「何故私の言うことを聞いてくれなかったのですか!! 勝てたから良いもののあのままでは――って聞いてるんですか!?」
『ご主人ありがトー』『ありがトー』『りがトー』『がトー』『トー』
「おう分かったからオマエらそんなに引っ付くなって……で、シィナは何て? 全然聞こえねえや」
戦いが終わり再び宝箱がある位置まで戻ってきていたキリヤは沢山のサキムニに絡まれていた。
わらわら群がるサキムニ達の相手をしながらキリヤは出てきたシィナの方を見る。
シィナはこれ以上言っても無駄かと溜息を吐き、
「ありがとうございましたって言ったんです!」
「そっか、別に大したことじゃねえから気にすんな」
実のところシィナはキリヤから映像を切られたもののサキムニに頼んで全てを見ていた。
あの〈七剣総統〉相手にも怯まず、サキムニ達を守り、そして勝った。
傷は塞がっているものの血に塗れ、戦闘で破れた衣服から垣間見える鍛えられた肉体。何も知らない貴族や王族が見ればきっと泥臭いや見苦しいと言っただろう。
でも、キリヤの姿を傍で見ていたシィナは――
「……格好良いと、思いましたよ」
「……ん? 何か言ったか? さっきからサキムニ達がまとわり付いててマジで全然聞こえねえ……」
見ればいつの間にかキリヤの姿がろくに見えないほどサキムニ達が引っ付いていてまるで巨大な毛玉状態になってしまっていた。
ともあれ、今の言葉は別に聞いて欲しいと思った言葉ではないので。
「キリヤさん、そろそろあの宝箱を開けませんかーっ!」
いつまでも
「よし、ちょっと離れてくれサキムニ」
言えばすぐに離れたサキムニ達。
サキムニ達が離れるとキリヤの手には沢山の鍵が握られており、
「開けるか!」
◎
アトラクションだけではなく戦闘のせいで酷く疲れた身体だが、こういう箱を開けるのは楽しみで仕方がない。
キリヤはうきうきした気分で鍵を――
「って、どれがどれの鍵なんだ……?」
シィナがズッコケた。
しかしこれだけ施錠されていて、キリヤが手に持っているのは十数個の鍵があるのだから仕方がない。
色と形もそれぞれ別々で消去法で行くしかないのかと思えばサキムニ達が、
『ご主人、開けるの手伝ウ』『ウー』
「ありがとな」
宝箱の全ての鍵を把握しているサキムニ達に錠を外して貰えば今度こそ宝箱と対面。
その大きな宝箱に期待で胸を膨らませながら開けると――
『『『新しいご主人ダー!!』』』
めちゃくちゃサキムニ達が飛び出してきた。
「ちょ、おま、増えすぎ!」
ただでさえ多いと思ったサキムニがさらに増えた。
喜んでいるのか新しく出てきたサキムニ達はキリヤを胴上げし始め、ちょいちょいと一旦止めて貰う。
下ろして貰うとキリヤはしばし考え、
「もしかして宝ってオマエらのことだったのか?」
ベレラファスラも確かそんなことを言っていた気がする。
問いかけるとサキムニの何体かがうんうんと頷き、
『魔道具もいっぱいあるけド、マスターはボク達皆が一番の宝物だって言ってタ』
『マスターはボク達にいっぱい魔法を教えてくれたんダ。攻撃魔法だって回復魔法だって使えるヨ』
「すごいですね、これだけの数がいればそれこそ一国の軍にも勝る兵力じゃないですか」
シィナはあたり一面にいるサキムニ達を見て思わずそう呟く。
だがキリヤにはサキムニ達は結局ウサギにしか見えず、よく見れば顔も微妙に違い個体差があると知ったがそれだけだ。しかし、回復魔法が使えるということは――
「なあオレの仲間がさ怪我してんだけど治せるか?」
『うン!』
キリヤがそう言うとサキムニの何匹かがソルへと近付いて回復魔法で治療し始める。
命に別状はないにせよ傷は傷。治しておくのが最善。
と、なると次は――
「遠くに飛んだベルラファスラの拘束も出来るか? 出来れば魔導書も没収しといてくれ」
『了解っ!』
敬礼して何十匹がベルラファスラが飛んでいった鐘塔の方へ走り出す。
するとすぐに拘束魔法で雁字搦めにされたベルラファスラが運ばれてくる。驚くべき仕事の早さ。ベルラファスラが気絶しているからこそもあるがそもそもサキムニ達の能力が相当高いように思える。
「てゆーか何でオレ『ご主人』って呼ばれてるんだ?」
『さっき契約したかラ!
言われるがまま魔導書を見てみると確かに新しい魔法があり、鎧を解除した今も魔法発動の証として文字が光っている。先ほどは自らの鎧に付与する形で使ったがどうにもそれだけではないようで――
「うぉっ!?」
一旦魔法を止めてみるとサキムニ達が一斉に消える。
あれだけいたのに消えてしまって、しかしソルへの回復魔法やベルラファスラへの拘束魔法は消えていない。
となればキリヤはもう一度その魔法を発動するとサキムニ達が飛び出す。
「マジだ。……てゆーかもしかしてオマエらって独立した魔力持ってるの?」
キリヤの率直な問いにサキムニ達は頷く。
つまりキリヤの魔法はサキムニ達を呼び出す召喚魔法というだけでそこからはサキムニ達が独自に持つ魔力で活動するようだ。
「オマエら超スゲェな! これからよろしく!」
『よろしくご主人!』
「わーっいっぱいくんな!」
キリヤと拳を合わせようとサキムニ達は大勢押し寄せてきてまたキリヤは大きな毛玉状態となる。
何とかサキムニ達の気を済ませてもらうと先ほどから気になる残りの宝箱の中身を覗き込む。
「おいシィナ、何かいっぱいあるから見に来いよ」
「は、はい」
シィナもサキムニ達に支えられ、キリヤと同じように宝箱の中身を覗き込む。
中にあったのは明らかに外側の箱よりも広い空間だった。恐らく空間魔法を施し中を広めていたのだろう。
キリヤが先に飛び込み、シィナも後に続くと数多くの黄金、何よりも多くの魔道具が見える。
「スッゲェ、こんなにも貯めこんでいたのか」
「キリヤさん、魔道具にどんな能力があるか分かりませんから無闇に触ったりしちゃダメですよ」
「…………え?」
シィナが辺りを見渡しながら言っているとキリヤから素っ頓狂な声が響く。
すでにキリヤは手近にあったやけに黒ずんだ拳銃らしきものを手に取っていて、
「な、何してるんですかキリヤさん! そんなばっちぃもの離してください!!」
「ばっちぃっておま、待て分かったから!」
と、手放そうとした瞬間――キリヤの
何が起こっているのか止めようにも先に魔導書が拳銃を飲み込んでしまった。
「「……あ」」
二人揃って顔を見合わせる。
キリヤが魔導書を開けてみれば三ページ目にはしっかり新しい魔法が刻まれており、試しに魔法を発動してみるとキリヤの手には先ほどの拳銃が。
「……シィナ、これ内緒な?」
「……そうしておきましょう」
使い道はまるで分からないがもし保護しなければならない超貴重魔道具だったらと思えば二人はとりあえず隠蔽する道を選んだ。
だがこの時、キリヤもシィナも気付いていない。
キリヤが持つ
◎
「……ん、ここは……」
目を覚ませばソルは浮遊感と共に自らの足で歩かずに移動していることに気付く。
誰かに背負われている、そう思えばすぐにソルは目を見開いて一気に意識が覚醒する。
「あ、オマエ……っ!!」
「よう目が覚めたみてぇだな」
ソルはキリヤに背負われていて暴れようとするがその前に色々なものが目に入った。
まずはキリヤの傍には沢山のウサギ。何なのかまるで分からないが次に見えたシィナがいることでキリヤが全てのアトラクションをクリアしたことが明らかになる。
後ろを振り向けばウサギ達が大きな宝箱を運んでいて恐らくあれこそが眠っていた秘宝。
「
周りの景色はテーマパークではなく、眼下に広がるのは魔宮に入る前に見えた森林。
キリヤはその問いを聞くとウサギが一匹ペンダントをソルへ見せる。
シィナや自分達を魔宮に引きずり込んだペンダントだと思えば特徴的な宝石はすでに割れて砕け散っていた。
「あの魔宮はコイツらのマスターの夢だったんだ。その夢を果たし、役目を終えたから消えちまったよ」
「そうか……って、あの〈七剣総統〉は!?」
そうだ。ソルが気を失ったのも現れた〈七剣総統〉のせいだ。
キリヤが自分の目の前に立ち、その後に気絶したがあの後一体どうなったのか。
またキリヤが何かとウサギに言うとウサギ達が運んでいたものがソルの視界に入る。
「っ!」
そこには〈七剣総統〉が倒れており、拘束魔法で雁字搦めにされていたのだ。
自分では手も足も出なかった相手。なのに――
「ま、まさかオマエが勝ったのか……?」
「おう。まあサキムニ達の協力あってだけどな」
『そんなことなイ。ご主人、強かっタ!』
一匹に合わせてウサギ――サキムニ達は口々に強かっタ強かっタと騒ぎ立てる。
過程はどうであれキリヤはたった一人で魔宮を攻略し、自分が勝てなかった〈七剣総統〉にまで勝ってしまった。
恐らく相当苦戦したんだろう。上半身なんてほとんど裸も同然だ。
無駄に逞しくて、どれだけ鍛えればこうなるのか。今までソルが見た貧相な身体で軟弱な男とは違って見えてしまった。
「…………ありがと」
キリヤには絶対聞こえないように小さな声で。
少しだけキリヤに掴まる力を強めながらソルは呟いた。
そして――
「……認めてやる」
「ん?」
「認めてやるって言ってんだ!」
「きゅ、急に元気になったな……」
こちらの表情が見えないように振り向こうとするキリヤの顔を押し退けてソルは声を張る。
唐突なことに何のことか分からない様子のキリヤだが構わない。
「これからも姐さんのために励めよ……っ!」
「ハハ、了解了解」
「笑うな!」
ビシビシとキリヤの頭を叩いたところでこんなものどうってことないのかキリヤは笑い続ける。つられてシィナも口元に手を当てて上品に笑いだす。
『やめテーご主人に暴力振らないデー』
「うわっ! 何かいっぱい集ってきたっ!」
叩いていると後ろに続いていたサキムニ達が一斉に集まってきてソルを包み込んで傍から見れば毛玉状態に。
「オイオイ、オマエら一体ずつは軽いけど集まれば重いって!」
結果キリヤも不安定になり、危うく落ちそうになってしまう。
その流れにいつの間にかソルも笑っていて、サキムニが集まったせいか少しだけ顔に熱を感じていた――