オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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26話「再会」

「待てサイル、オマエもあの小僧との戦いで疲弊している。このまま戦えばただでは済まない……退こう」

 

 今にも襲い掛かってきそうだったサイルを制したのは屋根から飛び降りてきた空間魔法の使い手だった。

 冷静に大局を見た判断だがサイルは聞く耳を持たず、

 

「アルーグが目の前にいてどうして退けるか……っ!!」

 

「……仕方ない」

 

 先に空間魔法の使い手が手を横に薙げばサイルだけが黒い穴に飲み込まれ消える。

 恐らく強制的な空間転移、そして空間魔法の使い手は魔道士達の元へ行けば――

 

「そう急くな」

 

 ノゼルは言った傍から相手の上空から銀の雨を降らせる。

 しかし雨は注射器から何かを注入されたゲル状の蜥蜴によって防がれ、アスタもそのゲル状の蜥蜴の腕に飲み込まれてしまう。

 

「アスタ!!」

 

「覚えておくがいい魔法騎士団――我らは〈白夜の魔眼〉、このクローバー王国を滅ぼす者だ」

 

 そう言い残し、黒に飲みこまれた魔道士達。

 姿は忽然と消え、残されたキリヤ達に一瞬の沈黙が訪れる。

 

「アスタが連れて行かれるなんて……早く助けないと……ッ!」

 

「魔力の色は覚えてる。サキムニ達に感知させればまだ間に合う!!」

 

『ご主人、ここからかなり遠いけド……』

 

「大丈夫だ、全速力で行けば五分もいらねえ! ここにいるオマエらはフエゴレオン様の治療を続けろ。残りはオレに魔力を――」

 

 今にも飛び出そうとするキリヤに腕を出して制したのはノゼルだった。

 睨むキリヤに意すら介さず冷淡にノゼルは言う。

 

「ダメだ。敵があれだけとは限らない以上、王都の守りを固めるのが先決だ。負傷者の手当ては完全に終わっておらず、ここに限らず貴様の精霊も必要となる。あのような者に割ける時間も魔力もない」

 

「だったらオレ一人でも――」

 

 王都の防衛、魔法騎士団としてすべきことは分かる。

 だがキリヤにとってアスタは友達であり、見捨てるなど選択肢にない。

 一歩踏み出すキリヤ。しかしその足から不意に力が抜け、キリヤの身体は地面に倒れる。

 

「クソ……っ! あの弱体化魔法がまだ……」

 

 時間が経つにつれ消えるかと思えば未だにその効果は衰えず、何ならキリヤからさらに魔力を奪い、体力までも奪う。

 歯噛みしているうちに負傷者の手当てを終わらせたサキムニ数匹が戻ってきてキリヤの解呪、治療を始める。

 

『ご主人、今の状態危なイ。だから安静にしてテ……』

 

「ちくしょうが……ッ!」

 

「はっ! さっきまでエラソーにしてたヤツが地面に這い蹲ってるとはイイ気味だぜ! それに団長ともあろう者まで地面に倒れてやがる。ヴァーミリオン家も落ちたもんだ!」

 

 倒れたままのキリヤの前に立ったのはソリド。

 見下ろしてくるソリドにキリヤも自分だけならまだしもフエゴレオンまで言われれば奥歯を噛み締め、拳を握り締め地面を叩く。

 

「黙れソリド」

 

 だが意外にもソリドに口を挟んだのはノゼルだった。

 

「魔法騎士団は勝たなければならない。だが、この場にいなかった我々はヴァーミリオン家もこの男も何一つ責めることは出来ない。現にこの男は国王の危機を誰よりも早く察知し、負傷者に対する治療の手立てもしてみせた。余計に我らがこの男達を責められる道理はない」

 

「…………はい……」

 

 見下ろし気分を昂ぶらせていたソリドもノゼルに一喝されればすぐさま萎縮する。

 魔法騎士団がそれぞれ守りを固める中、シャーロットはキリヤの前に膝をつけば視線を合わせ、

 

「……国王の身は?」

 

「…………割とメチャクチャしましたが生きています。でも、オレがもっと上手く立ち回れていればフエゴレオン様は――」

 

 言葉の途中でキリヤの頭にシャーロットの手が置かれる。

 次いで優しく撫でられ、目を丸くするキリヤにシャーロットは静かに言った。

 

「貴様によって多くの者が救われたことに変わりはない――よくやった。今は安静にしておけ」

 

『ご主人、負傷者の治療終わったヨ。次はどうすル……?』

 

 良いタイミングでそれぞれ散っていたサキムニ達が姿を見せる。

 それぞれ心配した表情を見せてくるもキリヤは手近な一匹の頭を撫で、

 

「オレは大丈夫だから余ったヤツらは他の魔法騎士団のヤツらと一緒に王都の守りを固めてくれ。終わったら一匹通じて連絡送るから」

 

『わかっタ!』

 

 サキムニ達は指示を聞けばまた数を分散させて散り、それぞれ魔法騎士団の指示に従って動き出す。

 シャーロットも去った今、キリヤは静かに仰向けになれば天へ手を伸ばし、

 

「もっと、もっと強くなりてぇな……」

 

 ◎

 

 テロリスト――〈白夜の魔眼〉によって引き起こされた王都襲撃は幕を閉じた。

 王権派は魔法帝に責任を追及したが民衆の支持は大きく魔法騎士団への期待が高まったことで事なきを得る。

 敵侵入の要因となったのは王都の魔法障壁を張る一部魔道士の失踪。寝返りか消されたか、双方の意見に分かれるだろうがこの件においてキリヤは今回の一件を裏で手引きした王都の魔道士がいると考えている。

 

 アスタに関しては〈白夜の魔眼〉の魔道士に連れ去られたものの、偶然〈白夜の魔眼〉の出現地点を予測し待ち伏せていた魔法帝によって救われ何とか無事に戻ってこられた。

 一方、キリヤによって救われた国王だったがキリヤの対応が気に入らず色々言ってきた。だが負傷者の保護、結果的に国王の命を守るために尽力を尽くしたことを魔法帝から考慮、説得されたことから処罰は免除。

 今回の働きによってキリヤはさらに星を進呈され、結果的に三等上級魔法騎士にまで上り詰めてしまった。

 

 シャーロットに頼んで休暇を得たキリヤが今向かっていたのは――森。

 恵外界に存在する森の中にキリヤはやってきており、すでに目当てとなる魔力は感じていた。

 木々に覆われた茂みを抜ければ森林の中でも広い草原へ出る。

 

 中心に巨大な獣に座り込んで焼いた肉を頬張っていた相変わらずのメレオレオナ。

 キリヤの気配に気付き振り向けば無表情のまま近付いてきて――

 

「何だその腑抜けた(ツラ)はァアアアアアアアアア――!!」

 

 開口一番怒号からの顔面へ拳骨がキリヤへと襲い掛かった――

 

 ◎

 

「――ほう、王都でそんなことがあったのか」

 

 再会して十秒も経たずに殴り飛ばされたキリヤは正座して、王都襲撃事件のことをメレオレオナへ話していた。

 メレオレオナは腕を組みながら一応聞いてくれてキリヤの声は途中から小さくなっていく。

 

「フエゴレオン様だってオレがあの女に苦戦してなかったら片腕だって無くならなか――」

 

「驕るなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!!」

 

 再会してまだ十分も経っていないうちに二発目の拳骨。

 一際強い拳骨にキリヤも大の字で倒れて起き上がれず、メレオレオナの(マナ)は燃え上がる。

 胸倉を掴まれ起こされたキリヤにメレオレオナの顔が間近に迫る。

 

「イイか糞莫迦弟子。その時の貴様は国王を守るために狙撃手と戦っていたのだろう。そして愚弟は市民を守るために戦っていた。貴様の言う『手の届かない』場所にいたということだ。それに愚弟は曲がり(ナリ)にも団長、貴様の助けなど要らぬ」

 

 フン、と鼻を鳴らしたメレオレオナは言葉を続ける。

 

「貴様は貴様に出来ることをし、愚弟は愚弟の出来ることをしていた。たらればを語り勝手に気に病むなどそれは愚弟を冒涜する行為だ。少しでも悔やむ気持ちがあるならばそれを糧にして今よりも強くなれ」

 

「レオナ様……抱きついてイイですか?」

 

 三発目の拳骨。

 怒りが静まったと思えばメレオレオナはそれよりも大きな怒りポイントがあったようで、これまでにないほど(マナ)が燃え上がる。

 

「何より気に入らないのは貴様が負けたことだ!! あれだけ戦闘中に己を律することも出来ないのは莫迦の極みだと教えてやったのに冷静さを失って弱体化魔法を打たれて負けただと!? 不甲斐ないにも程があるぞ大莫迦者がァアアアアアアアアアア!!」

 

「ま、負けては……ないです。負けかけただけですよ……」

 

「言い訳するなァアアアアアアアアア!!」

 

 本日四発目の拳をぶつけられ、キリヤはまたダウン。

 これだけ殴られて鼻血すら出ないのは流石に二年以上同じ時を過ごしたからかもしれないがそれどころではない。

 

「私は弱い者に興味はないと言ったはずだ!! 私に負けるならまだしも他の女に負けるとは何事だァアアアアア!!」

 

「ごめんなさい!! でもオレはもうレオナ様以外には負けないからどうか嫌いにならないでくださァい!!」

 

「嫌いだったら会話すらせんわァアアアアアアアアアアアアアア――!!」

 

 五発目。今日は短時間でいつもよりも多く殴られてしまっている。

 だが言いたいことは言い終えたのかメレオレオナの怒りの炎は静まり、再び腕を組む。

 

「貴様にはまだ修行が必要なようだな……」

 

「え、修行つけてくれるんですか!? でもオレ休暇三日しか貰ってないですけど大丈夫ですかね!?」

 

「甘えるなァアアア!! 全ては貴様次第だ!!」

 

 六発目。

 今日は不機嫌なメレオレオナに拳骨されまくりなキリヤは小刻みに震えながら正座の姿勢に戻ると一瞬の静寂。

 何だと思えば――

 

「よし、日光浴に行くぞ」

 

「……是非行かせてください!!」

 

 何だかこの流れで数多もの危険地帯に行った記憶があるがキリヤはやる気を出して拳を突き上げる。

 

 ◎

 

 世界各地には巨大な(マナ)が渦巻き危険地帯とされている強魔地帯というものが存在する。

 キリヤがメレオレオナに連れて来られたのはそうした危険地帯の一つで――

 

「ここの(マナ)は陽の光に愛され、山頂でその(マナ)を浴びれば疲労も吹き飛び自らの魔力も活性する!! どうだ! 楽しみになってきただろう!?」

 

「ごめんなさいレオナ様! がしゃんがしゃん言い過ぎて全然聞こえません!!」

 

 眼前ではあたり一面大量の岩塊が大小問わず絶え間なく地面に向かって炸裂し続けていた。

 砂埃も酷くヴァルサ岩山と言われているが山の姿など見当たりすらしない。というより今キリヤ達がいる場所から一歩でも進めば挽き肉(ミンチ)不可避。いや轢き肉(リンチ)と言った方が正しいか。

 

「さぁ行くぞォオオオオオオオオオオオ――!!」

 

「いやいやいやいや流石に死にますって!!」

 

 相変わらずめちゃくちゃ過ぎるメレオレオナにまた振り回されるキリヤだった――

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