オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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23話「狙撃手」

(クローバー王国……)

 

 狙撃銃を構え、スコープから覗く景色に女は奥歯を噛み締めていた。

 この国が存在することによって女は愛する者を奪われ、毎日泥水を啜るような気分で生きている。

 魔力感知も可能にし遥か先まで覗くことの出来る水晶のスコープが映すのは王宮の一番高き塔。

 

 そこに今ものうのうと国王は生きている。

 今から女がしようとしている行動は本来の目的とは違う。しかし、国王の命を取っておいて何も損はない。

 自分達から奪ったもので得た権力など誰が認められるか。大方、先祖が創ったものをそのまま継いだだけの何も考えない木偶人形と同じ存在、死んだところで悲しむ者など誰もいない。

 

(護衛も相応の数がいる……だがその程度、容易く撃ち抜ける)

 

 スコープが映し出すのは景色だけではなく、壁の向こうにいる人間が何人か見える。

 国王と言うだけあって魔力は相応に濃いもの。しかし、人徳もなければ(マナ)にすら愛されていない。

 

(オマエに真に味方する者など誰もいないということだ)

 

 見てくれだけの空っぽな存在に滑稽を越えて一種の哀れみさえ覚えてくる。

 他には魔道士のも何人かいるがこの距離では誰も気付くことはない。

 女にとって例えいくら壁があろうとも。防護障壁があろうとも。関係ない。

 今から放つ一撃は必殺の一撃。

 どれだけ壁があろうとも阻むことの出来ない不可視であり不可避な一発。

 

「我々の礎となれ――」

 

 魔弾創成魔法”死榴弾(デッドバースト)”。

 狙撃銃の銃口から放たれた一条の光。極限まで圧縮された黒と紫は螺旋を描きながら一直線に突き進む。

 躱しようのない一撃に国王も――いや、何か影が見えた。

 

 途端、一直線に標的を狙っていたはずの”死榴弾(デッドバースト)”が不自然に炸裂する。

 スコープで見れば何か鎧を着た者が”死榴弾(デッドバースト)”の進行を阻み、後方へ吹き飛ばされる。

 鎧など容易く貫く威力だというのにその者の四肢が散ることはない。

 

(バカな、そんなこと出来るわけが――)

 

 女の行動を読み、寸分違わず射線に入り、傷一つ負っていない。

 一体何者なのか、しかもその者は吹っ飛ぶ最中に遥か遠くにいるはずの女と目を合わせたのだ――

 

 ◎

 

(いっっっってぇ!! 何だあの魔法!!)

 

 実弾ではなかったために魔力を吸収したことでキリヤの身体を貫くことはなかったがその威力はキリヤにしっかりと届いていた。

 まるで身体が内側から爆発したような。鎧など完全無視の一撃。

 巡り会う敵はどうして毎度ここまで手練れなのか、キリヤは不意に考えてしまうが幸い今の一撃を受けたことで相手の(マナ)の色が分かった。これで追尾出来る。

 

 ――と、考えていたキリヤは思い切り王宮の壁に叩き込まれてしまう。

 壁、何かカーテンらしきものに絡まって、挙句キリヤの身体は柔らかい反発性のあるクッションのような場所に大の字で倒れる。

 

「いてて……何だこりゃ」

 

「な、なななな何者じゃ貴様は!?」

 

「……あ?」

 

 吹っ飛んでいる最中に方向感覚など完全に麻痺していたキリヤだが上体を起こせばこちらに向けてがなり立てている中年男性が大きく指を差してきていた。

 どうやらここはどこかの寝室、のようで中年男性の傍にいた二人の女性も驚いた様子でキリヤを見ている。

 とりあえずキリヤは中年男性に近付くと、

 

「ヒトに指差しちゃダメなんだぞ」

 

「ぎゃぁあああああああ!? 余の指がぁああああああああああ!?」

 

 差してきた人差し指を軽く捻ると中年男性からそんな悲鳴が聞こえてくる。

 本当に軽くやっただけなのにこの絶叫。

 何なのだろうかこのおっさんは、率直な感想を言いたくなるがきのこのような髪型をした男性が焦った声を上げる。

 

「な、何をしているんだ! そのお方はこの国の国王だぞ!」

 

「そうだ! この余こそこの王国の元首であり魔法帝よりも偉大な存在なるぞ!!」

 

「……このショボイおっさんが?」

 

 もう我慢出来ずに言ってしまった。

 ちょび髭が唯一の特徴と言えばいいのか。国王と言う割には器の小さそうな容貌。あまり絵の才能がないキリヤでも描けてしまいそうな顔をしている。

 と思えば(マナ)だけは神々しく、あながち嘘とは思えないように見える。

 これに便乗した自称国王の中年男性はあれやこれや言ってくるが――

 

「っ! あぶねえ自称国王!!」

 

「だから余こそがぶるしゅっ!?」

 

 再び見えた黒と紫の一閃にキリヤは自称国王の首根っこを掴んでその身を回転させる。

 寸でのところで間に合ったか自称国王の衣服に少し掠る程度で済むが余波でさらに転がされる。

 

「今のは……」

 

「狙撃手がいんの!!」

 

「だがここには高度な防護障壁が張られている。それなのにどうして――」

 

「単純に全体守ってるより一点特化の方が強いんだって!」

 

 言いながらキリヤは自称国王を転がしながら狙撃を防いでいく。

 これだけの精密性。ただこちらを覗いているわけではなく、国王の(マナ)の色を覚えて的確に狙ってきている。

 

「き、貴様! 国王たる余にこんな無礼な扱いただで済まぬと思――」

 

「うるっせえ!! ホントなら一発目でテメェは死んでたんだぞ!!」

 

 感謝される覚えはあれど責められる覚えはない。

 自称国王直属のフードを目深に被った者達は困惑の色を強め、きのこ頭の男性も判断に迫られている状況。

 あまり後手に回ってはいつか限界が来る。だったら――

 

「空間魔法使える人いませんか!? 国王を一旦ここから避難させて欲しい!! 出来れば王貴界から離れて!」

 

「た、確かにこの濃度の攻撃魔法を一点集中でされれば我らの防護障壁も紙同然……仕方ない。もう少しだけ耐えてくれ! すぐに空間魔法を使える者を手配する!!」

 

「なっ! 貴様ら余に王宮(ここ)を離れろと言うのか!?」

 

「死ぬよりマシだろ!!」

 

「ならん!! 余がこの場にいても何とかせい!!」

 

「……」

 

 反抗の意を見せる自称国王の胸倉を掴み上げる。

 今回の相手はベレラファスラとはまた違った強さを持っている。正直、接近出来たとしても僅かな隙にまた自称国王を狙って狙撃されてしまえば防ぎようがない。

 魔宮(ダンジョン)攻略時とは違い、今は連携が取れる。あらゆる可能性を考慮し行動しなければならない。

 

 守ろうにもこんな調子でいられればいくらキリヤでも流石に苛立ちを感じる。

 別に尊敬もしていないし、傲慢な態度に助ける意味も見受けられない。

 だったら、とキリヤは自称国王の胸倉を掴んだまま自らが飛んで来たせいで大穴が開いた壁から外へ向かって自称国王ごと手を伸ばす。

 

「ここにいて死ぬか、少しの間ここから離れて生き残るか!! 選べ!! それともオマエが魔法帝よりも偉大って言うならオマエがアイツと戦ってみるかァ!?」

 

「ま、待て! 待たんか! 余……余が死んだらこの国は終わりぞ!?」

 

「そうなったら魔法帝がオマエの代わりに国王になるだろうよ」

 

 本当に魔法帝より偉大ならばたかが地面が遥か下にあろうとも足が震えることはない。

 キリヤは酷く冷静な表情のまま試しに掴む力を緩めてみる。

 即座に自称国王がキリヤの腕にしがみつくように手を回し、どうにも飛行魔法すら覚えていないようだ。

 

「……で、どうする? 次ここにいるっていったらここから落とすけど?」

 

「わ……分かった! 少しこの王貴界から離れれば良いのだろう!?」

 

「賢明なご判断に感謝」

 

 最初から素直にそう言っていれば良かったのだ。

 キリヤは王宮の中に自称国王を戻せばきのこ頭の男性が手配しただろう空間魔法の使い手がいそいそとやってくる。

 

「ささあ国王、こちらから避難を……」

 

「ぐぬぬ、貴様覚えておれよ! 鎧で顔は分からんが――」

 

「うっせえ早く行け」

 

 空中に開いた空間に入る寸前に自称国王は捨て台詞を吐こうとするが構わずその尻を蹴り飛ばして移動させる。

 キリヤの行動を一部始終見ていたきのこ頭の男性が呆気に取られたような表情をし、

 

「き、君は勇気があるな……」

 

「そうスか? それより空間魔法の人、オレもあの壁んところまで飛ばしてくれねえか?」

 

「狙撃手をたーいじするのですね! かしこまりましたーっ!」

 

 察しが良い空間魔法の使い手はすぐに新たなゲートを開いてくれる。

 それを見てキリヤは親指を立てると、

 

「ありがとう!」

 

 飛び込めば不思議な感覚だがすぐさま光景が変化し、眼下に狙撃手だろう女が姿を見える。

 突如としてキリヤの姿が現れたことで女は驚くもキリヤは構わず突撃する。

 

「見つけたァ!!」

 

 ◎

 

 二十代と言ったところか。

 狙撃手の女は白銀の髪を靡かせるその容姿は一言で言えば麗人だった。外套を風に靡かせ、中は動きやすさを重視した軽装。ところどころにホルスターが見えており、見間違えるはずとなくこの女こそが狙撃手。

 相手は敵を捉えた猛禽の眼光を輝かせ冷静に言う。

 

「魔弾が当たった瞬間、すでに私の位置を読んでいたか」

 

「おうよ!!」

 

 足裏から魔力を放出、一気に距離を詰めれば女はすぐに狙撃銃を消し両手に拳銃を構える。

 魔弾創成魔法”雷装弾(ライトニングバレット)”。

 先ほどの魔弾よりも遥かに速い目にも留まらぬ魔弾の連射。雷が身を貫く威力が身体を撃つが先ほどの魔弾と違ってまだ鎧で防げる。

 

(雷属性か!)

 

 先ほどの狙撃。雷属性とならばあの速度も頷ける。

 肉薄し、拳を振るえば女は一歩下がることによって躱し、キリヤの肩を台に跳躍する。

 途端、女の靴裏には小型の回転式拳銃がいくつも仕込まれており、手に持っていた拳銃と同時に火を噴く。

 

 魔弾創成魔法”激流驟雨弾(アクアバレッジバースト)

 高出力で放たれた水の弾丸。文字通り雨の如く降り注ぎ、キリヤの追撃を許さない女は上空へ舞い上がる。

 

(は!? 今度は水!?)

 

 通常魔道士はそれぞれ一種類の属性しか(マナ)を持っておらず、そこから派生した一種類の魔法しか使えないはずだがこの女は軽々しく二種類使って見せた。

 さらに女は拳銃を消せば二回り以上大きな銃を構え、撃ち放てば銃口から竜を模した火炎が飛び出す。

 

「三種類目っ!?」

 

 魔弾創成魔法”火竜炎舞弾(インフェルノドバースト)”。

 キリヤを飲み込んだ火の竜は空を舞い、キリヤの身体を建物の壁に思い切りぶつける。

 

「こんの……っ!」

 

 瓦礫を蹴り飛ばして飛び出したキリヤだが次に迫るのは風を纏う岩の弾丸。

 魔弾創成魔法”岩突風貫通弾(ガイアブラストバースト)”。

 躱そうにも数が多く、キリヤが腕を交差させて防いでいれば一際巨大な弾丸が襲いかかる。

 

「全属性使ってんじゃねえかッ!!」

 

 炸裂音と共にキリヤの姿が砂埃の中へと消えたが女はまるで警戒を怠っていない。キリヤが無事なことをすでに分かっているからだろう。

 

「――私の名はサイル。全ての属性の(マナ)に愛された者だ」

 

「上等だ。オレの名はキリヤ――属性に全く愛されなかった無属性の男だぜ!!」

 

 愛された者、愛されなかった者。

 向き合った二人は互いの(マナ)をぶつけ合い、そして魔弾と拳がぶつかり合う――

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