オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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10話「決戦」

「本気でオレ達とやろうってのか?」

 

「冗談で言うわけねえだろうが!!」

 

 魔力を放出と同時にキリヤは地を蹴る。

 その速度は初速から最大(トップギア)でフラム達の背後を取れば拳を握り締め、

 

「速――ッ」

 

 部下だろう魔道士はその速度について来れず、見失った直後にキリヤの拳が魔道士の顎を打つ。

 砕ける感触、意識を断ち切った感覚。

 両方感じたキリヤは何かに気付くとすぐその魔道士の背中をフラムに向けて蹴り飛ばす。

 

 直後、その魔道士は何かに触れたかと思えば先ほどの山賊と同じように爆発。

 その先には面倒そうに頭を掻くフラムがいた。

 

「あらら初見で見切ってくるとは、野性の勘ってヤツか?」

 

「テメェ仲間を……っ!」

 

 爆炎魔法”蛍火群(ほたるびぐん)”。

 魔法を唱えたフラムの周りから次々と半径五センチの淡い光を持った球体が幾多にも散らばる。

 酷く緩慢な動きだが近くの魔道士が――

 

「援護します――風魔法”突風(ガスタ)”」

 

「ッ! プーリとシィナはジイさんを守ってくれ!!」

 

 突如とした突風に煽られた”蛍火群”はあらゆる場所へ拡散。

 何かを察したキリヤがすぐに声を上げると馬車の前にシィナが飛び出し、

 

「――影魔法”怨邪の濁流”!!」

 

 足を地面に叩き込めばシィナの影は円状によりその規模を馬車を囲えるほどにまで広がる。

 さらに地面の影は上空へ向かって間欠泉の如く噴き出し壁を創り出す。

 同時に蛍火が触れた影、木、地面、キリヤの全てから爆発音が響き、爆煙が湧き立つ。

 

「キリヤさん!!」

 

「大丈夫だ!!」

 

 爆発した木や地面は抉れたがキリヤ自身は無事であり、両腕を交差させフラムへ突貫する。

 

「おや、蛍火の威力で殺せないなんて――」

 

 魔力を纏ったキリヤの拳は一直線にフラムに向かって放たれる。

 しかしその拳は横から来る魔道士二人同時の風魔法によって強制的に距離を作られ、キリヤは着地と同時にまた駆け出す。

 

「パンチボーイ!! 援護するわ!!」

 

「……ん、あのデブい女、姿が見えないがどこへ――」

 

 と、影が重なったのを感じたフラムは上空を見上げる。

 するとそこには背中から翼を生やしたプーリが翼をはためかせて夥しい羽根を飛ばす。

 

「翼魔法”天使の羽ばたき(エンジェルフラッピング)”!!」

 

 夥しい数の羽根はフラム、その近くにいる魔道士に攻撃と共に視界を塞ぐ。

 すぐさま風魔法で風の流れを変えるが魔道士の眼前にはキリヤがすでに迫っていた。

 駆けるキリヤには追い風が来ていたのだ――

 

「ありがとなプーリ!!」

 

「チッ……鬱陶しいな!」

 

 羽根に紛れて再び肉薄したキリヤの拳と蹴りが同時に二人の魔道士を打つ。

 倒れる魔道士達に最後に残った魔道士はキリヤの背後から風魔法によって創られた大鎌で首を狙う。

 

「影魔法”影人形(シャドードール)”!」

 

 キリヤはシィナの魔力を感じ、もはや振り向くこともなければ大鎌を構えた魔道士の前に魔道士自身の影が現れていた。

 本人と全く同じ動作をする影と魔道士は互いに勢いが止まらず、そのまま――

 

「うわ、首飛んだ!」

 

 フラムは一瞬嫌な顔をするがすでにキリヤの拳は弧を描きながら腹部に迫っていた。

 

「そんなの当たるわけ――」

 

 多くの魔力を回し自らも身体強化し地を蹴って後退し、躱した気でいたが――当たった。

 フラムの身体は衝撃でくの字に折れ、骨の軋む嫌な音が響く。

 

「……は?」

 

 確かにキリヤの拳は空振りしていた――だがそれはキリヤ自身の拳。

 振り切った拳の後にキリヤが腕に纏っていた魔力が後を追うようにして殴りつけたのだ。

 避けられるのを見越した動きにフラムは心底嫌そうな表情を浮かべる。

 

「だぁークソ! 悪かったなガキなんて言って! やっぱオマエら魔法騎士団に入れるだけあってちゃーんと魔道士だったわ!!」

 

 放たれた”蛍火群”、その球体の数は先ほどのよりも遥かに多い。

 だがキリヤは後退することはない。真っ向から突撃していく。

 

「なら容赦しねえしこたま喰らいな!!」

 

 爆発が連鎖し、キリヤの身体など一瞬で見えなくなるが――爆煙を裂いてキリヤは飛び出す。

 衣服はところどころ焦げているがその身体はやはり無傷であり、双眸はフラムを捉えて離さない。

 

「だったらこれはどうかな!!」

 

 言ったフラムの魔導書は輝き、指先から連続した火花がキリヤに向かって突き進む。

 先ほどの”蛍火群”とは違い速度は速く、キリヤは手で振り払うが――

 

「――ッ!?」

 

 瞬間、キリヤは身体の中から灼熱と炸裂を感じる。

 一体何が、そんなこと思う暇もなく喀血し、目が血走った。

 

「爆炎魔法”炸裂癇癪(さくれつかんしゃく)”――どうにもオマエは表面上の魔法効かなさそうだったから内側から爆破してみたってワケ」

 

「マズイわパンチボーイ!」

 

「キリヤさん!!」

 

(ヤッバ、足下フラつく――)

 

 迫るもう一撃の火花。

 避けようにも足下がフラつき、先ほどの魔法は思った以上に威力があったようだ。

 完全なる油断。この場面をメレオレオナが見ていたら絶対に後で怒られまくるだろう。

 

「でも本来なら内側から爆発して臓物散らしてたはずなんだけど、とりあえずもうイッパツいってみようぜ!!」

 

 歯を食い縛るキリヤの頭にふと過ぎったのは――

 

 ◎

 

『貴様の魔法は魔力吸収するものだがどうにも魔法自体の威力は消せないようだな』

 

 魔法騎士入団試験まで修行していたある日、メレオレオナにふと言われた言葉だった。

 自らの魔法が魔力を吸収して進化出来ることを知ってから限界を確かめるためにメレオレオナの魔法を受けまくったが超絶痛い。

 

 どうにもキリヤの魔法はメレオレオナの言う通り魔力は吸収出来るものの魔法自体の威力は受ける。マナスキンである程度の痛みは補助出来るもののやはり痛いものは痛い。まだメレオレオナの魔法しか受けたことはないが。

 つまり進化(レベルアップ)するためには一定以上痛みに耐えなければならないということだ。

 

『せっかく魔法無効化でラッキーとか思ってたのにオレのアイデンティティがソッコーで消えた!』

 

『莫迦者がァアア!!』

 

『いっでぇ!!』

 

 嘆いたらすぐに拳骨が飛んで来る。

 ただでさえ全身痛いというのに追加で脳天まで激痛でもはや身悶えることすらできない。

 

『つまり貴様の魔法の長所はそこではないということだ。それに誰も全ての魔法を真正面で受けろなどと言っていないだろう』

 

『でも結局長所が全然分かんないっスよー』

 

『甘えるなァア!! 自分で見つけろ!!』

 

『厳しい! やっぱり厳しい!!』

 

『よく考えろ。貴様の魔法は何故身体強化魔法ではなく身体進化魔法なのか――それを解けば自ずと答えは見えてくるはずだ』

 

 ◎

 

 フラムは勝利を確信していた。

 大小どの程度かは不明だが内側に対する攻撃ならば確かな手応えがあった。

 つまり後一撃でも同じ魔法を与えればこのキリヤとかいう少年は倒れる。

 

(恐らくあの三人の中で一番強いのはコイツだ。コイツさえ取ってしまえば――)

 

 統率は乱れ、一人になってしまったが数の有利を覆せる。

 火花はすでにキリヤの目前に迫っており、勝利は確実だ。だからこそ――

 

「この勝負、オレの勝ちみてえだなボウズ!!」

 

 高らかに声を上げ、確信した勝利を口にする。

 しかし――キリヤの目は何一つ死んでおらず、何一つ諦めていなかった――

 

「ありがとな――おかげで進化(レベルアップ)出来る」

 

 短い言葉、そしてキリヤの姿は残像を残して消える。

 

「何ッ!」

 

 完全に見失った。

 だが直後、猛烈な腹部への炸裂音と共にフラムの靴裏は地面から離れる。

 勢いは止まらずいくつもの木を薙ぎ倒し、止まったところで口から血が零れた。

 

「どうだ、今のは見えたか?」

 

 一撃で足に来たというのにいつの間にかキリヤはフラムの目の前に立ち、見下ろしていた。

 あれだけ身体を内部から破壊されているはずなのにすでに血が零れる様子もない。

 さらに両拳、両腕には鎧の篭手が纏われており、刺々しいデザインは(ドラゴン)の鱗、牙を思わせる。

 

身体進化(レベルアップ)魔法”戦竜の腕鱗(レベル1・プルガトリトン)”――そんじゃ勝たせてもらうぜ」

 

 直後、放たれたキリヤの一撃はフラムの目には捉えきれず、いきなりその意識は断ち切られる――

 

 ◎

 

「すごい……」

 

 戦いの結末を見ていたシィナは思わず感嘆の声を上げていた。

 傷を負ったと思えばキリヤがソルにすら見せなかった身体進化魔法が発動し、瞬くうちに勝ってしまった。

 すでに身体に痛みはないのかキリヤは殴り飛ばしたフラムや倒れた魔道士を持ってくると魔法を解き、ピースする。

 

「よし、これでとりあえず任務完了だよな?」

 

「スゴかったわよパンチボーイ! まさかあんな秘策があるなんて!」

 

「それより怪我の方は大丈夫なんですか!? 血も吐いていたのに――」

 

 慌てて駆け寄るシィナの心配を他所にキリヤは軽く笑い飛ばす。

 

「治ったから大丈夫だっての」

 

「治った!?」

 

「おう、オレの身体進化魔法はただパワーアップするだけじゃなくて進化(レベルアップ)する時にそれまで受けた傷を全部治すんだよ」

 

 軽く言うキリヤだがシィナはそんな魔法聞いたこともなかった。

 驚きを隠せないシィナだが当のキリヤはブーリとハイタッチしていて、シィナの前にも手の平を差し出す。

 

「見てたけどオマエの影魔法もスゲェな! カッコイイな! アレか攻守万能ってヤツか!」

 

「い、いえ、そこまででは……キリヤさんこそほとんど一人で倒してしまって本当にすごかったです」

 

 いつも気味悪いと周りから言われていた影魔法。

 それなのにこんな風に褒めて貰えたのは初めてだったシィナはどう反応して良いか分からず、とりあえず赤く熱を帯びた顔を俯かせて隠しながらハイタッチを返す。

 

「て、パンチボーイ! シークレットガール! イチャイチャすんのは後よ!」

 

「イチャイチャはしていませんっ! というより私の魔法見ましたよね!?」

 

 何故まだシークレットガールなのか分からないがプーリの言う通りだった。

 気を失っているとはいえそのまま放置というわけにはいかない。すぐさまブーリは再び翼を広げると――

 

「翼拘束魔法”天使の抱擁(エンジェルハグ)”、これでもう大丈夫ね!」

 

 飛んだ羽根がフラム達に張り付き拘束。

 これで一安心と言ったところでキリヤは馬車の中に避難していた商人に問う。

 

「ところでジイさん、アイツらの言ってた魔石って何なの? 珍しい石?」

 

「もしかしたら……これ、ですかな。偶然手に入れてどうしようかと思っていたのですが……」

 

 商人が取り出したのは何かの紋章が刻まれた琥珀色の石。

 とても価値は分からないものだが――

 

「どうか持っていってくだされ。あなた様方は私の救世主でございます。ついでにこのカメラとペンダントも」

 

「マジで! ありがとなジイさん! イイ人だな!」

 

「いいえいいえ、あなた様ほどでは……」

 

「――まさかオレが負けるなんてな」

 

「っ!」

 

 声が聞こえてみればもうフラムは目を覚ましていた。

 他の魔道士も同様に目を覚ましているようで動こうにもブーリの拘束魔法で動けないが――

 

「しかしあの魔法、まさかオマエは……いや、アナタ様は……」

 

 シィナはフラムのキリヤを見る目が変わったことを感じ取る。

 だが追及する暇もなくフラムの腹部が輝けば最期までフラムは不敵に笑う。

 

「ともあれ、もう少し”あの方”の役に立ちたかったがな……」

 

 爆炎魔法”爆葬”。

 魔法の起動と同時にフラムを含めた魔道士が全員跡形もなく爆発し消え去ってしまう。

 

「自分で、自分達を……」

 

 思わず呆気に取られてしまった。

 よほど忠誠を誓った人間が背景にいたのか、ともあれ何も分からないまま初任務は成功し終了していく――

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