「やっべえソルと完全にはぐれた!!」
ソルと分断されてしまったキリヤは半分に分かれたトロッコでどうすればいいか考えていた。
空間魔法というのはなかなかに魔力が読み取れず、大気の
『やっほー!』
「……んん?」
とりあえず行動を起こすかと考えていたキリヤの前に何だかよく分からない生物が現れる。
虎に似ているが二足歩行で、しかも何だか中に人が入っていそうな感じで。
一人や二人ではなくそれぞれの動物で大勢がそんな風体でキリヤの前に現れたのだ。
「何だ何だ!?」
『踊ろうよ!』
「え、踊る!?」
踊るが何かも分からないのに両脇をそれぞれ二人の動物人間に抱えられ、珍妙な音と共に皆が一つの輪になって踊り始める。
何だか分からないがとにかく楽しい気分になってきたキリヤは流されるままめちゃくちゃ踊った――
◎
「ぐぅ……っ!」
「アンタの土魔法、面白いわね」
ソルは〈七剣総統〉のベレラファスラと遭遇し、戦闘が始まったが実力の差は歴然だった。
どんな魔法を使おうともベレラファスラはあの大斧を振り回すだけで対処されてしまう。こちらは全力だというのに相手が使った魔法はただの身体強化魔法だけ。
これが団長クラスとの差だとでも言いたいのか、傷ついたソルはベレラファスラに踏みつけられる。
「良く言えば独創的、だけど悪く言えば基礎がなってない。クローバー王国はよほど魔法教育が整っていないのか、それとも生まれが良くなかったのかしら?」
「……う……うっさい!」
「図星ね。あのボーヤを呼んだ方がイイんじゃない? アンタだと私に勝ち目ゼロなんだから、ねぇ?」
「死んでも、嫌だ……っ!」
土創成魔法”暴れ地母神”。
側面から殴りかかった一撃にベレラファスラは反応していながらもわざと拳を受ける。
直撃。突き抜ける打撃音は猛々しく響く。
だが、ベレラファスラはまるで倒れない。それどころか笑みを浮かべる。
「ハハ、アンタの敗因はまず魔力。その程度の魔力じゃ私が身に纏う魔力は超えられない」
言ってベレラファスラは大斧を地面に突き刺して拳を振るう。
キリヤと同じか、またはそれ以上の速度か。拳を受けたゴーレムは木っ端微塵に弾け飛び、跡形もなくなる。
「二つ目、私とアンタじゃ育ってきた環境が違う。スペード王国はクローバー王国と違い、才能だけでは何にもなれないのよ。常に自らの実力を研磨し、強さを求める。アンタ達はどうかしら?」
スペード王国はクローバー王国と違い、生まれや才能よりも遥かに殺傷能力が求められる国だと聞いていた。
魔法剣士になるためには死者が出るほど厳しい鍛練をこなし、身を鍛え続ける。
数多もの戦争をあえてし続けることによって富国強兵を掲げるタカが外れた国――それこそがスペード王国。
そんな中でも最強の七人に数えられるとなれば桁違いなのも当然だ。
「三つ目、私に劣っていると分かってながら不必要な
(クソ……クソっ!!)
これだけ言われても何も言い返すことが出来ず、ソルは奥歯を噛み締める。
ベレラファスラは踏みつけていた足を退け、地面に突き刺した大斧を拾えば二歩ほど下がり大斧を振り上げた。
「じゃあね、よわいよわーい小猫ちゃん」
◎
どうして魔法騎士団を目指したのか、そのきっかけは今でも覚えている。
ソルは平界で生まれたものの平民の中でも貧しい日々を過ごしていた。いくら平界でも王貴界から遠ざかるほど綺麗な服も着られず、満足に食事にもありつけない貧しさを強いられるのだ。
自らの”強さ”なんてどこにもない日々。だが、あの日ソルの中で何かが明確に変わった。
ある日、王貴界で強盗が起こりその犯人である男達が平界に逃げ込み、魔法騎士団も後を追っていたことがあった。
追い詰められた男達は追跡を払うために魔法をやたらに撃ったのだ。
市民に襲い掛かった魔法に対し、魔法騎士団の男達はあろうことか見捨てた。強盗達を捕らえることに必死になり、己が功績に目が眩み、後で聞けばあの時いた魔法騎士団の男は貴族ばかり。
お世辞にも綺麗だと言えない身なりだったソルや他の平民を”守るに値しない存在”に見えたに違いない。路傍の石程度にしか思っていなかったのだろう。
呆然とする幼いソルにとうとう攻撃魔法が襲い掛かる。
どうしようもない一撃。無力だったソルはただ瞼を閉じるしかなかった。
だがいつまで経っても来るはずの痛みは来ない。
何故か。恐る恐る瞼を開けたソルは思わず呆けて口を開けてしまう。
ソルの前に立っていたのはまだ団長になっていなかった頃のシャーロット。
荊がソルを魔法から守り、一瞬のうちに強盗達を拘束してしまったのだ。
その姿は今まで見た誰よりも凛々しく、美しく、見惚れてしまい、同時に証明されているようだった。
――例え女でも強くなれる、と。
その日からソルは変わった。
心から強くなりたいと願い、自分を助けてくれたシャーロットの役に立てるようになりたい、と。
魔法学校など行く金もなかったために独学で魔法を得ていったのだ。
そして入団試験で〈碧の野薔薇〉に選ばれ、シャーロットの傍にいて戦えるようになれた。
あの時自分を守ってくれたシャーロットの背中を、今度は自分が守りたい。
その想いを胸に――
◎
迫った大斧を前にソルは瞼を閉じた。
命を救って貰ったあの恩に報いることが出来なかったとことに対する悔いが心を支配する。
――だが、まただ。
また、瞼を閉じても来るはずの痛みが――来ない。
「なん、で……?」
瞼を開け、目の前に広がる光景にソルは痛む身体でも疑問を抑え切れなかった。
あれだけいつも邪険に扱っているというのに。
認めないなどと散々な口を叩いたのに――
「遅れてごめんよ。手当たり次第に探してたら時間かかっちまった」
そうじゃない。
どうしてここに来たのか、男なら自分を見捨てて当然だったというのに。
ソルの目の前に立つ少年――キリヤは振り下ろされた大斧を白刃取りして、ソルのことを守っていたのだ。
「あれ、違う? ……あー、その
大斧を受け止めながらキリヤはハハ、と軽く笑って――
「オレとオマエは一緒の〈碧の野薔薇〉で家族だから当然だろ? そんでもって――家族を傷つけた落とし前はつけさせてもらうぜ」
大斧を弾いてソルの前に立つその後姿はどこかシャーロットに似ていた。
認めたくないのに、そう思いながらソルの意識はどこか安堵を覚え途切れる――
◎
「フフ……随分早かったじゃないボーヤ。もしかしてボーヤはあの小猫ちゃんの彼氏じゃなくて弟だったのかしら?」
「いや、血なんて繋がってねえけど」
言うと〈七剣総統〉の女性は首を傾げる。
「オレは昔の記憶がねえから本当の家族がいるか分からねえけどよ。出会った仲間はオレにとったら家族みたいなモンだ。だからオレは家族を傷つけるヤツは許さねぇ」
「ハハハ! でもそう思ってるのはボーヤだけよ?」
「構わねぇよ。別に誰かに認められたいから決めたわけじゃねぇし――オレ自身がそう決めたんだからオレは意地を貫くだけだ」
キリヤの言葉に女性は「ふぅん」と頷く。
見れば分かることだが明らかに今まで出会った魔道士と身に纏う魔力量が違う。シャーロットや他の団長もこうなのかは分からないが強敵であることは明白だ。
「私の名前はベレラファスラ。名前、聞かせてくれるかしら?」
「キリヤスフィール・フィン・ガルガン。今からテメェをブッ飛ばす名だ!」
「愉しみねぇ……」
拳と大斧。
二者同時に構えられた一撃が真正面からぶつかり合う――
◎
(重た……ッ!)
ぶつかり合った拳と大斧だが勢いはベレラファスラの方が上だった。
筋力、魔力放出量、それだけではないただただ単純に武器の重さで負けてしまっている。
「斧とぶつかっても砕けない拳……あぁ、ボーヤも知ってるのねソレ」
キリヤのマナスキンを即座に見抜き、大斧から柄を強引に抜き取るベレラファスラ。
斧の刃自体が魔力――しかも土属性で作られていたのか大斧は棍棒と化し、後ろで両脇に挟んで横に弧を描くようにして薙ぎ払ってくる。
瞬時にキリヤは体勢を低め、棍棒を躱せば一、二と大きく足を地面に叩き込んで加速。
拳を握り締め、凝縮した魔力と共に思い切り両拳でベレラファスラを殴りつける。
響く衝撃にキリヤは確かな手応えを感じるが同時に反発する感触があり、それでもベレラファスラの身体は後ろへ吹っ飛ぶ。
「精度も洗練されてる……しかも即座にアレに反応するなんて野生の勘かしら。フフ、気持ちイイわァ……」
大の字で倒れたと思えばやはりまるで効いていない。むしろ何故か嬉しそうにしている。
しかし、先ほどの反発するあの感覚は間違いない。ベレラファスラもまたマナスキンの使い手だ。
『莫迦者が。この程度上級魔道士ともなれば大抵の者がしている。極地と言っても上を目指すならば出来て当然だ』
メレオレオナも確かにそう言っていた。
どうにも相手は魔力だけではない。技術もまた兼ね備えているに違いない。
「フフ……時にボーヤ。痛いのは好きかい?」
「好きなワケないだろ! レオナ様の鉄拳はものすげぇ痛いけど愛があるから好きだけどな!」
「……ボーヤは割と私寄りだねぇ」
一体何が言いたいのか、キリヤには分からないがベレラファスラは倒れた体勢のまま拳で線路を叩く。
瞬間、キリヤを囲うようにして岩壁が次々と現れる。
「岩石魔法”岩霰”」
岩で退路を塞いだと思えば上空から雨霰のように降り注ぐ岩の棘。
この程度ならばまだ防げる。キリヤはすぐさま拳を構え連打で防ぐがベレラファスラの狙いは上空からではない。
突如として岩壁から湧き出した岩の棘が一斉にキリヤの身を襲う。
「ボーヤ、愛ってどういうものか知ってるかい? 愛ってのは痛いんだ。ほらアンタも誰かを愛する気持ちあるなら分かるんじゃないかい? 誰かを想えば想うほどズキズキって痛みを感じるし、与えられれば愛って胸の奥が焼けるように痛いじゃないか」
ゆっくりと起き上がればベレラファレラは岩の華と化したキリヤを見ながら自らの身体を腕で抱く。
「私は痛いのが好き、それと同じくらい痛みを与えるのが好き。だって私はみ~んなを愛してる博愛主義者だから私は
「まっっっっっったくわからんっ!!」
一応聞いていたが何一つ理解出来ることがなかった。
叫びと共に岩の華は砕け散り、キリヤは飛び出す。その腕にはすでに
「オマエがマジヒストリーだかサディちゃんだか知らねえがオレがオマエをブッ飛ばすことに変わりねぇ!!」
「へぇ……ボーヤはやっぱり他の魔道士とは違うみたいだねぇ」
未だ底知れぬ相手ベレラファスラ。
彼女は再び棍棒を構えれば大斧を構え、不気味に余裕を見せる――