(あっぶな……何つう威力だよさっきの)
早くも”
まだ全力ではないお遊び程度の魔法。だがそれだけでキリヤの進化条件を満たすほど。
温存することも出来たが先ほどの一撃は正直危なかった。いくら魔法で傷を受けなくとも身体に来る衝撃は何一つ掻き消せない。
つまり、ベレラファスラはとんでもない攻撃特化の魔道士ということだ。
「行くよ。ボーヤは強いから私がいくら愛しても壊れなさそうね!!」
「るっせぇ!」
岩石創成魔法”岩荊”。
足を線路に叩きつけたベレラファスラの正面から岩の濁流が発生し、それが荊を形成する。
キリヤは片足を軸に回りながら拳を構え、
「こんなモン姫様のに比べれば……っ!」
拳を振るえば一撃で岩の荊を全て破壊。
一瞬晴れた視界だが今度は岩の兵士が十数人剣を持って襲い掛かってくる。
「岩石創成魔法”騎岩士”、この程度ボーヤには簡単にどうにか出来ちゃうでしょ?」
一体ベレラファスラは何がしたいのか。
この魔法はソルのようなゴーレムを創り操るもの、ならばキリヤにはむしろ有利だ。
一発拳を打ち込むだけで魔力を吸収、途絶えさせ、どこを打とうとも行動を停止させることが出来る。
瞬きのうちに全ての”騎岩士”を打ち倒したキリヤだが――
「ふぅん、これで何となくボーヤの魔法の正体が分かった」
砂埃が上がったせいで肝心なベレラファスラを見失った。
そう思えばすぐに側面から胸倉を掴まれ、砂埃を裂いて現れたベレラファスラに引き寄せられる。
次いで放たれるのは攻撃魔法ではなくキリヤの腰に手を回して行われる――鯖折り。
「が……ッ!」
「答え合わせと行こうじゃないか。ボーヤの魔法は相手の魔法の”無効化”または”吸収”。さっきの”騎岩士”がボーヤに触られた途端に動かせなくなった……いや魔力が途絶えたんだ。それはさっきの”岩荊”も”岩霰”も同じ」
身体強化も相まって痛烈な締め技。
マナスキンしていようとも背骨が持っていかれそうな威力、しかも手放しても良いように線路の端から火山の傾斜に落とすために移動までしている。
「で、”無効化”か”吸収”どっちかで迷ったけど魔法攻撃すればするほどボーヤの魔力が上がったから後者だ。そしてボーヤがその篭手を発動したら私から吸収した”岩霰”分の魔力がほとんどなくなったがボーヤが纏う魔力が強力になった……ということはボーヤは他人の魔法から魔力を吸収し、その魔力で自分を進化させ素の身体を強化し魔力量も増やす――違うかい?」
(コイツ……短絡的に見えてめちゃくちゃ見てやがる……ッ!)
言われてしまえば苦しみのせいもあって言葉を返すことが出来ない。
言動に騙されがちだがベレラファスラの目はキリヤの全てを見ていた。流石〈七剣総統〉に数えられるだけもあり観察眼、戦闘においての見切りもとんでもなく鋭い。
「で、早くもボーヤの弱点だけど何でも魔力を吸収出来るわけじゃなさそうね。現にこうして触れ合っているのに私から身体強化魔法の魔力すら奪えていない。さらに進化するにはどうにも自分の魔力じゃなくて他人の魔力じゃないとダメ」
「ぐ、あ……っ!」
「その欠点をカバーするためにか分からないけど身体能力を向上、体術の強化して――でも自分以上の身体能力で締め上げられたらどうするのかしら?」
フフフ、と不敵に笑い、ベレラファスラは締める力をさらに強める。
だがその瞬間――キリヤも不敵に笑った。
「そん、なモン……オレの師匠が分かってないはずないだろ……っ!」
途端、ベレラファスラの両耳にキリヤは魔力で両手を加速させ叩き込む。
パンッ、とまるでクラッカーでも弾けさせたような炸裂音を響かせればあのベレラファスラが――確かに怯んだ。
その隙を逃さず手を離れたキリヤは痛む身体に鞭を打ち、靴裏から魔力を噴出させ足場を作れば一気に踏み込む。
怯んだベレラファスラに両拳からの鎖骨に向けた打突。脳震盪を狙い顎を掠めるように拳を放ち、急所である側頭部を蹴りが打つ。
どれも常人ならば必殺の一撃。それでもベレラファスラは倒れず、キリヤはトドメを刺すためにさらに飛び出すが――
「っ!」
「――焦っちゃダメよボーヤ」
足下を見ればキリヤの勢いを殺すために岩の拘束が巻きつき、明らかな失速そして停止。
勢いが止まったキリヤにベレラファスラは指で自らの耳を差しながら笑みを浮かべる。
「空気を含んだ手を勢い良く相手の耳に当てて怯ませる……イイ回避方法ねさっきのは。おかげでまだ耳が痛いわ」
「チッ――」
「壊して回避するのとただ殴る、どっちが早いと思う?」
岩石創成魔法”岩骨”。
拳から腕にかけて岩石を纏ったベレラファスラはキリヤが足下の岩を崩す前にその腹部に拳を直撃させる。
「が、は……ッ!」
「魔力を吸収されても岩石は形を残す。つまり中身の魔力だけ奪うってことか、で、私とボーヤはとことん有利不利別れてるけどもう終わりかしら?」
一撃で膝をついたキリヤは一度咳き込み、血が飛び出す。
胸の痛み、恐らく胸骨が折れたのだろう。急に息苦しくなり、何もせずともすでに全身が痛い状態だ。
だがキリヤは血を吐きながらでも立ち上がれば拳を握り締め、
「まだだ……ッ! オマエ程度で躓いてたらレオナ様に笑われちまう……っ!」
「フフ、根性のある男は好きよ」
「オマエに好かれても嬉しくねえっての!!」
(さっきの一撃のおかげでようやく溜まった……ッ!)
確信すればキリヤの身に纏う魔力が一気に膨れ上がり光り輝く。
その眩しさにベレラファスラも一瞬瞼を閉じれば――
「身体進化魔法”
爆煙と共にベレラファスラの顔面に篭手越しの拳がめり込み、背中から線路に叩きつけられれば地を抉りながら遥か後方まで吹き飛ばす。
煙を引き裂いたキリヤの姿は全身焦げた灰色の鎧に包まれ、被っていたシャーロットの兜は肩に下りて鎧と一体化する。
身に纏う魔力は”戦竜の腕鱗”の時とは別人のように膨れ上がり、ベレラファスラに思い切り指を差す。
「二十秒で充分だ――オマエが倒れるには!」
◎
「二十秒? 私相手に本気で言って――」
奇妙な発言をした少年――キリヤ。
ベレラファスラはまた笑い飛ばそうと思った瞬間、キリヤの拳はすでに眼前まで迫っていた。
「ッ!!」
咄嗟に両腕に岩石を纏わせ防御態勢を取るも直撃した拳の勢いを到底防ぎきれなかった。
ベレラファスラの靴裏は線路から離れればまるで後ろから猛烈に引っ張られたように吹き飛ばされる。
勢いは止まらず、数十メートル進んだところでこの勢いは無理にでも止めなければならないと即座に察する。
岩の壁を幾重にも出現させれば痛みと共に失速。しかし少しでも目を離せばすでに傍にはキリヤが肉薄しており今度は蹴りが襲って来る。
「ぐ……っ!!」
蹴りをまともに受け、ベレラファスラの身体はアトラクションの一つにあった湖へと叩き落とされる。
水面は水飛沫を叩き上げ、ベレラファスラの身体は一気に湖底へと沈む。
あの鎧を来てからというもののキリヤの身体能力は原型を留めないほど上がっている。今のベレラファスラではついていけないほどだ。
(ボーヤが素の身体能力と技術を鍛えていたのはこのため……っ!)
いくら差があろうとも
先ほどから受けている攻撃も常人の魔道士なら木っ端微塵も良いところの威力を誇っている。どんな環境で育てたかは分からないがキリヤの師匠はさぞかし鼻が高いことだろう。
(敵ながら天晴れ、そう言うしかないわね……)
ともあれ訓練しているとは言え、いつまでも水中にいては呼吸が持たない。
底を蹴って上がろうとするが――湖が二つに割れた。
「よう、元気か?」
「フフ、すこぶって元気よ」
水すらも容易く両断し、キリヤはベレラファスラの前に両手を構えて立っていた。
軽い問答。直後、両手の掌底打ちがベレラファスラの腹部を捉えて吹き飛ばし、再び火山へ戻ったかと思えばその身は山へ打ち付けられ巨大なクレーターを生み出す。
丁度二十秒だろうか、キリヤの宣言通りにベレラファスラは倒れてしまっている。
(ほんっとうに久しぶりだわ……この感覚)
スペード王国で軍に入り、毎日あまりにも過酷な訓練の日々を思い出す。
いつ死んでもおかしくない。死んだところで烏の餌にしかならない無価値な死。
痛みは嫌っていたのにいつしか慣れてしまい、今では好み、何より死に方を自分で選ぶために強くなって気付けば〈七剣総統〉にまで上り詰めていた。
戦いはいつしか快楽を得るための作業になっていたが――この命が削れる感覚。
久方振りに好敵手に出会えたこの高揚、自分も全てを見せたくなってきた。
自らの感情に抗う必要はないのだから――
「ボーヤは充分に殴ってくれたから――今度は私が”本気”……出してもイイわよねぇ?」
◎
その言葉だけで空気が一変する。
身に纏う魔力は今までとは別格の凍てついたものとなり、ふざけた態度は消え――〈七剣総統〉としての真の姿を見せる。
そしてベレラファスラは自らの右手人差し指に嵌められた指輪を外せば――魔力が全身から噴き出す。
「な――ッ!」
(な、何だこの魔力量……っ!! さっきまでと比べものにならねぇ……ッ!!)
今までのキリヤの優勢は全て否定される。
全てベレラファスラの手の上で転がされていたようで、まるで今までのは遊びの延長だったようで――
「ボーヤ、私達スペード王国の人間は十五になれば強制的に軍に入れられる。そこで一定以上訓練し、技術を手に居れ力を手に入れたら次はどうやって強くなると思う……?」
「……?」
「魔道具によって魔力を極限にまで抑え込まれ封印されるの。自らに枷をし、そしてそのまま戦場へ駆り出される」
「……そんなことしたら死ぬじゃねえか」
「普通は、ね。でも稀に自ら生き残るために人間の生存本能は身体に語りかけ、限界を超えて新たな魔力の器を創り出す――それが
つまり今までのベレラファスラの魔力量は極限にまで抑えた状態だったということ。
加えて今抑えていた分と
「さあ――第二ラウンドと行きましょうか」
棍棒を手に戻したベレラファスラはゆっくりと片手を挙げる――