時刻は午前9時丁度となり、始業のチャイムと共に戦争が再開された。
開始地点は本来ならばBクラス教室前からなのだが、義輝と恭二の指示でBクラスの兵隊は最初から教室内に陣取ることになり、再開早々にして籠城戦という形になっている。
籠城戦というものは大抵の場合、劣勢の軍が多勢の軍に対して展開するものなのだが今回は様相が異なる。
始めFクラスは劣勢なぞなんのその、と果敢にBクラス教室内に侵入し攻め込もうとしたのだが、教室の狭い入り口から入ったとたんに多数のBクラス生に囲まれてしまい、Bクラスお得意の文系科目で挑まれ敢えなく戦死、閻魔の沙汰なくして補習という名の地獄へ落ちることに。
最初の一人が戦死し、鬼の補習担当教師西村宗一に連れ去られる様を見たFクラスは流石に自重、ただただにらみ合いを続けるしかない状態になってしまっている。
吉井明久は戸惑っていた。
雄二から下された命令は『何としても敵をBクラスに閉じ込めろ』、であったのだが敵のBクラスは押し込まれるどころか自らBクラス教室に入って行った。
それを追撃しようと本丸一番槍を果たした工藤信也は一瞬でやられてしまったし、それを見たクラスメートは攻撃に積極性を欠いてしまうことになってしまった。
それだけではない。
昨日前線指揮を担っていた秀吉が戦死してしまったことでクラスの士気も低下しなおかつ指揮系統がみだれ上手く機能していないようである。
そして、何と言っても瑞希の様子がおかしい。
雄二より直々に総司令官に任ぜられた彼女だが、昨日とうって変わって一切の指示を出すことなく、加えて戦闘に参加しようとしないのだ。
今のような状態において瑞希のような存在が突破口になりうるのだが、当の本人は涙目でおろおろしているだけである。
よって消去法で元々小隊を指揮していた明久が代わりに指揮をしなければならないのだがこれがまた難しい。
下手に攻めれば工藤の二の舞になりかねないし、昨日みたいに何かを企んでいる可能性が高い。
どうしたものか、と明久は悩んでいた。
その時である。
「おーい、一刀。ちょっと遊んできてくれ」
教室内から憎き義輝の声が聞こえ、すぐに糸目で長身の生徒が入り口に現れる。
宣戦布告の際に明久の退路を塞いでいただけあって明久はその顔を覚えていたが、それよりも気になったのが一刀は古典担当の竹中教諭を連れているだけで他の生徒をはおらず単騎で現れたことである。
「あれ、一人なの?」
明久は疑問を口にする。
(もしかして遊ばれているのかな?)
などと呑気な考えしか浮かばなかった。
「三人に 古典勝負 申し込む」
「承認します」
一刀は近場にいた田中、武藤、西村らを指差すと開口一番に戦闘を申し込む。
「試獣召喚《サモン》」
間髪入れずに一刀は先に召喚を始める。
「はぁ?なんだよいきなり」
「一人って俺達のこと舐めすぎだろ!」
「落ち着けお前ら。今度はこっちが頭数で勝っている。早くコイツを倒して憎きリア充を殲滅する足掛かりにするぞ!須川会長の仇討ちだ!」
「「「試獣召喚《サモン》!!!」」」
三人が同時に魔方陣を展開させる。
だが、それよりも早く召喚を始めていた一刀の召喚獣が先に魔方陣から飛び出す。
義輝の召喚獣と同じく鎧兜の色は赤色で統一された赤備で、剣豪佐々木小次郎の愛刀物干し竿を思わせるような長刀を手にしている。
そして、召喚獣の右腕には
『Bクラス 伊東一刀 古典 711点』
腕輪があった。
『『『『はぁ!?』』』』
表示されたあり得ない点数に双方の軍から驚きの声が上がる。
教師に匹敵する点数に召喚を承認した竹中教諭の頬が若干ひきつっていたのだが誰も気づきはしない。
「古典なら 文月無双 我無敵」
一刀が呟くと召喚獣は長刀を構え、攻撃態勢に入る。
それと同時に腕輪が光りだす。
「ま、まずい!!」
桁外れな点数に呆気にとられていた明久は早く我に返ると竹中教諭のもとまでダッシュで駆け寄り、
「・・・ヅラ、ずれてますよ」
「っ!!し、少々席を外します!」
竹中教諭の泣き所を囁く。
すると竹中教諭は頭を押さえながら一目散に駆け出し戦線から離脱してしまった。
「無念なり 嗚呼無念なり 無念なり・・・」
「まあ、仕方がないって」
幹部故に前線で戦う機会に恵まれずようやく活躍できると内心て喜んでいたらしい一刀は突然のアクシデントに肩を落としながら引き返す。
そんな一刀に義輝は苦笑いしながら励ましの言葉を贈る。
「よし、これでこっちは少し楽になったはずだ!皆、一気になだれ込むんだ!」
明久の一声でFクラス生がBクラス教室内に押し入る。
Bクラスは一気に入り込まれたことで対応が遅れ侵入を許してしまった。
それを見届けると明久は瑞希の近くへ。
「姫路さん、どうかしたの?」
「そ、その、なんでもないですっ」
明久が問いかけると瑞希は大きく首を降って否定する。
「そうは見えないよ。なにかあったらーー」
明久は話ながら瑞希が先程から視線を向けている方へと目をやる。
目に入ったのは見覚えのある便箋を手にニヤニヤしながらこちらを見ている義輝と恭二であった。
「お、奴らこっちを見てるな。やっと気づいたか。」
「んじゃ、そろそろ始めるか、恭二」
明久と瑞希が自分達を見ていることに気づいた義輝と恭二は徐に腰を上げる。
「はーい、皆。ちょっとこっちに注目してくれ」
義輝が柏手をうちながら双方に喚起する。
「Bクラスには朗報、Fクラスに悲報がある。まず、この便箋を見てくれ」
義輝が便箋を掲げて見せる。
「この便箋は今この場にいる誰かさんの物だが、中身はなんとラブレター!」
恭二が続ける。
「その誰かさんってのがFクラスの裏切り者でな、このラブレターとひきかえにBクラスに味方してくれることになっててな。・・・でもな、もうその必要もなくなったようだから今から朗読会を始めようと思う」
恭二の言葉に周囲がざわつく。
もっとも、その大半がFクラスのもので、ある程度あたりをつけていたらしいBクラスはたいして驚きはしなかった。
「ち、ちょっと待ってください、根本君!!約束が違うじゃないですか!!」
血相を変えた瑞希が前に出て恭二に抗議する。
「あらら、カミングアウトするとはな。確かに、戦争で何もしなければこれは返すと言ったけど、俺達が他人にバラしたと判断したら即座に読み上げるとも言ったよな。なあ、義輝?」
「そうそう。ダメじゃないか、姫路。そこにいる吉井にバラすなんて」
「ま、待ってよ!よくわからないけど、姫路さんは別にバラしたわけじゃない!僕が勝手に気づいただけだ!」
「嘘つきは皆そう言うんだよ。こちらとしては一切約束を違えていない。落ち度があるのは今までFクラスを裏切ってFクラスを敗北に導びかんと協力してくれた姫路の方だ」
あえて強調する義輝。
「そ、そんな・・・」
瑞希の目にたまっていた涙が溢れだす。
「あーあ、義輝が泣かせた」
「お前、昨日のこと根に持ってるのかよ、恭二。・・・まあ、それはともかくとして、俺はエリクサーは最後までとっておくタイプなんだけど、あえて今使ってもいい。でも、流石に良心が痛むから、今から言う条件を呑んでくれたらこのラブレターは今すぐに、読み上げることなく返してやる。」
「ま、また・・・ですか・・・」
嗚咽混じりに姫路が言う。
「単純明快。今すぐに棄権してくれ。この戦場から離脱して補習を受けて貰えればそれでいい」
「ちょっと待ってください、宍戸君」
見かねた英語の遠藤教諭が止めに入る。
「いくらなんでもそれは酷すぎるかと。学校としてはそれは認められません」
同じ女性として看過できない、といったところだろうか。
『そ、そうだ卑怯者!!』
『姫路さんに謝れ!!』
遠藤教諭の言葉にFクラスの方から罵声が飛ぶ。
「先生、学校側は消火器の使用、スプリンクラーの破壊、窓ガラスの破壊などの犯罪行為という、怪我人がでてもおかしくなかったFクラスの策を容認したんですから、このような取引は規制するんじゃ筋が通りませんよ」
「・・・・」
押し黙る遠藤教諭。
「沈黙は肯定、ということですね。さて、姫路。どうする?」
「・・・本当に・・本当に返してくれるんですよね?」
「やるべきことをやったら、な」
「・・・・え、遠藤先生。私、棄権します」
「姫路さん!」
「ごめんなさい、吉井君、皆さん・・・」
「・・・・・納得はいきませんが承認します。宍戸君、直ちに返却をしてください」
「分かってますよ。ほら」
義輝が便箋を投げ捨てると、それを瑞希がすぐに拾う。
そしてそのまま脇目もふらずに駆け出し教室を出ていってしまった。
「宍戸君・・・ただではすまさないよ」
明久は義輝を睨み付ける。
「おいおい。俺は恭二が拾った落とし物をちゃんと返しただけだって。
原本を」
「げ、原本!?・・・まさか」
義輝はポケットから折り畳まれた紙を取り出す。
「義輝はマメな奴でな。もしまたなくした時のために落とし主が困らないようにコピーをとっておいたんだとよ。優しいねぇ」
恭二が笑う。
「き、君達はどこまで卑怯なんだ!!」
「はぁ。・・・・吉井、言っただろ。
エリクサーは最後までとっておくタイプだって」
義輝も笑う。
ひどい。酷すぎる。
でも約束はきちんと守る義輝君です。
ちなみに伊東は土屋と同じく一教科特化です。
筆者はエリクサーをとっておいて結局は使わずに終わるタイプです。
バイオだったらマグナム弾や救急スプレーもあまります(笑)
さて、そろそろフィニッシュです。
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