アスタに向けられていたのは侮蔑の視線だった。
魔法帝がどうしてこの場に招待したのか。
実際にその場にいなかったくせに言いたい放題言うが下民として過ごし続けていたアスタにはどうってこともなかった。
自らのことは別に何を言われようが構わない。
だがそんなアスタを苛立たせたのは自分ではなく周りへの中傷。
中でも〈金色の夜明け〉のアレクドラはユノのことも期待していない下民と見下し、クラウスやミモザまでも馬鹿にされる。
何より〈銀翼の大鷲〉にいたノエルの兄や姉の言葉。
一族の恥晒し、追放同然だったのによくノコノコ戻ってこられた、この場には相応しくない出来損ない――次々と心ない言葉がノエルに突き刺さり、踵を返すノエルだったがアスタはその手首を掴む。
こんなヤツから逃げる必要はないとテーブルに立ちいつも見下してくる王族達を見下ろす。
戦功叙勲式に呼ばれるほどなのだからキリヤのように凄い者達だと思っていたが今まで見下してきた他の者達と何ら変わらない――
「相応しいとか相応しくないとか知るか! 見とけよ、オレは必ず――」
そこでアレクドラが放った砂拘束魔法がアスタの身体を包み込むが
これこそ魔力のないアスタだからこそ手に入れることの出来た
「魔法帝になってオマエら全員黙らせてやる!!」
切っ先を向けた先、シルヴァ家の次男――ソリドと長女――ネブラは一瞬笑う素振りを見せたがすぐさまアレクドラと共に魔導書を開き――
「「「笑わせるなッ!!」」」
正面から霧、水の拘束魔法が同時にアスタへ向かって飛ぶがこの程度の魔法ならば反魔法の剣によって打ち消せる。
しかし、防御によって出来た一瞬のうちに背後から砂の重装兵が現れ――
「――おっしゃア!!」
アスタを拘束しようとした砂の重装兵だったがさらにその背後から飛んで来たキリヤの拳がその兜から砕き、元の何の効果もない砂へと戻す。
「何……っ!?」
「キリヤっ!」
「オレもメチャクチャむっかついたからブッ飛ばしてやろうぜ! 特にあの金メッキおじさん!」
飛び出してきたキリヤはアスタに肩を組んできてビシッと指を差す。
その先にいるのはアレクドラ。何やら因縁があるのか中指まで立てればアレクドラも苛立たしげに眉を顰める。
不遜なアスタとキリヤの態度に中でもソリドは苛立たしげに前に出て、
「オイオイ~いくら上級取ったからって調子に乗りすぎなんじゃねえのかァァ?」
「あ、オレより階級低かったヤツ! 敬語使えよバーカ!」
「オレは王族だぞテメェ!!」
三等中級魔法騎士だったがキリヤ以下なことを気にしていたのかいきなり声を荒げる。
水創成魔法”聖水の凶弾”。
一箇所に集まった水は両腕を広げた程度の弾丸と化し、魔力の推進力を得て飛び出す。
キリヤは肩を組んだ状態から離れアスタの背中を押すと、
「よし、正当防衛のチャンスだぞ!」
「ありがとなっ!」
アスタにとってあの程度の魔法見切れないわけがない。
魔宮で見たダイヤモンド王国の魔道士の魔法の方がよほど速く、アスタは西洋剣を魔導書に仕舞えば大剣を取り出し剣脊を向けて振るう。
「ノエルに……謝れ!!」
水の凶弾は大剣によって跳ね返され、ソリドに向かえばソリドもまたの魔力をぶつけて相殺する。
余波で膝をつき、後退するソリドに今度はいつの間にか背後にいたキリヤが平手を構えれば――
「妹は守ってやるモンだってママに習わなかったか莫迦者がァアアアアア――っ!!」
「ぼべ……っ!!」
これまでにないほど思い切りビンタしてしまった。
膝どころか背中をついて倒れたソリドにキリヤはフンと鼻を鳴らし、
「王族だか何だか知らないけど家族は仲良くね!!」
「て、てんめぇ……」
「うぉいキリヤ! オレがきっかけ作ったけどやりすぎ!」
「貴様ら、この晴れ舞台での狼藉……処分は免れんぞ」
「はっ! オマエにそんな権限あったら……」
な、と言い切る前にキリヤの肩に誰かの手が置かれる。
直後、キリヤの背後から溢れ出す魔力。ヤミの圧倒されるような魔力とはまた別に刺々しく、触れようとするならばズタズタに引き裂かれそうになりそうなほどの魔力量。
今まで恐れ知らずな振る舞いをしていたキリヤだがその魔力を受け急に動きがぎこちなくなり、振り向けば――
「ひ、姫様……」
「私の話を聞いていなかったのか?」
そこに立っていたのはキリヤが所属している〈碧の野薔薇〉団長――シャーロット・ローズレイだった。
その顔を見ると今まであれだけ元気に相手を挑発していたのにすでに青ざめており、
「いやこれは……その、アレですよアレアレ。交流してただけで……」
「そんな言い訳が通じると本気で思っているのか……?」
「ご、ごめんなさいっ!」
アスタが呆然と見ているうちにキリヤは耳を引っ張られ、今まで見ていた強かった姿は見る影もなし。
だが事態はそれだけに収まるはずもない。
「待てローズレイ家、王族に手を出してその程度で済むはずがなかろう」
次いで湧き立つ寒気。
冷たい威圧にアスタやキリヤが振り向き、そこに立っていたのは〈銀翼の大鷲〉団長ノゼル・シルヴァだった。
「ソリド、王族が膝をつけられ平手打ちされるなど情けないにも程がある」
「も、申し訳ありません……」
「さて王族に逆らいし下民共……どう裁いてやろうか」
「ハッ! その前髪どうやってセットしてんですかぁ? 自分野生育ちなんでそのヘアスタイルの良さ全然分からないたたたたたたたたたたっ!」
また臨戦体勢を見せるキリヤだが耳を引っ張られ言葉を遮られてしまう。確かに前髪を三つ編みにしている理由はまるでアスタにも分からないが。
ともかく一触即発の雰囲気。その空気に割って入ってきたのは――
「そこまでにしておけ、シルヴァ一族よ……」
〈紅蓮の獅子王〉団長、フエゴレオン・ヴァーミリオンだった――
◎
「私は再三忠告したはずだ。それを貴様は無視し、勝手な行動を取り、挙句に面倒を作り出した」
「そうだそうだ! 姐さんの手を煩わせるなんて猛省しろ!」
「いたたたたたたたたた――ッ!?」
荊創成魔法”
フエゴレオンの介入により乱闘騒ぎは止まったもののキリヤはシャーロットが出した回転する荊の鞭によってしこたま尻を叩かれていた。メレオレオナの場合、粗相をすれば即拳骨刑だったが回転しながら猛烈に尻を打たれるこちらも相当痛い。
「何か私に言いたいことはあるか?」
「ごめんなさいっ!」
「具体的に何を反省している?」
「どうせならグーで殴ってれば良かっ――あばばばばばばばばばっ!」
どこで選択肢を間違えたのかさらに回転速度が上がる。
アスタの方ではフエゴレオンとノゼルの
「大変です――ッ!!」
しばし荊の鞭に叩かれ続けていれば救いの手のように扉が勢い良く放たれる。
焦燥に満ちた声音。只事ではない雰囲気に荊の鞭も止まり、誰もが入ってきた者に注目すればすぐに――
「王都が襲撃されていますっ!!」
突如とした知らせに誰もが一度は耳を疑った。
ここは王貴界。クローバー王国でも特に護衛が堅固に展開されており、交代制で常に魔法障壁を張られているために侵入は不可能とされている。それなのに敵が侵入してきたというのか。
「…………」
岩石創成魔法”世界を語る模型岩”。
シレンと言ったか。とにかく〈金色の夜明け〉団の一員が
恐らく
明らかに
「やるなぁ……」
キリヤも感心するが模型を見てみれば同時に五つの場所が襲撃されている。
これだけの魔力となればこの場にいるアスタ以外の誰もが気付いてもおかしくなかったがフエゴレオンの見解では相当な空間魔法によって一瞬のうちに現れたとのこと。
どこに誰を割り当てるか、フエゴレオンがそう考えているうちにアスタはというと――
「いやコレ何待ち!? 助けを求めてるヤツらがいるってのは分かったからオレはもう行く!!」
「状況を把握し切れていないのに動いてどうするアスタ!」
「とりあえず音のデカイ方に行く!! 何かいるだろ!!」
「フハハハハハハ!! 貴様の力見せてもらおう!!」
いきなり走り出して出て行ったアスタ。
いつの間にかアスタにライバル意識を持っていたレオポルドもアスタを押して走り出し、キリヤも追いかけようと思ったが――
「…………これは」
「どうした、キリヤスフィール」
「いや、ここなんですけど……」
フエゴレオンに問われればキリヤは王貴界の隅に不可解なもの、いや人間を発見する。
しかも小さくて見にくいものの何かを構えており――
「姫様、ここから直線上には何がありますか?」
「国王がいる王宮だが……まさか――」
「……サキムニ!! オマエら十匹ぐらいここに残ってフエゴレオン様達に回復役でついててやれ! 他は外に出て怪我人の治療を最優先!! 危なくなったらすぐに逃げろ!」
『ご主人はどうするノ……?』
「コイツをブッ倒してくる!!」
荊の鞭を散々受けたおかげで
キリヤはすぐさま”
「あっ! また姐さんの言うことも聞かずに!」
「悪いソル! また帰ったら怒られるからよ!!」
いくらキリヤでも国王がどういった存在か知っている。
実質国を統治しているのは魔法帝だが国王は国の象徴として君臨している。もし国王が暗殺されることでもあれば魔法騎士団は名折れも良いところ。
(間に合ってくれよ――ッ!!)
別に国王を守る理由などないがメレオレオナが帰ってくるまでに国王を守りきれなかったとなれば何を言われるか。
キリヤは足裏から