この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

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act23 悪意を焼く鋼蟲

 バクバクと早鐘を打つ心臓に急かされる様に、リリはダンジョンの中を上へ上へと走っていた。

 トラブルはあったが、あの二人が両方ともオオバカで助かった。弓使いの男――ケン様は、リリが盗んだ事を感づいて自宅まで押し込んで来たのにリリを見逃した。

 短剣使いの少年――ベル様は、コレももっと酷いお人好しだった。ケン様から注意を受けていただろう。なのに、リリの事をまったく、これっぽっちも疑う事無く接して来た。

 ……本当にバカだ。

 おかげで、ヘファイストス製のナイフと鞘を手に入れる事が出来た。コレで、このナイフを売ったお金で自由に成れる。ソーマ・ファミリアから抜けられる!

 ……でも、本当にコレで良かったのか? そんな考えを頭を振って追い払う。あの少年も、リリがダイッキライな冒険者だ。どうなった所で……。

「よう、クソ小人」

「ぐ、ぁ!?」

 突然襲った鈍痛。地面の上を転がって、やっと自分が蹴り飛ばされたんだと理解した。そして、

「よう、リリルカ・アーデ」

 一番合いたくないヤツラと出会ってしまった。

 ……

 …………

 ………………

 愚者が笑っていた。

 醜く太ったバカが、それに着いて廻る三下どもが、不愉快に……リリを嬲って、笑っていた。

 悔しかった。

 惨めだった。

 何故? どうして?

 神様は、リリが嫌いなんですか?

 なんでリリを、リリの自由を自由にしてくれないんですか?

「――旦那ぁ。さっそくで悪いんだけど、大人しくそいつを全部こっちに渡してくれねぇか?」

「あ? 何言ってやがる? って、おい、それ!」

「ッ!?」

 リリの側に投げ込まれたソレを見て、思わず息を止めてしまった。

 ガチガチと歯を軋ませる、死に掛けのキラーアント。サポーターをやっているうちに、嫌でも覚えてしまったモンスターの特徴が警笛を鳴らす。瀕死のキラーアントは、助かろうとする本能から仲間を引き寄せるフェロモンを出す。ソレは、10層でベル様たちに使った血肉よりも強力な……天然のダンジョントラップ!

「畜生が!」

 リリから奪ったモノをその場に棄て、一目散に逃げる冒険者。だがしかし、既に遅かったのだ。

 最初に悲鳴が聞こえ、次に血で濡れたキラーアントが顔を見せる。

「ひっ!?」

 通路の先から、おぞましい程のキラーアントの群れが溢れて来る。リリ一人ではどう頑張っても生き残れない程の量。でも、どうにかして生き残ろうと手足に力を入れて、ソーマ・ファミリアの冒険者――カヌゥに無理矢理つかみ上げられた。

「そうだリリルカ。オマエ、サポーターだったよな? なら……」

 最後に囮に成ってくれよと、リリはキラーアントの群れの中へと投げ込まれた。

 そんな事しなくとも、お前達なら脱出できるだろうと考え、そうじゃないと気付いた。

 一瞬、投擲物に警戒してキラーアント達はリリから距離を取ったが、脅威が無いと分かれば……先ほど餌食となった冒険者の後を追う事になるだろう。

 そう、あの冒険者と同じく、リリは消される。

 もう、笑うしかなかった。

「じゃぁな、リリルカ」

 本当に笑うしかなかった。

 それなら、最初から捨てる気なら、リリになんて構わないでいて欲しかった!

『待てや、ド畜生共が!』

 仄暗いダンジョンを強烈な光が照らす。突然注がれた強烈な光に、キラーアント達がそれから逃げるように散らばり、光の発信源へとキーキーと言う鳴き声を放つ。カヌゥ達も、突然の光に警戒して身構えた。

「カ、カヌゥの旦那。ど、どうします?」

「見たこと無ぇモンスター……なのか? キラーアントに釣られて出て来たのか?」

「おめぇら、ずらかるぞ! アイツの相手もリリルカに任せればいい!」

 そう言って遠ざかっていく三人に、ソレはけたたましい咆哮(?)を上げた。リリが聞いた事のあるどのモンスターとも違う、その咆哮に思わず耳を塞ぎ、見開いた目に飛び込んできたのは……細長い鼻の様な場所から何かを打ち出した姿だった。

「散れ!」

「ひぃ!?」

「どあ!?」

 閃光と破裂音がルーム内に木霊する。着弾地点から破裂し、大小さまざまな礫片がカヌゥ達三人を襲う。直撃を食らった一人――ケイだったかが、そのままキラーアントの群れの中へと転がり込んで行った。

「ひ、ひぃ!? た、助けてくれカヌゥ!」

「それぐれぇ自分でどうにかしろ!」

 キラーアントに群がられているヤツには興味が無くなったのか、ソレは別の目標へとその鼻先を向け、ルームの中へとその巨体を入れてくる。

 ……本当におかしなモンスターだ。

 影だけ見れば芋虫に辛うじて見える。だが、蟲系のモンスターの様な複数の足を動かしたり、身体を伸縮させて移動すると言った動きがまったく見られない。

「ちっ! コレでも喰らえ!」

 カヌゥがリリから奪った魔剣を振るい、炎の弾をあのモンスターへと撃ち放つ。それに対してモンスターは、とび来る火炎を避けもせず、着弾して燃え上がった。

「……なんだ。効くじゃねぇか」

「は、ハハ、ただのこけおどしかよ!」

 舐めた真似してくれてと、二人は武器を片手に近づいていく。悠長にも、どっちが止めを刺すか言い合いながら……。

 未確認のモンスター相手だというのになんてのん気な……。

 そして、燃えるモンスターを前にさっさと止めを刺せと、カヌゥがはやし立てた。

「はいはい、ちゃっちゃと……」

 炎が消え、死に体であろうモンスターに止めを刺そうと近づいたは、それ故に気付くのが遅れた。異変に気がついたカヌゥは、いち早く離れろと声を飛ばしていたが、それも意味を成さないだろう。

 再びの咆哮(?)。次いで、地面を激しく削りながらそのモンスターは、近づいて来た彼――レイダーだったか? を巻き込んで壁へと突進した。

「グッ!?」

 ドスンっと、重量物が壁に追突した音がルーム内に響き渡る。

「ち、っくしょう! 出られねぇ!」

 壁とモンスターの巨体に挟まれながらもまだ生きている事に驚くが、それは恩恵を受けた冒険者だからと納得できてしてしまう。どれだけ神が憎くても、その力は驚異的だ。

 ……もっとも、今回ばかりは彼に同情を禁じえない。あのまま死んでいれば、もっと楽に死ねたのに。

 モンスターが後退し拘束から開放されるも、全身に受けたダメージが酷く痛む。直ぐには立ち上がれず、そのままその場に倒れてしまった。

「た、助け……」

 そこに、ソレが投げ込まれた。

 頭と思われる部位の上。ソコから円筒状の何かが打ち出され、着弾と共に彼の身を炎で包んだ。

「ギャァァァ!?」

 炎に巻かれ、悲鳴を上げながら追突の痛みを忘れて地面の上をのた打ち回る。そして、炎が燃え終わった頃には、キラーアントたちが黒焦げとなったソレに次々と群がっていった。

「ヒィ!?」

 ゆっくりとその頭の先がカヌゥを捉える。

 畜生と、再び魔剣を振るった。火球が、先ほどのようにモンスターを包む。

「もういっちょ!」

 完全に燃やし尽くそうと、カヌゥは何度も魔剣を振るう。あんな使い方をしたら、もうあの魔剣はダメだろう。……ほら、使い切って砕けてしまった。

「は、はは! どうだ!」

 燃え盛るモンスターを前に高笑う。アレだけ浴びせれば、この階層のモンスターなら大抵は葬れるだろう。だが、

「は?」

 アイツは、その大抵には含まれないようだ。

 燃え盛っていた炎が一瞬にして鎮火させられ、お返しにとその長鼻が火を噴いた。

 呆けていたカヌゥに容赦なく、浴びせられる攻撃。鼻が撃ちつくしたのなら次はコレだと、持ち上げられた両耳から大量の何かが浴びせられ……ブクブクと太ったカヌゥの身体を、まるで落ち葉の様に吹き飛ばしてしまった。

 それでも生きているのは、ほんとに凄く……そして悲惨だった。

「た、助けてくれカヌゥ!」

「は、放せ!」

 飛んで落ちた先は、キラーアントの群れの中。それも、最初にキラーアントの群れの中に落ちたヤツのすぐ近く。ソイツに抱きつかれ、引き剥がそうと必死になったカヌゥは、そのまま二人仲良くアリたちの胃袋へと収まって行った。

 そして、

「次は、リリの番ですか?」

 向けられたモンスターの顔からは何も窺えない。ただ、最後にあのにくったらしいカヌゥ達の無様な最後を見れただけでもよしとしよう。

 ……自分は、どう殺されるのだろうか?

 あの爆発物でなぶり殺しにされるのだろうか?

 それともあの巨体で押し潰されるのだろうか?

 いや、焼き殺すのだろうか?

 そうでもなく……このままキラーアントに食い殺される?

 どれにしろ、やっと楽に成れる。

 ……できれば、苦しまずに死ねればいい。

 ろくでもない人生だった。

 なんでこんな人生だったんですか?

 神様は、リリの事が嫌いなんですか?

 涙が溢れる。嬉しいからではない、悲しいから。悔しいから。辛いから。

 だから、

『勝手に死ぬな。色々と無駄になる』

 聞こえる筈もない人の声と、

「ファイアボルト!」

 今一番聞きたくなかった人の声が、リリの下へと届いた。

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