この世界に雑兵が来たのは間違いだろうか?   作:風鳴刹影

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act9 防犯ブザー代わりに

『怪物祭(モンスターフィリア)の開催期間中、冒険者ギルドも祭りの対応に追われて魔石の換金所を閉めちゃうんですよ』

 気をつけてくださいねと、豊穣の女主人から出る際にシルから注意を受けた。

「ダンジョンに潜っても祭りの間は換金できない、か……」

 その事に、ケンは頭を悩ませてしまう。

 別に祭りの間にもダンジョンに潜って構わない。祭りが終わってから、ギルドにドロップ品を持ち込めばいい――換金できない魔石やドロップを大量に抱え込む事になるだけだ。

 だが、

『ケン君、態々こんな日にダンジョンに潜らなくても……』

 と、呆れた声を上げる幼女神様とエイナ氏を幻視してしまい……ケンは苦笑した。

「そうだな、そう言う日くらいはイベントを楽しむか……あ」

 そうなると祭りを楽しむための軍資金が必要になる。だがしかし、連日の外食で懐がだいぶ寂しくなってきていたのを思い出してしまった。

 今後の事も考えると、早急に金の補充を行ったほうがいいだろう。

「当日、金が無くて寂しい思いはしたくないしな」

 どこかに居るであろうヘスティアに謝りつつ――ダンジョンの入り口、天を貫く塔――バベルの真下にある“始まりの道”の階段を一階層へと向かって下りていく。調子は相変わらず悪いが、食事を取って幾許かは良くなった様に感じられていた。

 とりあえずは具合の確認をしよう。そう言ってケンは、背負った弓矢――ファントムを取り出すと矢を番えた。

 ………。

 ……………。

 …………………。

 暫くダンジョンの一階層を徘徊し、ケンは自分に気づいていないモンスターの頭に矢をプレゼントする作業に没頭する。一射ごとに心臓の高鳴りが止まらないが、射抜くたびに思わず口角が上がるのも分かった。

 確かに調子は悪い。

 だがしかし、その言葉に反して今日は調子がいい。

 有り体に言うと、矢が良く当たる。

 ケンの命中率は――二本に一本は外すのが普段だ。だが、今日に限っては八割以上がモンスターの頭部に命中。胴体や他の部位も含めれば、ほぼ十割と言っていい。

「フッ!」

 矢が刺さり、地面に倒れたゴブリンにナイフを突き立て――“本体置いてけ”で一瞬で魔石を抜き去ると、モンスターは灰になって崩壊する。時折ドロップアイテムも引っ付いてくるので、魔石と一緒にサポーターバッグへと放り込んでいく。

「悪くないが……多少ラグっぽいな」

 ポンコツサーバー特有の巻き戻しがかかるような不快感ではない。そうではないが、じゃっかん反応が鈍く感じてしまう。ファントムを構える仕草に、矢を引き照準を合わせるまでの時間の違い。なんとも言えない歯がゆさを感じてしまう不快感だ。

「コレさえなきゃなぁ……」

 贅沢なのだろうかと、ケンは腰を低くしてダンジョンの中を進んでいく。

「……なぁ、アイツ今膝立ちしながら横に水平移動してなかったか?」

「モルダー、アナタ憑かれてるのよ」

 背後で妙なやり取りがなされていた気がするが、ケンは黙々と狩りを続けていく。彼の通った後には、無数のモンスターの死体(灰)。腰に下げられている魔石入れも、それなりに膨らんで来ていた。

「さて、どうするか……」

 現在位置は、二階層と三階層との接続地点。このまま三階層に降りるかどうかを決めかねている所だ。

 一応は、単独で六階層まで潜れた。

 酒の勢いや、ベルが露払いしていたからソコまで単独で潜れたのだろう。だからか、三階層か四階層までならソロでも大丈夫だとケンには思えていた。

 しかし、なぜか今日は調子が悪い。いや、良くもあるが、あえて言うなら悪いのだろう。

 潜って大丈夫だろうか? そう不安が脳裏を過ぎる。

「……ヘスティアも、潜るなって言ってたからな」

 最低限の忠告は、素直に従うべきだろう。そうして彼は、踵を返して来た道を戻っていく事にした。

 稼ぎは悪いが、今日の所はコレで上がろう。

 はじまりの回廊を登り、ギルドの換金所に足を運ぶ。採れた魔石とドロップアイテムをギルドの換金口へと入れ、代わりにヴァリスの詰まった袋を受け取った。

「ヒーフーミー……五千くらいか?」

 終始妙な調子だったが、それでもそれなりの稼ぎを得られたようだ。

 手に持つ貨幣が詰まった袋の重さが、いつもの半分……よりも軽く感じられた。

 だが待って欲しい。レベル1の冒険者四人パーティの稼ぎがおおよそ四万ヴァリスと言われている。そんな中で、駆け出し一ヶ月目の冒険者が単独で――それも浅い階層かつ短時間の狩だけでコレほど稼げると異様と言えるのだが……この男にはそんな常識は欠落していた。

「やっぱ、調子悪いなぁ……」

 だからか、どうにも調子の悪さに悪態をついてしまう。決して悪い稼ぎではないのだが、周りからは駆け出しが何言ってるんだと言う視線を向けられていた。

 もっとも、本人はそんな視線に気が付かずにギルドを後にする。

「危険なのは、ダンジョンだけじゃない」

「街の中だって、十分注意しないとなぁ」

「そうだな。危険だって注意してやらないとな」

 その後を、ゲスな考えをした何人かがゆっくりとつけて行く。

 生意気なサポーターに世間の厳しさを教育し、ちょっと授業料を徴収するだけだと……男達は目の前のカモを見て薄ら笑った。

 対象は、今は市場で買い物をしているのが窺えた。

 ドンクサイのか、懐から財布を取り出すさいにボールの様なモノを落として――周囲に無警戒のまま拾おうと屈んでいる。

 スリをするなら絶好の機会。仲間の一人に目配せし……、

「おっと、ゴメンよ!」

 彼にワザとぶつかる。強めに、手に持った財布を落とすようにブツかって……走り去る。ソレに合わせて、目配せしていた仲間の一人が、彼の落としたモノを拾って走り去っていった。

「あんた。大丈夫か?」

「……あぁ、怪我はしていないみたいだ。

 だが……」

 スられた。そう、心配して声をかけてきた店主に返す。幸いな事に、スられたのは彼が普段使っている小物入れで……今日の稼ぎは無事であった。

 ……そろそろだろうなと、ケンはため息をつきながら両耳を塞ぎ目を硬く閉じる。なんでそんな事をと店主はいぶかしむが、彼は頭が痛いと言い訳をして誤魔化すした。

 うまく行ったと笑いを堪える男達だが、周囲の一般人を巻き込んで閃光と高音で倒れたのはその一瞬後だった。

「……あ~あ」

 やっちまったとケンは天を仰ぐ。やってしまった事は仕方がない。それに、下手人は奴らだと論理武装をして精神を落ち着かせた。

 そして振り返ってみれば――小物入れに入っていたフラッシュ・バンの爆音と閃光に巻き込まれ――スリを働いた三人を中心に、何人もの一般市民が路上に倒れ込んでいるのが見て取れた。爆心地から少し離れれば、多少ふらつきながらも気絶せずにいられたモノもいる。

 現場は阿鼻叫喚の地獄絵図……と言うべきだろう。死者負傷者が出てないのは幸いだ。後は……バカな冒険者が、たまたまマジックアイテムを街中で暴発させたという風にギルドが処理してくれば御の字である。

「小銭は……回収できそうにないな」

 小物入れに放り込んでいたヴァリスは、小額とは言え惜しい。小物入れには、一応名前を刺繍してある。もしかしたら後日ギルドで回収できるかもしれない。

 とりあえず露店主に支払いを押し付け、呻き声を揚げてのたうつ人々に同情しつつ、ケンは騒ぎを聞きつけてギルドの職員がやってくる前にその場から退散する事にしたのだった。

 

 

 適当に歩くたび、手に持ったモーションボールと弾薬パックを地面に転がす。

 敵対を示す赤点が、レーダーの端にちらちらと映っているのが見え、彼はいい加減にしてくれとため息を吐いた。

「さっきのスリ連中の仲間か? それとも別か……」

 ホームに戻らず街の中をグルグルと回り、現在は日もとっぷりと沈んでしまっていた。

 先ほどから定期的に、モーションボールと弾薬パックをワザとらしく落としているのに尾行を続ける対象に、彼はさてどうするかと頭を悩ませてしまう。

 いっその事コチラから出向くか?

 相手は、レーダーを見る限り一人のようだ。

 制圧――C4やフラググレネード等で――しようと思えばできるだろうが、レーダーに映っていない敵が居た場合の対処が……。何より、コレが敵とは限らない訳で……。

「神だったらメンドウなんだよなぁ」

 誤って殺してしまいました……ではすまないだろう。深いため息を吐きながら、補充されたモーションボールを手元で弄ぶ。すると、視界の端に映るレーダーの赤点が遠ざかっていくのが見えた。

 やっと諦めてくれたようだ。安堵のため息を吐きながら、念のためにMAVを……、

「こんばんは、ケン君」

 準備しようとして、その声の御仁に目を向けた。

 第一印象は、どこか色が薄くて貧相。ただ、貧しいというよりも清楚といい直すべき姿の神様。この目の前に立つ――無害系男子な神の名前を一瞬ど忘れしかけたが、

「ミ、ミアハ様、こんばんは」

 多少どもるったが普通に挨拶を返す。何処もおかしくない。そう言う風に装ってみるが、人当たりがいいと評判の神ミアハには杞憂だったようだ。

「ダンジョンからの帰りかい? ずいぶん遅くまで頑張ってたんだね」

「いや、まぁ……ダンジョンは夕方頃に上がったんですけど」

 歯切れの悪い言い方だなと思いつつ、適当な理由を探す。正直に話すと色々とメンドウな事をやってしまったので、別の理由を……ついさっきまで誰かにずっと尾行されていた事を話した。

「ついさっき、やっと諦めてくれたみたいで……」

「それは、その、災難だったね?」

 災難で済ましていいのだろうかと思ったが、ケンもそれは口にせずに苦笑して肩をすくめて見せた。

「っと、そうだ。前に君が提案してくれたポーションが、とうとう形に成ってね……」

 何かを思い出したようにして神ミアハは、懐から二本の試験管を取り出してケンに手渡した。それには、普段は液体のポーション類が入れられているモノだが、

「あ、完成したんですか? ポーショングミ……いや、飴?」

 この試験管に入っていた中身は、複数の固形物だった。

「グミタイプと飴タイプ、両方を試してみたんだ。

 まだまだ改良が必要な試作品だけど……」

 ナァーザが頑張ったんだと自慢するミアハに、ケンは思わず親馬鹿と言う言葉が浮かんだ。だが……たった一人しか残らなかった眷族なのだからしょうがないのだろう。詳しい事情は知らないが、聞かず語らず……。ただ、膨大な借金が在るという事だけは、借金取りにやってくる某神を見て知ったくらいだ。

「それで、効果なんだが……どうしたんだい?」

「あ、いえ……コレが早く売れるようになればいいなと」

 神に嘘はつけないのだが、神ミアハは特に気にする事も無く任せろと胸を張る。

 その後、試作ポーションの効果を説明してもらい。試作品とは言え、タダで貰うわけには行かないと今日の稼ぎを代金……ではないと言って神ミアハに強引に押し付けた。

「偶にはそれで、ナァーザさんと美味しい物食べてください」

「そ、そうかい? う~む、確かに貧困してはいるが、君はテスターで代価は……」

「だったら、それは投資です。いい薬、作ってくださいよミ・ア・ハ・様!」

 余裕はそんなに無いが、切羽詰っているわけではない。

 祭りの軍資金が減ったが、そんなものはまた稼げばいい。

 例えちっぽけでどうしようもない自己満足でも、それでも……。

 

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