントムに目をやるケン。そして、すぐにムリだと頭を振った。ココよりも下層に行けば行くほど、あのベルよりも早いモンスターが出てくるのかと、考えるだけで彼の頭は痛くなってきた。

「ベル様、ありがとうございます!」

 なんか、ベルとリリがイチャイチャ(?)している気がする。本当はそんなんじゃないんだが、何となくリア充爆発しろと言いたくなった。だがしかし、二人を本当にC4で吹き飛ばすわけには行かないので、

「それじゃ、さっさと解体……」

 ザクッ!

「あ……」

 壁に半ば埋まったまま絶命していたキラーアントに、ヘスティアマチェットを突き立てて魔石を一瞬で引き抜く。後ろから、リリに渡された採取用ナイフとヘスティアナイフを持ったベルの間の抜けた声が聞こえたが、ケンは気にしないでリリに採取した魔石を投げ渡した。

 ……なんだかな。固まってしまった二人を見て、なんと声をかけるべきなのか分からない。それでもやっと出たのは、

「……次、来たぞ」

 だけだった。

 ケンはその後、とにかくキラーアントにこの何とも言えないやるせなさをぶつけまくったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。