20話「いざ戦功叙勲式へ!」
「なるほど、そんなことがあったのか」
ベレラファスラの身柄や保護した宝の献上を魔法帝直属の部下にし終え、〈碧の野薔薇〉拠点に戻ってきたキリヤは早速今回の任務の報告をした。
全ての報告を受けたシャーロットは頷くと、キリヤは何故か嘆き始める。
「せっかく姫様に貰った兜……砕かれてオレめちゃくちゃショックです」
「あげたつもりはどこにもない。貴様が勝手に取って被っていただけだろう」
ベレラファスラとの戦闘で見事に砕けた兜のことを引き摺っていたのか、キリヤはさりげなくシャーロットが今被っている兜を取ろうとする。
だが今回はそれを読んでいたのかシャーロットの手で頭を押さえられ止められてしまう。
新しい兜もゲット出来ず、落ち込む様子を見せるキリヤだが――
「…………よくやった」
代わりにシャーロットがキリヤの頭を撫でたのだ。
その光景にキリヤどころか〈碧の野薔薇〉団員全員が唖然とした。
あの数多の男が触れようとしても触れられぬ、自らは触れようともしないシャーロットが――男に自ら触れて撫でた。
前代未聞の出来事に度肝を抜かれる一同。
いつも騒がしいキリヤだが一瞬呆気に取られるとすぐに――
「姫様! オレもっと頑張ります!!」
あろうことかシャーロットに
度肝を抜かれっぱなしの女魔道士達だったがこれには嫉妬どころの目線ではない。
ソルもすぐに飛び出そうとするがキリヤの身体はシャーロットの荊の波に飲み込まれる。
「あまり調子に乗るな」
「ごめんなさいっ!」
『ご主人~っ!!』
すでに”
「何あのちっちゃいウサギ……可愛いっ!」
女魔道士一人の言葉から嫉妬はいきなりサキムニ可愛いムードに。
いっぱい出てくるので一人一体抱きかかえられるので拠点内はもはや動物とのふれあいコーナーと化す。
掃除や力仕事などし始めるサキムニ達に女魔道士から「もう雑用の男達いらなくなぁい?」とか聞こえてくるがやめてあげて欲しい。
とにかく、サキムニを見たシャーロットもこれには少し驚いた様子を見せる。
「これが
「そ、そうっス……何だか懐かれて今ではこの子達の主人やってます……」
今の一撃は体感ベルラファスラよりも強かった気がするがキリヤは鎧姿のまま立ち上がる。
「待てキリヤスフィール、まだ話は終わっていない」
するとまだシャーロットの話は終わっていないようで、キリヤも怪訝そうに振り向く。
「キリヤスフィール、今回〈七剣総統〉を討ち取り
「いえーいっ! って、何ですかそれ?」
「分かってたしもう!」
相変わらずキレのある叩きでソルからツッコミを入れられるキリヤ。
ツッコミを入れられようとも結局分からないものは分からないので説明を求めるとソルが、
「あのな、魔法騎士には実力を示す”等級”ってのがあるんだ。等級は魔法帝をトップに大魔法騎士、上級魔法騎士、中級魔法騎士、下級魔法騎士って大きく五つに分けられてて、その中でもさらに一等から五等まで分けられてるんだ」
「へぇー」
「まあせいぜい言っても四等中級魔法騎士ぐらいだろ。姐さん、どんなもんっスか?」
「五等上級魔法騎士だ」
「………………え?」
ソルを筆頭に〈碧の野薔薇〉の女魔道士全員の目が点になる。
キリヤはそのすごさが分からないので『まあまあなところ?』と言った様子を見せるが周りにとってはそれどころではない。
「な、何かの間違い……ですよね姐さん……?」
あまりにもうろたえた表情を見せるソル。多分、あの様子だとキリヤはソルを超えてしまったか。
現実逃避しそうな勢いのソルにシャーロットは端的に、
「すでに敵国のトップを討ち倒せる実力。さらに短期間で得た功績の全てが加味された結果、上級魔法騎士が妥当だと魔法帝も判断したのだ」
「ソル……例え立場が違うくなってもオレは気にしないぞ」
「むっかーっ!!」
あまりにも桁外れな出世が出来たようでキリヤはソルの肩に手を置いて親指を立てるがそれが逆鱗に触れてしまったようだ。ソルは腰に腕を回し、鯖折りしてくる。
「はっはっは! 軽い軽い!」
だがベルラファスラにされた鯖折りに比べれば軽いもので反対に笑いながら抱きしめ返してやる。
「なッ! こ、この……」
てっきり殴られるかと思えばソルはキリヤから離れると手の甲で口元を隠してキリヤから目を逸らす。
いつもの勢いはどこへやら、急にしおらしくなるソルにキリヤは首を傾げる。
「どうした?」
「うっさい!!」
やっぱり殴られた。
だが鎧は着たままなのでこの程度では効くはずもない。
むしろソルの拳の方が痛んだようで蹲りながら拳を空いた手で押さえてしまっている。
「とにかく、戦功叙勲式は八日後だ。くれぐれも問題は起こすな」
「はーい」
シャーロットは騒がしいソルとキリヤを放置して伝えることだけ伝えると踵を返し行ってしまう。
鎧を解除するとキリヤはその隣をついて行き、
「姫様! オレこれからオフなんで城下町に遊びに行きましょうよ!」
「貴様がオフだとしても私には団長として仕事がある」
「えー、姫様にも
「……それは摘発しろということなのか?」
シャーロットの言葉の意味が分からず、キリヤは首を傾げるばかりだった――
◎
八日後、キリヤは王都へやってきていた。
何でも戦功叙勲式は魔法騎士団本部で行われるためにキリヤもサキムニの助力があって何とか王貴界に辿り着き、そこで偶然にもアスタとノエル、ユノ達〈金色の夜明け〉と出会っていた。
「……へぇアスタも
「ああ! ダイヤモンドのヤツらとも戦ってよ! 見てくれ一本剣が増えたんだ!」
言ってアスタが自らの
キリヤが見たことあるのはアスタの身の丈と同じかそれ以上の大剣。それに比べれば細く短いが小回りが利きそうであり、キリヤはほうほうと頷く。
「スゲェな! 何か両剣使い的な感じでカッコイイな!」
「おう! キリヤも……って何かいっぱいいるな」
「ああ、コイツらのことか」
キリヤの周りには相変わらずサキムニ達が沢山引っ付いており、そのうちの一体の両脇を持ってアスタ達へ見せる。
「こう見えて精霊なんだよ。兎精霊サキムニ、魔宮で出会って何だかんだで契約したんだけど一匹で色んな魔法が使える優れモンの精霊なのさ! 数もスゲェいるし!」
「スッゲェ! でも何かその持ってるヤツ小憎たらしいカオしてんだけど!」
『…………』
サキムニは一万匹を超えるほどいるのだがそれぞれ個体によって微妙に表情が違う。
偶然キリヤが抱えたのは小憎たらしい顔をしたサキムニだったが、その表情にノエルはというと――
「ちょ、ちょっと貸しなさいよ」
「え? まあイイですけど……」
両手を差し出してくるのでとりあえずサキムニをノエルへ手渡す。
手渡されるとすぐにノエルはサキムニを大切そうに胸に抱える。
「……シルヴァンタスシュナウザー」
「…………え?」
「このコの名前よ! し、仕方なく私が飼ってあげてもイイわよ!」
「いやいやいや! その子もサキムニですから! というかあげませんからね!?」
「何よイイじゃない! すごい数いるんでしょ!?」
「オレの魔法だから……って、割とアリか……?」
『…………』
あっ、とノエルが言ううちにノエルの元にいたサキムニはキリヤの元に帰ってきて、どうにもサキムニ的にアウトだったらしい。
露骨に残念そうになるノエルに申し訳なく思うとアスタは首を傾げる。
「てゆーか何でキリヤはここにいるんだ?」
「ん? そりゃ魔法騎士団本部に戦功叙勲式で呼ばれたからだよ。オレ何かと成果挙げたから……でもさ、今寝坊してよ」
「ええ!? だったら急いだ方がいいんじゃないか!?」
「でもさ、絶対姫様怒るじゃん? 寝坊するなってめちゃくちゃ念押しされて尚寝坊したから怖いじゃん? ソルってヤツもいるからオレに味方いねえし」
「自業自得じゃない」
ノエルにはっきりと言われてしまうがサキムニは『ボク達はご主人の味方だヨー』と寄って来てくれる。
何て可愛いヤツらなのだとキリヤはサキムニ達の頭を撫でてやっているとユノの傍にいた眼鏡を掛けた好青年がキリヤを見て驚く素振りを見せる。
「全ての団に挙手されながらも〈碧の野薔薇〉に入り、破竹の勢いで成果を挙げている男がいると聞いていたが……」
「どうも姫様の懐刀のキリヤでーすっ!」
「でもやっぱり寝坊しても早く行くべきだと思うぞ! 謝ったら許してくれるはずだ!」
いえーいとピースしているところでアスタに正論をぶつけられてしまい、キリヤはうーんとユノの方に顔を向ける。
「な、なあユノ、オマエもそう思うか……?」
「怒られるなら早めの方がいい」
「逃げ道ないよなやっぱり……じゃあとりあえず行ってくるわ!」
はっきり言われてしまった。
というわけでキリヤはアスタ達に別れを告げると猛烈に急いで走り始める――
◎
「遅れましたーっ!!」
勢い良く魔法騎士団本部で案内された扉を開ければ中にいた人間全員の視線が集中する。
見たところ〈紅蓮の獅子王〉、〈銀翼の大鷲〉、〈金色の夜明け〉、そして――明らかに怒っている雰囲気の〈碧の野薔薇〉団長シャーロットの姿とソルの姿が見えてしまった。
「…………」
床には絨毯が敷かれていてその絨毯を避けるようにして二手に分かれている。
その奥には恐らく魔法帝が立つだろう壇があり、キリヤは立ち止まって少し考える。
ここでそそくさと行けば遅刻した上に他の団に嘗められることになるのではないか、と。
ならば――堂々と間を割って絨毯の上を歩く。
「バカかオマエはっ!」
思っていたがやはりソルからの拳骨。
首根っこを引っ張られ、絨毯の上を引き摺られる。
「あれだけ遅刻するなって姐さんに言われてたくせに!」
「ベッドがオレを愛して離さなかったんだよ……」
引っ張られ〈碧の野薔薇〉の立ち位置に立たされたキリヤは恐る恐るシャーロットの目を見ると――伏せていた目がキリヤの姿を捉える。
「……何か言うことはあるか?」
「…………本当にごめんなさい」
「ふん、低俗な……。〈碧の野薔薇〉の男はよほど気品に欠いているように見受ける。これもそちらの団長の教育の賜物だろうな」
「……あ?」
様子を見ていた〈金色の夜明け〉の一人が不意にそんな言葉を漏らす。
顔立ちは成人そのもの。前髪を後ろに流し鬣のようにしている男性だった。
シャーロットは何も言わず、再び目を伏せるがキリヤは自分の悪口は許せても家族の悪口は許すつもりはない。
口元に指先を当てたキリヤはぷーくすくすと笑い、
「器ちっさー」
「何……?」
ただ一言言い返しただけで眉を顰める男性。
構わずキリヤは続ける。
「〈金色の夜明け〉って聞いてた以上に器小さいっスよねー。わっざわざ違う団の遅刻に目くじら立てるぐらいですしぃ? いくら金色でも器が
「貴様ぁあああああああ!! 〈金色の夜明け〉団をあの最底辺の集団以下とでも言いたいのか!! ヴァンジャンス様を侮辱するとは万死に値するぞ!!」
「ハッ!! コッチだって姫様侮辱されたんだからアイコじゃないんスかァ!? 毛根根こそぎ抜いてやろうか!!」
軽い挑発にも簡単に乗ってきた相手にキリヤも
今にも魔法を放ち合うかと思った瞬間、再び扉が開く――
「おや、どうかしたのかい?」
そこに立っていたのは――魔法帝。
その後ろには恐らく魔法帝に招待されたアスタ達の姿も見えた――