13話「魔宮調査開始」
「キリヤスフィール、シィナ、新しい任務だ」
「何スか何スか!?」
「ちかーいっ!!」
「ぼふぅ!?」
新しい任務の知らせに気分を昂ぶらせたキリヤはシャーロットに顔を近づけたところでソルのラリアットが炸裂。
身悶えるかと思えばキリヤはすぐに立ち上がり、
「それで内容は何ですか?」
「
「うぉおおおおっ! やったーっ!」
「キリヤさん今回は珍しくご存知なんですか!?」
「いや知らね」
分かったような雰囲気を出しながら全く知らないというパターンの変化球にソルとシィナは大きくズッコケる。
立ち上がったソルにバシバシ叩かれるキリヤは「イタタ」と言いながらシャーロットに説明を求める眼差し。
一息吐いてシャーロットは言葉を続ける。
「
「そんなところに何で行く必要があるんですか!」
「危険性の高さ、そして邪な者達に遺物が奪われないために常に魔法騎士が調査している。そして必要に応じて回収、撤去することもある」
「墓荒らしってヤツですか!!」
広い視界で見れば墓荒らしを調査に言い換えているだけに思えたキリヤはそう挙手するがシャーロットはこれを無視。多分グレーなゾーンなのだろう。
「そもそもこの魔宮は私達の担当ではなく〈紫苑の鯱〉が割り当てられていたが連絡も取れないようになり失敗したと断定するのが妥当だ」
「男の尻拭いだなんて何だか嫌だなぁ……でも姐さんのために頑張ります!」
「別にソルが行くわけじゃないんだしいいんじゃね?」
「はぁ!? 今回は私も行くっての!!」
「話は最後まで聞け」
「「はいっ!」」
叱られればじゃれていたキリヤとソルはすぐさま背筋を伸ばして姿勢を正す。
「いつもならば悠長に探索しても良いところだが今回は一刻を争う」
「?」
「この魔宮はクローバー王国と非友好国であるスペード王国の国境近くに出現している。つまり〈紫苑の鯱〉の団員との連絡が取れなくなったのはスペード王国が関与した可能性も示唆されている」
そこで、
「対人戦を想定し、前の任務にて功績を積み対人に特化したキリヤスフィール、シィナに加えソルを派遣する。此度の魔宮は何が起こるか解明されていない未踏の地――心してかかれ、以上だ」
任務を言い渡され、シャーロットに一礼すればキリヤを含めた三人は団長室から退室する。
廊下で未だ見たこともない魔宮に夢を馳せながらキリヤはシィナの方へ首を向け、
「また一緒だなシィナ」
「はい、今回もよろしくお願いします」
「……で、何で今回はソルなんだ?」
「…………」
しれっと同じ任務を受けることになっていたソルはそう問われると一瞬瞼を閉じ、腕を組んだかと思えばカッと瞼を開く。
「私はオマエが気に入らないからだ!」
「えぇ……理由になってねえ」
「オマエが私に勝ってから私はオマエが気に入らない! 前の任務だって私が受けていれば楽勝だったのに姐さんに労われて! 何だかこの頃姐さんもオマエを気に入ってるみたいなところあるし! 姐さんの側近は私だけで充分だ! てゆーかいつまで姐さんの兜被ってるんだ!!」
「よっぽど溜まってたんだな……何かごめんな。兜は返さねぇけど」
「いや返せよ!!」
「……大丈夫なのでしょうか、このチーム」
兜を力ずくで奪い返そうとするソルにキリヤは奪われまいと抵抗。
二人のドタバタ振りにシィナもこの先が不安なのかそんなことを呟いた――
◎
「グゥウウウウウウ……」
「……あのー、変な唸り声上げながら睨まないでくれるか? ずっとそんな感じだし疲れねえの?」
道中の空でシィナの影に乗せて貰っていたキリヤに傍から突き刺さる視線。ずっと続くものだからどうすればいいか分からず思わず問いかける。
見るとしれっとシィナの影に乗っていたソルが延々とキリヤを睨みつけている。それも獣の威嚇するような唸り声で。
「――着きましたよ」
すでに不穏な空気がチーム内に流れているがシィナの一言で二人共地上を眺める。
「あれが
「メチャクチャだな……」
上空から見れば魔宮というよりも瓦礫の山にしか見えない。
しかしそれは空中から見ただけで地上から見ればまた違うのかと降りて見ても――瓦礫の山。
「どうなってんだ?」
「すでにスペード王国のヤツらが来て壊した、とか?」
「だったらもう手遅れ、ということになりますね。とにかくもう少し調査してみましょう。何か手がかりが見つかるかもしれません」
シィナの言葉に同意したキリヤとソルは瓦礫の山を探索。
どうにも町で見た煉瓦造りの建築物と似ている形の壁らしきものが沢山あるだけで瓦礫を退かして見ても特に目立ったものは見受けられない。
しかし、キリヤには気になることが一つあった。
「なあシィナ、魔宮ってこんなに小さい規模なのか?」
「……確かにおかしいですね」
遺跡、というにはあまりにも小規模だった。
瓦礫の量を加味して考えてもこの程度ならば〈碧の野薔薇〉にある小屋と同程度。しかもどこを探しても罠らしきものも見当たらない。
ゴーレムで瓦礫を退けていたソルもこれには不満げに、
「見た感じ地下もなさそうだな。〈紫苑の鯱〉の男共もスペード王国のヤツらの姿も見えないし、どうなってんだ?」
「姫様が伝えた場所が間違ってたとか?」
「バカ! 姐さんがそんなミスするわけないだろ!」
またソルに怒られてしまい、だが一向に成果は得られない。
それから数分ほど探索するとキリヤは瓦礫に何か引っ掛かっている物を発見する。
「何だこりゃ」
ペンダント、というものか。
ネックレスと同じように首から下げられるようになっており、埋め込まれた宝石は紫色の奇妙な輝きを見せていた。
何も成果物がなかった以上見せるしかないとキリヤはペンダントをシィナ達に見せ、
「なあなあ、こんなの見つけた」
「何だソレ? ペンダント?」
「こんなところに……もしかするとスペード王国が取りこぼしたもの、でしょうか?」
結局答えは分からずしまい。
スペード王国が本当に着ていたのだったらそれも仕方ないと拍子抜けで帰る気になった――直後。
「っ! キリヤさんそのペンダントから離れてください!」
焦ったシィナの声。
何だと思えばキリヤの持っていたペンダントが光り輝き、中から影のような黒く薄い兎を模した何かが飛び出す。
一瞬呆気に取られたキリヤだが兎が狙ったのはキリヤではなく、気付いたシィナ。
手首を掴まれたシィナにキリヤは即座に兎に向けて拳を放つが透過して空振ってしまう。
(クソ、実体がねえのか!)
「シィナっ!」
『我がテーマパークは入場料として一人の命をお預かりしマス。全てのアトラクションをクリアすれば豪華景品と一緒に返してアゲマス!』
兎から聞こえたのは老若男女複数の声が入り混じったような奇怪な声。
それが何なのか、疑問を抱く寸前――
『……ケテ、ボク達を……助けテ!』
悲鳴にも似た助けを求める子供の声が聞こえた。
瞬間、シィナと兎は一瞬の瞬きと共に姿を消し、キリヤは困惑する。
「シィナは!?」
「多分どこか別の場所に連れて行かれた! 空間魔法による転移か!」
周りを見渡したところですでにシィナも兎もその姿はない。
代わりにキリヤとソルの前には先ほどまでなかった黒い穴のようなものが出現し、どうやらこれも空間魔法の一種のようだ。
「さっきの兎、入場料とか言ってたな」
「つまり
「決まってんじゃねえか」
掌と拳を勢い良く合わせたキリヤは黒い穴に向かって迷うことなく飛び込む。
「助けを求める声がして、今オレの手が届くんだ――放っておくわけねえだろ」
「仕方ないから姐さんのために付き合ってやるよ!」
ソルもキリヤの後を追って飛び出し、二人揃って黒い穴へと飛び込み落ちていく――
◎
「よっと――だふっ!?」
黒い穴から見事に着地したキリヤだがその直後に落ちて来たソルの下敷きに。
いきなり強かに顔面を打ちつけることになったキリヤは倒れた姿勢で顔を上げ、
「な、何でオレの上にわざわざ落ちてくるんだよ……」
「オマエが私の着地する場所にいるのが悪い!」
「暴論っ!」
とにかく開始早々不運に襲われるキリヤだが無事に
着地したのは何か板が敷かれた――
「これ何?」
「線路。荷を運ぶトロッコとか通るための道さ」
「へぇー」
とにかく線路の上に着地したキリヤは下に注目していると先に魔宮本体を見たソルが大きく口を開ける。
何をそんなに唖然としているのか、キリヤも気になって見てみると――
「な、何じゃこりゃああ!?」
線路が続く先に見えたのは――今まで見たこともない幻想な景色。
一見巨大な城のように見えるがそのすぐ傍には超巨大な山。その山にも線路らしきものが見える上に空には人以上のサイズをしたカップがいくつも回っている。
巨大な車輪には沢山の入れ物が付けられゆっくりと回っており、これまた巨大な骨が動いている。どれもこれもクローバー王国では見たこともないものばかりだ。
「これが”てーまぱーく”ってヤツか!!」
目を輝かせるキリヤは見たこともない物の数々に気分の高まりが止まらない。
我先に駆け出すキリヤだったが首根っこをソルに掴まれて勢いを殺されてしまう。
「待てバカ! どうして男は短絡的なヤツが多いんだよ!」
「えーせっかく楽しそうだと思ったのに」
「これは遠足じゃねーし! 魔宮ってのは罠が仕掛けられてるって姐さんに聞いたろ!」
確かに思い出せばそうだったがこれほどまでに楽しそうな場所ではしゃぐなと言う方が無理な話だ。
キリヤの気持ちは視線で伝わり、ソルは深い溜息を吐く。
「こんな見た目だって侵入者を油断させる罠かもしれないし」
「無きにしも非ずって感じだな」
かと言ってこのままここでじっとしているわけにもいかない。
どうするかと思えばソルの姿に突然影が重なる。
「あ、ソル危ねえ」
「わっ!?」
キリヤは気付けばすぐにソルを抱き寄せると数瞬前までソルが立っていた場所に何かが落ちてくる。
見ればそれは紫の外套を身に纏った男魔道士であり、ソルは見るなり――
「あ、コイツ〈紫苑の鯱〉だ」
「か、は……っ」
どこからかとんできたのか分からないが男魔道士は全身傷だらけで血塗れ。
すでに息も浅く、回復魔法を持たないキリヤ達には手の施しようもない状態だった。
男魔道士はキリヤ達の外套を見て魔法騎士団と分かったのか手を伸ばし――
「き、気をつけろ……ここに、は……〈七剣総統〉が……い、る……」
ただそれだけ言って男魔道士は事切れてしまった。
その言葉がどんな意味を持っているかキリヤにはまだ分からないが――
「何か来るな」
「てゆーか離せ!」
抱きかかえたままだったためにキリヤは顔を押し退けられるが背後から見えた光にソルを抱えたまま跳ぶ。
見ればそれはいくつも車両が繋がった――トロッコとソルは言っていたか。とにかくトロッコが走り出して男魔道士を轢き、キリヤはトロッコの上に着地する。
「上等だ。しちけんそーとーだがあとらくしょんだか知らねえけど友達は返して貰わねえとな!」
キリヤとソルの凸凹コンビ。
爆進する魔法トロッコに乗れば逆風を受けつつ進み始める――