ー翌日ー
時刻は午前8時30分を過ぎ、昨日の戦争で戦死してしまった者は浮かぬ顔で補習に備え、生ける者は戦闘再開に備え段取りの再確認などをして時間を潰していた。
生ける者達の表情は明るい。
相手のFクラスは多数の兵隊の戦死に加え、義輝の騙し討ちによって優秀な指揮官と数学の脅威、各一名を失い、目に見える脅威は瑞希のみ。
状況は明らかにBクラスに有利である。
しかし、だからと言って驕りたかぶり油断するほど彼らは愚かではない。
窮鼠猫を噛むと言うが相手のFクラスは猫どころか王たる獅子、Aクラスを噛み殺さんと立ち上がった良い意味でも悪い意味でも馬鹿である。
何をするのか分からない、というのは常に念頭に置いておかなければならない。
まあ彼らの余裕は今の状況を作り上げたクラスの王たる恭二と参謀義輝への信頼の表れなのかもしれない。
「拉致工作部隊の皆はちょっと時間は早いが理系科目教師の確保に向かってくれ。近衛部隊の皆は例のブツを忘れずに着けてくれ」
最終確認のためにそれぞれの部隊に指示を飛ばす義輝。
教室内を回って指示を出し終え、恭二と打ち合わせをしようとした彼の目にある者達が目に入った。
Cクラスの方の廊下から現れた三人はそのまま人目を避けるかのように小走りで去って行った。
当然、行きもBクラス前を通ったのだろうが備えに熱中するあまり気づかなかったようである。
そして三人というのは昨日BクラスとCクラスの"お勉強会"にノコノコとやって来たFクラス代表坂本雄二と観察処分者吉井明久、それとーー
「木下・・・か?」
一緒にいる面子からして秀吉で間違いないのだろうが彼はなぜか女子の制服を着ていた。
姉の木下優子かと間違えるほど瓜二つであるため、義輝は少し戸惑った。
「なあ恭二。さっきの見たか?」
「あ?何を?」
「さっきCクラスとDクラスの方からFクラスの坂本と吉井、そしてなぜか女子の制服を着た木下弟が走って来て教室前を通って行ったんだ」
「は?連中が?・・・何をしたーー」
『皆!!BクラスとFクラスなんてどうでも良いわ!!Aクラスと戦争よ!!』
「ーーのか分かったな」
教室に飛び込んで来たCクラス代表の友香の怒号に恭二は顔を歪める。
「・・・なるほど。自分達が勝った時のための保険ってところか。」
「ああ。とにかく行ってみるか」
義輝と恭二はCクラスへと向かった。
「ちょっと失礼。何やら不穏な空気になってるな。・・・小山、顔が怖いって」
「そうだぞ友香。こっちまで聞こえてたぞ」
教室に二人が入ると高揚した友香らCクラスの視線が突き刺さる。
「どうしたのって決まってるでしょ!?Aクラス、木下優子を叩きのめすのよ!!」
「おいおい。俺らが疲弊したのを叩くんじゃなかったのかよ。ちったぁ冷静になれっての」
「そうそう、落ち着けよ小山。」
顔を真っ赤にしてわめき散らす友香をなだめようとする二人。
「これが落ち着いていられるわけないわよ!!木下・・・ちょっと頭が良いからって私達のことを豚呼ばわりして!これほどの屈辱はーー」
「落ち着けって言ってんだろうが!!!!」
怒りのままに捲し立てる友香に対し、義輝は右手で黒板を強く叩きながら先程の友香をはるかに上回る怒号を飛ばす。
義輝の喝に友香は一瞬肩を震わせる。
「感情のままに行動するだけじゃ動物だろ。小山は代表なんだし尚更冷静にならないとダメだろ」
「・・・そ、そうね」
「とにかく友香、事実確認をするぞ」
友香が落ち着いたところで恭二は教室を出ようとドアに手をかける。
「ちょっと恭二。どこに行くのよ?」
「決まってんだろ。お前が馬鹿にされたって言う木下優子のところだよ」
木下優子は目眩がした。
クズと名高い恭二とその片割れ義輝が来たのを見た時は多少警戒はしたがそんなものはすぐに吹き飛んだ。
というのも、一流ホテル顔負けの豪華絢爛なAクラス教室に来た二人が連れてきたCクラス代表の友香が言うには先程自分がCクラス教室に赴いて豚だの豚小屋がお似合いだの酷い暴言を吐いたと言うのだ。
当然、自分はそんなことはしていないしすることなど絶対にない。
今朝登校して教室に入ってから外には一歩たりとも出ていない。
考えられる可能性は一つしかなかった。
「あのね、小山さん。それ、やったのは弟の秀吉よ」
「お、弟!?」
「アタシには双子の弟がいてね、ホントにそっくりなの。それにあいつは演劇部だし声色も自由自在。アタシに成り済ますなんて簡単よ」
「ちなみにだな、小山。俺は小山がAクラスに戦争をしかけるって叫んだ直前にFクラスの坂本と吉井、そして女装した木下弟を見たぞ。あいつらCクラスの方からFクラスの方に走って行ってたから間違いない」
義輝が優子の言葉にフォローを入れる。
「え?じゃあ・・・私達はFクラスに騙されて無意味な戦争をするところだったのね・・・・」
「本当にごめんなさい。うちの愚弟があなた達を傷つけてしまうなんて」
うなだれる友香に対し優子は頭を下げる。
「やれやれ。やっと誤解が解けたか。」
義輝は苦笑いする。
「宍戸君、根本君。ありがとう。ーーーと言いたいところだけど、第三者であるBクラスが仲裁に入った理由が分からないんだけど?」
謝罪モードから即切り替えたのか優子は疑問を投げかける。
「あなた達には何のメリットもないはずよね?むしろCクラスがAクラスに矛先を向けてくれていたら戦争の後にはBクラスを攻めることはなくなるはず。何か裏があるとしか思えないんだけど?」
「お、痛いところ突いてくるな。流石Aクラス」
「裏って言っても何もねぇよ。Fクラスと戦争してる身にとっては奴らの思い通りに事が進むのは癪なだけだ。Fクラスは俺達に勝った後にAクラスに挑むらしいからその布石だったんだろ。・・・ただ、まあ、言うとすれば・・・Aクラスは戦争回避ができたってことでBクラスに借りができたってことになるよなぁ?」
ニタリ、と恭二は笑みを浮かべる。
「何も無いと言いながら結局はあるんじゃない。戦争をしなくて済んだことはありがたいけど、それとこれとは話が別ーー」
「・・・・別にいい」
「え?代表。いいの?」
奥から出てきたのはAクラス代表にして二年生の頂点に立つ学年主席霧島翔子。
凛とした様が王者の風格をうかがわせる。
「・・・・その変わり条件がある」
「条件?なんだよAクラス代表様」
恭二は首を傾げる。
「・・・・あなた達が勝っても、FクラスにはAクラスに挑ませてほしい」
「ちょっと代表!」
「・・・・優子、私達Aクラスは他のクラスの挑戦を受ける義務がある。」
優子に言い聞かせる翔子。
「・・・・そうしてくれたらAクラスは今後一回だけBクラスの要求に可能な限り応える」
「引き分けってことにしろってか?」
「まあでも敗北を引き分けにする為に条件を突きつければ変わらないだろ。俺は良いと思うぞ、恭二」
「・・・ちっ。分かった、それで構わねぇ」
恭二はつまらなそうに舌打ちしつつも了承する。
「いやぁ、棚ぼただったな恭二」
Aクラスでのやり取りを終えて教室に戻って来た二人。
あの後さらに友香が借りを返すという形でFクラスとの戦争終了後に仕掛けはしないとの言葉をもらった。
Aクラスとの協約、Cクラスとの不可侵協定は大きいものである(もちろん、この二つは文書化する正式なもの)。
「・・・なあ、義輝」
「どうした?」
「俺としては自分の彼女をとことんコケにされておもしろくねぇんだよ」
「お、言うねぇ」
「この落とし前は必ずつけさせてやる」
恭二は邪悪な笑みを浮かべ、義輝と打ち合わせをするのだった。
更新が遅くなりました。
申し訳ありません。
CクラスをFクラスは扇動したわけですが、教室の場所的に考えて気づくことはできるんじゃないかなと。
という考えのもとやってみました。
さて、次回からは流行りのドラマみたいに倍返し!・・するかも?
ご意見、感想などお待ちしております。