この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

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act25 それぞれの考え

 オラリオの中心、ダンジョンに蓋をする様にして聳え立つバベルの塔。その最上階で、一柱の女神が熱に浮かされた様に眼下の街へと視線を送っていた。

「……オッタル?」

「ここに」

 女神の呼びかけに応じて、部屋の影から巨大な質量を伴った巨漢が現れた。いや、彼は最初からこの部屋にいたが、部屋の主に配慮して存在感を道端の小石程度にしていたのだ。

「私ね、我慢したけど……我慢しきれないみたいなの」

 あの子の為に用意してくれない? 熱に浮かれ表情でお願いする彼女に、オッタルと呼ばれた巨漢は女神の要望に答える為に部屋を……、

「あ、そうそう」

 出る前に、女神は思い出したようにして追加のオーダーを言う。その表情には、先ほどまでの熱に浮かされたモノはない。

「アレは邪魔ね。ついでにお願いできる?」

「……どの様になされますか?」

「そうね……」

 顎に指を当て悩むように考える女神。あの子の為にさっさと排除したいが、ただ排除するのはあまりにも面白くない。それなら、ショーの前座にでも利用した方がいいだろう。だが、

「要らないのに盗っちゃうのは、ヘスティアに悪いわ。

 ……そうね。とりあえず事が終わるまで、適当にあの子と距離を置かせなさい」

 邪魔をさせないようにね? 女神のお願いに、オッタルは静かに部屋を後にした。

 

 

 リリを伴ってギルドへ……最近、胃の心配をしたほうがいいかもしれないエイナ氏に厄介事――ソーマ・ファミリアの件で色々と報告しに来た。来たのだが、

「アレは……」

 エイナ氏に先客が居た。

 生来麗人の多いエルフの血を引く彼女の容姿もあるが、彼女のアドバイザーとしての手腕や親身な気配りなども合わさって連日利用者が押し寄せる。今までは丁度彼女を利用する人が居ないという幸運に恵まれていたが、今回は待たなければ成らない。

「ちょっと待つ……って、ベル?」

「あ、ベル君?」

 ケンが、コソコソと腰を低くして逃げようとするベルを呼ぶのと、エイナ氏がベルに気がつくのはほぼ一緒だった。

 ビクッと驚いたベルが一瞬だけ振り向き、そのまま逃げようとしてほぼ全裸の筋肉モリモリマッチョのお兄さんにぶつかる。何をやってるんだとケンが呆れていると、何かが自分達の頭上を飛び越えていった。

「?」

 一瞬それに気を取られるが、直ぐに目の前で起きた事に……同行して来たリリも一緒に成って目を細くする。ケン達を飛び越えた影、もとい金髪の少女の臀部にベルが顔面を突っ込んでいたのだ。

 何をどうすればそうなると、赤面して慌てふためくベルに冷たい視線を飛ばす二人。とりあえずと、ケンはリリに“アレもだから”とだけ小声で教えておいた。それに対しリリは、

「強敵ですね……」

 グッと身構えたのだった。

 安心しろリリ。彼女は、お前さんのポジとは被っていない。彼女のポジは、窮地を救った先輩だからな。そうケンが思っていると、彼女――ヴァレン某が此方に気がつき、

「……この子、借りてって良い?」

「……がんばれベル」

 彼女の質問に、ケンはベルへ激励を送って返答する。ベルは、そのまま引きずられるようにしてギルドの談話スペースへと運ばれていった。

「さてリリ、とりあえず……こっちも用事を済ませよう」

「……そうですね」

 案内を終えて手の空いたエイナ氏に挨拶し、三人は個室へと足を運ぶ。

 それから色々と喋った。

 リリがしてきた事を、されてきた事を、そしてソーマ・ファミリアの内情を……。本来は軽々しく話せない事も――リリの窃盗などはオフレコと言うか冒険者同士のトラブルとして内々に処理するらしい。そう言ってエイナ氏は、一度ペンを置いた。

 主犯のリリは一旦置いておくとして、おそらくこの事を把握しておきながら放置していたファミリアのメンバー達。彼女が盗んできた金銭を巻き上げていたカヌゥ達三人からの証言が押さえられれば、ギルドからそれなりに重いペナルティーが彼ら3名(+1名)とファミリア両方に科せられると言う。

 だがしかし、これだけではリリを自由にしてやれない。

「……でも、一般市民への暴行、店舗の破壊等々でも、それなりに罰則はつくから」

 そう言ってフォローを入れてくれるが、結局の所何の解決にもなっていない。

 とりあえず、ソーマ・ファミリアには色々と対処しなければいけないので罰則などは直ぐに出さないようエイナ氏にお願いしておく。

 ギルドは中立が基本だ。

 だから何処まで出来るか分からないが、それでも手札が多い事に越した事はない。

「どうすれば、一番丸く収まるかな……」

 泣き寝入りはしない。確実に向こうが損害を受け、此方はほぼ損失なしの利益を得る。なおかつ、向こうが此方の事を根に持たない。

 そんな理想的な終わり方は無理……。

「……いや、有る、か?」

 出来るかは判らない。だが、手は思いついた。しかし、コレを実現させるには色々とやらなければいけない。何より、ギルドが協力してくれるか……。

「? 何か思いつかれたのですかケン様?」

「思いついたが……ギルドがな」

 それにヘスティアにも相談しないと……。そう言って苦い顔をしていると、

「う~ん、一応参考までに聞かせてもらえないかしら?」

 どんな悪巧みをしているのかと、エイナ氏が完璧なスマイルで問いかけてきている。本来、常人なら彼女のこの笑顔はやばいものだと理解するのだが、生憎ケンにはソレを察するだけのモノは持ち合わせていなかった。

「あぁ……簡単に言うと“戦争”だな」

 そう言うや否や、ケンの脳天にエイナ氏から書類の束が無言で叩きつけられたのだった。

 閑話休題。

 それから暫くして、

「あ、ケン! 終わった……って、ソレどうしたの?」

 用件を終えたベルが、同じく用件を終えたケンと合流し……頭に作ったたんこぶを摩る彼を見て怪訝な表情を浮かべる。

 エイナさんに怒られて出来たものだろうが、リリの事を話すだけで何故? チラリと、彼の横に立つリリに目を向けるが、

「大丈夫ですよベル様? ただただ、ケン様のおつむが悪かっただけですから。

 ……えぇそうです。いくらなんでも、ケン様の提案にはムチャがあるんです。実現させるのにギルドとソーマ、イベント運営の得意なガネーシャにその他複数のファミリアからの協力……。資本なしで、一体全体幾つのファミリアが賛同してくれるんですかね?」

 ペチペチと、可愛そうなモノを見るような眼差しを向けながらケンを小突くリリ。彼女に小突かれているケンは、悪くない案だと思ったんだがと苦笑していた。

「え、えっと……リリ?」

「はい、なんでしょうベル様?」

 ちょっと影が落ちたリリの表情に、思わずなんでもないと答えてしまうベル。それから直ぐ頭を振ってソレを取り消しすと、これから数日間ダンジョンに潜る前にアイズ・ヴァレンシュタイン氏から特訓を受ける旨を伝えた。

「……だから、ダンジョンに潜る時間を少し遅らせたいんだけど、良いかな?」

「はい、リリはベル様に合わせます。

 ……ケン様は、まぁ適当に合流するでしょう」

 ベルとケンでは扱いが違うリリの対応に苦笑するベル。何故か彼女は、ケンに対して畏まる事無く……砕けたというよりツンケンとした様な対応をする事が多くなった。

 何故だろうか?

 疑問に思い考える。ケンが嫌われている……という事はたぶん無い。

 リリはサポーターだから冒険者に敬語を使うけど、ケンはサポーターよりだからそう言う事を気にする必要が無い?

「……どうされましたかベル様?」

「うん、リリとケンは……なんていうか、仲が良いのかな?」

 リリも全然気を使ってないしと言うベルの指摘に、リリは真顔でソレはないと首を振る。ケンはと言うと、いつもと変わらないぞと首を捻っていた。

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