「――では、戦功叙勲式を始めよう……ってすごい闘気だね何だか」
魔法帝が来たおかげで即座に戦闘とはならなかったものの互いに団長を侮辱されたとしてキリヤと相手のアレクドラ・サンドラーは物言わずとも互いを威圧していた。
だがキリヤの後頭部をシャーロットの荊が叩き、無言の圧力が隣から来たのでキリヤは敵意を抑える。
落ち着いたところで早速魔法帝から功績を讃えられる。
まずは〈紅蓮の獅子王〉からレオポルド・ヴァーミリオン。
星取得数七個。二等中級魔法騎士の称号を授与される。
ヴァーミリオン、その名を聞けばどこなくレオポルドはメレオレオナに似ている気がしてキリヤはふと考える。
(もしかしてメレオレオナ様の弟って二人いるのかな……?)
付き添いをしているもう一人の男性――フエゴレオン・ヴァーミリオンはすでにシャーロットのおかげでメレオレオナの弟だと知っている。名前的にレオポルドもメレオレオナの弟なのだろう。
次いでソルの名が呼ばれる。
星取得数六個。三等中級魔法騎士の称号を授与される。
思わず拍手したくなったキリヤだがそれさえもシャーロットにさえ止められてしまい、少しテンションが下がればキリヤの番が訪れる。
「星取得数10。〈碧の野薔薇〉団キリヤスフィール・フィン・ガルガン五等上級魔法騎士の称号を授与!」
キリヤや〈碧の野薔薇〉は事前に聞かされていたが他の団の魔道士は驚きを隠せないでいた。
受けた本人には分からないがここまで一気に上がったのは前代未聞、そんな雰囲気が会場に漂う。
魔法帝はこの功績にキリヤを褒める。
「まだ入団して間もないのに流石メレオレオナの弟子ともあって本当に優秀だね! 精霊を手に入れてさらに身体進化魔法に磨きがかかったけどこれからも精進するように! それと後で魔法見せてくれたら嬉しいな!!」
「うっす! レオナ様と姫様のために頑張りやす!」
アレクドラは先ほどのキリヤの態度が気に入らず、今にも異論を唱えてきそうだが魔法帝が相手ともなれば認めざるを得ない。
構わずキリヤは戦功叙勲式を見ていたアスタ達にさりげなく親指を立てると呆気に取られていたアスタも小さく拳を握って返してくる。
(悪いなアスタ、何だかんだオレの方が幸先イイスタート切ったみてぇだ)
それからも暫く戦功授与式は続き、終えた頃に魔法帝は台に手を置く。
「さて、これから簡単な席を用意して特別なゲストも呼んでおいたから他の団だとか気にせずたっぷり交流してみてくれ。たまには他の団から何かしらイイ刺激を受けるといいかな、うんそれがいい!」
簡単な席とはどうにも食事会らしく、本来なら断る団が多いと思ったがどうにも全員魔法帝の意思は汲むようだ。
何より特別ゲストとして呼ばれたアスタ達には猛烈に視線が集中していた――
◎
「やっぱキリヤはすげぇな! オレらと同期なのにほとんどのヤツらより階級上になってたし!」
「ハハ! よしアスタ一緒にメシ食おうぇえええええ……」
食事会が始まって早速盛り上がりを見せるアスタとキリヤ。
主催者であるはずの魔法帝は始まってすぐに「ちょっと用事があって抜けるよ」なんて行って出て行ってしまったが。食事の場を無下には出来ないようで今いる全ての団が残っている。
早速〈黒の暴牛〉やユノから〈金色の夜明け〉の話を聞こうと思ったのに言葉の途中でキリヤは何かに引っ張られてしまう。
先にあったのはシャーロットの荊であり、団ごとに適当に分けられた中でも〈碧の野薔薇〉のいるところまで無理矢理戻されてしまう。
何故戻されたのか分からず首を傾げるキリヤにシャーロットは見ることなく、
「ここで大人しくしていろ」
「えー……」
「姐さんが言うんだからそうしとけって。オマエさっきだって〈金色の夜明け〉に喧嘩ふっかけてたし、違う団同士の喧嘩って後が面倒なんだぞ!」
「いやさっきソルだって『やれやれーっ!』って言ってたじゃん……」
「あわゆくば……的な感じ?」
「便乗してるじゃねえか!」
せっかく話せる良い機会だと思ったがどうにもシャーロットは許してくれないようだ。
アスタ達も食事を始めてしまったのを見るとキリヤは仕方なくビュッフェ形式で並べられた食べ物を見る。
「姫様、アレって食えるんですか……?」
視線の先にはテーブルの真ん中には円状の柔らかそうなもの。
肉ばかりを食べてきたキリヤには食べ応えがなさそうに見えるがシャーロットは、
「主食となるパンだ。このような食事の場であれば手掴みをしないためにフォークで切れるように作られている」
「へぇー」
「……聞きながら離れるな」
唐突に何か飲み物が欲しくなったキリヤはまた〈碧の野薔薇〉のテーブルから離れると誰も陣取っていないテーブルがあることに気付く。
そこはどうやら魔法帝が手配した人達が立っており、前には飲み物らしきものが色々と並んでいる。
「何だこの変な色した水?」
「こちらはクローバー王国王貴界にて作られている最高級のワインでございます。よろしければお一ついかがでしょうか?」
「うん貰う! あ、でも三つ欲しいです!」
ワインが何か全く分からないが貰えるのならば貰っておこう。
とりあえずシャーロットやソルの分も貰い、渡されたワインの入ったグラスはキリヤの手元で浮かび上がり続ける。
「便利な魔法だな」
物を微動だにさせずに浮かせられる魔法。見たところ風魔法とはまた違うようだがとにかく受け取るとキリヤはいそいそとシャーロット達の元へ戻る。
「姫様、ワインっていうの貰ってきましたー」
「……飲むな」
「えぇ!?」
せっかく持ってきたにも関わらずすぐに没収されてしまう。
楽しみにしていたのに奪われ、文句を言いたげな表情を浮かべるキリヤにシャーロットは思わず息を吐く。
「これは酒類だ。未成年である貴様が飲めば処罰されることになる」
「まさかそんな罠が張られているとは……食事会恐るべし」
「こんなバカに酒渡す方もバカだと思うけどなー」
ソルにまでそう言われてしまい、キリヤはまた行かなければならないかと思えばソルから水が入ったグラスが渡される。
「水ならここにあるしチョロチョロすんな」
「こうなったらオレは何か味が付いた水が飲みてえ!」
「変なところで好奇心出すなよ!」
また行こうとするキリヤにソルは止めるも、今度はキリヤの前にフォークが添えられた皿が差し出される。
見ればシャーロットが皿に食事を装ってくれていたようで、
「食べろ。そして大人しくしていろ」
「姫様……」
その目から本当に大人しくして欲しいと伝わってくる。
相手は団長。流石にここは気持ちを汲まなければならない。何よりわざわざあの男嫌いなシャーロットが男であるキリヤのために装ってくれたのだ。
というわけでキリヤはパクパクと食べることに。
「……貴様には食事マナーも教えなければならんかもしれんな」
パクパク食べるキリヤの姿にシャーロットは静かにそう呟く。
少しキリヤはそうして食べているとふとキリヤの目には〈紅蓮の獅子王〉の二人が見える。
やはり見れば見るほど似ている。
(レオナ様は確かグテーからは学べることも多いって言ってた気がするけど何でだろう)
メレオレオナはキリヤに魔法騎士団入団を勧めた時、中でも〈紅蓮の獅子王〉を勧めていた。
学べること、それが何だか分からないが今ならその片鱗でも確かめることが出来る。
「姫様、ちょっとだけ〈紅蓮の獅子王〉の方に行ってきてイイですか?」
「…………」
シャーロットはすでにメレオレオナのことは把握してくれている。
他の団であれば乱闘紛いになりそうなキリヤだが〈紅蓮の獅子王〉だから大丈夫だと両手を合わせ頭を下げる。
「お願いしゃすっ!」
「……分かった」
「あざっス!」
何とか了承を得て、キリヤは〈碧の野薔薇〉から一時的に離れる。
近付くキリヤに〈紅蓮の獅子王〉団長フエゴレオンは訝しげな表情を見せるがキリヤはまず頭を下げ、
「自分キリヤって言います! レオナ様の弟子やってます! あなた様がレオナ様のグテーですか!?」
会っていきなり愚弟呼ばわり。
失礼極まりないが反対に考えれば、かの〈紅蓮の獅子王〉のフエゴレオンを”愚弟”と称することの出来るのはこの世でただ一人だけ。
キリヤの問いにフエゴレオンは笑みを浮かべ、
「やはりオマエが姉上の弟子だったか、キリヤスフィール」
◎
「そうか、姉上がつける修行はかなりハードだったようだな」
「何か目の前に川が見えること何度もありましたっス!」
あれから少ししてフエゴレオンがメレオレオナとの話を聞きたいと言うのでキリヤは一通り修行内容を話していた。
修行当時はまるで笑い話にはならなかったが今ではどれも良い思い出で、フエゴレオンも逐一相槌を打ってくれていたのでより楽しく話せていた。
「思えばオレじゃなかったら死んでましたよ!」
「姉上は出来ない者にはさせない。オマエを見込んでのことだろう。現に今こうしてオマエは短期間で誰よりも早く上級魔法騎士となり姉上の教えが間違っていなかったと証明している。姉上もさぞかし誇らしいことだろう」
「でもあんまりレオナ様はそんなこと言ってくれなかったですけど……」
メレオレオナは基本言葉よりも先に拳。
一日一発は当然で二年半で通算すればそれこそ数え切れないほど殴られた。だが誇らしいや見込んだなど言われたこともなく、首を傾げる。
「ふ、オマエは充分姉上に愛されている。弟である私が言うんだ、間違いない」
「そう言うモンなんスかね……あっ! フエゴレオン様に聞きたいことあったんスよ!」
「……?」
「レオナ様はフエゴレオン様から学べることが多いって聞いたんですけど……何が学べるんスか!?」
ずっと疑問に思っていた問いをようやくすることが出来た。
疑問をぶつけられたフエゴレオンは少し悩む素振りを見せるもやがて言葉を紡ぐ。
「姉上はきっと私からオマエにもっと”世界”を教えようとしていたのだろう。己から独立させ、全ての行動の責任を己自身に取らせる。そうすることでオマエの精神は鍛えられ、より強くしたいと願っていたのだろう」
「でも姫様もオレに色々教えてくれますよ?」
「偶然身近だったのが私だっただけで結局オマエが成長出来れば誰でも良かったのだろう。しかしあの男を毛嫌いするシャーロットが、か……。オマエは私が思う以上の何かを持っているのかもしれんな。姉上がオマエを弟子にしたのも頷ける」
「残念ながら弟子でありながらオレはレオナ様の弟子ではないんですよ……」
不敵に笑むキリヤにフエゴレオンは言葉の意味がまるで分からない様子。
キリヤは人差し指をチッチッチと横に軽く振るえば、
「オレはいつかレオナ様に『参った』と言わせて結婚するんスよ! 結婚したらフエゴレオン様はオレの義弟になりますし今からオレのことお義兄さんって呼んでくれてイイですよ!」
「ハハハ! それは下手をすれば魔法帝になるよりも難しいことかもしれんな!」
至極真面目な発言なのにフエゴレオンは大笑いしてしまう。
ぽかんとするキリヤだがそれは莫迦にする笑いではなく、純粋な興味から出た笑いだった。
「今度〈紅蓮の獅子王〉に見学しに来るといい。私に何が教えられるのかは分からないが一度手合わせ願う」
「是非!」
「あ、あの姉上が……結婚……?」
近くで偶然一部だけ聞こえていたレオポルドもこれには愕然。
キリヤもレオポルドの驚愕を隠せない姿に調子を取り戻し、
「結婚式はオレとレオナ様が出会った森でしようって思ってるよ……レオポルドお義弟くん」
「そんな、バカな……っ!」
と、もう少し煽ろうかと思った矢先、キリヤの耳に別のところの会話が聞こえてきた。
それはキリヤに向けられたものではなく、アスタ達に向けられており、キリヤはそちらへと振り向いた――