ダンまち×バキ外伝 疵面《スカーフェイス》   作:まるっぷ

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注)このお話は「ファミリアクロニクル episodeリュー」をもとに作りました。

原作未読の方はネタバレを含みますので、あまりオススメしません。


グラン・カジノをぶっつぶせ!+花山

大賭博場区域(カジノ・エリア)

 

都市外の外国資本によって発展しすぎた巨大産業。ギルドもその運営に口出し出来ない、オラリオの治外法権。

 

繁華街にはそう言った娯楽施設が幾つもあり、日々上客たちによって莫大な量の金貨が落とされてゆく。煌びやかなその街はオラリオの別の顔と言っても良い。

 

 

 

そんな繁華街の中でも一際大きな屋敷があった。

 

 

 

西洋風の建物が並ぶ中、その屋敷だけは周囲と異なり、浮いている。

 

極東の建築技術によって建てられたそれは面積も他と比べて何倍も大きく、そして広い。中庭には蒼桜(アジューラ)が咲き乱れ、青い花びらが美しく舞い落ちる。

 

そんな建物の入り口に堂々と掲げられた紋章。

 

極東の文字をかなり崩したそれを読める者は非常に少なく、しかしその文字が何を意味するのかは、ほとんどの者たちが知っている。

 

故に、滅多な事では誰も近付いたりしない。

 

オラリオで唯一、公然として居を構える反社会的勢力。その名は―――――『花山組』と言う。

 

 

 

 

 

「おはようございます、大将」

 

「………ん」

 

早朝。

 

繁華街ではこの時間帯が一番静かであり、喧騒にまみれた夜とは(おもむき)を異にしている。

 

静かな空気が漂う中、花山組に所属する一人が挨拶をしていた。代貸しを務める、髪を整髪料でオールバックにまとめた男……木崎(キザキ)は、目の前に立っている男に朗らかな笑みを浮かべる。

 

そんな彼の目の前に立っている男は、まず見た目からして尋常では無かった。

 

まずはその巨躯。周囲と比較しても頭一つ大きいその身長と、それに見合うだけの巨大な筋肉。特に鍛えたという訳ではない、天性(・・)の恵まれた肉体。

 

寝起きらしく、若干はだけた寝間着から見える地肌からは、無数の刀傷が顔を覗かせている。恐らくは全身にまで広がっているであろう刀傷(それ)は、顔にまで至る。

 

顔面に刻まれた十字型の刀傷。生まれつきの切れ長の瞳とも相まって、初めて彼を見た者は威圧的な印象を抱いてしまう。

 

そんな強烈な見た目を持つ人物こそ、この『花山組』二代目組長にして第十六代目当主………花山(ハナヤマ)薫である。

 

「すぐに朝食の準備をさせますが、いかがいたしやしょう」

 

「いや………今日はあそこ(・・・)で食ってくる」

 

「かしこまりやした。では馬車の準備を……」

 

「いい。歩いていく」

 

そう言って花山は廊下を歩く。木崎も付き従うように、その後に続く。

 

カラッ、と障子を開け放った部屋に入ると、そこにはすでに花山の服が用意されていた。寝間着をその場に脱ぎ落とし、花山は用意されたその服に手をかけた。

 

一目で高級なものだと分かる、質の良い生地で仕立てられた紫のシャツ。銀糸が織り込まれたネクタイを締め、上下ともに白のスーツを着用。姿見の前で帽子の角度を調整し、準備は完了だ。

 

「大将」

 

預けていた眼鏡を木崎から受け取り、玄関へと向かう。鰐皮の靴を履き、ズシリと重たい財布を懐に入れ、花山は屋敷から出て行く。

 

「行ってらっしゃいませ、大将」

 

「ん」

 

木崎に見送られながら、花山は早朝の繁華街を歩いていく。懐から取り出した煙草を咥え、魔石の技術を応用して作られたライターで火をつける。

 

紫煙を(くゆ)らせ、目的の場所へと向かう花山。その足取りは軽やかで、どこか嬉しそうであった。

 

 

 

 

 

「邪魔するぜ」

 

「あっ、いらっしゃいませ!ハナヤマさん!」

 

やって来たのは冒険者たちの間でも人気の酒場かつ食事処、『豊穣の女主人』であった。

 

早朝という事もあってか、他の客の姿はない。代わりに従業員であるシルたちがせわしなく動き回っており、開店のための準備をしていた。

 

「おや、アンタ来てたのかい」

 

「朝飯を食いに来た……アレ、頼めるかい?」

 

「全くこっちは開店準備で忙しいってのに……邪魔にならない所に座ってな」

 

「ありがてぇ……」

 

厨房の奥から出てきたミアと二言三言交わし、カウンターの端に方に座る。ミアの指示通りに邪魔にならない所に座る花山を、従業員は気付かれないようにひっそりと眺めていた。

 

「ハナヤマさん、久しぶりに来たねぇ」

 

「この所さっぱり見ニャかったけど、相変わらずスッゴイ見た目ニャ」

 

「そんニャの気にならなくニャってるミャーたちも大概だニャー」

 

モップを床に突いて駄弁っているルノア、クロエ、アーニャの三人。テキパキと動くシルとは対照的な三人娘に、厨房からミアの怒号が飛んできた。

 

「コラァッ、馬鹿娘どもッ!サボってんじゃないよッ!!」

 

「うひぃっ!?」

 

「ウニャッ!?」

 

「ニャニャッ!?」

 

声だけでサボっていると看破したミアに恐れをなしたアーニャたちが弾かれたように動き出す。花山はそんな彼女たちには一切触れず、料理が出てくるまで煙草を吸っていた。

 

 

 

しばらくして、花山の前に料理が運ばれてきた。従業員の一人であるリューの手によって運ばれてきたそれ(・・)を、花山は無言で見つめる。

 

「お待たせしました、ハナヤマさん」

 

「ん」

 

ジッ、と煙草を灰皿に押し当てて揉み消し、目の前に置かれた料理に視線を落とす。

 

オレンジに彩られた米に、細かく刻まれた玉ねぎや鶏肉と言った具材。それらが包まれている半熟のオムレツには真っ赤なケチャップがかけられ、黄色の赤のコントラストが実に美しい。

 

その中心に刺さっている小さな旗。子供が喜びそうな遊び心のあるこの料理、ミア特製のオムライスこそ、花山が求めていたものだ。

 

「食いたかった………」

 

そう言ってスプーンを手に取る。

 

巨大な手のせいで、まるで爪楊枝のように見えるそれでオムライスを割り、ひと口分掬い取る。とろとろの半熟卵が崩れ、途端に食欲をかき乱す香りが店内に漂った。

 

オムライスを口へと運び、静かに咀嚼する。屈強な大男が旗付きのオムライスを頬張る姿は滑稽にも見えるが、既に見慣れているシルたち従業員は、まるで微笑ましいものを見るような目をしている。

 

「……美味(うめ)ぇ……」

 

黙々と食べ進める花山。やがて食べ終えると、財布に詰まった金貨を適当につまみ、お釣りも貰わずにそのまま店を出て行った。

 

こうしていつもと少し違った形で、『豊穣の女主人』は開店するのだった。

 

 

 

 

 

うららかな日差しが差し込む店内。今日も『豊穣の女主人』は大繁盛だ。若い女性客を中心に賑わう店内では、朝とはまた違った理由でシルたちが動き回っている。

 

夜は冒険者たちの溜まり場となるが、昼中はこう言った客層が主だ。値段も良心的なもので、街中で働く人々が昼食に利用する事も多い。

 

そんな人が混み始め、まもなく昼に差し掛かろうとしたその時であった。

 

店のテーブルの一角から、女の泣き声が店内に響き渡った。従業員も客も、一体何があったのかと注目すると、そこには一組のヒューマンの男女が座っている。美しい妙齢の女と、無精髭の男。女の方が一方的に泣き喚き、男はただただ項垂れているだけだ。

 

聞き耳を立ててみれば、どうやらこの二人の娘が質に入れられたとの事。男が賭博で大負けし、負けた分の金が払えないのならば代わりにと、彼の娘が取られたという事らしい。

 

実に下らない理由で一人娘を質に入れてしまった男に、店内中から突き刺さるような視線が飛び交う。それに気付いた男はコップに入った水をばらまき、駄々っ子のように喚き散らした。

 

「何見てやがるっ、てめぇら!見せ物じゃねぇぞ!黙ってここの不味い飯でも食ってろ!!」

 

いよいよ男の迷惑行為を見かねたリューたち。荒事慣れ(・・・・)している彼女たちにとって、この手の客を黙らせる事など造作も無い。

 

まずはルノアが行動を起こそうとした、その時。

 

 

 

ぽん、と。喚いていた男の肩に手がかけられた。

 

 

 

「あぁ!?なんだてめ……ぇ………」

 

怒りでまともな思考が出来なかった男の脳。しかし振り返った瞬間に、まるで冷や水を浴びせられたかのように、ピシリと身体を硬直させた。

 

男の真後ろに立ち、その肩に手をかけた者。果たしてそれは、花山薫だった。

 

男よりも遥かに高い上背。巨大な手。そして何より、その疵面(スカーフェイス)。昼日中の食事処にはあまりに不釣り合いな出で立ちをした者の登場に、店内が凍りつく。

 

「おい………」

 

「は………はぃ………ッッ」

 

声を荒らげず、花山は静かに口を開いた。それだけで男の顔からは滝のように汗が流れ落ち、歯の根ががちがちと悲鳴を上げる。

 

「ここは飯を食う場所だ………怒鳴りてぇんなら、酒場にでも行きな」

 

瞬間。

 

ぶんっ、と。男の身体が宙を舞った。

 

ノーバウンドで店のドアを通過する男は、そのままメインストリートまで投げ飛ばされた。大の男をまるで小石かなにかのように投げ飛ばした花山は、何事もなかったかのようにミアに話しかける。

 

「腹が減った……また頼めるかい?」

 

「………さっさとカウンターの端に座りな。いつまでもそこに突っ立ってたら、邪魔ったらないんだからね」

 

「ありがてぇ……」

 

ミアと花山のやり取りにぽかんとする客たち。シルたちは苦笑いを浮かべつつも、結局何事も無かったかのように接客を再開した。

 

 

 

 

 

昼食を食べ終えた花山は、その足で屋敷へと戻った。胸ポケットから煙草を取り出して咥えながら、食事中に小耳に挟んだリューたちの会話を思い出す。

 

花山が投げ飛ばしたあの男の娘が、どこだかの大賭博場(カジノ)の人間に買い取られたとの話。大賭博場(カジノ)側の思惑にまんまと引っかかったあの男の不注意が生んだ結果である。

 

リューたちはその娘に対して胸を痛めていたらしいが、花山は何の思いも抱かなかった。そもそも他人に対して積極的に口出しをするタイプでは無いので、当然と言えば当然であるが。

 

(にしても………大賭博場(カジノ)か)

 

そう言えば、と、花山は木崎との会話を思い出した。どうも最近、勢い付いている大賭博場(カジノ)があるらしい、と。

 

実はこの大賭博場区域(カジノ・エリア)、その内の幾らかが、裏で花山組と繋がっているのだ。

 

そのあらましは、数十年前にまで過去に遡る。

 

 

 

かつてオラリオに娯楽が少なかった時代。当時の管理機関(ギルド)は不満を漏らす神々の要望に応える形で、外国からの娯楽施設産業の導入を開始した。

 

しかし、大賭博場(カジノ)などの娯楽施設が増えれば、それに伴い暴力的な輩が入り込んでくるのは必然。都市最大派閥【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者たちが守衛に当たっているが、中々根絶には至っていない。

 

やがてそこに先頭を切って参入してきたのが、当時の花山家第十五代目当主、花山(ハナヤマ)景三である。

 

極東から来たならず者の集団……『ヤクザ』

 

大して脅威に感じていなかったオラリオ側であったが、それがいけなかった。彼らは巧みに大賭博場区域(カジノ・エリア)の奥深くにまで入り込み、当時の有力者たちと関係を築いていったのだ。

 

主に脛に傷を持つ者たちと関係を深め、用心棒としての立場を獲得した。守衛の監視の目をかいくぐり、裏で金のやり取りなどをおこなっていた。

 

無論、守衛である冒険者たちは恩恵を持っており、その身体能力は常人を遥かに凌駕する。事実、花山組もかなりの人間が捕縛され、時には争いで命を落とす者もいた。

 

しかし彼らには身体能力をも超越する“気迫”があった。死ぬことすら恐れずに突貫してくる極東の人間、当時の冒険者たちにはそれが狂気の沙汰に映った事だろう。

 

オラリオの暗黒期であった事もあり、オラリオ側もヤクザにばかり力を割けない。こうして花山組はしぶとく生き残り、捕縛されるに至る決定的な証拠を巧妙に隠蔽し、公然と屋敷を構えるまでに巨大化を遂げた。

 

しかし、当時の花山組には一つだけ、大きな懸念材料があった……対立する反社会的組織、『富沢会』である。

 

同郷のヤクザであるにも関わらず、その信条(スタイル)は全くの正反対。卑劣な手段を何のためらいも無く使い、一般人に被害が出る事もいとわない。彼らの行動は、花山組の名誉に関わる深刻な問題であった。

 

そして遂に、花山景三が動いた。

 

数人の部下を引き連れて『富沢会』に乗り込み、多くの構成員を殺害。そしてそのまま敵の組長を殺害し、自身もまた命を落とした。この抗争による一般人の被害は無く、(かしら)を失った『富沢会』は次第に力を失う事となった。

 

景三の早世により当主の座へと就く事となった花山薫。若干15歳にして花山家の家長となる運命にある彼はこの時、花山家に代々彫り継がれる、ある“彫り物”を背中に刻んだ。

 

見事、立派と褒められたその“彫り物”。しかし当の花山は、その作品に「待った」をかけた。

 

そして彼はその足で『富沢会』へと単身暴れ込み、あろうことか同組織を十分足らずで壊滅(・・・・・・・・)。自身の身に重傷を負うも、彼は不敵に笑って見せる。

 

まるで狙い通りに事が進んだとでも言わんばかりの花山。僅か14歳と2ヶ月の頃の出来事であった。

 

 

 

………とまぁ、これが花山組の今日(こんにち)にまで至る経緯である。

 

今や表立った騒ぎなどは滅多に起きる事も無く、花山組は実に堂々と大賭博場区域(カジノ・エリア)に居を構えている。オラリオの治外法権であるこの場所にまで、管理機関(ギルド)あまり大きな口出しは出来ないからだ。

 

「大将、お帰りなさいませ」

 

「おう」

 

大賭博場区域(カジノ・エリア)に巨大な縄張り(しま)を持つにまで成長した花山組、その現組長である花山は、木崎に迎えられて屋敷へと戻った。

 

 

 

 

 

それから数日間は何事も無く過ぎて行った。花山も普段と変わらず、気が向けばオラリオの街中へと出かけたりして過ごしていた。

 

そんなある日の出来事であった。

 

その日、花山は酒を飲んでいた。場所は組の息がかかっているバー、その最奥にある貴賓室(ビップルーム)だ。ドレスを着たヒューマンとエルフの女たちに酌をされていると、ここでドアが叩かれた。

 

控えていた従業員がドアを開けると、そこにはスーツ姿の木崎が立っていた。木崎は従業員に耳打ちすると、速やかに貴賓室(ビップルーム)から人を退室させる。残ったのは花山と木崎の二人だけだ。

 

「お寛ぎ中のところ、突然すんません。大将」

 

「……何かあったのか」

 

「へい、以前にも少しお伝えした件なんですが……」

 

木崎は花山の正面に立ったまま、詳細を語り始める。

 

「大将……『エルドルド・リゾート』って、ご存じですか?」

 

「………」

 

カラン、とグラスの中の氷が音を立てた。花山は無言で顎をしゃくり、その続きをうながした。

 

話の内容はこうだった。

 

 

 

『エルドルド・リゾート』。

 

繁華街でも最大規模の大賭博場(カジノ)であるそこは、毎夜各国からやって来た貴族などの上客が大量の金を落とし、その豪華な佇まいからオラリオ随一の賭博施設の呼び声も高い。

 

そしてここは同時に、花山組の大きな資金源でもある。

 

オーナーである人物は数年前に変わったらしいが、最初から花山組の縄張り(しま)の中に建設されているため、ショバ代は問題なく渡されている。

 

 

 

「何の問題もねぇじゃねぇか」

 

「へい、ここまではそうなんスけど……」

 

ごくり、と喉を鳴らす木崎。

 

「そのオーナーっつうのがかなりの節操なしと言いますか、手当たり次第に綺麗な女を手籠めにする野郎でして……」

 

どう言えば良いか、という風ではあったが、木崎は続けた。

 

 

 

ある日、そのオーナーの手下を名乗る男が、一人の娘を連れ去って行ったらしい。

 

傍に居た男(恐らくその娘の父親か)は必死に縋り付いたが、屈強な男たちに取り押さえられ、無理やり引き剥がされてしまった。

 

それでも食い下がり続ける男に、手下の男がこう言い放ったらしい。

 

『いい加減諦めやがれ!!こっちにゃあの“花山薫”がついてんだぞッ!!』

 

 

 

「………っつう事らしいです。又聞きなんですが………」

 

「………」

 

生唾を飲み込む音すらはばかられる。そんな静寂が貴賓室(ビップルーム)に漂っていた。頬杖をついて話を聞いていた花山は、ここでその口を開く。

 

「木崎」

 

「へい」

 

「そいつが言ってた“花山薫”っつうのはよ……」

 

「……へい」

 

「………俺の事か?」

 

「…………間違いなく」

 

「………そうか」

 

納得したように頷き、頬杖を止める花山。テーブルに置いていた酒の入ったグラスを一気に煽り、そしてゆっくりとソファから立ち上がった。

 

「木崎」

 

「へい」

 

「その『エルドルド・リゾート』ってとこに、案内しな」

 

「へい………って、え?」

 

神妙に頷いた木崎であったが、ここで素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

目の前の花山を見上げながら、木崎は慌てた様子で話しかける。

 

「た、大将が行くんですか!?」

 

「おう」

 

「イヤイヤイヤイヤ!こんな事に大将が出なくても、俺らできっちりケジメつけさせに行きますって!」

 

木崎が慌てるのも無理は無い。そもそも本来は、木崎たちだけで済ませようとしていた問題なのだ。

 

よりにもよって“花山薫”の名を、我らが大将の名を出した事、固い結束力を持つヤクザたちにとって、到底許せるものではない。

 

しかし、表立って騒ぎを起こす訳にもいかない。そこで木崎たち幹部勢が出向き、粛々と済ませようとしていたのだ。花山自身も騒ぎを起こしたら不味いのは承知のはず。その上で木崎は、正直にこの事を報告したのだが………。

 

「大将が行ったらそれだけで大事(おおごと)になっちまいますってッ!!」

 

まさかの“行く”発言。

 

騒ぎになれば常に目を光らせている守衛たちが駆けつけ、確実に面倒な事になる。そう考えた木崎は必死に止めようとするも、花山は聞く耳を持たない。

 

「マジで今回は俺らに―――――」

 

「木崎」

 

と、ここで。

 

必死にまくし立てる木崎を花山が制した。

 

その静かな迫力に、押し黙る木崎。花山はそんな彼を見下ろし、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「これは“花山組”の問題じゃねぇ……“俺”の問題だ」

 

「俺の名前を勝手に出した事、それで人様を恐喝(おど)した事……俺がケジメつけさせねぇでどーする」

 

理解(わか)ったらよ……さっさと案内しな」

 

 

 

そう言って、花山は部屋を出ていった。

 

ガランとした貴賓室(ビップルーム)。木崎はそこで一人立ち尽くしていたが、頭をガシガシと掻きむしり、諦めたように大きく溜め息を吐いた。

 

「ハァ~~~~~………あー、もう!!」

 

 

 

 

 

『エルドルド・リゾート』内部に設置された貴賓室(ビップルーム)。現在その中では変装したリューとシルが最後の詰め(・・)に入っていた。

 

無理やり連れ去らわれた娘たち……アンナ・クレーズを始めとする、数々の美姫たち。彼女たちの解放と、諸悪の根源であるオーナーにしかるべき裁きを下すべく、リューは身を乗り出す。

 

「終わりだ、テリー……いや、テッド」

 

「きっ、貴様ッ、まさかリオンか!?」

 

偽りの名を剥がされたドワーフの男の顔がこれでもかと歪む。そう、彼は本来のオーナーでは無いのだ。

 

本来のオーナーであるテリー・セルバンティスは着任前に不慮の事故によって死亡していた。そこに目を付けたテッドは彼に成りすまし、大賭博場(カジノ)で莫大な富を欲しいままにしていたのだ。

 

オラリオの暗黒期に因縁のあったリューとこんな所で再会するなど夢にも思っていなかったテッド。脂汗を流しつつ、テッドは声を荒らげた。

 

「ファウスト!ロロ!奴を殺せぇ!?」

 

その言葉が放たれると同時に、身を隠していた用心棒がリューに向かって飛び掛かった。

 

ヒューマンと猫人(キャットピープル)の男が二人。しかしリューは持ち前の反射神経で二人の攻撃をさばきつつ、拮抗し合った戦闘が続く。

 

そのうちにシルの先導によって、囚われていた女性たちが暴れ出した。いくら女性とは言え、給仕たちの数ではあまりに多勢に無勢。暴れ狂う彼女たちに、給仕たちは成す術も無く沈められてしまう。

 

「もっ、もう嫌だぁ!?」

 

その内に、一人の招待客(ゲスト)がドアへと走ってゆく。テッドとグルになって甘い蜜を啜り続けていた男だ。

 

貴賓室(ビップルーム)の外には【ガネーシャ・ファミリア】の守衛たちが控えている。この部屋での出来事ならばいくらでも揉み消せるが、ひとたび外にまで知られてしまえば非常に危うい。テッドは必死に頭を回転させ、どうすれば最善なのかを考える。

 

(くそ、くそ、くそ!どうする、この状況を打破するにはどうすれば……!!)

 

テッドが葛藤している内に、ついにドアは開け放たれた。招待客(ゲスト)の男が勢いよく外へと飛び出し、堪らずテッドは怒鳴り声をあげる。

 

「貴様!勝手な事をするな!」

 

思わず連れ戻そうと、自身もドアに向かって走り出そうとした、その時であった。

 

 

 

ぬぅ、と、ドアをくぐって、一人の男が入って来た。

 

 

 

その人物が誰だか理解した瞬間、テッドは顔面蒼白になる。

 

鰐皮の靴に、上下共に白のスーツ。巨体すぎるがゆえに背中を丸めて部屋へと入って来た男。一目で堅気ではないと理解(わか)る、顔面に刻まれた、目立ちすぎるその疵面(スカーフェイス)

 

「ハ………ハ、ハナ………!!?」

 

腰を抜かすテッドを見下ろし………花山薫は、ゆっくりとした調子で口を開いた。

 

「………テメェがオーナーか?」

 

 

 

 

 

あまりにも唐突に現れた花山薫という存在。その圧倒的な出で立ちに、リューたちでさえも硬直し、貴賓室(ビップルーム)を静寂が支配する。

 

しかし彼らを気にも留める事は無く、花山は飽くまでテッドへと視線をやっていた。

 

「………テメェがオーナーか?」

 

再び同じ質問をする花山。顔面蒼白だったテッドはその言葉で我に返り、同時にこの状況を打破できると、無謀にも花山に媚びを売った。

 

「ハッ、ハナヤマ様!!どうか貴方のお力をお貸しください!!」

 

見事なほどの転身っぷりを発揮し、テッドはリューに指をさして大声を出す。

 

「このエルフめが、あろうことかハナヤマ様の縄張り(しま)であるこの場所で、こんな騒ぎを起こしたんです!!どうかこの薄汚いエルフに制裁をッッ!!」

 

いけしゃあしゃあと述べるテッド。自分の事を棚に上げて媚びへつらう姿に、リューは改めて吐き気を催した。

 

一方の花山。

 

ここまで黙って聞いていたが、不意にその手をテッドへと差し伸べた。

 

一瞬ビクリ!と身を震わせたテッドであったが、それが尻もちをついた自分を起こすためのものだと知り、汗を拭いつつ獰猛な笑みを浮かべた。

 

「おお、助けてくれますか!!流石は男気溢れるハナヤ……」

 

「おい……」

 

がしり、と花山の手を握ったテッド。なおも媚びを売ろうとする彼の言葉を、花山は遮った。そして―――――。

 

 

 

ベキョッ!!と。

 

 

 

テッドの右手が握り潰された。

 

「………へ?」

 

間抜けな声がテッドの喉から漏れ出た。彼の手は花山の握り拳の中にすっぽりと納まっており、指の隙間からは血が流れ出ている。

 

再びの静寂。数瞬の間を置き、テッドのしゃがれた悲鳴が木霊した。

 

()ッッッ………ギャァァアアアアアアアアアァァアアアアアアアッッッ!!?」

 

絶叫するテッド。花山はそんな彼の悲鳴などは全く無視し、そのまま貴賓室(ビップルーム)の壁に向かって、テッドを放り投げた。

 

「ぎゃあッ!?」

 

壁にぶつかった彼の身体は、重力に従って落下した。設置されていたワインセラーを破壊し、全身が葡萄酒にまみれたテッドのもとに、花山がゆっくりと歩き出す。

 

「人の名前を勝手に出した事……」

 

「ヒッ、ひぃい!?」

 

「……高くつくぜ」

 

もはや花山の独壇場であった。

 

外ではリューたちが頼んでおいた騒ぎ(・・・・・・・・)の収束のために【ガネーシャ・ファミリア】の守衛たちが走り回っており、とてもこちらまで手が回らない。最期の手段である彼らの助けも期待できないテッドに残された手段は、もはや一つだけだった。

 

「こ、来いッ、アンナ!!」

 

「きゃっ!?」

 

成す術なしと判断したテッドは、たまたま近くにいたアンナの手を無理やり掴んで、裏口へと逃走を図った。彼の逃走と同時に、二人の用心棒がリューへの攻撃を再開させる。

 

「くっ……ハナヤマさん!」

 

「ん」

 

リューが花山の名を呼んだだけで、花山は彼女の意図を察した。もはや給仕たちも花山の行く手を遮ろうとはせず、花山はテッドの後を追う。

 

奇しくも、まるで悪党に囚われた娘を救い出す、物語に登場する騎士(ナイト)のように。

 

 

 

「お前らぁ、今からここにやって来る大男を殺せ!!魔剣でも何でも使って構わんッ!!」

 

一方のテッドはアンナを連れまわし、残りの用心棒たちに命令を下しながら、ある場所へと向かっていた。潰れた右手から血を垂らしつつ、目的の場所に到着したテッド。彼は震える左手でどうにか親鍵(マスターキー)を挿し込み、その極厚の鉄扉をこじ開ける。

 

「ハァッ、ハァッ………こ、ここまで来れば………!!」

 

葡萄酒と汗で全身を汚しながらも、テッドは獰猛に笑った。

 

テッドが目指していた場所は、巨大な金庫だった。

 

『エルドルド・リゾート』で得た富、その全てが収められているこの金庫は小さな家ならすっぽりと入ってしまうほどの広さを有し、しかも超硬金属(アダマンタイト)製。非常時には籠城する事さえ可能な、最後の砦となるのである。

 

「くそ……クソッ、クソクソクソぉ!!おのれリオン、それにハナヤマァ!!よくもこの俺をここまで痛めつけてくれたなぁ!!!」

 

「きゃっ……!」

 

無事な方の手で金庫内部の壁をガンガンと殴る。鈍い金属音に、一緒に閉じ込められたアンナの小さな肩が震え、怯えて身体を小さくする。

 

テッドはしばらく八つ当たりをしていたが、やがて若干の落ち着きを見せ始めた。この金庫に籠城していれば、あとは【ガネーシャ・ファミリア】が収束してくれると踏んだからだ。

 

「そうだ……リオンは要注意人物一覧(ブラックリスト)に入っている。それにハナヤマもヤクザだ、この騒ぎの渦中で、無関係ではいられまい………!!」

 

「………」

 

「騒ぎが収まるまでの間、アンナ……お前には俺の相手をしていてもらうぞ……!!」

 

「ひっ……!?」

 

振り返ったテッドの目は嗜虐心で染まっていた。リュー、それに花山によって溜まった鬱憤を、アンナにぶつけようと言うのだ。

 

にじり寄るドワーフの暴漢に、アンナは目尻に涙を浮かべて震え上がる。いくら片手が潰れているとはいえドワーフ、恩恵のないヒューマンの娘に抵抗する事など、出来るはずもない。

 

「黄金の山に囲まれながらされるんだ、感謝しろ……!!」

 

「こ、来ないで……!?」

 

アンナの悲痛な声が金庫内に木霊する。

 

いよいよテッドの手がアンナの衣服を剥ぎ取ろうとした……まさにその時。

 

 

 

ズチャリ、と、金庫の外で地を踏みしめる者がいた。

 

 

 

「ッッ!?」

 

金庫の扉は固く閉ざされている。もちろん、外の音など聞こえない。

 

しかし扉の外から伝わってくる、この“気”はなんだ?

 

欲望に顔を歪ませていたテッドは勢いよく振り返り、信じられないと言わんばかりに両目を大きく見開いた。

 

(ありえない……ありえないありえない!!いくら屈強とは言え、用心棒どもに魔剣まで使わせたんだぞ!?何の恩恵もない奴が、こんなところまで来れるはずが無い!!?)

 

去来する、もしやと言う思い。それら全てをなんとか否定しようとするも、脳裏にこびり付いたその思いは払拭しきれなかった。

 

 

 

 

 

金庫の中でテッドがそんな事を考えているなど露知らず―――――花山は、静かに眼鏡のツルを指先でつまんだ。

 

すっ、と眼鏡を取れば、花山はポケットに仕舞う事もせず、そのまま指を離した。

 

カシャンッ、と音を立てて地面に落ちた眼鏡。そのレンズには、今の花山の姿が映されていた。

 

ボロボロになったスーツ。主に焼け焦げた形跡が目立ち、上半身はもはやボロ切れと大差ない程になっている。花山はうっとおしいとばかりに自身の胸倉を掴むと、そのまま焼け残った上半身の布を引き千切る。

 

「ハナヤマさんっ!!」

 

と、そこにリューが駆けつけてきた。

 

用心棒の二人を倒した彼女は、当然、花山の後を追った。道中に倒れ伏す他の用心棒たちを踏み越えながらも辿り着いたその先で、彼女はそれ(・・)を見る事となった。

 

 

 

花山の背中に刻まれたその彫り物を見て、彼女は息を飲んだ。

 

鬼の形相で寺の鐘を背負う、旅の博徒の威容。ある意味で花山家の起源(ルーツ)とも言うべきその彫り物は背中一面に刻まれており、見る者を圧倒する。

 

しかし、リューが驚愕したのはそこでは無かった。

 

それは―――――背中のみならず、彼の全身を埋め尽くさんばかりの“刀傷”。

 

背中の彫り物がずれる(・・・)程にまで切り刻まれた、無数の“刀傷”。かつて花山が『富沢会』に単身乗り込んだ際にその身に受けた、生々しい抗争の傷痕であった。

 

 

 

「………おい」

 

「!」

 

そんなリューの驚愕をよそに、花山は金庫の前へと立ちはだかった。視線をやらず、言葉だけを彼女に向ける花山。リューはゴクリと生唾を飲み込み、彼の言葉を待つ。

 

「下がってな」

 

「……はい」

 

了承し、数歩下がるリュー。背中でそれを確認した花山は両足を大きく開脚し、ゆっくりと両拳を高く掲げる。そして徐々に、その体勢を変えていく。

 

それは、もはや戦闘の構えとは言い難いものだった。

 

強いて言えば―――――「砲丸投げ」や「槍投げ」、「円盤」………そう言った投擲種目を彷彿とさせるような、そんな姿勢(フォーム)だ。

 

体勢の変化に伴い、歪んでゆく背中の彫り物。

 

切り刻まれたそれが極限まで歪み、込められた力が極限まで達した瞬間―――――。

 

 

 

 

 

花山の拳が、金庫の扉目掛けて炸裂した。

 

 

 

 

 

ひしゃげた金庫の扉。その威力は蝶番で繋がっていた壁部分までも変形させ、側面に巨大な穴を形成する程であった。

 

中にいたアンナには影響はなく、ただただ驚いた顔で花山を見上げていた。

 

テッドはと言うと、花山が扉を殴りつけた際にその近くにいたせいか、吹き飛んだ金属片が左肩に当たったようだ。潰れた右手で左肩を押さえ、無様に金貨の山の上で悶えている。

 

「あっ、が!?かた、肩がぁぁあ!!」

 

リューは素早くアンナの元に駆けつけ、怪我は無いかと心配そうにその顔を覗き込む。花山はアンナを彼女に任せ、本来の目的であるテッドへと近付いてゆく。

 

「貴様、ハナヤマァ!!許さん、絶対に許さんぞッ!!こうなったら捕まるまでに貴様らの組織の行い、そのいっさいがっさいをオラリオ中に流してやる!!リオンッ、貴様も同罪だァ!!!」

 

「………」

 

「はははははッ!!どうだハナヤマ、極東の猿めッ!!俺の手下どもを使って、ある事ない事ばら撒いてやるぞ!!!」

 

「………」

 

「なっ、おい、何をする!?そ、その手を離せェ!?」

 

喚くテッドと、無言を貫く花山。彼の元までやってきた花山はその襟の後ろ側を引っ掴み、無理や自身との目線を合わせる。背の低いドワーフの身体は宙に浮き、必死に足をばたつかせた。

 

無駄な足掻きを見せるテッド。花山は冷めた目付きで睨み付け、拳を握った。そして―――――。

 

 

 

「ぁがッ」

 

 

 

ごんっ、と拳を振り抜いた。

 

鼻血を噴き出したテッドは白目を剥き、花山に釣り上げられたままガクリと首を垂らした。軽い(・・)一撃で意識を刈り取られたテッドに、しかし花山は無視して詰め寄る。

 

「まだやるか?」

 

「…………」

 

「………ふん」

 

興味が失せたと言わんばかりに、花山は無意識のテッドを金貨の山に向けて放り投げた。舞い散る金貨や宝石には一瞥もせず、花山はくるりと背を向け、その場から離れてゆく。

 

嵐のように過ぎ去ってゆく花山の姿に、アンナは茫然としたままその場に座り込む。しかしリューは、その大きな背中を最後まで見送った。

 

切り刻まれた旅の博徒の威容……『任侠(おとこ)立ち』に、彼の生き様の片鱗を見た気がしたのだ。

 

 

 

 

 

「!? ハ、ハナヤマ!!」

 

「なんでこんな所に!?」

 

「………ん」

 

堂々と大賭博場(カジノ)の正面入り口から出てゆく花山。果たしてそこに待ち受けていたのは、この近辺の守衛をしていた【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちであった。

 

突如現れた大賭博場区域(カジノ・エリア)の裏の大物の姿に、団員たちは大いに狼狽えた。しかしそれも、常々聞かされている彼の逸話を考慮すれば当然だろう。

 

曰く、若干14歳で敵対する組織を一人で壊滅させた。

 

曰く、恩恵も無くしてオラリオ近辺に出没した竜を素手でひねり殺した。

 

曰く、束ねたトランプの一部分だけを引き千切る程の握力を誇る……(疑)。

 

曰く、曰く、曰く…………。

 

そんな彼の逸話を知る彼ら。手にした捕縛用の武器を構えるも、どうして良いか分からずに、その場に立ち尽くしていた。

 

そんな中。若い女の一声が、この場の空気を一変させた。

 

「全員、大賭博場(カジノ)の周辺を警戒しろ!出てきた者は誰であっても捕縛するように!!この場は私が受け持つ!!」

 

「シャクティ団長!」

 

団員たちの波を割いて現れたのは【ガネーシャ・ファミリア】最強の冒険者、シャクティであった。

 

170Cを越える高身長の女傑は周囲の冒険者を散らし、大賭博場(カジノ)周辺の警備

にあたる様に指示を出す。彼女の人望もあってか、その指示に異を唱える者はいなかった。

 

蜘蛛の子を散らすように散開する団員たち。あっという間にその場は花山とシャクティだけとなり、景色に似つかわしくない静寂が二人を包み込む。

 

「ハナヤマ」

 

不意に、シャクティが口を開いた。

 

同時に、まるで道を譲る様に立ち位置を変える。その行動に花山は片眉を上げて訝しむが、すかさずシャクティが口を開いた。

 

「勘違いするなよ。今回、私の受けた任務は大賭博場(カジノ)の蛮行の検挙のみ。お前の捕縛までは任務に含まれてはいない」

 

「ふん………」

 

そうして彼女は腕組みし、目を瞑った。

 

花山は無言で彼女の前を通り過ぎる。その直後、彼はシャクティに向かってこう言い放った。

 

「……リューたちは裏口から出てくるだろうぜ」

 

「! ………早く行け」

 

背に軽い足音が感じながら大賭博場(カジノ)を後にする花山は、そのまま繁華街の表通りへと出てゆく。

 

繁華街のメインストリートには野次馬が溢れていた。

 

騒ぎに煽られて追い出される貴族や従業員たち。中には珍しい白髪の少年らしき姿を見送りながら、花山は人気(ひとけ)のない裏通りへと向かう。

 

 

 

すっかり人気の無くなったその場所。そこで待っていたのは木崎だった。

 

背後に馬車を控えさせて立っていた彼は、花山の姿を確認すると同時に頭を下げる。

 

「お疲れさまです、大将」

 

「おう」

 

木崎から労をねぎらわれる花山。挨拶もそこそこに用意された馬車へと乗り込むと、すぐに馬車は動き出した。

 

すぐさま闇に紛れて消える馬車。野次馬すらも気が付かずに、その馬車は夜の繁華街へと消えて行った。

 

 

 

 

 

こうして幕を閉じた大賭博場(カジノ)での事件。

 

捕縛されたテッドは証言しようにも顎を骨折しており、まともに話せる状態では無かったという。それを差し引いたとしても、何かに怯えている彼から詳細を聞き出すのは難しいだろう。囚われていた女性たちも全て保護され、今やそれぞれの故郷へと帰還を果たしている。

 

今回の手柄は全て【ガネーシャ・ファミリア】のものとなり、リューたちの活躍は明るみに出る事はついぞ無かった。早朝の開店準備中に、リューは同僚であるルノアとクロエに正体を明かさなくて良いのかと聞かれたが、彼女からしてみればどうでも良い事であった。

 

 

 

あの日見た花山薫という男の背中。

 

見た者に強烈すぎるインパクトを与える彼の背中。

 

その威圧感溢れる出で立ちとは正反対の、愚直なまでに真っすぐな彼の“生き様”。

 

誇り高いエルフである彼女をして、花山薫という男の姿は、それほどまでに眩しく映った。

 

 

 

(あんな人もいる……それが分かっただけでも十分です)

 

その時、店の扉を開く音が響いた。

 

リューたちは一旦作業の手を止め、音のした方へと顔を向ける。

 

そこにあったのは当然の如く、一人の男の姿。煙が立ち上る煙草を咥えた彼は、間髪入れずにこう尋ねた。

 

 

 

「アレ……頼めるかい?」

 

 

 

 




勢いに乗って書いたお話でした。

途中でお酒が入ったので、矛盾があればすみません。
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