最後がなんかしっくり来なかったので、少し加筆しました。
薄暗いダンジョンの9層を、ケン達三人は進んでいた。
彼らの靴音だけが、薄暗いダンジョン内にコツコツと木霊する。
他の音は何もしない。
異様なほどの静けさだった。
「モンスターが、一匹も見当たりませんねベル様?」
耐えかねたリリが口を開く。彼女の発言に、ベルは相槌を返し、ケンはレーダーを確認しながら……耳が痛くなるような無音のダンジョンの奥を睨み付けた。
このまま行けば、もう直ぐ10階層への入り口に辿り着くだろう。だが、この9階層に入ってからモンスターの気配が一向に感じられない。
「ロキ・ファミリアが、遠征のついでに道中のモンスターを狩りつくした……」
「リリたちがダンジョンに潜る時、まだロキ・ファミリアの皆様は出発式の最中でしたよ?」
ケンの考えを、リリが冷静に否定する。それは、自分たちよりも先にロキ・ファミリアが遠征に出発していたならありえたでしょうと……。
リリのジトッとした指摘に、ケンは居心地悪そう頬を掻き毟る。
「……あの日も、こんな感じだった気がする」
「ん?」
ベルがポツリと零した言葉に、ケンは首を傾げた。
「あの日、あの日、あの日……?」
「うん、ミノタウロスと遭遇したあの日みたいだなって……」
「……あぁ、確かにこんな感じだったな」
一ヶ月ほど前、ダンジョンの5階層に初めて降りたあの日。直前までモンスターの気配で溢れていたダンジョンが、あの一時だけ異様なまでに静かになっていた。
……現状を較べると、確かに酷似している。
チラリと、視界の隅に映るレーダーに視線を落とす。
敵を示す光点は……ない。
「レーダーに感無し……。
……だがまぁ、注意するに越した事はないな」
そう言ってケンは、この階層に入ってから持ち始めたアサルトライフル――M16A4を構え直す。銃火器の初のパーティでの運用。フルオートで下手に鉛玉をばら撒くよりも、3点バーストが出来るコレなら大丈夫だろうと選択した。
……相変わらずアイアンサイトが邪魔だが、外すに外せないのがもどかしい。オフセットアイアンを付ければ横にずれてくれるかと思えば、もう一個増えるのだから意味が分からない。
分かったと返すベルとリリ。だが、ケンが構え直した異様なソレに度々眼を向けてしまう。未だにモンスターと遭遇していないため、その銃口が一度も火を吹いた事はないが、その異様さだけはヒシヒシと伝わってきていた。
「ケ、ケン様……。その、今の今まで質問しませんでしたが、手に持っているソレは……」
「飛び道具だ。
少し音が五月蝿いが、威力は保障する」
ケンはそう説明するが、色々と端折り過ぎていて二人には理解しきれていない。少々険しそうな顔で二人は頷いていた。
ケンの持つソレは見慣れない装備だったが、ベルとリリはモンスターと遭遇すれば直ぐにどの様なものか分かるだろう。そんな風に考えて、今の今まで質問を放置していたのだ。もっと早くに聞いておくべきだったと後悔するも、ココまで来てしまっていては悠長に説明してもらう時間も無い。
しょうがないと、ケンの簡素な説明で頷くしかない二人だったが、
「見た目は、クロス・ボウ系の飛び道具……だな」
無い……はずだ。
通常なら……。
「構えて引き金を引けば、目標に目掛けて鉛弾が飛び出す。
コイツは少し特殊で、一回の引き金で3発ずつ発射される。最大連続発射数は、弾倉(マガジン)の中身30発分に薬室内の1発を加えた31発」
そう言うとケンは、誰も居ない通路の向こうへとライフルを構え、不用意にトリガーを落とした。
ダダダッ! ダダダッ!!
「ひゃぁ!?」
悲鳴を上げて耳を塞ぐリリ。モンスターが出てこないのを良い事に、ケンはM16A4を試し撃ちしながら説明する。
「最大射程は……飛ばそうと思えば900mは飛ぶんだったかな?
ただ、実用的な距離は、たしか200mくらいだったか……」
その様子に……と言うより、その説明の仕方にベルとリリが口を魚のようにパクパクとさせる。そこにはもちろん、突然の発砲にも驚かされた事もあるが、開示された現実味の無い数値。そして、そこまで教えてくれるのかと言うのもあった。
「え、えっとケン様。その遠距離武器(クロスボウ・モドキ)は、本当に900mも飛ばせるのですか?」
とてもそうは見えないと言うリリに、ケンは頬をかきながらすまなそうに言う。
「実際に900mも先まで撃った事はないから、そこまで飛ぶのかは判らない。ダンジョンの外で撃てば目立つし、ダンジョンの内はそこまで広くない。好きに試し撃ちしたくても出来ないって言う事情がね……」
「確かに……。音もそうですけど、ソレは色々と悪目立ちしそうです」
リリの指摘通り、コレは悪目立ちするだろう。
ケンが探した限り、自分の使うような武器――自動小銃はオラリオでは見かけられなかった。一部の商店で拳銃に似たモノを見つけた事はあるが、ソレは単発式の信号弾(スポットフレア)だった。射程も短く、弾速も遅く、もちろん連射も効かない代物だ。
もしかしたら、探せば魔石式のラッパ銃位は在るかもしれない。ダンジョンのモンスターに有効かは別にしてだが……。
「……射程が凄いのは分かりました。
ですが、その音はどうにかなりませんか?」
耳が痛いですと、リリは手で塞いで抗議をする。
「出来なくはないが、反動特性が変わるからなぁ……」
ケンは、まぁしょうがないと言いながらM16A4のバレルをヘビーからサイレンサーに変更した。反動特性が変わってしまうが、音が五月蝿いのだからしょうがない。
「コレで音は大丈夫だと思うぞ?」
だいぶ小さくなると、取り付けたサイレンサーで長くなったライフルを構えて見せる。
さすがに今度は撃たない。
ちらりと暗い通路の奥を見る。
……何も居ない。
相変わらず、レーダーに敵の気配は表示されない。
銃の発砲音はかなり大きく、モンスター達を引き付けるには十分なのだが……。
「静か、ですね……」
「……うん」
ベルにリリも、さすがにこの異常事態に生唾を飲み込む。ケンもまた、肩を落としてため息を吐き出した。
出るなら出るで、さっさと出てきてくれたほうが気が楽なんだが……。銃声が止んだダンジョンは、ただ静かにほの暗い口を開いていた。
「どうする?
こうまで異常なら、引き返してもいいぞ?」
長生きするのは、勇敢な者よりも臆病者だ。
冒険者は冒険しない。エイナ氏の忠告を反芻しながら問いかけるケン。それにベルは、
「……行こう」
ベルは、真っすぐダンジョンの奥を見据えて言った。
「その心は?」
「僕が、リリとケンを信じているから……じゃ、ダメかな?」
まぶしいな。ベルのその真直ぐな言葉に、ケンはライフルを構えて応えた。ソレはリリも同じだ。
「じゃぁ、行こう!」
そして、三人は10階層へと向かって歩いて行く。そんな光景を映し出した鏡を、美の女神がうっとりとした眼差しで見つめていた。
「いいわね。まるで英雄叙事詩の主人公みたい」
鏡に映るベルを優しくなぞりながら、フレイアは熱い吐息を零す。
「それで、ちゃんと用意してくれたのかしら?」
『はい、追加の仕込みは行いました。ですが……』
「そんな事をする必要があるのか、かしら?」
フフフと、不満を抱くオッタルにフレイアは微笑みながら答えた。
「そうね。あのどうでも良かった子には、それだけをする価値は無いかも知れない。いえ、無いでしょうね」
でも……と、フレイアは続ける。
「本当に何も無いのか、確かめてみたくなったの。
それに……」
アレなら死んでしまっても惜しくない。
*
僕たち三人は、無音の9階層を進む。
コツコツコツと、僕たちの靴音だけが嫌に響く。モンスターの気配のない静か過ぎるダンジョンは、あの日を――ミノタウロスに追いかけられたあの日をイヤでも彷彿させてくる。
あの時を思い出す度に、息が苦しくなり、手足の震えが止まらなくなる。でも、
「ここ、最後のルームか……?」
「はい。ですが、何も居ないようです。
このまま10階層に……」
でも、ケンとリリが居る。僕は一人ではない。そう思うと、震えが不思議と和らいでくれる。
大丈夫。だから、
「じゃ、このまま10階層に……」
ヴォォォオォッ!
「今のは……?」
そんな時、音が――いや、咆哮が聞こえた。
その咆哮に、ドクンと、心臓が強く脈打ったのが分かった。
今さっき通ってきた通路の方から、ドッドッドッと重い足音が、気配が、圧力が、最初は小さく、だけどどんどん膨らんで来る。
「ちょ、ちょっとヤバイのでは……?」
「かもな……ッ!」
反転したケンは、手に持った武器(クロスボウ・モドキ)を元来た通路の奥へと向けて構える。武器の上部に取り付けられている筒――照準器を兼ねた小型の望遠鏡を覗き込んだ。
「ッ!?」
次の瞬間、ケンは躊躇せずにその引き金を引く。何度も何度も、その引き金を引いた。
パススス! パスススッ……!
「ケン!?」
「ケン様!?」
「走れ!」
驚く僕たちを他所に、ケンは走れと怒鳴り声を上げる。そして、マガジンと呼んでいたモノを交換してさらに引き金を引き続けた。
ヴォオォォッ!
ダンジョンにモンスターの咆哮が轟く。
ケンの突然の行動に理解が追いつかなかった。いや、僕は通路の向こうから迫ってくるアノモンスターの叫び声に身体を強張らせていた。
ナンデ、ドウシテ……。
喉がカラカラに渇き、心臓の鼓動が早鐘を打ってくる。
「ベル!? 走れ、走るんだ!!」
ケンの叱咤が飛ぶ。
ダンジョンの硬い地面に、金属が跳ねる軽い音が木霊している。
「ベル様!?」
リリが叫んで……。
……そうだ。
動かなければ、
走らなければ、
逃げなければ……!
ヴォォォォッ!
再び、響くモンスターの咆哮。いや、もう目の前に奴は居たのだ。
「あ、あ……!」
目の前を埋め尽くすその影に、姿に、足が竦んで動かな……ッ!
ドッと、小さな誰か――リリに突き飛ばされた。
モンスターが――ミノタウロスが振り下ろした巨剣が、リリの後ろを通り過ぎていく。そこは、さっきまで僕が立っていた場所で……。
ゴゥッ!
巨剣が地面に突き刺さった。
「キャァ!?」
「クッ!?」
撃ちつけられた剣の衝撃だけで、僕たちは簡単に吹き飛ばされ、ダンジョンの硬い地面に身体を叩きつけられる。叩きつけられた痛みが全身に走る中、僕は僅かに動く頭を持ち上げ仲間を――リリとケンを探す。
「リ、リリ!?」
リリは、僕の直ぐ後ろ――手を伸ばせば届く所に倒れていた。気を失っていて頭から出血もしてるが、それ以外の外傷は見られない。
呼吸はちゃんとしている。
たぶん、リリは大丈夫だ。
ならケンは? 吹き飛ばされる直前の光景では、ケンはミノタウロスの振るった巨剣の向こう側に居た。たぶん攻撃は当たっていない。
「ケ……ッ!?」
その光景に、僕は思わず眼を見開いた。
「ベル! リリ! 返事をしろ!」
ケンも、僕と同じように吹き飛ばされて地面に叩きつけられた筈なのに……。なのにケンは、武器を持って立っていた。
……いや、
「クソ、コイツは戦車か!? 鎧まで着て、硬すぎ……ッ!」
「ヴォォォォ!!!」
ケンは、ミノタウロスと戦っていた。
ミノタウロスの剣戟から距離を置き、簡単には近づけないようヤツの頭部に攻撃を集中させながら、必死に戦っていた。
……いや、今はそんな事どうでもいい。
なんで僕はただ見ているんだ? ……立てよ! ケンがピンチじゃないか!
「クッ……!?」
震える腕と足に力を込めて立ち上がる。
『ウサギみたいに震えてやがったんだよ!』
怖いよ! だけど、
『ベル! お前の爺さんが……』
もう失いたくない!
『……ボクを一人にしないでおくれ?』
失わせない!
『うん、キミはそれでいい』
ここに居ないはずのアイズさんの声が聞こえた気がした。
戦車砲の至近弾食らっても、死んでなければ戦闘継続するのが兵士だ(対戦車兵装下さい
どんな感じにミノタウロス戦を進めて終わらせるかは決まったので、コツコツ書いていきます。
*11/30
最後がなんかしっくり来なかったので、少し加筆しました。