「あ、宍戸君と伊東君だ!お帰りなさいませ、ご主人様♪」
Bクラス教室を出て向かいのAクラス教室のメイド喫茶に入ろうとしていた義輝と一刀をメイド服に身を包んだ愛子が出迎える。
スカートの端を指でつまみ上げ上目遣いでアピールする辺りが彼女らしいと言えよう。
先述の通り、Bクラスの和風喫茶に合わせて義輝と一刀は浴衣を着ているため、西洋のメイド服とはミスマッチなのだが当人達に気にする様子はない。
「よう、工藤。なかなか似合ってるな。だが俺のイメージでは残念ながらメイドとは清楚な人なんだ」
愛子のアピールに目もくれずに義輝が言うと一刀が頷く。
「あーあ、相変わらず面白い反応してくれないんだね。つまんないや」
愛子は頬を膨らませる。
「ところで、丸ちゃんは一緒じゃないの?」
「丸は喫茶店のフロアの纏め役だから忙しいようでな。後でウチの店に顔でも出してやってくれ。ほら、これをやるよ。数量限定のクーポン券だ。一枚につきどら焼き一個タダになるぞ」
そう言いながら義輝は愛子に二枚のクーポン券を手渡す。
友達を誘って来てくれ、ということらしい。
「え、いいの?やったぁ!」
「本当は父兄ようなんだけどな。俺の家族は仕事で来られないからな。・・・工藤、さっきFクラスの連中が
来たと思うんだけど、そいつらの隣の席って空いてるか?」
「俺達は 奴等に用が あるのでな」
「Fクラスってことは吉井君や姫路さん達のことだね。
ちょっと待ってね。えーと・・・・あ、大丈夫、空いてるよ」
愛子はクラスを覗きこんで確認する。
「それじゃあ案内してくれるか?」
「お安い御用だよ。ご主人様二名お帰りでーす!」
義輝と一刀は愛子に連れられメイド喫茶に入店した。
「これはこれはFクラスの皆さんお揃いで」
「ちっ、クズ野郎の手先が何しに来やがった」
「負け犬が何をほざいているのやら」
二人が席に案内されると義輝と雄二の間で早速火花が散る。
「宍戸君、今は営業中だからそういうのは困るんだけど・・・」
その様子を見た愛子が苦笑する。
「ま、今はお互い他所様の店に客として来てるんだ。おとなしくしないとな。工藤、俺と一刀にショートケーキとコーヒーを。」
「かしこまりました、ご主人様!」
義輝が席に座りながら言うと愛子は厨房へと向かう。
「・・・・・ところで」
義輝は雄二達の方を見る。
こちらを睨み付けている雄二と明久、その側に立っている翔子、手紙の件がトラウマになっているらしく怯えた表情をしている瑞希、騙されたことをまだ根にもっているらしく今にも飛び掛かって来そうな美波、そして・・・
「Fクラスが器物損壊とかの犯罪に手を染めていたことは知ってたが、まさか今度は誘拐に手を染めるとはな」
美波の隣に座っている幼い少女を見ながら義輝が言う。
「誘拐な訳ないでしょ!この子はウチの妹よ!」
「冗談に対して本気になるなよ」
食って掛かってきた美波を笑う義輝。
「お姉ちゃん、このお兄さんって誰なの?」
「葉月、こんな奴知らなくて良いの!」
「葉月ちゃんは知らなくて良いんです!」
少女、もとい葉月が首を傾げて尋ねると美波と瑞希の声が重なる。
「へぇ、妹なのか。よし、島田の妹」
「島田の妹じゃなくて葉月ですっ!」
義輝が島田の妹と呼んだことに対して訂正を求める葉月。
「じゃあ葉月。俺は宍戸義輝っていうんだ。まずはこれをあげよう。最後の一枚だ、この券をBクラスの喫茶店に持って来ればお菓子が一個タダになる」
「わぁ、ありがとうございますっ!」
椅子越しに身を乗り出して愛子に渡したのと同じクーポン券を葉月に渡す義輝。
そのやり取りを見た美波達は警戒しつつも不思議そうに見る。
彼女達の中では義輝とは不倶戴天鬼畜外道な男だという位置付けであるため、葉月にこのように優しく接しているということは想定外なのだ。
「良いか、よく聞くんだ。このFクラスのお兄ちゃん達を反面教師にするんだ。そうすればこの先生きて行くのにとても役に立つぞ」
「反面教師、ですか?」
反面教師という言葉は葉月にはまだ難しかったらしい。
分からないようで困った表情を浮かべる。
「い、いきなり何を言い出すのよ・・・」
「そ、そうだよ。僕達のことを教師だなんて」
美波と明久は困惑と照れた表情であった。
『・・・・・』
が、周囲は押し黙る。
「・・・すまない、坂本。皮肉った俺が悪かった。葉月、忘れてくれ」
「いや、良いんだ。日本語が不得手な島田はともかく明久のバカはこれが平常運転だ」
「お前達 いつから仲が 良くなった?」
義輝と雄二のやり取りに一刀が笑いを堪えながら言う。
「え?」
「ちょっとどういうこと?」
合点がいかないらしい明久と美波。
「あの、明久君、美波ちゃん。反面教師とは簡単に言うと参考にしたくないもの、ということです」
「おかしいと思ったよちくしょう!!」
「アンタ、ウチをどこまでバカにする気よ!!」
瑞希が申し訳なさそうに意味を教えるとテーブルを叩いて悔しがる二人だった。
もう一方の小説、狂気の努力家もよろしければどうぞ。
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