「さぁて、そろそろかな」
時間は午後3時52分。
休戦協定が有効になるまであと僅かという時まで待っていたのか義輝は席を立つ。
「恭二、ちょっくら捕虜連れて前線に行って来るな」
「別に良いが、無いとは思うが死ぬなよ」
「分かってるって・・・鈴木、吉田!そいつを連れて行くから一緒に来てくれ」
「はぁ・・・やっとかよ宍戸」
「そうだぞ参謀。こいつの罵詈雑言を相手をする身になってくれ」
長時間の美波の監視はよほど疲れたのか二人は口をこぼす。
彼らに同伴している教諭も心なしか安堵の表情を浮かべているように見える。
「ちょっと、何をする気よ!?」
「何って・・・・まあ喜べよ。お望み通りに解放してやるからさ」
「お、聞いてたよりも攻めこまれてるんだな」
義輝が美波らを引き連れ廊下に出ると、前線はBクラスの教室手前まで押し上げられており、双方当初よりも数こそ減ったものの人だかりができており、その中心で召喚獣による戦闘を繰り広げていた。
「はーいはーい、ちょっと道を開けてくれ」
味方の部隊を間を縫って義輝は前に出る。
いきなり割り込まれて困惑したのか義輝に勝負を挑む者はいなかった。
「あ、先生。一応最前線に来たので召喚させてください」
「ええ。承認します」
「許可もおりたところで・・・試獣召喚《サモン》」
義輝の宣言と同時に足元に魔方陣が浮かび上がり、それが放つ光の中から一体の召喚獣が飛び出す。
彼の召喚獣は戦国時代の武将が着用するような鎧兜に甲冑を装備しており、赤備えと呼ばれ恐れられた武田騎馬軍団の山県昌景を彷彿とさせる赤色で統一されている。
そして手にしている得物は穂先に十字の刃がついている十文字槍でこちらも柄が赤色である。
『Bクラス 宍戸義輝 英語W 184点』
点数が表示されると、義輝は鈴木・吉田と同じく美波の召喚獣に刃を突きつけさせる。
「じゃあFクラスの皆さんちょっと注目。誰かのことを探してたんじゃないか?」
『お、おい。島田だぞ!』
『やっぱり人質にとられていたのか』
Fクラスの一部に動揺が広がる。
「ちょっと小耳に挟んだんだけど、この島田ってFクラスの数学の主力なんだろ?このまま殺しても良いんだけど、Fクラスにとっては痛手だよな。そこで取引しー」
「総員突撃ぃーっ!」
「どうしてよっ!?」
義輝の言葉を遮り突然の命令を下す明久。
「あの島田さんは偽物だ!変装しているてー」
「薄情な。こいつは『吉井が姫路瑞希のパンツを見て鼻血が止まらなくなって保健室に運ばれた』っていうこちらの流言を信じて心配してノコノコ捕まりに来たんだぞ」
「命令撤回!これ本物の島田さんだ!」
義輝が明久の思考回路を理解できずに呆れながら真実を述べると明久は即時命令を撤回した。
「やっと話を聞いてくれるようだな。単刀直入に言おう。休戦協定が有効になるまであと数分。それまでただ待つって言うなら直前にこいつを殺す。返して欲しければ誰か代わりに自害してくれ。ちなみにこちらを攻撃しようものなら即座に殺すからな」
「な、何よそれ!?」
「卑怯じゃないか!!」
「嫌なら良いんだ。島田を見殺しにすることになるけどな。ほら、休戦まで後少しだろ?その間にお互い多数の犠牲が出たら馬鹿らしい。ここは丸くおさめよう」
「でもそれでは一方的にこちらが不利じゃぞ」
後方から様子を見ていた秀吉が出てきて輪に加わる。
「こっちだって休戦協定において最大限の譲歩をしたんだ。姫路への配慮をした俺達のフェア精神を評価して欲しいぐらいだ。次はそっちが譲歩しろよ・・・何なら、演劇部の木下だったっけ?お前が身代わりになるか?」
「な、なんじゃと!?」
「演劇とかでもよくあるだろ、誰かの身代わりになって死ぬ話が」
「それとこれとはわけが違うのじゃ!何を言っておる!」
「・・・・」
義輝は秀吉に対しいったん間をおく。
そして口角を吊り上げ、微笑みながら言う。
「おいおい。『男なら』女子を身を呈して守るぐらいの根性を見せろよ。だから女と間違われるんだよ」
「なっ!!?・・・・・本当に身代わりになれば島田を解放するんじゃろうな」
義輝の言葉に目を見開くと、悔しそうな顔をしながら睨み付ける秀吉。
「ちょっと秀吉!?何を言ってるんだよ!?」
「明久よ、ワシもあそこまでいいように言われたら退けぬ!ワシの男としての沽券に関わるのじゃ!試獣召喚《サモン》!」
「承認します」
余程頭にきたのだろうか。
秀吉は明久の制止をふりきり召喚獣を呼び出す。
胴着に袴姿の召喚獣が魔方陣から飛び出すと、即座に手にしていた薙刀を捨てさせる。
「んじゃ遠慮なく」
義輝は召喚獣を秀吉の召喚獣の前に移動させ十文字槍を勢いよく突きださせる。
無抵抗な秀吉の召喚獣はあっけなく首を斬り飛ばされてしまう。
『Bクラス 宍戸義輝 英語W 189点 』
VS
『Fクラス 木下秀吉 英語W 0点』
「・・・これで満足じゃろ!?早く島田を解放せんか!」
「まあ、待て。4時まで後36秒だ。それまで待てよ。そしたら解放するから」
義輝は詰め寄る秀吉腕時計を見せながら言う。
「30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7ー」
義輝のカウントダウンは粛々と行われーー
ているように見えた。
「吉田、鈴木!殺せ!」
「な!?」
突然、義輝はカウントダウンを無視して二人に命令した。
二人は一瞬驚きはするもののすぐに得物を美波の召喚獣に突き立てる。
『Fクラス 島田美波 英語W 0点』
それと同時に午後の授業の全てを終了することを告げるチャイムが鳴り響いた。
「ちょっとアンタ何でなのよ!?木下と約束してたじゃない」
「代わりに死ねば島田を解放するとは言ったけどな、無事に解放するとは一言も言ってないぞ。あくまでも拘束状態から解放しただけ。嘘は言ってない。ちょっとは考えろよ。その場の空気や感情のままに行動するなんてバカのすることだぞ」
「な、何だよ!これのどこが丸くおさまってるんだよ」
美波と共に明久が詰め寄る。
「バカは否定しないのか。少なくともBクラスにとっては丸くおさまってんだよ。じゃあ続きはまた明日。木下、犬死にご苦労さーん」
義輝は秀吉に清々しい爽やかな笑顔を向ける。
「お、おのれぇぇ!!」
激昂する秀吉達FクラスをよそにBクラスは教室へと戻って行った。
主人公の初戦闘がまさかの騙し打ち。
コンプレックスを利用し刺激するという。
ちょっと無理があったかもしれませんが比較的直情的で思慮にかける人間が多いFクラスならありえると思いました。
脅迫は多分次回か次次回です。
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