「キリヤスフィール、シィナ、貴様ら二人に初任務を与える」
ソルに引き摺られるまま団長室まで連れて来られたキリヤとついてきたシィナは入るなりシャーロットにそう告げられる。
すぐさまキリヤはソルから離れると大きく挙手。
「はい質問っ!」
「……早いな。何だ?」
「そもそも魔法騎士団ってどんな仕事するんスか?」
「オマエー!! 何も知らないで入ったのか!!」
横からバシコーンッとツッコミの張り手を入れられながらも知らないものは知らないのだ。
呆れて声も出ないシャーロットの代わりにソルは腕を組み、
「任務って一言に言っても色々あるんだ。市民の安全を守るために戦ったり、要人警護したり、他国の魔道士と戦ったり、
「基本戦闘なんだな。それで今回の任務は何ですか!?」
「――要人警護に加えて戦闘任務だ」
テーブルに肘をついたシャーロットは両手の指を絡める。
「この頃活動を活発化させている山賊集団があり、商人の荷がすでに二件も被害が出ている。商人の中には国外でしか手に入らない物をクローバー王国に輸入している者が多く、現に今回警護申請を出してきたのは指折りの豪商だ」
「ということはその人がいなくなっちゃったらこの国に必要な物が手に入らないってことですか?」
「そうだ」
「よし、頑張ります!!」
何があるのかよく分からないがキリヤはこれを意気揚々と承諾。
しかしシィナの方は疑問があるのか今度はシィナが挙手する。
「団長、どうして商人は陸路を使うのでしょうか? 箒や飛行魔法の方が安全にも思えるのですが……」
「そうはいかない。そもそも商人が他国からクローバー王国に物資を提供すること自体をよく思っていない連中が他国には存在する。下手に空路を使えば余計に目立つ。何より山賊と言えど魔道士が揃っているために空で移動すればあらゆる面から恰好の餌食だ」
「なるほど、だからこそ多少の危険はあれど陸路を使うんですね」
「その通りだ。手段として転移魔法もあるが生憎誰も持ち合わせていないのでな」
「〈黒の暴牛〉に一人いるらしいけど〈碧の野薔薇〉が他の団の男を頼りにするなんて女が廃る!」
拳を握って力説するソルにキリヤは一応自分はセーフなのかと思っていると、ふとシャーロットの頭に視線が注目する。
「姫様、スペアあったんですねその兜……」
シャーロットが被っていた兜は昨日からキリヤが私物化して被っているためにないと思っていたがどうにももう一つあったようだ。
「これは特注品だ。念のためにスペアを用意しておいたが――」
「じゃあ貰っておきますね」
「あ! また取った!!」
「貴様ッ!」
またシャーロットの頭から兜を取るとキリヤはシィナを脇に抱えて団長室から飛び出す。
刹那、シャーロットが出したと思われる大量の荊が飛び出してくるがキリヤは空中で方向転換し、どれも紙一重で躱していく。
「行ってきまぁす!!」
「待てコラァ!!」
ソルの叫びが聞こえてくるがキリヤはけらけら笑って手を振る。
脇に抱えられたシィナは驚いた様子を見せ、
「さ、流石に怒られますよ! というよりもう怒ってましたけど!」
「よし、この兜をシィナに差し上げよう。これ被り心地イイぞ」
キリヤは走りながら新たにゲットしたシャーロットの兜をシィナに被せる。
最初はぷりぷり怒っているような様子を見せていたシィナだが兜を被ると――
「うわぁ薔薇の匂いがすごいです……良い匂いですね……」
「だろ? これ一日経っても全然消えねえからすげえよな団長!」
ははは、とどこまでも恐れ知らずに笑ってキリヤは拠点内を駆けていく。
◎
「ね、姐さん私が取り戻してきます!」
「……もういい。どの道ソルではあの速度には追いつけん」
キリヤが去った後で伸ばした荊を消せばシャーロットは額に手を当て深く息を吐く。
入団試験で男である彼に手を挙げたのは三対一でも物怖じず、圧倒的な力の差を見せつけ勝っていたのもそうだが何より入団する前から受験生とは別格の存在だったからだ。
その読みは正しく、現にキリヤは中級魔道士相当のソルを打ち倒して見せた。しかもただの魔力放出と身体能力だけで。
(戦闘能力だけ見れば上級魔道士にも引けを取らないが――精神面が幼稚過ぎる……ッ!)
それだけがひたすらに残念だった――
◎
「まさか〈碧の野薔薇〉から男性が来るとは思ってもいませんでしたな。〈碧の野薔薇〉は女尊男卑の思想が根強いと聞いていましたが――」
「んーオレも危なかったけどパシリランク決定戦で勝ったんでパシリ免除しましたし!」
「ほほう! それはそれは、かなりの腕前とお見受けしましたぞ」
シィナが合流地点を覚えていてくれたおかげで無事任務が開始して商人と合流すれば早速キリヤと商人は会話で盛り上がっていた。
馬車に乗る商人は白髪や白髭が目立つ高齢の男性ながらに商人らしくしっかりと対話術を持っている様子。
現に気分が良くなったキリヤは乗っていた馬車の屋根から上半身を乗り出して、少し力んで自らの力こぶを見せつける。
「オレが来たからにはバッチリ倒してみせますよ。何を倒すか忘れましたけど!」
「山賊ですよキリヤさん……」
「ほっほっほ、それは頼りになりますな」
キリヤの自信ありげな姿に商人は愉快そうに笑う。
一頻り会話を終えるとキリヤの視線は馬車の近くを歩くプーリへと向けられる。
「悪いなプーリ、基本的三人組だからってついてきてもらってよ」
「いいのよいいのよ! パンチボーイやシークレットガールの実力をもっと見たかったしね! それに――もう友達じゃない私達!」
「プーリ……オマエ本当にイイヤツだな!」
「キリヤさん! 私もキリヤさんのこと友達だって思ってますから!」
何故か張り合うように言ってくるシィナにキリヤは「おう!」と親指を立てる。
仲睦まじい光景に商人もまた笑い、
「仲が良いことですな。特にキリヤさんとシィナさんなんて同じ兜を被っておりますし」
「こ、これはですね!」
「この兜、団長から貰ったんスよ!」
「ほうほうほう! どこかで見たことあると思えばやはりシャーロット団長が被ってらっしゃるものと同じでしたか! それも団長直々に貰えたとなればあなた様方はよほど信頼されているということでしょうな!」
「うーん……それはちょっと違う気がしますが」
二つとも勝手に盗ったのでシィナは何とも言えない表情になる。
対照的に商人の期待の眼差しはより強くなり、
「それにしてもシャーロット団長はさぞかし美しい女性でしょうな」
「んー、確かに姫様は綺麗とは思うけどやっぱりオレはレオナ様派だからそこまでじゃねえや!」
「「「レオナ様?」」」
商人、シィナ、プーリの三人が口を揃えてその名を反復する。
うんうんとキリヤは頷き、
「レオナ様はオレの師匠でな。もうすんげえ強くてオレなんて簡単にボッコボコにするし、超カッコイイんだぜ!」
「パンチボーイにここまで言わせるなんて……相当な手練れのようね! 気になる!!」
「そのレオナ様という方の写真は持っていないんですか?」
「しゃしん? 何それ?」
やはり森林育ちのキリヤには分からないのか頭に疑問符が浮かび上がる。
首を傾げるキリヤに商人は気を利かせたのか自らの首に下げていたペンダントを開いて見せる。
「これは私の娘と孫なのですが写真というのはこうして人々を写すことが出来るものなのですよ。これで離れていても共にいるような気持ちになれます」
「欲しい!! オレもレオナ様の写真欲しい!!」
「でしたらキリヤさんにはこちらのカメラとペンダントをオススメしますよ」
馬の手綱から手を放した商人が荷から何か取り出したかと思えば透明なレンズが付いた箱――カメラと商人が持っていたものとは違う形のペンダントが出てくる。
ペンダントはきちんと写真を仕舞えるようになっており、キリヤは目を輝かせる。
「本来ならばペンダントだけで十万ユールを超えるのですがお近付きの証として破格のお値打ち価格三千ユールに値引き致しましょう!」
「おぉ!」
「しかもこれ純金で出来てるじゃない! 本当にお値打ちじゃないの! お買い得よパンチボーイ!!」
「……で、ユールって何だ?」
キリヤ以外の全員がズッコケた。
「あ、あのねパンチボーイ。ユールっていうのは――」
「っ! ちょい待ちブーリ、何か音が聞こえた」
ユーロの説明をされる前に草を掻き分ける音が耳に届いた。
すぐに商人は馬車を止め、シィナもプーリも警戒の色を強め、キリヤの眼も鋭くなる。
誰もが強く警戒し、そして整地されていない森の方から出てきたのは――
「山賊……?」
疑問げにシィナが呟く。
確かに獣の皮を加工した衣装に身を包んでいるがその身体は傷だらけ。
血塗れの姿で足下も覚束ない様子でキリヤ達と目が合えば――
「た、助けてくれ……お頭も殺されたんだ……」
「殺された?」
見間違いでなければ今目の前にいるのは間違いなく今回の目標である山賊。
だがその様子、言葉からすでに別の誰かに狩られ――
「――あんま逃げないでくれよ。余計な手間を増やしたくないんだ」
「ひ――」
何か淡い球体が漂ったかと思えば悲鳴にも似た山賊の声は一瞬にして爆発音と共に掻き消される。
肉体など木っ端微塵に吹き飛ばされ、跡形もなく消えてしまう。
「ま、そのおかげでオレらは目的のモノの前にありつけたんだから感謝しなきゃならないかもな」
森から出てきたのは白い外套を血で染めた赤い髪の三十代だろう男。
そしてその周りには外套のフードで容貌を隠した者達が四名、いやまだ伏兵がいるかもしれない。
赤い髪の男は恐らくリーダー格。その男はキリヤ達を一瞥すれば、
「はぁーこりゃ厄介な。魔法騎士団……しかもそのローブは〈碧の野薔薇〉か」
「……何者だオマエ?」
「おいおい年上に対する態度がなってねえぜボウズ。だがまあ、名前だけ教えておくとオレの名はフラム――端的に言えばボウズらの敵ってことになるな」
「見たところ山賊じゃなさそうだけど?」
「ハハハ! 山賊なんかと一緒にしないでくれよ。アイツらはその荷丸ごと狙ってっけどオレらは違う。そのジイさんが持ってる魔石を渡してくれりゃオレはオマエらに手は出さねえ」
馬車から降り、キリヤは男――フラムを睨みつけるがフラムはけらけら笑う。
「あそこのデブい女はともかくオマエとそこの黒髪の嬢ちゃんはまだガキもガキだ。こんなところで無駄に命張って死ぬなんてダセェだろ?」
「ハッ! 何だそりゃ!」
けらけら笑うフラムに対してキリヤは不敵に笑む。
「自分助かるために誰かを見捨てるなんて――それこそダセェっつうの!!」
山賊狩りで現れた謎の集団。
キリヤは全身から魔力を迸らせ、シィナもブーリも身構える――