この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

30 / 32
act30 食い散らかすモノ

 オラリオの中心、バベル。

 その大広間にぽっかりと明いた大穴――ダンジョンの入り口に、ケンはわき目も振らずに走って……飛び降りた。

「飛び降りないでくださーい! 下に居る……!」

 後ろから――おそらくギルドの職員から注意が飛んでくる。一階までそれほどの高さがないので、ある程度ステータスがあれば地上から飛び降りたほうが早い。そんな事を言う極一部の冒険者に対し、ギルドは危険だからと止めろと注意を呼びかけていた。効果があるかは不明だが。

 バサッ! パラシュートを開き落下速度を抑え、誰も居ない地面に着地。多少勢いを消しきれず負傷するが、この程度の負傷は救急パック程度で全快する。放っておいてもスキルの効果で全快になるが、痛いのはさっさと消す事にした。

 【戦場遊戯(バトルフィールド)】を発動させ装備を選択。

 目的地まで走り抜けるのに、腰だめで使用できる装備のほうがいい。呼び出すのはPDW‐R……いや、P90にしよう。50発の大容量マガジンのプルパップ方式PDW。同じ50発マガジンの“釘打ち機(CBJ‐MS)”と比べ、発射レートが高く遠距離での集弾性が悪いが、プルパップ方式の特性で移動時と腰撃ち時の射撃精度が高い。

 サプレッサーを取り付け、サイトは倍率1のホロを。レーザーなどのアクセサリーは……外す事にした。ゲームでもそうだったが、前方にマウントレールを延ばすソレが、オレはどうにも好きになれなかった。なぜこっちでも横に装着できないのか……。

 ……いや、今はそんな事はどうでもいい。

 P90を構え、ダンジョンの中を走り出す。目的地は11階層。普段ソロで潜る階層よりも遥かに深い。道中の階にいるモンスターに用は無い。

 暫くダンジョン内を進むと、進行方向に複数のモンスターが居た。

 まだ此方に気がついていない。

 パススス……!

 気の抜けた音と共に、P90の5.7mm弾を道中に居たモンスター達に降り注がせる。

 迂回する気はない。目的の階層までのルートを一直線に突き進む。

 ゴブリンやコボルトと言った浅い階層に出現するモンスター達は、既にソロでの活動で何度も撃ち殺している。問題なく処理しながら奥へと進む。

 6階層に出現するウォーシャドウも、早いだけで防御が薄い。以前の様にREXを使わなくとも、P90で弾幕を張れば……。むしろ、慎重に狙わなくて良い分こちらの方が倒しやすい。ダンジョンリザードやフロッグシューターといったヤツラは、舌の射程が長かったり天井に張り付いて攻撃してきたりと厄介だが、ファントムで射抜ける程度の防御力だ。こちらももこの装備で対処できないモンスターではない。射程を延ばす必要がある時にだけ、ハンドガンに持ち替えて対処する。

 蟻は、焼くに限る。一々撃っていてはキリが無い。……と言うよりも、赤いアレと自身の装備――P90を見て、どうにも直接戦いたくない気分に駆られる。高速で突っ込んでくるヤツとか、横から要撃してくるヤツが居ないのが幸いだ。

 ……後ろから緑の――友軍の光点が着いて来ているが、此方が止まっても一定の距離を保ってそれ以上近づいてこない。不気味だなと、道中に見かける負傷者に応急医療パックを配りながら走り続ける。

 そして10階層。

 PTでは何度も潜っていたが、ソロでここまで潜った事は無いなと、ケンは少々感深くなりながら目の前の草原を見つめた。ココからは霧が立ち込めていて視界が悪く、近距離にならないとモンスターを視認し難くなる。そうなると、自然と交戦距離が近くなってしまう。ソレは、色々と面白くない。

「コイツを、試してみるか……」

 そう言ってケンは、ベル達と一緒の時には使わなかったガジェット――単発式の拳銃を空に向かって撃ち放つ。初めて使うが、さて、どうなる?

「……OK」

 撃ち上がった光源――照明弾が、次々とモンスターの位置を特定し、その位置をレーダーに映し出していく。モーションセンサーボールよりも使い勝手が良さそうだが、白煙の尾を引く発光弾は地上だと悪目立ちするな。あと、発射音も地味に大きい。照明弾に惹かれて、モンスター達が此方に向かってきているのがレーダーから窺えた。

「“デコイ”の機能は無かった筈なんだが……」

 “弾薬箱”に“竹の子(T‐UGS)”を地面に突き刺しながら、向かって来るモンスターの数の多さにげんなりする。

 ……まぁ、いいか。全部食い散らかせば良い。

 プギャァー……だろうか?

 鼻の詰まったような鳴き声を先頭に、様々なモンスター達の鳴き声が霧の向こうから木霊してくる。

 この階層から出現するオークは、以前のようにバトルピックアップのアンチマテリアルライフル系でなくとも――ポンプ式ショットガンのバックショット弾で手足を吹き飛ばせる。オークの胴体は、分厚い脂肪が天然の防弾チョッキ代わりに成っているのか散弾ではダメージが薄かったので狙わない方がいい。だが、足元を撃って姿勢を崩させれば、一番の急所である頭部に大量の鉛玉を叩き込んで絶命させられる。

 小型のインプ? ゴブリンやコボルトとそう変わらない。

 カキンッ!

「ッ!」

 撃ちすぎてマガジンが空に成る。少々、撃ちすぎた。

 すぐさまスタングレネードの安全ピンを引き抜き、モンスター達の前に投げつけ自身の目を被い隠す。

 爆発した瞬間、音が消えた。

「キャァ!?」

 ……後ろの方で悲鳴が上がった気がするが、おそらく気のせいだろう。

 破裂したスタングレネードの閃光と高音にモンスター達が怯んでいる隙に、空に成りかけたP90のマガジンを交換。空のマガジンを棄て、新しいマガジンを叩き込み、コッキングレバーを引く。下手に我流でやるより、“スキル”のアシストに身を任せてマグチェンジをすれば――時間がかかるし身体が勝手に動いて気持ち悪いが――ミスは無い。

 再装填を終えたケンは、P90の銃口を未だスタングレネードで朦朧としているモンスター達に向けて、トリガーを落とす。

 パススッ! パススス……ッ!

 ゲームの時からだが、ケンは残弾管理が下手だった。特に小型マガジンの武器がソレで、しっかりと指切りしているつもりなのだが、どうにも弾を撃ち切ってしまう。

 ゲームの時のように1マグ、1キルなんてやっていたら、命がいくら有っても足りない。

 修正するか、仲間からカバーしてもらうしかないが……。それを考えるのも、今は後回しだ。

 パススス……ッ!

 カラン、カランと、撃ち終えた空のマガジンと薬莢が地面に落ち、霞となって消えていく。後に残るのは、穴だらけになったモンスターの死骸だけ。

 ひとしきりやって来たモンスター達を撃ち殺し終えたケンは、死骸にナタを突き立てて手早く魔石を回収――“本体置いてけ”。

「……これ以上来る前に、さっさと進むか」

 目的はここじゃない。

 新しいマガジンに交換し、目的地――もう一つ下の11階層へと向けて足を進めた。

 

 

 なぜこんな事をしているのか、正直に言うと自分でも分かりません。

 ……いえ、正直に言いましょう。冒険者としてあの男が持つ“力”への好奇心と、このままアイズさんの元に戻る事に後ろ髪を引かれたからです。

「それにしても、どう言うつもり?」

 襲撃者に狙われているというのに、あの男――ケン・ツワモノはバベルへとまっすぐ足を進めていく。

「バベルに何の用が?」

 買い物だろうか?

 バベルの中へと入っていくケン。見失わないように急いでその後を――コソコソと追いかける。一度帰った手前、堂々と後をつけるのに抵抗を感じてしまうのは仕方ない。

「あの男は……って!?」

「飛び降りないでください! 下に……!」

 何を考えているのか分からない。

 上のお店に用事があったんじゃ!?

 なんでダンジョンに潜って行くんですか!?

 暫くしたらホームに帰るんじゃなかったんですか!?

「あ~もう!」

 アナタ、襲撃者に狙われてるんじゃないんですか!?

 色々と叫びたくなるのを必死に堪え、私もダンジョンへと降りていく。もちろん飛び降りない。本当は遠征の直前なのでダンジョンに潜るべきではないのですが、こんな状況ではそうも言っていられません。

 急いで、それでいて気づかれないようにコソコソと……。

 ろくな準備もしていないままダンジョンの中へと入っていく。それは向こうも同じはず……だったはず。いつの間にかあの男は、小型のクロスボウの様な物を手に持ちモンスターと戦っていました。

 いったいいつの間に!? 私が憶えている限り、あの男が装備していたのは大型のナイフ……と言うよりマチェットだけだったはず。なら、あの武器は何処からやってきたの? いや、それよりも……。

 パススス……!

 気の抜けたような音が連なって聞こえる。

 ギャァァァァ!

 モンスターの悲鳴も聞こえてくる。

「……」

 だけどあの男は、ただ無言で手に持ったクロスボウモドキから何かを撃ち出し続けるだけ……。

 その異様な光景に、私は思わず見入ってしまった。

 まず連射力が違いすぎる。弓でもクロスボウでも、一回撃つたびに矢を番えなければいけないのに、あの男はまったくその様なそぶりを見せない。

 ……いえ、中にはそう言う事が出来るモノもあるのは知っています。

 ですが、

「いくらなんでも、アレは小さすぎます」

 大きさは腕の中に納まる程度。内蔵されているのか、発射するための弓の部分が見当たらない。だというのに、その威力は信じられないほどに高い。

 ゴブリンやコボルトの類はまだ納得できた。コレ等は、恩恵なしでも大の大人が必死に戦えば倒せるほど弱い。だから何とか成ったのだろうと……。

 だけど、ダンジョンリザードやフロッグ・シューター、ウォーシャドウと言った上層でも強力な部類のモンスターが、ものの一瞬で穴だらけになり絶命させられている。

 射程距離だって可笑しい。あんなに早く撃っていれば、モンスターに届かない矢も出てくるはずなのにそれが一切出ないなんて……。

「……熟練した使い手?」

 考えられる。けど、どう見てもあのクロスボウモドキが異彩を放っている。やっぱり、アレが怪しい……。

 それからもう一つ。

「解体方法もめちゃくちゃです……」

 ザクッと、モンスターに一突き入れるだけ。たったそれだけで魔石が回収されていく様子は実に恐ろしく……いえ、羨ましいとも言えます。一切の解体時間を短縮したソレは、他のサポーターからしたら喉から手が出るほどのモノ。おそらくスキルでしょう。

「いったい、どれだけの事ができるのよ!?」

 小さく、それはもう小さく悲鳴を上げてしまった。

 はしたないかも知れないが、あの男からはなんと言うか私と似たような何か――自信の無さとか――を感じていました。いえ、エリクサークラスの何かを湯水の如く出す男と自身に何か親近感を感じるのは……。先ほどから目にしないようにしていましたが、アノ小袋――エリクサークラスの何かをポイポイ投げています。負傷者を見つけるたびに、それはもう気軽にポンポンと……。

「神ヘスティアの気持ちが、少しだけ分かった気がします」

 あの男の行動には、色々とおなかを痛めさせられます。

 閑話休題。

 気がつけば、もう10階層に来ていた。

 どう言えばいいか……。迫りくるモンスター達を、まるでそっちから来るのが分かっている様に迎え撃ち、一方的に倒していく。

 あぁ、もう、眼と耳が痛い……。

 なんてモノ使うのよ!

 クラクラする頭を抑えながら、後で文句を言ってやろうと睨みつけてやった。

 そして、全部終わったのか、あの男は魔石を剥ぎ取りそのまま先へと進んでいく。

 いったい何処まで潜る気なのよ……。

 げんなりしながらも、私はあの男の後を追って……。11階層まで潜った所で、さすがにあの男を止めた。

 

 

 11階層に辿り着き、目的のモンスターを探そうかとしたところで、今まで着けて来ていた誰かに静止を呼びかけられた。

 振り返って見れば、そこに居たのはギルドで分かれたエルフの……。

「アンタは……」

「アンタではありません。レフィーヤです!」

 そう言って拗ねる彼女に、ケンは頬をかきながらどうしたものかと考える。帰ったんじゃなかったのか?

「心配になったので後を着けてきました。

 そうしたら、案の定ダンジョンの……しかもこんな階層まで潜って!」

 どういう考えで何をする積りなのかと、レフィーヤは問い質す。その迫力に半歩後退したケンは、何をしに来たのかを彼女に話した。

「……インファント・ドラゴンの討伐? アナタは、ふざけているんですか!?」

 ケンの口から出てきたのは、上層に出現する事実上の階層主。駆け出しの冒険者が挑むなど無謀極まりないと言うレフィーヤに、

「別にヤれないわけじゃないと思うんだが……」

 と、ケンは首を傾げる。対物ライフルに対戦車ロケット砲。最悪、戦車を出せば……とは、頭に浮かべるもさすがに口にはしなかった。

「ッ!」

 ……本人にはそんな気はないのだが、その仕草がレフィーヤの癇に障ったようだ。彼女は目じりを吊り上げると、

「ダメです。帰りますよ!

 帰らないなら……神ヘスティアに、全部報告します!」

 ヘスティアに報告する。そういい終えるとレフィーヤは、踵を返してもと来た道を戻り始めた。

「それは……ずるいんじゃないか?」

「だったら、戻りますよ!」

 顔だけをケンに向けて言うレフィーヤは、もう知らないと言う風に歩いて行く。好きにしろと言う事なのだろうが、ケンはこのままヘスティアに報告された未来を思い浮かべる。

 そこには、満面の笑みを浮かべる幼女神が居た。だが、

『ケ、ン、く~ん! キミは、一体全体何を考えているんだい!?』

 ……どう考えても、説教地獄しか思いつかない。しかも、思い浮かべられるのがゆるい説教までで、ここから何処まで酷くなるか……。それを思い浮かべたケンは、肩を落としながらレフィーヤの後ろを追う。そのまま地上へと戻ると、ギルドのエイナ氏に引き渡された。ドロップ品の換金だけのつもりだったのだが、レフィーヤが気を利かせて彼女を呼んで来たのだ。

 そして、

「何を、考えて、いるのかな? キミは!」

 月が顔を出すまでエイナ氏にたっぷりと叱られ、

「あ、アハ、アハハ……。うん、もう、気にしない」

 帰宅後、いつもの様にステータスの更新を行ったヘスティアが、悟ったように目を遠のかせてステータスの更新を一旦止める。明日の朝に改めてステータスの更新をしなおすと言う彼女の煤けた後姿を見て、

「ままならんな……」

 ケンは、一層気を落とすのだった。




 レフィーヤ視点、主人公視点と書いて、レフィーヤ視点を削るか考えて、結局載せる事にしました。

 レフィーヤは、主人公とは他派閥なので注意したり、止めたりする義理はありません。
 普通の駆け出し一ヶ月目の冒険者は、11階層にソロで潜れません。ドラゴンになんて勝てません。
 主人公も、11階層に潜るには明らかにステータスが不足しています。武器が強いだけです。
 彼女が主人公を止めたのは、純粋に最低限の善意からです。エイナさんに引き渡したのも善意です。

 ……そして、彼女は主人公の【劣色心界】の事を知らなかっただけです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。