この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

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act16 苦いひと時

 薄暗いダンジョンの一階層。

 ケンはただ一人、バリスティックシールドを構えながらゴブリンと対峙していた。

 ベルとリリだが、今日は二人だけで潜ってもらっている。所詮、デート(探索)と言う状況に持っていったのだが……。ベルが何度も一緒に探索しようと誘ってくるのを、何とかリリと二人だけで潜って来いと何度も説得して……。最終的にケンは、自身のステータス不足を理由に個人修行の名目で押し通す事に成功。

「ま、がんばって良い所見せて来い」

「う、うん!」

 ベルを説得するのには、本当に一苦労させられた。

「ケン君! ベル君とサポーター君だけで行動させるのは危険だ!」

 ついでに荒ぶるヘスティアを静めるのにも苦労させられた。

 ベルがダンジョンでデートと聞いて、何でケン君が一緒に居てくれないんだと責められてしまった。こちらも、ステータスを盾にしたが……。ヘスティアは、主神としての立場でお願いまでしてきた。

「神の勘がそう言っているんだ! だからケン君、ステータスが厳しいのは重々理解しているが……頼む!」

 流石にソレはズルイと反論するも、ああも懇願されると断りきれない。折中案として、とりあえず一回だけ二人で潜らせるよう折れてもらった。

「だけど、もしその一回でナニか在ったら……」

「……その時は、ヘスティア様が身体を張って、ベルを染め直せば良いんでは?」

「ば、バカ言っちゃいけないよ! ボクはしょ、処女神なんだよ? その、ベル君と……でも……」

 赤面しながらモジモジとするヘスティア。たわわに実った果実が、彼女のモジモジと共にグニグニと変形して目の遣り所に困る。

「あ、なら、発想を逆転しましょう」

「ぎゃ、逆転?」

 そう、ヘスティアが処女を捧げるという発想だからダメなんだ。

「ベルが処女を捧げればいいですよ」

「は?」

 ケンの発言に、意図がつかめないといったようにヘスティアは首を傾げる。

「いや、ベル君は男だ。捧げる処女は……」

「いや、男にも後ろに……」

「ケン君、それ以上はいけない」

「……了解(うい)」

 ヘスティアは、何とも言えない迫力――神威を僅かに放出させてまでケンの発言を止めたのだった。

 閑話休題。

 バリスティックシールドを構え、一階層のゴブリン相手にサンドバッグを演じているのは、単順に一番ステータスの伸びが悪い耐久の強化の為。ココよりも下の階層の方が、良質な経験値を得られるだろう。だが、ステータスが――耐久が紙装甲しかないケンでは、ヘタに一撃でも食らえば致命傷になりかねない。

「……やっぱ、白兵戦は、苦手、だ!」

 稼ぎこそ悪いものの、ケンは延々とゴブリン相手に防御のステータス上げを続ける。常に一対一を心がけ、別のゴブリンが絡んできたら、すぐに手元のショットガン――UTS-15で吹き飛ばしてリセットする。魔石の回収は忘れない。

 水平二連チューブに散弾を補充し、辺りを見渡してモンスターが存在しない事を確認したケンは、水筒の水を煽って火照った身体を冷ます。

「キッツゥ……」

 相手を倒すではなく、攻撃をひたすら受け続ける。まだ二・三時間程度しかやっていないが、精神的にはいつもよりも辛い。ついつい出会い頭に倒してしまう事もあれば、モンスターからの攻撃を受けられても、余裕を持って受け止められるのは精精一発二発の精一杯だ。

「これで、ステータス上がらなかったら、泣くぞ……」

 誰にとも言わず、ケンは愚痴を零し続けながら修行を続ける。

 正直、こんな事は――実戦よりも模擬戦とかでやるべきだったかと後悔していた。だが、ベルに付き合わせるわけにも行かない。

 そして……ダンジョンから戻ったのは、街並みを夕焼けに染まる頃だった。

「……どうぞ」

 ジャラッ……!

 交換窓口から、ヴァリスの詰まった袋を持ち上げる。持ち上げた袋は、いつもと比べて自己主張が乏しいモノだったが、無いよりはマシ。いや、ケンと同程度の冒険者なら通常の稼ぎだ。

「特に買うものは……」

 買わなければいけないモノは特に無かったはず。晩御飯は有り合わせで十分だろう。一旦路地裏へ行き、屋根へとアンカーガンで登る。ストーカーやスリ対策だ。わざわざ屋根の上を散歩するなんて……いや、チラホラソレをやっている冒険者が見えた。

 迷惑になっていないだろうか?

 自身の足元を見ながら、できるだけ静かに脚を進めていく。もっとも、そのままホームの廃教会へは行けないので、少々遠回りする必要があるが……。

「……ん?」

 視界の隅に妙なものが映った。

 フードを被った子供? そいつが荒くれ共に囲まれていて……アレはカツアゲか? 子供を投げ捨てて、奪った袋の中身――恐らくヴァリス金貨――をジャラジャラさせて下種に笑っていた。

「……」

 不快だ。

 何処までも、不快だった。

 だが、オレにはどうする事もできない。

 あの冒険者がどの程度の実力なのかは、駆け出しの自分には見た目だけじゃ分からない。もしレベル2以上だったら……いや、レベル1であろうと此方よりもステータスが高かったら? それに、下手したらファミリア同士の紛争になるかもしれない。

『誰かを助けるのに理由が要るのかい?』

 ……そんな事を平然と言えるほど、やれるほど、オレは力も心も強くない。

『コレは、オマエの物語だ』

 誰もが、あんた等みたいに主人公に成れるわけじゃ……っ!

 投げ飛ばされて横になった子供。フードが外れ、現れた顔は……リリルカ・アーデだった。いや、獣耳が無い。別人? 分からない。分からないが……。

 ズシリ……。

 右腕に、先ほどまでそこに無かったスナイパーライフル――サプレッサーが装着されたL115が握られていた。

 呼び出した覚えは、無い。

 だが、身体はソレが当たり前のように動き始める。

 ジャ、キャンッ……! 撃鉄ボルトを引き、マガジンから初弾を流し込んだ。

 ……やろう。

 【戦場遊戯(バトルフィールド)】を発動させる。取り出したのは、一枚の仮面。

『強盗がなんで覆面しているか知っているか?』

 ……自分が誰だか判らないから、何処までも残酷な事ができるようになる。

 オレに今出来る事がどれだけあるかは分からない。

 最善策もあったかもしれない。

 だけど、

『引き金くらい、自分のエゴで引け!』

 屋根越しに構え、スコープを覗く。目に付いたのは、奴らのエンブレム――酒を湛えるゴブレットだ。だが目標は……奴らが持つヴァリスが詰まった袋。照準倍率を絞り、照準一杯に袋を捕らえる。鼓動がいつにも増して激しい。だが、

「ッ!」

 呼吸を止め、引き金を落とした。

「ギャァァ!?」

 音を殺された弾丸は、寸分違わずヴァリス袋を打ち抜き、その中身を四散させ……至近距離に居た荒くれ共にその飛沫を浴びせた。

「はぁ、ハァ、ハァ……」

 動悸が激しい。成功した事もそうだが、こういう事をしてしまったという事も一因となっていた。だが、このままじゃダメだ。今は混乱しているが、正気に戻ったアイツらがなにをするか……あの子供に八つ当たり位はするだろう。

 なら、ここは見られているぞと警告するだけ。

 ありったけのスモークグレネードを投げ込み、弾薬箱を置いて追加も用意する。得物もスナイパーライフルからサイレンサーを付けたカービンライフル――AK5Cへと持ち替えた。

 いつでもアソコに突撃できる。

 後は、あの子供がどうするか……。だが、そう時間をかけずに子供が煙幕の中から這い出て、その場を後にした。煙の中からは、未だに荒くれ共の悲鳴が聞こえてくる。

 アレは……もういい。

 よけいな装備を消し、ケンはその場から離れていく子供を追って行った。

 ……

 …………

 ………………

「……ただいま」

「ど、どうしたんだいケン君!? そんなに落ち込んで……」

 なんでもない。

「……嘘だね」

 ああ、嘘だ。

「……話してくれないのかい?」

 上手く、話せない。

「なら、ゆっくりでいいから、教えておくれよ。ボクは、君の……」

 家族なんだから。

 ……それから、今日在った事を、やった事を彼女に打ち明けた。

 できた事なんて結局何も無い。

 お金を置いてきたのも、ただの自己満足だ。

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