この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

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act26 それぞれの愚行

 オッタル団長から委任されていた件について報告します。

 ケン・ツワモノへの対処は、正直に言って芳しくありません。

 初日――。

 夜間に飲食店で一人、飲食をしていた件の冒険者を発見。何とか酔い潰し、予め監禁する為に用意していた特注部屋へ、誰にも怪しまれずに運び込む事にも成功しました。

 翌日――。

 早朝には、確かに部屋の中で寝ていたのを確認しました。ですが、昼頃に確認すると部屋の中から忽然と姿を消していました。

 扉が開けられた形跡はありません。

 用意した部屋は、居住用ではなく堅牢な倉庫です。壁床天上はダンジョン深層の鉱石が使われていて、並みのレベル1冒険者に突破できるシロモノではありません。

 もちろん、出入り口は内部から開ける事は出来ない仕組みになっています。扉の下に食事の類を出し入れする為の小窓を設けましたが、人が――例え小人(パルゥム)の子供でも通れない程の狭さです。

 脱出に利用される可能性も考え、水周り――トイレの類は特殊な臭い消し効果の有る壷を用意しました。そう言った場所から穴を開けて脱出なんて出来ません。

 三日目――。

 周囲に警戒を向けながら行動する件の冒険者を発見しました。

 どうにか確保しようと尾行しましたが、ベル・クラネルとそのサポーターと合流し探索を始めたため断念。夕刻にはダンジョンから戻るとバベル前で解散。その後、ファミリアのホームまで尾行し様子を窺う事にしました。

 翌日早朝――。

 此方を警戒してか、なかなか就寝しなかった件の冒険者が眠ったのを確認。

 ベル・クラネルと鉢合わせに成りそうになりましたが、無事に件の冒険者を再度確保する事に成功。

 同日夕刻――。

 件の冒険者が監禁場所から逃亡。

 先日同様、逃亡方法の一切が不明。つい先ほどまで室内で寝ていたのを確認しましたが、再度確認した時には既に室内はもぬけの殻でした。

 この事から、なにかしらの魔法かスキルを使用して脱出していると推測されます。対魔法、対スキル用拘束具の類を用意する必要がでてきました。

「――以上が、今日までの報告っス。

 ……ところでフレイヤ様。壁をすり抜ける魔法なんて、流石にないっスよね?」

「有ったとしても、あそこに使われている素材には黒曜石も含まれているわよ?」

 魔法では壁を抜ける前にそれにぶつかると、フレイヤは報告に来た自身の眷族に言う。彼の報告に、件の冒険者――ケン・ツワモノの監禁が予想以上に手こずっている事を知ったフレイヤは、

「面倒ね……」

 目を細めながら、言葉とは反対に心なしか口角を持ち上げた。

 何の価値もない、只の消し炭の様な魂の色をした子供。だから捕まえて監禁しておくのも容易いと思っていたが、なかなかどうして面白い事をしてくれる。

「なら、スキル対策用の拘束具を……」

「そうね……。でも、流石に三度目は向こうも警戒してくるかも知れないわよ?」

 大丈夫っスと、胸を張って出て行った彼だが……。

 明ける翌朝――。

「た、ただいまッス……」

「あらあら……」

 着ていた装備は至る所がススで汚れ、明らかに撃退されたという風貌で帰ってきたのだ。そして何があったのかを聞けば、

「ヤツの塒に忍び込んだら、左右から飛礫の雨を食らわされて、教会の一角ごと吹き飛ばされたッス」

 自分達の家の被害を考えずに吹き飛ばすなんてと、報告を聞いたフレイヤはクスクスと笑いながら、今頃大変な事に成っているであろうヘスティアに少なからず同情したのだった。

 

 

 日が昇り、その光が一部変貌してしまったヘスティア・ファミリアのホームを照らし出す。その光景は、元々廃墟ぜんとした教会であっても凄惨な様だと言えた。

「で、ケン君、なにか言う事は有るかい?」

 この教会の主であるヘスティアは、ケンが吹き飛ばして風通しの良くなった出入り口を交互に見ながら、その端麗な米神をピクピクと痙攣させていた。その表情は、事情は判っているがコレはやりすぎだろうと暗に語っている。

「……すみません。もう少し、穏便に済ませるべきでした」

 頭を下げるケンは、本心で謝っている。ソレこそ最初は、大量のC4爆薬を使用して襲撃者を撃退しようと考えた。だがその威力を考えて、この廃教会が持たないかも知れないと予想し、彼は自重した。

 そう、自重して、クレイモア地雷のみを塒に仕掛けたのだ。

 そして、それだけで無力化できない可能性も考え――事実出来なかった為にRPG-7を襲撃者に打ち込んだのだ。本来は人に向けて使用するモノではないが、冒険者やモンスターの耐久力は並みのモノではない。だからと言うわけではないが、この場はセーフと言う事にしておく。

 閑話休題。

 話を戻すが、ケンが撃ち放ったRPG-7は襲撃者には当たらず、彼の塒と教会の正面の一部を崩落させるだけに終わった。

 ガラガラと瓦礫の山を掻き分けながら、賊の手がかりが何も残っていない事を確認。当たった手応えは有ったのでまったくの無傷と言う訳ではないだろうが、血痕や肉片の類が見られない事から損傷は軽微なのだろう。

「はぁ……。もう、どうするんだいコレ」

 開いた大穴と瓦礫の山を前に、今にもさめざめと泣き出しそうなヘスティア。どうするのかとケンに問いかけるが、彼には片付ける以外の答えはない。開いた穴も塞ぐ以外答えがない。

「木の板で……」

「ケン君、雨漏りを塞ぐんじゃないんだ。

 流石にこの大きさの穴……と言うよりこの場合、崩落しかけてる教会の正面全部を直す必要があるよ」

 そう言うヘスティアに釣られて見上げれば、教会正面の壁面は至る所に亀裂が入り、少しでも衝撃が加われば崩落してしまいそうな様相をしていた。

 流石の彼も、石造りの教会の外壁を修理した事などない。補修しようにも、その範囲もバカにならない状況だ。

「……一度、キレイに壊して立て直した方がいいかな?」

 もう数発RPG-7を打ち込めば、キレイに崩れてくれるだろう。その後の瓦礫をどうするかと現実逃避をする。

「そんなお金、ぼく達には無いんだよケン君?」

 その横では、ガックシと地面に手を付くヘスティア。そして、

「コレは……。一体全体どういう事なんですかベル様?」

「あ~、うん。ボクにも、良く分からないんだ」

 ダンジョンに向かった筈のベルとリリが、片や目を丸くして、片やどう説明すればと頬を掻いていた。どうして居るのかと問いかければ、やっぱり心配になって戻ってきたと……。

 ありがたいが、現状どうしようもない。

「このザマは……襲撃者を撃退したのは良いんだが、周りの被害を抑えられなかったからだ」

「な、なるほど……」

 ガックシと頭を垂らしながら、ケンはリリに簡単に説明する。その両肩からは哀愁が漂っていた。

 それから気分を切り替え、とりあえずシーツの類を被せて雨風だえでも防げるようにすると告げる。本格的な修理は、本業の大工に一度見積もってもらうしかない。

 見積もり無料か格安の大工など、このオラリオに居るのだろうか? 生憎とケンは、この街については殆ど知らない。ほぼ同じ時期にこの街にやって来たベルも然りだ。

 ならヘスティアの知り合いに、その様な神は……ヘファイストスの伝は使えるだろうか?

 いや、ここは冒険者ギルドの窓口に行って、エイナ氏にそう言うファミリアを紹介してもらえるか頼むべきか?

「ハァ……」

 ペチペチと壊れかけた壁を触りながら、深いため息を零す。なぜ対戦車ロケット砲なんて打ち込んだのだろうか? ショットガンのフラグ弾……いや、バックショット弾でも使用しておけば、この様な大惨事にはならなかっただろう。

「……兵器みたいに、コイツで直ってくれればな」

 取り出したガスバーナーで壁をなんとなしに燻る。兵器どころか、木製の橋すら直すミラクルバーナーでも只の家屋は……、

「ケ、ケン君!? いったい何をやっているんだい!?」

「え……あ」

 ヘスティアの指摘に、自分がやっていた事を再認識する。いくら現実逃避しているからと言って家をガスバーナーで燻るなど……。ソコまで来て、彼は違和感を感じた。

 バチバチと、なぜか火花を上げる石の壁。

 ガラガラと重力を無視して駆け上がっていく瓦礫。

 石膏などを塗ってもいないのに、壁面に広がった亀裂は塞がっていく。

「……」

 ケンは無言になり、更にガスバーナーを押し当てる。暫くして、火花も、瓦礫の音もしなくなった。

 目を丸くして、口をパクパクとさせる者が2人に1柱。目の前には、何事も無かったかのように佇む無傷の廃教会。

「あぁ……」

 頭を掻き毟り、ケンは伸ばした指をクルクルと回す。ハッとしてそこに居る三名に顔を上げると、

「何も無かった。見なかった。良いね?」

「良くない!」

 最高の解決策だと満足げにするケンの脳天に、ヘスティアの容赦ない手刀が叩き込まれたのだった。




 とりあえず、自ブログで載せた場所までの転載は完了。
 これから先は現在、執筆中
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