(格段に魔力が上がろうが関係――)
「あるわよ。だって、この世界は何を言っても結局魔力が全てなんだから――ねッ!!」
「ッ!?」
踏み出そうとした瞬間、キリヤの腹部、右足、右胸に目にも留まらぬ速度で何かが当たった。しかもとんでもない威力であり、鎧など何の意味もなくキリヤはそのまま前のめりに転倒する。
「ボーヤは二十秒って言ったけど、私は二秒で倒せちゃったわね」
「ぐ……っ!」
ベレラファスラの手に持たれていたのはいくつもの岩片。
指で弾いたか投げたか、ともかくそれだけなのにもはやその速度は目に捉えることすら出来なかった。
鎧も
余裕など最初からなかったがこうも押し返されてしまえばキリヤも言葉を失う。
「さて、次はどんな進化をするのかしら? ……それとも、もう限界?」
ベレラファスラの言葉は的を射ていた。
実のところキリヤはすでに進化の限界を迎えている。
魔力は吸収出来る、だが進化は出来ない。その原因が分からず結局気付けば入団試験の日になっていた。
つまりキリヤにはもう手立てがない。
すでに第二の魔力量など出されてしまうなど想定外にも程がある。
「……? まさかもう手立てがない、とか言わないわよね? ま、それはそれで残念だけど仕方ないか。ボーヤは私相手によく戦った、最期にそう褒めてあげる」
諦めをどこか悟ったのかベレラファスラはゆっくりとキリヤに手を翳す。
キリヤはその言葉に対し――
「誰が諦めるって言った……ッ!!」
メレオレオナの言葉、そして魔力がなくても諦めないアスタ。
二つとも知っているのに何故諦めるなど発想が出てくるのか。想定外だって魔法騎士団の戦闘は想定外の連続だとメレオレオナは言っていた。
それに――
「オマエには
「……本当に根性だけは一人前ねボーヤ」
構えるキリヤにベレラファスラは一際笑みを深める。
だったら、そう言ってベレラファスラの構えられた手をキリヤに向けられず、あらぬ方向へと向けられる。
「だったら――あの小猫ちゃんから消した方が心折れるかな?」
「っ!!」
ベレラファスラが見ている方角、そこにはソルが倒れたままでありすでにベレラファスラの魔導書はすでに輝きを放っていた。
――本気だ。
そう思った瞬間にキリヤはベレラファスラに背を向け、ソルの元に駆け出していた。
「家族だから、やっぱりそうすると思った」
岩石創成魔法”
岩で形成された大砲が出たかと思えばその砲口は火を噴き、中から螺旋状に捻り曲がった矛先を持つ巨木ほどの太さを持った岩の槍が撃ち放たれる。
威力など知ったことではない。ただ間に合え、その気持ちでキリヤは魔力を最大限に放出しソルの前に辿り着くとその身体を抱きしめる。
直後、キリヤの身体は今まで感じたこともないほどの激痛と共に強烈な浮遊感が襲い掛かる――
◎
「……ここは」
一瞬意識を失っていたキリヤ。
しかし気を失いながらでも自らがソルの下敷きになっており、ソル自身に新たな傷は見られない。
とにかく安堵の息を吐くが同時に背中の痛みに襲われる。
「いてて……めちゃくちゃな威力だな」
視界も鮮明になっていることから兜が砕けていることが分かり、背中に伝わるのは灼熱。
キリヤから直線上の床は抉れており血の痕も凄まじい。恐らくこの灼熱感は出血のせいだろう。
すでに鎧が鎧の
「アレは……宝箱か?」
見つけたのはキリヤの身長よりも遥かに大きい宝箱。
厳重に錠が施されていて恐らくキリヤが手に入れた鍵はここで使うのかと思っていれば――
『……っ!』
何か、いた。
宝箱の背後からキリヤのいる方をちらちらとこちらを見てくる黒い何か。
しかも夥しい数がいて、キリヤは疑問符を浮かべる。
「えっと……何か用だったら出てきたら? 別に危害加えるつもりないし」
いつベルラファスラが追いついてくるか分からない状況だがキリヤは手招きしてみる。
するとおずおずと宝箱の後ろから顔を出したのは――黒い兎。
大きさにして拳三個程度。しかも二足歩行で顔というか全体的に絵で描いた感が強く、野生の兎とは全く違うように見える。
差別化として今キリヤの目の前にいるウサギとして、一匹がよちよちと寄って来るなりいきなり頭を下げてくる。
『ゴメンナサイっ!』
「おう? いきなり謝られても意味分かんないけど……」
『こんなハズじゃなかったんダ。ただ、楽しんで貰いたくテ……』
「話が見えん……って、ああ! オマエらアレか! ブローチから出てきてシィナ攫った中の一匹か!」
唐突に思い出したキリヤの言葉にウサギは頷く。
酷く申し訳なさそうな表情をするのでキリヤもどことなく責められなくなり、
「なあ、別に怒ってないからシィナ返してくれよ」
『ゴメンナサイ、無理なんダ。アトラクションを全部クリアしないと……』
「それもそっか。で、シィナは無事?」
キリヤの問いにウサギは大きく頷く。
ウサギが後ろにいるウサギ達に何かサインを送れば宝箱の近くに急に映像が映し出され、そこにシィナはいた。
「お、シィナ」
『っ! キリヤさん!? 無事でしたか!?』
ウサギ達にもてなしを受けていたようで優雅に紅茶でも飲んでいたシィナは映像越しにキリヤと目が合い、焦った様子で心配する表情を見せてくる。
「正直全然無事じゃねえな、あはは!」
『「あはは!」じゃないです! 状況はどうなっていますか? 私の方は何を言ってもここから出してくれなくて――』
「うんそれは聞いた。こっちはスペード王国の〈七剣総統〉って言われてるベレラファスラと戦ってる。ソルは見ての通りダウンしちまって」
『ベレラファスラ……クローバー王国との戦時に魔法騎士団に相当な痛手を与えた狂人です。私のことはいいですからすぐにここを抜けて一度団長へ相談を――』
「いや、それはダメだ」
『どうしてですか!』
シィナの冷静な判断にキリヤは首を横に振るう。
「シィナをそこから出せてない。ソルの仇を討ってない。何より――まだアトラクション一個残ってるからな」
『そんなこと言ってる場合ですか!!』
この頃怒られること多いなーなんて気楽に思いながらキリヤは近くにいたウサギに『消して消して』と手でサイン。
ウサギも『いいのかナ』と思いながらとにかくシィナとの連絡を切ってしまった。
「…………絶対後で怒られるな」
まあそうなれば甘んじて怒られよう、キリヤはとりあえず一旦シィナのことは忘れておくことにする。
傷も痛むし後で怒られるの確定だし散々だなと思っているとキリヤの表情をウサギが眺めてくる。
「ん?」
『どうしテ、そんな目に遭ってまだ楽しもうとしてくれているノ……?』
確かに一見傷だらけで散々な目に遭っているように見えるがそれは違う。
キリヤは訝しげな目で見つめてくるウサギの頭に手を置く。
「これはオレやアッチが勝手に戦って出来た傷だからオマエらが気にする必要はねえよ。それにオマエらはここを本当に楽しんで貰うために気遣ってくれてたじゃねえか」
クラッカー銃を用いてのシューティングゲームの際、危うく転落しかけた時にキリヤはエネミーに助けられた。
その他のアトラクションも心から楽しんで貰いたいためにどれも細心の注意を支払われていて、だからこそキリヤも本心から楽しんだと言える。
「オレはこういう遊びって初めてでさ、すっげぇワクワクした! ココってオマエらが建てたのか?」
『ううん、ココはボク達のマスターが建てたんダ』
「だったらそのマスターってヤツは天才だな!」
これだけの遊びを提供出来るのだ。きっと娯楽の天才なのだろう。
そう思いキリヤは褒めたつもりだったが――ウサギ達は何故か涙を流し始めてしまった。
「え、ええ? 何で泣いてんだオマエら!」
『初めテ……初めて楽しめたって言って貰えテ……純粋に楽しんで貰いたいってマスターの願いが叶っテ……』
『アノ女のヒトが来てからマスターの夢ガ……壊されていくみたいデ、ボク達ずっと怖くテ……安心したらこうなっテ……』
ウサギ達の涙を見て、キリヤの拳はいつしか握り締められていた。
ただ遊んで貰いたい。ただ楽しんで貰いたい。それだけだったのにスペード王国はウサギ達の想いを、マスターの想いを踏み躙った。
まだ足下は覚束ないがキリヤはゆっくりと立ち上がる。
「やっぱり許せないよな……というわけで一つやること追加だ。ウサギ達の想いを踏み躙ったアイツをブッ飛ばしてやるよ」
鎧も崩れ、防御力なんて皆無だがキリヤは一点を見上げる。
そこにはベレラファスラが大斧を構えて立っており、悠然とキリヤとウサギ達を見下ろす。
「まさかまだ生きてるなんてねボーヤ」
「うっせぇ、まだ負けたわけじゃねえだろ」
キリヤは一歩進み、ウサギ達に向けてソルを指す。
「ソイツ、オレの家族なんだ。後ろに隠してやってくれ」
『う、うン……っ!』
ウサギ達はキリヤの言葉に頷くと四匹ほどウサギが現れてソルの身体を持ち上げ避難させようとする。
しかしそれを狙って――
「目障り」
一言と共に岩の槍がソルやウサギ達に向かって放たれる。
さらに宝箱の裏からウサギ達が現れてソルを守ろうとするがキリヤは飛び出し左腕を突き出す。
「ぐ、うぅうううううう――ッ!!」
一瞬、左腕が弾け飛ぶかと思うほどの一撃。
だが受け止めきったおかげでウサギ達にも怪我はなく、キリヤの左腕はだらりとうな垂れる。
「フ、フフフフ……ハハハハハハッ! どうして庇っちゃったのよボーヤ!!」
『ナ、何デ……? ボク達は精霊だから傷を受けてモ――』
「……そういうわけには行かねえよ」
痛みはしたがついでに思い出したことがあった。
あの時、兎の影の言葉の後確かにキリヤの耳には届いていたのだ――
「オマエら『助ケテ』って言ってたじゃねえか……魔法騎士団ってのは助けを求める弱い人達を助けるのが仕事だ。それが例え人間じゃなくても同じだっての」
それに――
「オレがここにいる限り、手の届く範囲にいるヤツらは死なせねえ……ッ! オレが決めたからオレはそれを実行するだけだッ!!」
「いつまで続くか見せてもらおうじゃないか!」
降り注ぐ岩の槍、すでに限界を迎えている身体。
しかしキリヤの心は何一つ諦めてはいない――