「はぁ・・・・・・」
場所は2年Dクラス。
一般客への解放時間から押し寄せる客をなんとか捌ききり客足が減り始めたところで溜め息をつく少年が一人。
このクラスの長、平賀源二その人である。
なぜ溜め息をつくのか、というと原因は多々ある。
まず何と言っても先のFクラスとの試召戦争での敗北だろう。
結果として設備のランクダウンこそ免れたものの、Fクラスを侮った末に無様に散った戦犯筆頭とされ、さらにはクラスにおける自身の権力が弱まってしまった。
最も、瑞希という切り札をFクラスが持ち合わせているなどと普通は思いもしたないだろう。
義輝ならば情報収集しない方が悪いと言いそうなものだが。
そして自身の権力が弱まった結果クラス内で清水美春を中心とした女子勢力が台頭しつつある。
現に今回の清涼祭の出し物である喫茶店を仕切っているのは実家の喫茶店を手伝っている美春なのだ。
女子を中心とした経営手腕を発揮し、源二が入り口前で客引きをさせられているように、男子は裏方へと追いやられてしまった。
なかなか強気に出られない源二としてはますます肩身が狭い。
そして溜め息の原因がもう一つ。
源二は腹心である塚本と共に汚名返上名誉挽回を掲げてトーナメントにエントリーしている。
一回戦は運良くEクラスのペアとあたり難無く勝利したのだが、問題は次の相手である。
『2ーB 宍戸義輝
2ーB 伊東一刀』
宍戸義輝。
源二にとって中学時代からよく知る人物ではあるが評判は宜しくない。
仲の良い者には手厚く接するのだが敵対しようものなら容赦なく叩き潰す。
その姿勢のあらわれがBクラスとFクラスの戦争だ。
聞くところによると瑞希が綴ったラブレターを入手してそれを盾に瑞希を脅したとか、敗北したFクラスの面々を馬車馬のごとくこき使っているとか。
また、FクラスがAクラスに挑み敗北したのにも一枚噛んでいるという噂もある。
噂の真偽を問わず相まみえず友好関係を築くのが源二の理想だったのだがどうしたものか。
「はぁ・・・・・」
「どうした代表。さっきから溜め息ばかりじゃないか。そんなんじゃ客足が遠のくぞ」
源二の様子を見かねた塚本が持ち前のよく通る声で咎める。
「いや、何でこうなったのかなと思ってね」
「・・・・気持ちは分からんでもないが過ぎたことを悔やんでも何も始まらないぞ。今は耐え忍ぶ時だ。臥薪嘗胆という言葉があるだろ」
塚本は元気付けるように源二の背中を叩く。
苦境でも弱音を吐かず周囲を鼓舞する塚本を先の戦争で前線指揮官に任命したのは源二自身だが、こうして実感すると自分の采配で唯一の当たりだったんだな、と源二は思えた。
今となっては皮肉でしかないがそれでも塚本の言葉はありがたい。
「そうだね。くよくよするのも止めにーー」
しようとした時だ。
「ったくよ、Dクラスの奴らホントふざけているよな」
「全くだ。俺達のクラスのエアコンの室外機を壊しといて何の詫びも入れないであげくの果てに学校からお咎め無しときた。こちとら必死に勉強して今の設備を手に入れたというのによ」
隣のクラスの方から何やら愚痴が聞こえてきた。
その声がする方を見るとBクラスの前の廊下で客引きをしている男子生徒二名がおり、話し込んでいる様子だった。
「なぜかウチの代表も参謀も未だに動いていないしな。ちょうど良い、今度のHRでDクラスの制裁的について意見を出して審議してもらうか」
「そうだな。あの二人ならDクラスを叩きのめしてくれるだろうよ。特に参謀は『皆の意見』ってのを大事にするからな」
「そうと決まればクラスの連中に根回ししておかないとな」
「安心しろ。今のところ過半数の奴に話は通してある」
「・・・仕事が早いな」
「なぁに、代表と参謀見てりゃ悪知恵ぐらい働くって」
「・・・・・まずいな」
源二は顔をしかめる。
「で、でも代表、あれは嘘かもしれないだろ?」
「いや、塚本。義輝は身内だけには甘い。クラスに不満が溜まっているなら迷いなく捌け口を利用するぞ」
「・・・今の状態で何かされたらDクラスは瓦解しかねないな」
今現在、Dクラスは戦争ができない状態ではあるが義輝と恭二のことだ。
あらゆる手段を講じて制裁を加えてくるだろう。
そうなってしまっては肩身が狭いとかそのようなレベルの話ではない。
「とにかくそろそろ2回戦の時間だ」
源二は腕時計で時間を確認する。
「本人に聞いて確かめるのが手っ取り早いよ」
源二と塚本はメイン会場へと駆け出した。
『引き続き試験召喚大会2回戦Cブロックの試合を執り行います。2ーB宍戸・伊東ペア、2ーD平賀・塚本ペア、ステージへどうぞ』
源二と塚本が会場に到着してまもなく、自身らの試合がコールされる。
周囲を見ると対戦相手である義輝達もおり、ステージへと足を進めていた。
「代表、行くぞ」
「あ、ああ・・・・」
塚本に背中を押されながら源二もステージへと向かう。
「思った通り、源二達が勝ち上がってきたか。知己とはやりづらいんだよな」
「仕方ない これも乱世の さだめなり」
「乱世と言っても文月学園内限定だけどな」
ステージ上で向かい合うと、義輝と一刀が口を開く。
「じゃ、源二。一つお手柔らかに頼むよ」
「いや、それはこっちの台詞だよ、義輝」
「待て、代表。聞きかなきゃならんことがあるだろう」
そのまま試合に突入しそうな雰囲気になり、塚本が流れを断つ。
「分かってるよ塚本。・・・・義輝、一つ聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
義輝は首を傾げる。
「Bクラスの中にDクラスに制裁を加えようって動きがあるって聞いたんだけど、本当なのか?」
「・・・あー、それか」
義輝は顔をしかめながら頭を掻く。
「ほら、前にDクラスはFクラスの命令で俺達のエアコンの室外機を壊しただろ?その件を快く思っていない連中が多いみたいでな。我慢の限界に近い。それにウチは基本的に多数決と俺と恭二の裁量で物事が決まるから今のままだったら間違いなくDクラスに何かすることになるだろうな」
「な、何かって?」
「例えば調略次第だけどEクラスかFクラスをけしかけるとか模擬の戦争を申し込むとか、だな」
「な!?そ、そんなの無理に決まってるだろ!」
塚本が声をあげる。
「無理も何も、それを可能にするのが俺の仕事なんだ。源二に恨みはないけど決定されればやらざるをえないな」
決定されればやる。
これは今の源二にとって非常にまずいことである。
義輝の策の実行によってDクラスが他のクラスと戦火を交えた場合、負けてしまえば己の地位がさらにダウンする。
勝とうと思っても今のDクラスの下がりに下がった士気、
男女間の連携のとれなさが足を引っ張ってしまうだろう。
そしてクラスはますます悪い方向へと向かってしまう。
「・・・・どうにかして回避できないかな?」
源二は声を震わせる。
「俺が説得するしかないだろうな」
「できるのか?」
「一応、俺はNo.2だからそれなりに発言権と信頼はあるぞ」
「・・・・頼む!」
「お、おい、代表!?」
頭を下げる源二に塚本が歩み寄る。
「・・・すまないけど、友達の頼みとはいえ今のままだったら無理だ。こちらに何のメリットもない」
「じゃ、じゃあメリットがあれば良いんだな!?こうしよう、俺と塚本はここで棄権する!そしてDクラスはBクラスの要求を可能な範囲で一つだけ呑む!」
「待て、代表!そこまでやる必要は無いだろ!?」
「考えてみろ塚本!!今のクラスの状態で他のクラスと戦争になって勝てると思うか!?勝つには信頼回復と男女の溝を埋める時間が必要なんだ。このままではクラスがダメになってしまう。お前は瓦解したクラスで一年を過ごしたいのか!?」
「・・・・・・」
源二の言葉に押し黙る塚本。
「分かった、源二。そこまで言うならその条件で良い。遠藤先生、今の約定の立会人になってくれません?」
義輝は2回戦の試合の担当である遠藤教諭に話を振る。
「しかし、代表である平賀君に対して宍戸君はBクラス次席ですよね?こういうものは代表同士でないとーー」
「その点なら問題ありません。清涼祭の間は俺がBクラスの全権を預かっていますから。なんなら本人に確認していただいても構いません」
「・・・分かりました。詳しい話は後日にしましょう。今は仮に約定を結ぶということで良いですね?」
「ええ」
「・・・はい」
遠藤教諭の言葉に義輝と源二は頷く。
「それではこの試合は平賀・塚本ペアの棄権により宍戸・伊東ペアの勝利とします」
高らかに義輝らの勝利が告げられた。
「いやぁ、予想外だったな」
「揺さぶりが 早くも功を 奏したな」
教室へと戻る道中、義輝は笑みを浮かべていた。
「じっくりとDクラスを落とすつもりだったんだけどな」
もとより、Bクラスの面々はDクラスに対して何の恨みも抱いてはいない。
むしろ戦争の被害者だと憐れんでいたぐらいである。
それをあたかも恨んでいるかのように噂を流して戦争の準備をすることで本当に動くように見せ、Dクラスから何らかの提案を引き出す予定であったのだが、義輝の想像以上にDクラスは困窮し源二が追い詰められていたため、噂を流すという第一段階で源二が折れてしまったのだ。
しかも不戦勝というオマケ付きで。
「祭の日 謀るなどと 思うまい」
「ま、源二には悪いけど、これもBクラスの安寧のためだからな。さて、さっさと戻りますか」
祭の日に謀っているのは何も義輝達だけではない。
それに義輝が気づくのはもう少し先の話である。
リアルが忙しくて遅れました。
加えて空いた時間は信長の野望、無双の新作に費やしていたものですから。
人は追い詰められると正常な判断ができなくなるよ、というお話でした。
自分もコールオブデューティーシリーズのサーチ&デストロイで最後の一人になったら普段やらないようなことをしてしまいます。