そして夕刻……。
今日の稼ぎを換金する冒険者で溢れるギルドの一角で、ベル、リリ、ケンの三人はテーブルに積まれたヴァリスの詰まった袋を前に沈黙していた。
稼げなかった訳ではなく……稼げ過ぎたのだ。
ベルとリリは、嬉しさのあまりにはしゃぎ回り。ケンは、詰まれたヴァリスの山を見ながら思わず口笛を吹いてしまう。テーブルに着いた各人の前に詰まれたヴァリス袋の中身は、レベル1の冒険者五人パーティが一日に稼ぐ平均額よりも遥かに上。具体的には、その平均的な五人の稼ぎの三倍以上のヴァリスがテーブルの上に乗っていた。
それから今日の稼ぎの分配になったのだが、
「ほ、本当に等分配でいいんですか?」
自分は殆ど何もしなかったのにと、リリは少し疑う様に質問してくる。この世界の常識からすると、サポーターの報酬としては破格の条件なのだから疑いたくなるのも無理はない。
「そいつは、リリの正当な報酬だ。
……正直、アレだけのドロップ類を持ち帰るのは、オレたち二人じゃムリだったな」
「うん、リリのお陰でいつもより自由に動き回れたし、モンスターも沢山倒せたんだよ!」
ケンもベルも、素直にリリのサポーターとしての力量――ただし彼は、主にリリの腕力の凄さに感謝していた。あの量の魔石を持ちながら戦うのも、魔石をモンスターから剥ぎ取るのも本来は重労働。モンスターにいつ襲われるか分からないダンジョンで、ソレを丸一日中やるのは神経を想像以上に消耗する。それが、リリと言うサポーターが加わっただけで劇的に改善されたのだ。
「で、ですが、流石にこの額は……」
リリが恐縮し懐疑的に成っているのも分かるが、コレは真っ当な仕事の報酬だ。それに、
「子供だろうが、真っ当に働いたんだ。貰えないなんて道理はない。
それに、金に困ってるんだろ?」
「うん、リリはお金に困ってるでしょ? ケンもこう言ってるし、受け取ってくれないかな?」
そう言われて、暫し考えるようにヴァリス袋を見つめた後、彼女は自身のバックパックに大事に仕舞い込んだ。なんと言うか、一瞬だがそんな彼女から必死さと言うかそれに近い何かを彼は感じたが、すぐにそんな様子もなかった様にリリは営業笑顔を浮かべ直す。
「……そうだ! 今日は、神様も誘ってパーッと打ち上げしよう!」
と、ベルが提案する。その提案に、勿論ケンに異論はない。ベルはリリにも誘いをかけるが、遠慮がちに断られてしまう。報酬を盗られると思われたのだろうか? コイツにそんな魂胆があるなら、世の中信じられるヤツが居なくなると、彼は思わず苦笑する。
「リリ……ベルはな、女の子と仲良くしたくてココに来て冒険者始めたんだ。だから、まぁ……今日はベルに奢らせてやってくれないか?」
「ちょ、ケン!?」
違わないだろと、赤面して慌てるベルをジトっと見ながら笑い、ついでにリリに軽く頭を下げる。コレでだめなら、まだ彼女を誘うだけの好感度が稼げてないだけだ。繰り返しイベントをクリアして、地道に好感度を上げるしかない。そんな風にケンがベルとリリを見ていると、
「で、では、お言葉に甘えまして……」
「……良かったなベル」
「え、あ、う、うん!」
少々幼いが、女の子と仲良くなれたベル。この後、豊穣の女主人でヘスティア様とシルに白い目で見られる白兎が居たとだけ追記しておく。
*
「……へんな人達」
自身が寝泊りしている部屋のベッドの上で、リリは仄かに赤らんだ顔を擦りながら、今日パーティを組んだヘスティア・ファミリアの二人の事を思い出していた。
最初は、彼らを只の獲物――分不相応の装備を持っているどう見ても駆け出し程度の冒険者としてしか見ていなかった。だが、いざ蓋を開けてみれば、二人は駆け出しとはとても言えない程の成果を自分に見せてくれた。
「……」
チラリと、テーブルの上に積まれた今日の稼ぎの山に目をやる。今までサポーターをやって来て……いや、今まで生きてきてコレだけ纏まった稼ぎを――真っ当に手にできた事があっただろうか? いや、例え稼げていたとしても、ここに運び込む前にアイツラに奪われるだけ……。
『ケン君、彼女一人で夜道は危険だ。途中まで送ってやってくれないかい?』
それも、彼らの主神が気を回してボディーガード役に彼――ケン様を付けてくれたおかげで姿を現す事はなかった。気配はしたが、彼も気が付いていたのか途中で回り道をしながらだが無事に帰ってくる事ができた。
「尾行した時もそうですが、ケン様は妙に勘がいいんですよね……」
いや、時折投げるあの球体が関係しているのかもしれない。尾行してた時も投げてたし……。
それにしても、彼らの主神は自分達の主神と比べて天と地の差ほどだったな。あんなに明るくて、騒がしくて、三人とも仲が良くて……部外者のリリの事も心配してくれてた。
「あ、あれ?」
何で泣いてるんだろう? 悲しいわけでもないのに、ポロポロと零れてくる涙を拭う。理由は恐らく、あのファミリアだ。
リリもあの様なファミリアに居たかった。
あんな酒に狂ったファミリアじゃなくて、リリに優しいファミリアが良かった。
「……お酒のせいです。涙もろく成っちゃったのは、お酒のせいです」
グシグシと乱暴に顔を拭い、水差しから水を汲み取り煽る。多少は酔いが薄れて気がするが、どうにも飲みすぎたようだ。ついでに食べ過ぎてしまった。お二人の奢りで、お腹が十分に膨れるまで……いや、今まで食べられなかった分まで食べた気がする。
本当に幸福で、
幸福で、
コウフクで……、
「へへ、今日はタンマリ持ってるんだな」
「……」
冷たい地面の感触。
投げ捨てられ、頬がすれて痛む。
「おぉ、すんげぇ額じゃねぇか」
リリから奪ったヴァリス袋の中身を、カヌゥたちは喜々として確認している。
ホント、冒険者なんて……。
ッシュン!
「ぎゃぁぁ!?」
何かが鋭く風を切る様な音がして、カヌゥが手に持っていたヴァリス袋が盛大に破裂し、周囲に金貨が飛び散っていく。その飛沫をもろに受けたカヌゥ達三人は、悲鳴を上げて転げまわった。良く見ると、あいつ等の身体中には金色の――ヴァリス金貨が突き刺さっていた。
痛そうだが、いい気味だと思わず笑ってしまう。
次にカロンッと言う音がしたかと思うと、路地裏一帯を煙幕が覆っていった。
なにコレ? ……よくは分からないが、逃げるなら今だろう。お金は……派手に飛び散っていて十分に回収できそうにない。
「とりあえず、コレだけ……」
手元近くに転がっていたヴァリスを少し、たったコレだけを拾い集めてその場から逃げ出した。
それから何処をどう逃げたかは分からない。ただ、気が付いたら自身の寝泊りしている宿の前に居て、そのまま宿の部屋に転がるように入っていた。
「……ほんと、冒険者なんて最低な生き物です」
翌朝。妙に重く感じたドアの前に、なぜかヴァリスの詰まった袋が置かれていた。