オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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24話「新たな進化VS魔弾の射手サイル」

「何故あんな国王を庇う!?」

 

「仕事だから!!」

 

 多種多様な魔弾の数々を弾きながらキリヤは突き進む。

 サイルと名乗った女の戦闘スタイルは中距離(ミッドレンジ)。キリヤの拳の範囲外にいて、距離を詰めようにも魔弾の手数が凄まじい。

 

 屋根を蹴り、互いに加速。

 眼下では先ほどの食事会にいた面々が生気の感じられない亡者の群れを一網打尽にしており、サキムニ達も負傷者の安全確保と治療に尽力を尽くしている。

 各々の活躍する姿にキリヤもよりやる気を出せば視線をサイルに戻し、

 

(そっちが距離を取り続けんなら――)

 

 拳の届く範囲にいないのであればキリヤは自らの拳を伸ばせばいいと篭手を魔力で覆う。

 魔力格闘技”獅子戦刃(ライオネルカット)”。

 獅子の爪を模した魔力で魔弾ごと相手を薙ぎ払い、さらに全身から獅子の手を幾本も伸ばせばサイルを狙って追尾する。

 

「っ!」

 

 多方面から攻める獅子の手をサイルは全て紙一重で躱せば魔力を手に持つ銃に装填。放たれた魔弾にキリヤも先ほど同様に腕を交差させて防ぐが――寸前で魔弾が暴発。

 

 魔弾創成魔法”激流葬水牢弾(アクアプリズバースト)”。

 キリヤを中心に半径十メートルほどの水の球体に閉じ込められれば一気に動きを封じられる。さらに水球の牢獄は荒れ狂い、流れる激流に巻き込まれキリヤの身体は水中でもがく。

 

「攻撃範囲を伸ばした……だったら私はさらに距離を開く。貴様の手が届かなくなるまで」

 

「じょぼぼぼぼぼっぼぼがば……っ!」

 

 上等だ、そう言おうとしても水中なので上手く話せない。

 それにここでキリヤの新たな弱点が発覚してしまう――シンプルに泳げない。

 鎧のせいでさらに動きが鈍重になれば湧き立つ泡のせいでサイルがどこに立っているかさえ分からない状態になってしまう。

 どうしよう、思ったところで水中で泳げないことが仇となって上手く思考も回らない――

 

 ◎

 

 自らを追ってきた鎧の戦士の動きは封じた。

 サイルは適当な屋根に着地すれば戦場と化した王貴界は静けさを取り戻していることに気付く。

 見ればサイル側の魔道士が出した死屍魔法で生み出された亡者達が一箇所を除いて全て倒されてしまっていた。

 

(それぞれの陽動は済んだ。となれば――)

 

 片手に持った拳銃を空に向けて撃ち上げる。

 今までの魔弾とは違い、赤い煙が天高く伸び、それは合図と化す。

 

『――全員マーキングエリアに入ったか』

 

 言った瞬間、それぞれの場所に黒い斑点が生まれ、一気に広がれば魔法騎士達が空間魔法に気付いたところでもう遅い。

 若干名取りこぼしがいたようだがその相手をするのはまた別の者の役目だ。

 自らが討ち取るべき国王の(マナ)は流れを探ってもすでにこの近辺にはいない。あの自尊心の塊だと思っていた国王も自らの命が惜しければすぐに逃げ出す。

 

「……さて、そろそろトドメを刺すか」

 

 逃げられたのも全て勘が鋭かったあの鎧の戦士のせいだ。

 今も水の牢獄で苦しむ姿に銃口を向ければ――

 

「魔弾創成魔法”氷結散華弾(ブリザードフラワバースト)”」

 

 放たれたのは水を一瞬にして凍らせ砕く対水魔法戦で使われる魔弾。

 それを自らの水で閉じ込めた相手に向かって放てばどうなるか、それは想像に容易い。

 すでに引き金を引いており、撃ち放たれた一発は水へ触れようとするが――

 

「――テメェ姫様に何しやがった……ッ!!」

 

 水に触れる寸前、魔力で形取られた獅子の手が飛び出し魔弾を弾く。

 荒れ狂う激流のはずが水は地面に零れ落ち、その中から鎧の戦士が怒りの声音で飛び出す。

 

「邪魔だったから他の者達と共に遠くに飛ばしただけよ」

 

「邪魔? つうかオマエら何しに来たんだよ。自称国王様ならもういねえぞ」

 

「私達の目的は国王暗殺なんかじゃないわ。独断で行動することを許された私が勝手にしているだけよ」

 

 聞けば聞くほどこの鎧の戦士、声が若い。どうにも少年のようだ。

 もし、彼が生きていれば――

 

「だったら早めに決着つけた方がイイみてえだな」

 

 一瞬、思考が戦闘から外れたサイル。

 そんなことは露知らずに鎧の戦士は魔導書(グリモワール)から一丁の拳銃を引き抜く。

 

「その銃は――」

 

 黒く煤け、一見とても銃弾など込められやしないもの。

 だが、その拳銃は――

 

 ◎

 

 今は王都内の治療に回しているサキムニ達の力を借りられないために”兎々戦の鉄鎧(レベル3・ビビットアーマアルナブ)”は使えない。

 このまま”強化鎧旋(レベル2・ガイガーアップ)”で戦ったところで決定打に欠けている――ならば魔宮(ダンジョン)で手に入れ、自らの魔法に追加された拳銃に賭けるしかない。

 

 恐らくこの拳銃の中にも何かしら精霊らしき者はいるのだろうが未だにその声は聞こえない。

 だが進化(レベルアップ)に必要な魔力は蓄積され、キリヤは引き金に人差し指を通し銃口を下に向ける。

 

「頼む、オレに力を貸してくれ! 進化(レベルアップ)!!」

 

 声と共に銃口から魔法陣がいくつも飛び出せばキリヤの身を包み込む。

 魔法陣はキリヤに触れた途端闇となって煙となり、中で魔力が火花を散らせば新たなキリヤの姿が露わとなる。

 黒い魔力を翼のようにはためかせ、鎧の形状は全体的に刃物のように各部鋭くなり、兜もより凶悪な形状となって悪魔の如く口部が凹凸を刻み牙を模す。

 

 身体進化魔法”斬鉄の吸魔鎧(レベル3・ガンドレイドラーマー)”。

 変身し終えたキリヤの前に魔力が集えば手に持っていた拳銃が形状を変え、黒く煤けているのは変わらないが剣が付いた歩兵銃となれば再びキリヤは受け止め構える。

 

(銃なんて魔宮(ダンジョン)以来だけど……ッ!)

 

 銃剣の照準をサイルに向けキリヤは引き金を引く。

 だが、サイルのと違って弾が出ない。というより引き金自体が固すぎて動くことすらない。

 思わず流れる沈黙にキリヤは自らが構えている銃剣を見つめ、

 

「……何も出ねえ…………?」

 

「……私を嘗めているのかしら」

 

 しかも魔力の流れが銃剣を持っている右手から右肩まで完全に途絶えてしまっている。

 マナスキンを解くなと散々メレオレオナに言われてきたがマナスキンも右腕のみ消えており、進化したキリヤ自身困惑の極みだが相手は待ってくれない。

 魔弾創成魔法”乱反射光明弾(ミラーバウンドバースト)”。

 自ら持つ銃を構えたサイルは様々な角度に魔弾を放てば壁で反発し、困惑するキリヤの身体を多角度から捉える。

 

(いってぇ右腕! それ以外は……何か平気だ!!)

 

 右腕だけ鎧越しでも痛みが走るがその他に痛みはない。

 やはりレベル3となれば防御力は相当堅固なもの。右腕にさえ気をつければ上手く立ち回ることが出来る。

 屋根を蹴って駆け出したキリヤに再び襲い掛かる火の竜に真正面から銃剣を振るう。

 一刀両断。銃剣が横一閃に斬り裂いた火の竜は跡形もなく消え、漂う魔力は全て銃剣に収められる。

 その光景にサイルもキリヤも互いに驚く。

 

(斬れた……ッ!)

 

 まるでアスタが持つ(アンチ)魔法の剣と同じ。

 明確に違うのはアスタの剣は魔法を斬り裂いても氷や岩など形あるものは残ってしまう。それはキリヤも同じで魔力を吸収出来るものの実体のあるものは中身の魔力を吸収するだけなので消すことは出来ない。さらに――

 

(今なら撃てる気がする――ッ!!)

 

 あれだけ魔力を感じられなかった銃剣に炎属性の魔力が宿る。

 固かった引き金も今なら引けると感じ――引けば銃口からサイルの魔弾魔法と同じ火の竜が飛び出す。

 

「弾出た!!」

 

「っ!」

 

 あまりの嬉しさに声を上げてしまったがようやく仕組みが分かった。

 この銃剣の能力は魔力が込められているものに触れればその実体ごと吸収する。つまりキリヤの魔法の完全上位に属する能力だ。

 貯蓄(ストック)出来るのは恐らく完全に魔力が(カラ)になっていた右腕分。

 喜ぶキリヤだが火の竜を放てば右腕分の魔力は再びゼロになり、対しサイルは――

 

「魔弾創成魔法”虚空弾(ゼロバースト)”」

 

 撃った魔弾に触れた火の竜は一瞬にしてなかったことにされる。

 吸収でも何でもない――ただ消された。

 空中で銃口から火を噴かせたサイルはそのままキリヤに肉薄。魔導書から大砲ほどの大きさをした巨大な銃を取り出しキリヤの腹部に押し当てれば――

 

「吹き飛べ!!」

 

 魔弾創成魔法”迫撃堕落弾(ゼルファーバースト)”。

 光が瞬いたかと思えばキリヤの視界は一気にブラックアウトし、その身は遥か後方へいくつもの建物を破壊しながら吹き飛ばされていく――

 

 ◎

 

「だぁークソ……油断した……」

 

 例えどれだけの力を有していても戦場では一瞬の油断が命取りになる。

 首を振るって起き上がれば火花が散りまくっているように眩しかった視界も回復し、アスタ達の姿が見える。

 

「あ、新手……?」

 

 アスタの傍にいたノエルがそう口にするがキリヤは立ち上がると全身で否定し、

 

「オレっスよノエル様」

 

「その声は……キリヤか!?」

 

「そうそう。これがオレの身体進化魔法……って言ってる場合じゃねえ。そっちの状況は?」

 

 アスタもようやくキリヤだと理解したところで状況把握するために問う。

 するとノエルは一点を指差し見てみれば片目を黒い帯で隠した男が炎によって拘束魔法を施されており、レオポルドがその胸倉を掴み上げている。

 

「さっきまでフエゴレオン団長もいたんだけど空間魔法でどこかへ転移されて。でもあんなピンポイントな空間魔法、相当術者が近くにいないと――」

 

「……そこだァアアアアアア!!」

 

 言葉の途中でアスタが走り出したかと思えば動かなくなった亡者の山に大剣を振るう。

 舞い上がる屍の中に一人動く者がいて、その者は空間魔法で転移し、高い建物の屋根からキリヤ達を見下ろす。

 

「よく見破ったな。その勘、まるで獣のようだが――すでにことは済んでいる」

 

 言った瞬間、地面に空間魔法で何かが転移する。

 そこに倒れていたのは片腕を失った――フエゴレオン。

 誰もが一瞬呆気に取られ、一番に叫んだのはレオポルドだった。

 

「嘘だろ……」

 

 あのメレオレオナの弟がこんな簡単に倒されるとは、キリヤにも信じられることではなかった。

 手合わせしようと言ってくれたのに、それはもう叶わない。そう思えば思うほどキリヤの思考は真っ白になっていく。

 

 キリヤの背後に降り立ったのはサイル。

 倒れたフエゴレオンを見ればサイルは何も思わず、こう言った――

 

「王都を襲撃した私達の目的は初めからフエゴレオン・ヴァーミリオン、彼にあったのよ」

 

「…………殺す」

 

 その言葉にキリヤは拳を握り締め、ゆっくりと振り返る。

 真っ白になりかけたキリヤを留めたのは他の何でもない――純粋な殺意だけだった。

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