登校時間の門限が近づき、校門に立つ鉄人こと西村宗一が目を光らせ始めた頃にはすでにBクラスの全員が登校して来ていた。
Fクラスならそうはいかないのだが、そこは流石上位クラスの生徒といったところだろう。
「おい、お前ら。席に着け。今からミーティングを始める」
頃合いを見計らって代表である恭二が愛想のない命令口調で呼び掛ける。
『ミーティング?いきなり何だ?』
『面倒だな』
『話の途中なのに』
代表の言葉に不平不満を漏らしつつ、席に着くBクラス一同。
この様子からして恭二の人望の無さが多少うかがえるが、当の本人は全く気にならない様子である。
「既に知っているだろうが、昨日試召戦争でDクラスがFクラスのバカ共に負けた。で、義輝が手に入れた情報によるとFクラスの次のターゲットはBクラスだ。」
『はぁ!?』
『何してくれてんのアイツら!?』
『ちょっと、また授業が進まないじゃない!』
動揺が隠せないのか、口々に思った言葉を発する生徒が大半だった。
「とにかくだ。奴らは補給が終わり次第攻めて来るはずだ。しかし、心配するな。作戦は幾つか考えてある。頃合いを見て人質をとるとか、理系教師を拉致るとかな」
恭二はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「当然、お前らには俺の命令に従ってもらうからな。どんな手を使ってでも勝ちにいくつもりだから文句は言わせねぇぞ」
「ち、ちょっと代表!」
恭二の方針を聞いて立ち上がったのは岩下律子。
「わざわざ汚い手なんて使わなくても相手はFクラスよ!?正面から捻り潰せばいいでしょ!」
おそらく、これはクラスの大半の全員が大半が思ったことだろう。
彼女はその代弁者にすぎない。
「代表命令だっての。・・・不服だっていうのか?俺はそれでもいいぞ。ただ、忘れてもらっちゃ困るが、俺は多少なりとも誰かさんの弱味を握ってるんだ。うっかり全校放送で垂れ流しちまうかもしれないけどーー」
「あー、はいはい、ストップ、ストップ!ちょっと落ち着こうか」
場の空気が不穏になってきたところで義輝が席を立ち前に出る。
「恭二、お前らしいとは思うけど脅すなら敵さんだけにしとけって。味方同士でいがみ合ってたら何も始まらないだろ?」
「けっ」
「あらら、臍曲げるなって。・・・とにかく、岩下もいったん落ち着いて座ってくれ。言いたいことは分かるから」
「え、ええ・・・」
「さて、まず、Bクラス次席として言わせてもらう。岩下の言うようにFクラスに対して正面からぶつかっていくなんてことはしない。策を用意した上で戦う。もちろん、卑劣なことだっていとわない。そりゃあ俺だって皆や他のクラスの連中が恭二のことを『卑怯者』『陰険』『腐れキノコ』だのなんだの呼んでいるのは知っている」
「待て義輝。前二つはともかく最後のは初めて聞いたぞ」
「まあまあ、気にしない。確かに恭二は勝負事において手段を選んで来なかった。ま、カンニングはしてないらしいけど。でも、大事なのは恭二は最終的に勝っているってことだ。卑怯とかいう謗りなんて負け犬の遠吠えにすぎない。負けたところでいくら吠えても結果は変わらないからな。昨日の戦争のFクラスを見てみようか。撤退する時に窓ガラスを割ったり、消火器をぶちまけたり、スプリンクラーを壊したり。果てには姫路瑞希によるアンブッシュ。奴らも恭二に負けず劣らずの卑怯者だろ?でも勝った」
『とは言ってもよ、アイツらがやってたからって俺達もやって良いって道理はたたないぞ』
「いやいや、それがたっちまうんだよ。昨日配られた試召戦争のルールのプリントの最後を見てほしい。『戦争の勝敗は、クラスの代表の敗北をもってのみ決定される。この勝敗に対し、教師が認めた勝負である限り、経緯や手段は不問とする』。この文言がずっと引っ掛かってた奴もいると思う。でも昨日、器物損壊という明確な犯罪行為でさえ不問になった。つまり、実質的にこれは免罪符だ。ルールの範囲内なら何でもオーケーってことだ。・・・色々と策を弄したFクラスに正面からぶつかったDクラスはどうなった?Fクラスが点差の激しいBクラスに挑んで来るってことは、昨日以上に卑劣な策を用意してるってことは明白だ。卑劣な策に勝つにはどうすれば良いか?簡単だ。あちら以上に卑劣な策を用意して捻り潰せば良い!」
『で、でも』
『そうは言ってもな・・・』
「まだ躊躇われるのか?安心しろって。こちらには『学園設備を破壊し、学校生活の平和をも破壊し脅かすFクラスを討伐する』という大義名分もある。そして何よりも考えて欲しい。俺達がこの快適な教室・設備を手に入れることがてきたのはなぜか?それは各々が一生懸命に努力を重ねてきたからだろ?・・・Fクラスはどうだ?俺達が必死こいて勉強している横で遊びほうけていた分際のくせに、俺達を引きずり下ろそうとしてやがる身の程知らずな侵略者だ!これを許しておけるのか!?・・・どうだ岩下?これでもまだ言うか?」
「・・・いや、やっぱり私達の努力を否定されてるみたいで腹が立つわね」
「そうよ律子!私と律子のコンビならFクラスなんてかなうはずないわよ!」
『しょうがない、やるか!』
『アイツらぶっ潰す!!』
律子の親友、菊入真由美の言葉を皮切りに先程とはうってかわって教室が賛同の声に包まれていく。
義輝の言葉が彼らのプライドを目覚めさせたのだ。
「あぁ、後な、恭二のことなんだがな。あぁは言ってたけど、実は皆のことが心配でたまらなくて思わず言っただけだ。根は腐っているけど心までは腐ってないから怒らないでくれ」
「根本、ツンデレ」
「ちょっ!!義輝、丸目!余計なことを言うんじゃねぇ!!」
『おいおい、顔が赤いぞ代表』
『根本君って素直じゃないだけなんだね』
今度は教室が笑いに包まれる。
この瞬から、恥辱にまみれるはずだった一人の少年の未来は変わり始めた。
正直、Fクラスが根本をクズ呼ばわりするのはおこがましいと思うんですよね。
自分たちのことは棚上げしてるし。
皆さんはどう思いますか?
ご意見、質問、感想等お待ちしております。