オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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25話「吸魔の銃」

「ブッ殺す!!」

 

 すでに冷静さを失った鎧の戦士は銃剣を握り締めサイルに正面から突貫してきていた。

 力も痛いほど込め、あれだけ一定に薄く張り巡らされていた(マナ)も感情の機微によって狂いに狂う。

 それでは身体能力強化もまばらになり、力任せに振り回したところでサイルに掠りすらしない。

 

「せっかくの”吸魔の銃”でも持ち主の精神が未熟ならばその程度ね」

 

「んだとテメェ!!」

 

 冷静さを欠いた時点で勝負は決まった。

 大振りの拳を躱せばサイルの蹴りは鎧の戦士の側頭部を捉え、

 

「魔弾弱体化魔法”弱除弾(スリングバースト)”!!」

 

 側頭部を捉えた蹴りは靴裏からの魔弾放出によりさらに加速し、蹴りの威力を数段階跳ね上げる。

 残像を残し高速回転で壁に叩き込まれた鎧の戦士から破片が飛び散るのが見えた。

 ”弱除弾(スリングバースト)”は相手の身体能力強化を無効にし、あの鎧の戦士であれば身体能力を向上させている鎧を砕くことが出来る。さらに相手の能力を一時的に弱体化させ、酷い倦怠感を与える。

 

 あれだけ膨れ上がっていた魔力も(マナ)の流れを読み取ればすでに失われ、大幅に性能は下がった。

 何をしようともこれ以上は無駄だ。すでに勝負は着いている。

 それより今は死屍魔法使いのラデスをどうにかしなければならない。ヴァルトスの空間移動魔法で転移しようにも”退魔の剣”や”宿魔の剣”に阻まれ上手く転移出来ない状況にある。

 

「クソが!! ヴァルトス早くしろ!!」

 

 今や相手に殴られる一方で、惨めに助けを乞う始末。

 普段から自分は王族以上の才能があると傲慢な態度を見せていたがこれでは哀れな鼠と何ら変わらない。

 だがあの死屍魔法にはまだ利用価値がある。ならば――

 

「どこを見てやがるテメェ……ッ!!」

 

「ッ!」

 

 言葉と共にサイルは回避行動を取ればすぐ傍を魔力によって形取られた獅子の爪が空を切る。

 そのことにサイルは素直に感心していた。

 あれだけの一撃を身体強化なしの生身で受けたようなものだというのにまだ立ち上がるのか。それに弱体化魔法を喰らったために倦怠感も凄まじいはずだ。

 見れば少年は拳を地面に叩きつけながら何一つ闘志を消していない。

 

「オレはまだ負けちゃいねえ……っ!!」

 

 今までは兜によって隠されていた容貌、鎧が崩れたためにその素顔が見えた。

 その瞬間――サイルは驚愕で目を見開く。

 あの黒い髪、目つき、口端から覗く八重歯、全てが過去のものと一致してしまう。

 見間違えるはずなどない。

 何故、そんなことは分からない。だが――確かに生きていたのだ。

 

「アルーグ……っ!」

 

 ◎

 

 アルーグはとても人懐っこい性格をした少年だった。

 笑った顔が可愛くて、故郷でも皆が友達だと素で言えるほど『壁』を作らず、人を信じられずに皆を遠ざけるように生活をしていたサイルとは大違いだった。

 

 ――オレと結婚してください!!

 

 などと出会って開口一番に言ってきたのは衝撃的だったが。

 最初は勿論アルーグのことだって遠ざけた。だが毎日のように顔を出して、いつしかサイルも心を許すようになっていたのだ。

 

 何でもアルーグは受け入れてくれた。

 いつも傍にいてくれて、落ち込んでいる時も励ましてくれて。

 同じ時間を共にしていくことでサイルにとってはかけがえのない存在だったのだ。

 いつまでもこの時間は続くと思っていた。彼が成人した時、婚姻の儀をし、ずっと共にいられると思っていた。

 

 だが、一夜にしてその夢は焼き尽くされる。

 攻めてきた人間がサイルから何もかも奪ったのだ。

 アルーグさえも――

 

『やめろ……私からその人だけは、その人だけは奪わないでくれ……』

 

 血に塗れながらもサイルは手を伸ばす。だが、その手は虚しく空を切るだけ。

 何故か人間はあれだけの虐殺をしておきながらアルーグだけは連れ去った。何が目的なのか、何故アルーグなのか、それは誰にも分からなかった――

 

 ◎

 

「アルーグ? そんなヤツ知るかァ!! くたばれ!!」

 

「どうして私のことが分からないの!?」

 

「オレの記憶が二年前からしかねえがテメェのツラなんざ見たことねえよ!!」

 

 鎧を外しキリヤの顔を見た途端にサイルの様子がおかしくなった。

 アルーグなどと聞いたこともない名前を言い出し、得意の魔弾魔法を何一つ使わなくなったのだ。

 鎧は砕かれ未強化(レベル0)に戻ったがおかげで冷静になった。

 マナスキンは再び一定となり、キリヤは強化した身体でサイルに肉薄する。

 

「二年前……? でもアルーグはあの時……」

 

 戦闘中だというのにサイルは何かを考え、しかしそれが明確な隙となる。

 跳んで躱したサイルにキリヤは好機と感じ、最大限の魔力放出をもって拳をサイルの腹部に直撃させる。

 

「が……っ!」

 

(魔力を回して竜巻を起こすイメージで……ッ!!)

 

 魔力格闘技”獅子螺旋砲(ライオネットシャウト)”。

 当てた拳から魔力を螺旋に放出。拳を中心に(マナ)の嵐を引き起こすことでさらに拳をめり込ませて威力を跳ね上げる。

 今の状態で出来る最大の一撃。荒れ狂う魔力の奔流に巻き込まれたサイルはそのまま一直線に回転しながら飛ばされ、遠くの建物へと打ち込まれ砂埃が舞う。

 

「ハッ! ざまァ見やがれ!!」

 

 拳を握り何とか強敵を撃破したキリヤはすぐさま倒れたフエゴレオンの元へ駆け寄る。

 ノエルが布を押し当てて止血する中、サキムニ達が懸命に回復魔法を施しており、

 

「ぜってぇ死なせるんじゃねえぞ」

 

『うンっ!』

 

 サキムニ達に任せていれば恐らくフエゴレオンは助かる。

 ただキリヤ達に劣勢なのは未だに続いており、キリヤ達を囲むのは新たに現れた五人の魔道士。

 

「あの方から報を受けて来てみれば……何とも情けない」

 

「待ちなさい! アルーグがいるのよ!! 勝手な真似は私が許さないわ!!」

 

 声がしてすぐに瓦礫を押し退けて立ち上がったサイルは拳銃をキリヤ達にではなく、現れた魔道士達に向ける。

 仲間であるはずだが向ける殺意は本物であり、魔道士達も肩を竦める。

 

「……確かにアルーグ様に似ている。しかし、他人の空似であることは否めない」

 

「だったらリヒトに確かめさせればいいわ! 私が拘束する!!」

 

「余計な荷物を増やそうとすんじゃねえよ!!」

 

 何やら言い争っているようだが正直サイルには立って貰いたくはなかった。

 先ほどの弱体化魔法、思った以上に効いてしまっているようで身体は倦怠感に包まれ、魔力放出もままならない。

 今のところ出せても本調子の四割程度、そして魔力の質から言って相手はサイルほどではないにせよどれも手練れのようだ。

 背中合わせにアスタとなればキリヤは小さい声で言う。

 

「アスタ、レオポルドと一緒に前の四人頼めるか? オレはあの女と一人をやるからよ」

 

「ああ……こっちは任せとけ!」

 

 アスタはそれまでの戦闘で深手を負っていたのか出血が酷い。

 しかし、その傷口に大剣と西洋剣を当てて斬れば中から誰かの魔力が出て止血される。

 

「こちとら生まれて逆境なんだよ……! 何が来たって撥ね返してやらあ!!」

 

 その言葉をきっかけにキリヤも飛び出す。

 囲うようにしている五人は一斉に魔力を放つがキリヤは魔導書(グリモワール)から拳銃を取り出せば一つに向かって投げ飛ばし、もう一つは自らの身をもって受ける。

 

「コイツ……魔力を吸収するのか!」

 

 魔力を得るも弱体化の効果が続いているせいで吸収した魔力はまるで進化(レベルアップ)には至らない。

 だがそれを見越してキリヤはあの拳銃を投げており、予想通りキリヤと同じように魔力を吸収してくれていた。

 

「だったら……ッ!」

 

 拳銃を宙で受け取ればキリヤは引き金を撃ち、別の属性を持つ魔道士に直撃。

 しかし防護魔法で防いがれてしまい、挙句反動が強く思わず拳銃を手放してしまう。

 

「この拳銃は……」

 

 飛んでいった先、魔道士の一人が拳銃を受け取ってしまった。

 キリヤも勿論焦ったが何より声を上げたのは――

 

「すぐに放しなさい!!」

 

「何を……っ!?」

 

 サイルが焦燥に満ちた声を上げればその魔道士の身体が一度大きく脈動する。

 金縛りにでもあったように動けなくなり、やがて一瞬で全身の魔力を吸い取られ、全身枯れ果て倒れる。

 あまりにも一瞬のことでよく分からず、キリヤも取るのを躊躇うが自分は普通に触れるようで、

 

「”吸魔の銃”は宿主以外が触れれば全ての魔力を吸い尽くされる。そんなことも知らなかったのかしら……」

 

(オレも知らなかったけどな……てか下手したらオレあの魔宮(ダンジョン)で死んでたってことか……)

 

 魔力、魔法が飛び交う中、サイルは呆れた様子で言うがおかげで良いことを聞いた。

 キリヤが拳銃を見せれば枯木になる光景を見ていた他の魔道士は一歩退く。

 それもそうだろう。一度でも触れたら即死なのだから。

 

 だがキリヤがそうしているうちにアスタとレオポルドが風魔法によって撃ち抜かれ、地面に倒れ込む。

 やはり負傷しているのが痛手と出たか。次いで降る風の槍にキリヤはアスタ達を庇うために覆い被さり――

 

(何とかなってくれ――ッ!!)

 

 全て自らの身体に当てれば痛いが防ぎきれるが――そうはならなかった。

 いや、キリヤの身体に触れることすらなく、キリヤの前に銀の膜が覆って風の槍を防いでいたのだ。

 

「っ! この魔力は――」

 

 キリヤが振り向いた先、立っていたのは空間魔法によって飛ばされた団長達だった。

 

「不本意ながら全員の魔法を組み合わせ戻ってきた」

 

「違う団とは相容れぬ――だが、我ら九つの魔法騎士団はクローバー王国の平和のためにある」

 

「そんなもの……ッ!!」

 

 サイルは重火器を装備し、キリヤへ向けて撃ち放つ。

 魔弾拘束魔法”獣捕獲網弾(スプレディアバースト)”。

 また魔弾かと思えば空中で魔力の網となりキリヤに向かって広がり落ちるが――

 

「こんな程度――」

 

 キリヤは拳銃を仕舞い手を構えたところで視界が唐突にぼやける。

 瞬間、地面から荊が噴き出した間欠泉の如く湧き出し網の行く手を阻む。

 見れば傍に立っていたのはシャーロット。柄しかない西洋剣からは夥しい数の荊が飛び出しており、サイルのことを睨みつける。

 

「姫様……」

 

「下がっていろ」

 

「でも――」

 

「弱体化魔法を受けている者に守られるほど私は弱くない。そこに転がる男共とサキムニから治療を受けろ」

 

「そうだぞ。オマエは……ま、まあ頑張った、方だ!」

 

 何だか照れくさそうに言うソルの脇に抱えられ、キリヤは前線から下げられる。

 邪魔をされたサイルは心底機嫌が悪いのか眉間に皺を寄せ、

 

「私の邪魔をするなら貴様から撃ち殺すぞ」

 

「吼えるな反逆者(テロリスト)、騒がずとも貴様ら全員見逃すつもりはない」

 

 露骨な怒りと静かな憤り。

 物言わずとも二つの巨大な魔力は水面下で鬩ぎ合う――

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