27話「氣」
「何だ貴様、強くなりたいのではなかったのか?」
「そうですけど流石に何の説明もなくいきなり岩の弾丸浴びたくないですよ!」
「だから説明しただろう。ここの
「そうじゃなくて! ここでどんな修行するかの説明が欲しいです!!」
キリヤが説明を求めるとメレオレオナは振り返り、仕方ないと言わんばかりに説明を始める。
「今からこの降り注ぐ岩を掻い潜って山の頂上を目指す。無論ただこの中に入れば即死は間違いない。だが、五感全てで”流れ”を読めば話は変わってくる」
言ってメレオレオナは後ろ歩きで岩の霰の中に身を投じる。
あまりにも自殺行為。キリヤはすぐさま手を伸ばすがメレオレオナは構わず、姿が見えなくなったかと思えば少しして戻ってくる。
その姿は無傷であり、キリヤもこれには唖然とする。
「貴様はこれまで実戦経験によって”流れ”を掴むことで防ぐ、躱すなど出来ていた。だがまだ甘い。対人戦では相手の目線、呼吸音、ニオイ、筋肉の動き、気配など
「おお! でも今関係ないですよね!?」
「……話は最後まで聞かんか莫迦者。先ほど言ったのは異国で”氣”というもの。だが”流れ”が存在するのは何も人間だけではない――自然にも”流れ”は存在する。空気の流れ、
「何だか分からねえけどスゲエ! オレ、頑張ります!!」
これまでの修行だってこの岩雨に巻けず劣らずの場所で繰り広げられてきたとんでもないものばかり。
失敗イコール死だが今までのもさほど変わらない。何なら実戦経験でも何度か火達磨にされて死にかけた記憶だってある。
と、メレオレオナは自らの手の平に魔力を灯せばキリヤにぶつける。
「――命の保障だ。これで
先に行っているぞ、その言葉を最後にメレオレオナは岩が渦巻く中へ入って姿を消してしまう。
早速キリヤも”
そして集中し、五感で感じる。
(いざ――)
「あいだだだだだだだだだだだだだだだだだだッ!!」
集中したところで岩の嵐渦巻く中に入れば一瞬で弾雨に曝される。
急いで飛び出せばキリヤはぜぇぜぇと荒い息を吐く。
そもそもマナスキンでカバーしているから良いものを目には砂埃一色、耳にはガシャンガシャンとけたたましい音しか聞こえないし、皮膚なんて鎧で塞いでしまってるし、味はもはや砂、鼻も砂臭さしかない。
こんなもの次入ったところで同じことの繰り返し――
(いや違う。そもそもの話はそこからじゃない。何でレオナ様がオレに魔力をくれたか、だ)
いつも修行時に命の保障などされたことがない。
基本やりきるか死ぬかの二択。その
つまり――
(引っ掛けだ!)
一目見て分かる。こんなところ何の装備もなく行けばただ死ぬだけだ。
しかし、目の前で歩いていったメレオレオナは死ぬどころか傷一つ付いていない。
要約すれば(マナスキンありだが)生身で行っても死なないのだ。わざわざ見せたのは出来る可能性を示すため。
それに過剰スパルタなメレオレオナが命の保障などしてくれるはずがない――ッ!!
「だったらオレも鎧なんていらねえ!!」
”流れ”を読むことに初心者なキリヤに鎧を纏ったままなどまだ早い。
感覚を研ぎ澄まし、”流れ”を掴む。
遠くにあるのならば手繰り寄せればいい。走って手掴みしにいけばいい。
自分は莫迦者だから愚直に突き進むことしか出来ない、そう心の中で思えばキリヤの目の色が変わる。
一度目は恐る恐る入っていたが二度目は前のめりに突入する。
視界は砂だらけ。耳もけたたましい音の連打。だが集中すれば一つ一つの音が違う。
さらに
肝心の山はどこなのか、足下すらまともに分からないが風の流れを肌で感じる。
集中、集中、ただそれだけを胸にキリヤは突き進む――
◎
「その様子だと上手く掴めたようだな」
山頂は下界で起きる岩の惨劇が嘘のように静かな場所でメレオレオナはふと振り返る。
そこに立っていたのは砂埃だらけではあるものの特に傷は見られないキリヤ。
ふぅ、と一息吐くとキリヤは笑い、
「これぐらいどうってことないですよ」
「だろうな。まだこれは修行の本丸ではないからな」
「……マジですか」
山道を登ってきてこれからメレオレオナとのほのぼの日光浴タイムかと思っていたがまるで違った。
何より冗談を言わないメレオレオナのことだから本当のことだろう。
不敵に笑うメレオレオナは言葉を続ける。
「この山にはある精霊がいてな――出て来い、ノーム」
メレオレオナがその名を呼べば山頂は突如とした地震に襲われる。
何が来るのかと思えば山頂自体にとてつもない
いや、拳というよりも岩で模した篭手と言うべきだろうか。それぞれ五メートルはある二つの拳は誰の支えもなく浮遊し、その登場にメレオレオナも笑う。
「コイツが土の四大精霊ノーム。私も戦ったことがあるが最硬の防御力を持つだけあって手強いぞ。”流れ”を掴んだ記念だ――勝ってみせろ」
四大精霊――確か何かの拍子にシィナに聞いたことがあった。
何せ数多いる精霊の中でももっとも純粋な属性の
現にキリヤの眼前にいるノームと称された精霊は隅から隅まで土属性しか感じない。
「戦うってことになってるけどノームくんはイイのか!?」
『無論。しかし、一つ問いがある』
サキムニ達が言葉を話せるのだから多分いけるだろうと思えば案の定返事が返って来た。
聞く耳を持てば人差し指を立てたノームは問う。
『疑問。何故貴様は”強さ”を求める?』
「理由は三つある!!」
向けられる無骨な言葉にキリヤは腕を組んで即答する。
「一つ、レオナ様と結婚するためには強くなくっちゃいけねえ! 二つ、オレが守れる”手の届く範囲”を広めたい! 三つ――もう二度と自分の弱さで後悔したくねえ!!」
『理解。ならば拳を合わせよ。それこそ戦の火蓋』
「ああ」
ゆっくりと差し出された巨大な拳にキリヤも自らの拳を当て、触れた瞬間に互いは同時に拳を離す。
直後、二つの拳が真正面からぶつかり合い天に浮かぶ雲を割る――
◎
(かっっっってえ!!)
最硬の防御力を持つと言われているだけあり素手でぶつかり合えばキリヤの拳が痺れる。
しかし、キリヤは一歩も退かない。次々と突き出される拳の連打に自らも拳の連打で迎え入れる。
『感心。ならば次の一手』
ノームは左手を地面に擦れば土を握り締めキリヤへと放つ。
単なる目眩ましではなく、投げられて散乱した土全てが新たな拳となりキリヤへと迫る。
「こんの程度……ッ!」
キリヤは魔力をさらに凝縮させて放った瞬間、拳から反対方向に魔力放出して引き戻し、そうすることでさらに加速した殴打を放つ。
増えた拳にも対応するキリヤに今度は拳を地面に叩きつけて地面を割る。すぐに躱したキリヤを挟み込むようにして棘付きの岩の壁が出現し両側から勢い良くキリヤを押し潰す。
「もっと来いよ四大精霊!!」
”
所詮この程度は四大精霊にとってお遊びも良いところだろう。
キリヤが手招きすれば今までと違い、ノームの身が一つの斑点が浮かび上がったと思えば表面が銀色に染まる。
(あのヤベェ前髪団長の魔法みてえだ……)
銀、その色にキリヤはノゼルを思い出すがあれは水から派生したもの。
土から派生したとなれば当然――
(硬度が上がるよな!!)
拳を受け止めれば先ほどとはまた別段階の硬度を見せてくる。
キリヤも進化しているがそれは相手も同じ。すでに
(飛んでくるものだったら死なねえよな!!)
拳銃を振るい、その銃身を飛んで来た銀の刃に当てればすぐさま刃は消え去る。
外部から魔力を得たことで弾が装填され、引き金を引けば銀の銃弾はノームの左拳を狙う。
正面から銃弾を受けたノームの左拳は自らと全く同じ硬度の銃弾を受け
「サキムニ! 押し出してくれ!!」
『了解、ご主人ッ!!』
跳んだキリヤの靴裏をそれぞれのサキムニが自らの跳躍力を加えて初速から桁違いの速度を見せて蹴りを放つ。
爪先から入ったキリヤの蹴りは左拳の
「まだまだこんなモノじゃねえよな!」
次いでノームの拳は金色に染まる。砕けたはずの左拳は合わさって復活し、迫る拳の速度はさらに上がってキリヤは回し蹴りで捉えるも違和感に気付く。
(まだ上がるのか……ッ!)
返しと言わんばかりに具足に
素足が露わになったキリヤだが速度を上げるノームの連撃を躱しながら魔導書を輝かせる。
「行くぜサキムニ! 力を貸してくれ!!」
身体進化魔法”
兎の耳の如きV字が兜に刻まれればキリヤの魔力、身体能力はこれまでにないほど上昇する。
魔力格闘技”
サキムニ達の跳躍力によって加速した蹴りが両拳と激突すればキリヤの魔力は一気に放出され、獅子の爪が嵐のように吹き荒れる。
その威力はノームの両拳を吹き飛ばし、手首から先がなくなったノームにキリヤは手招きする。
「悪いな、惚れた女の前なんだ。流石に二度目の負けは刻みたくねえ」
対しノームは静かにさらなる魔力を灯す――