この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

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act24 もう一度一緒に

「ファイアボルト!」

 ベルの放った無数の炎雷が、ダンジョンの広間で蠢くモンスター達――キラーアントを次々と飲み込んでいく。

「ファイアボルト!!」

 右に走る蟻の群れを屠ったら、今度は左に走る蟻の群れを焼き尽くす。

「ファイアボルト!!!」

 そして、最後にルームの中心に鎮座する未知のモンスターへと向かって炎雷を放つ……が、

「き、効いてない!?」

 10層のオークすら一瞬で焼き殺したベルの魔法は、ソイツを焼き尽くす事はなかった。ソイツは、業火に焼かれながら顔をゆっくりと此方に向けてくる。

「っ!」

 殺される。そう感じたベルは、更に魔法を放つ。だが、三発目が命中した所で燃え上がった業火は突如として鎮火した。後には、まるで何も無かったかのようにソイツが鎮座している。

 その事にベルは思わず後ずさってしまう。だが、そのモンスターのすぐ側に倒れるリリを見て、一歩前へと踏み出した。

 引けない。

 引いちゃいけない!

 そんなのは英雄じゃない!!

 バゼラードを構え、いつでも魔法を撃てる様に呼吸を整……モンスターが動いた。

「っ!?」

 一歩早く動かれたベルは、咄嗟に身構える。だがモンスターは、ベル達に興味を失ったかのようにルームの外へと出て行ってしまった。

「にげ……た?」

 遠ざかっていくモンスターの気配。ルーム内に他の気配が感じられず静寂が下りる。アレは逃げたわけじゃない。そう感じるも、今は見逃してくれた事に感謝する。

 だが、次は負けない。

 拳を握り締め、鋭い眼差しをソイツの消えた暗闇へと注いだ。

「……っと、リリ!」

「ベル、様?」

 ……

 …………

 ………………

 仄暗いルームの中で向かい合って座る二人。

 今まで溜め込んだリリの鬱憤が、関を切ったかのようにベルに浴びせられる。ベルはただソレを、困った様にして……それでも、いやな顔もせずに受け止めた。

「――なんで、なんでなんですか!?」

「……リリだから」

 そう、リリだから。ベルは彼女の問いにそう答え……その光景を陰ながら見ていたケンは、何故アレが自然に出来るんだと目を細めて呆れていた。

 嗚咽しながら、ポカポカと音が聞こえそうなリリのコブシを受けるベル。なんともいい雰囲気に見えるのはきっと気のせいではない。

 ……とりあえずケンは、空気を読んで静かにルームの中へ。ソロリソロリと、点在している蘇生ポイントへと足を進めた。

 ズリズリと、すでに蘇生させたバカ一人を引きずりながら助細動機をソコへと押し当てる。

「な、なにが……ハニャァ!?」

 静かにしろと、ケンは蘇ったばかりのバカにテイザーガンを撃ち込んで無力化する。ソレを繰り返すこと計四回。バカ共4人を縄で縛り上げても、ベルとリリはまだ二人だけの世界に浸っていた。

 ……正直、砂糖を吐きそうである。

「しょうがない……」

 手持ち無沙汰になったケンは、辺りを見て回収されていない魔石を拾い始める。今の状況の二人に入っていくだけの気力は……流石に長く続くようなら考えなくもなかった。

「って、ケン、居たの!?」

 数が多いとは言え、いずれは拾い終わる。その時になって、やっと気がついたベルが顔を真っ赤にして驚いていた。

「ああ、道に迷って出遅れちまった」

 そう言って魔石の詰まった袋を仕舞うと、ケンはリリの元へと近づいた。

「ケン、様?」

 身を強張らせ、ベルにキツク抱きつくリリ。別に乱暴をするわけじゃないと、ケンはベルとアイコンタクトをとる。そのまま片手をリリに伸ばし、

「イタ、イタイ、です。ケン、様ぁ……」

 グシャグシャと、乱暴に彼女の髪と頭をかき回していく。涙目で抗議してくるリリに、色々と言いたい事はあったが、どうにも口から出てこない。

 どうしてなんだろうか? 自問すれど、その答えは出てこない。

 そして、オロオロとするベルを尻目に、ケンは気が済むまでリリの頭をもみくちゃにして、

「……勝手に死ぬな。色々と無駄になる」

「……え?」

 やっと出た言葉がなんでコレだったんだろうなと、ケンは不思議そうにするリリの頭を更にもみくちゃにしていくのだった。

 

 

 翌朝、ベルとケンは改めてリリをパーティに誘った。

 所在無さげに、不安一杯に待つリリ。そんな彼女を見たベルは、芝居がかった口調で彼女と出合った時のソレを立ち位置を変えて再演した。

「サポーターさん、サポーターさん。冒険者はいかがですか?」

 こういう演技は苦手だと、ケンは頭を掻きながら……意外と演技力の高いベルと、それに乗るリリを見届ける。舞台の上で、演技をする他の役者達の横で、何をするでもなく突っ立っている様な……思わず、黒子の被り物が欲しくなった。

 いや、親切な黒子が舞台袖にでも引っ込めてくれないだろうか?

「ほら、ケンも!」

「ん? ……あぁ」

 どうやら黒子はやってこないらしい。

 ベルに促されて舞台の中央――リリの前に立ったケンに、リリも何を言われるかと不安そうにしている。しょうがないと、彼は再び彼女の頭に手を伸ばそうとして……ベルに止められた。

 フルフルと、静かに首を横に振ってソレはダメだと訴えてくるベルに、ケンは溜め息を吐きながら降参の意を伝える。そんな彼にリリが問いかけた。

「あ、あの……ケン様もリリが一緒でよろしいのでしょうか?」

「……そう、だな」

 自分はベルの様な演技は出来ない。だが、演技する必要など何処にも無い。シンプルに、ただ一言を言えばいい。

「リリ、オレ達と戦ってくれないか?」

 ちょっと芝居がかっていただろうか? いや、ちゃんと言えただろうか? そう思っていると、

「え……え、ええ!?」

「ちょ、ケン!?」

 驚く二人を見て、ケンはどうしたんだと首を傾げる。

「わ、私じゃケン様にも勝てません!」

「ケン! リリと戦うって……!」

 二人がそこまで言って、ケンはなんで驚かれたのかを理解し、笑った。確かにこの言い方では――“一緒に”を抜けばそうも勘違いされる。だが、このセリフはコレでいいのだ。ただ偶然に思い出したこのセリフだったが、存外悪くないと彼は笑う。

「この言い回しは、ある舞台の主人公とヒロインが最初に出会った時と、離れ離れになってから再会した時に言ったモノで……」

 それからケンは、このセリフの出てくる千の剣の物語を掻い摘んで説明した。

「ほぁ……なんだか、ロマンチックなお話ですね」

「う、うん。

 ケンのお話って、僕らが聞いた事の無い不思議なのが多いんだよね」

 ソレはそうだろうと、ケンは口には出さないが苦笑してみせた。

 それから二人は、ヘスティアにリリを連れて一度戻って来いと言われていた事を思い出し、ホームの廃教会へ向かう。その道すがらケンが考えるのは、これからのソーマ・ファミリアへの対処だった。

 先日の下手人4名は、すでにギルドのエイナ氏の下へと引き渡してある。ソーマとの取引材料として、ヘスティア・ファミリアで彼ら4名を監禁するという手もあったが、あのボロ教会に安全に監禁しておける場所は無い。ヘスティアにも神友が何柱かいるが、今回の件で無関係の他ファミリアを頼るのは論外。泣く泣くギルドへ引き渡す流れとなった。

 補足だが、リリがカヌゥ達が生きていた事に酷く顔を青くして驚いていた。

 閑話休題。

「……はい! リリは、このままベル様に着いて行きます。

 リリから金銭を巻き上げていたのは、ギルドで拘留されているカヌゥ達だけです。姿を変えてやり過ごせば、リリはどこかへ消えたか、死んだと思ってくれるはずです」

 その隙に脱退金を用意する。リリは活力に満ちた眼差しで、不安そうに問いかけるベルに今後のプランを説明する。

 しかし、上手くいくだろうか? リリの目論見に疑問を投げかける。確かに主神のソーマは眷属に対して無関心だ。だが、それでも聞かれればリリの生死を答える可能性はあるだろう。リリの失踪にしてもそうだ。直前までパーティを組んでいた二人が、以前と変わらず巨大なバックパックを背負った子供のサポーターを連れているなど、有る意味分かりやすい。

「なら、どうするお積りですか?」

 拗ねたように言うリリに、ケンはとりあえず絶縁状を送りつけるかと提案した。

「同じファミリアのメンバーに、全財産身包み剝がされたあげく、モンスターの群れの中に投げ入れられて殺されそうになった」

 十分に絶縁状を叩きつけるに足る事案だろう。ただし、突きつけるのはファミリアの団長ではなく、主神のソーマ本神にだ。ファミリアを私物化しているらしい団長では、絶縁状を叩きつけても破かれて相手にされない。無関心なソーマなら、それこそどうでもいいと了承する可能性が高い……と言うのが、ケンの見立てだった。

「……改めて聞くと、酷すぎるよね」

「神酒で利害が一致しているだけの集団だからな」

 家族の一員なのにと、ベルは表情を暗くする。次いでリリに、これからはボク達と頑張っていこうと笑顔を向ける。リリもそんなベルに尻尾を振りながら肯定した。

「……まぁ、ケン君の懸念はもっともだね。サポーター君」

 ホームに着いて、ヘスティア様とリリの話し合い――もといリリの誓いを終えて、改めてケンはソーマ・ファミリアとリリの縁をどうにかして切る必要があると申告した。それほど急ぐ理由は無いが、こう言う事は急ぐ理由が出来てからでは対処が後手に回る事が多々ある。

「……オレ達は、最近稼ぎがいいからな。

 リリは必要ないが、リリが金銭を引き出す鍵に成るなら口実にはできる。どうにかしてでも金が欲しいなら、無い袖だろうと剥ぎ取りに来るだろうな」

 大義名分を掲げて他所のファミリアを襲う。ギルドは、冒険者同士のトラブルなので介入しない。そうなれば、対処は自力でやらねばならない。ソコまで考えてケンは、衝突するならダンジョンよりも地上の方が助かるかもと考えていた。

 主に、AC-130や巡航ミサイル的な意味で……。

「いや、ダンジョン内でもMBTの120mmキャノンなら……」

「……なにやらケン君が不穏な事を考えているみたいだけど、確かにボクの方でソーマと直接話が出来ないか動いてみるよ」

 任せておけと、零れんばかりの胸を張るヘスティア。その姿に頼もしさは……ケンには余り感じられなかったが、それでも彼女はやる時はやる神様だ。結果はともかく、何とかしてでも話をしてくれるだろう。

「あ! エイナさんにリリの事を報告しなきゃ!」

「待てベル。オレ達も一緒に行く」

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