「……ん?」
メレオレオナに格好良く見せようと決めポーズまでしたがキリヤの眼前でノームは奇怪な行動を取っていた。
復活した自らの拳同士でひたすらにぶつけ合っていて、いつしか熱を帯び、金色などどこへやら自らの熱で発光するまでになってしまっている。
その光景に首を傾げるキリヤだが――
「莫迦者が……」
戦闘を見ていたメレオレオナの一言でキリヤは今ノームがしている行動が危険なものだと察知する。
だがすでに準備し終えたのかノームの両拳から蒸気が噴き出しその姿が一切見えなくなってしまい、しかもその蒸気はとてつもない熱を持ってキリヤも思わず目元を腕で覆う。
『見事。ならば我も本気出す』
蒸気を吹き飛ばし現れたのは全身を水晶の如き透明度を持った美しい宝石と化し、さらに人型となった鎧姿のノームだった。
丁度キリヤと同じ身長でどうにもノームはどこまでもキリヤと真正面から張り合いたいらしい。
「受けて立ァつ!!」
サキムニの跳躍力で跳び出したキリヤは先ほどよりもさらに威力を秘めた必殺の蹴りを放つ。
しかし、あまりにも硬い感触に歯を食い縛る。
土精霊創成魔法”
キリヤとノームの間には半球状の透明な壁が出来ており、完璧に防御されてしまっていた。
しかもただの壁ではない。今もノームの身体を覆っているあの最高硬度を持つ鉱石を幾重にも網目状に組み合わせることで何よりも硬い防御を創り出している。
両拳を合わせ再度壁に拳を叩きつけるも突破することは出来ない。
代わりにキリヤの周りから切っ先が鋭い金剛石の塊がいくつも飛び出し、軽い身のこなしで躱す。
メレオレオナが課題にしていた”流れ”を掴む。過去の経験もあってこれはほぼ完成されてきたがノームを倒すにはこれも”
別にサキムニ達を責めるわけではないがただ単純に今回の相手との相性が悪いのだ。
「だったら――ッ!!」
キリヤは一度下がりながら”
「今回も力を貸してくれ!
身体進化魔法”
魔力が火花の如く散れば凶悪な形状になった鎧を身に纏い、キリヤの手には拳銃ではなく銃剣が握られる。
間髪入れずに絶対防御と化した銃剣を叩きつければ先ほどの堅固さは嘘のように切り裂かれ、キリヤは銃口をノームに向ける。
「さっきみてぇに自滅しろ!」
金剛石の弾が火を噴き放たれる――が、ノームは間近にいたにも関わらず弾が飛ぶ寸前にキリヤの背後を遠くから取っていた。
さらに両手を前に突き出したノーム自身の身体が発光すれば――
「土精霊魔法”
ノームの十もの指先から数多もの金剛石弾が発射され、キリヤは即座に銃剣を振るう。
近付こうにもこの距離。そして初めて気付いたがこの鎧は――
(アルナブよりも速度が落ちる……っ!)
サキムニ達の力があってこそ爆発的な加速を得られていたがいざ比較してみれば分かる。
”
延々に続く金剛石の弾丸。意識がそちらに集中した途端、これまでと同じ巨大な拳が迫っており、防御するも具足が浮いてその場から飛ばされる。
「わ、わわっ! レオナ様危ねえ!」
飛ばされた衝撃で背後にメレオレオナに危うくぶつかりそうになるが具足の裏を地面に叩き込み失速させることでどうにかメレオレオナの眼前に停止。それにしてもキリヤが吹き飛ばされてきたのに物怖じず動く気配すらなかったのは流石の胆力と言うべきか。
「貴様は莫迦正直過ぎる」
「……え?」
「一つに囚われ過ぎているから今追い詰められているのだ」
「一つに……っと!」
側面から迫る金剛石の弾丸。
キリヤは地を蹴って後退し、メレオレオナから離れれば言葉の意味を考えさせられる。
(一つに囚われ過ぎている……って、もしかして――)
と、ある考えが浮かんだ瞬間に金剛石の弾丸がありとあらゆる角度からキリヤを撃つ。
金剛石の塊となったキリヤの姿に空気は静まり返り、ノームも構えていた両手を下ろせば――
「――いやまだだぜ!!」
『ッ!』
金剛石の塊を蹴り飛ばし、キリヤは中から復活する。
この程度ならば銃剣で削り取ることができ、そして何より思いついてしまった。
キリヤは再び現状態を解除すれば”
確かに誰が言ったのだろうか。決めたのだろうか。
否、誰も言ったわけがない。
――鎧に付与出来る力が一つではない、と。
「サキムニと”吸魔の銃”、二つ合わせて
二つの力を
凶悪な形状と化した鎧にV字の装飾が成された兜。まさに二つの要素を掛け合わせた新たな姿。
身体進化魔法”
力、速度、魔法吸収、二つの全てを兼ね備えたキリヤは地を蹴れば一つだけの時よりも速く、ノームに肉薄すれば後ろ回し蹴りが炸裂する。
両腕を交差させ防御するノームだがその絶対防御を蹴りは引き剥がして吸収、強烈な威力の放出を同時に行われ後方へと飛ばされる。
”吸魔の銃”の出力を加減し、されどノームの金剛石を吸収出来る程度にキリヤが行った力の調整。
飛ばしたノームの身体にはキリヤが蹴りと同時に打ち込んだ魔力の楔が見える。
何よりこうして”吸魔の銃”と一体化することで気付いたことがある。
それは――
(覚えた魔力を逃がさねえってことだッ!!)
銃剣から煙の如く黒い魔力が噴出すればキリヤは魔力放出し、飛んだノームを楔を目印に追尾する。
いくら金剛石の弾丸が飛んでこようともすでにキリヤの鎧はその威力すら通さない。むしろ金剛石から魔力を吸収することでさらに加速する。
「そうだ。それでいい」
メレオレオナの言葉、同時に黒い刃は尾を引き空に閃光を刻む。
篭手と組み合わさった銃剣は爪と化し、その状態から放たれる不可避なる一撃。
魔力格闘技”
『……見事』
絶対防御など関係なく真っ二つに両断されたノームは一言そう言い、キリヤは地に着地する。
と、すぐに――
「あぁ! やっちまった! ごめんノーム大丈夫か!?」
『
見れば”流れ”が地中から押し出したかと思えば、服を着た白い鼠が現れる。
手の平に乗る大きさで鎧を解除してとりあえず手の平に乗せてみると、
「も、もしかしてオマエ……ノーム?」
『首肯。我、開幕から地中にて見守っていた』
「勝負はついたみたいだな。どうだノーム、私の莫迦弟子は?」
『僥倖。然らば認めるしかあるまい』
「?」
どうにもキリヤが知らないところで話が進んでいるようで首を傾げる。
だがすでに話は決まり、キリヤの
「え、え?」
『世受。これから頼むぞ――我が主君よ』
「どゆこと!?」
『よろしクー。ボク達はサキムニ』
『了承。我こそ宜しく頼む』
ノームの手が触れればキリヤの魔導書に新たな魔法が刻まれる。
魔導書から出てきたノームはサキムニ達から歓迎されており、どうにも状況を理解していないのはキリヤだけのようだ。
「貴様の魔法が何かを鎧に付与することは分かっていた。だからこそさらなる力のためにノームに話をつけていたのだ。貴様を見て認めれば力を貸してやって欲しいと」
「レオナ様……ありがとうございます!」
「ええい鬱陶しい! いちいち抱きつくな!」
抱きつけば押し退けられ、それでも根性で抱きつき続ける。
と、キリヤは結局頭に拳骨を受けて地面に屈み込み、そうしているとサキムニ達に胴上げされていたノームが降りてキリヤの前にやってくる。
「言い忘れてた! これからよろしくなノーム!」
『合拳。こちらこそ』
互いに拳を合わせ、キリヤは笑ってみせる。
その様子を傍で見ていたメレオレオナは口元に笑みを浮かべ、
「精霊に愛される、これも全て
「……? どうしたんですかレオナ様?」
「フン、せっかく新たな力を手に入れたのだから試してみろ。喜べ、今度は私が相手してやる」
「イイんですか!? 今オレ”流れ”完全に来てますから勝っちゃいますよ!?」
この後、めちゃくちゃ敗北したのは言うまでもない――
◎
女の人生は全て”痛み”によって形成されていた。
授与されればより厳しい環境に立たされた。富国強兵を掲げているスペード王国に”甘え”や”妥協”など存在するはずもなく、また周りから人間が消えていく。
ただひたすらに研磨され、数多の”痛み”を超えて女は〈七剣総統〉まで登り詰めた。
しかし、どうして女はそこまで出来たのか。
生きたい、要因の一つとしてはそれもあったかもしれない。
だが何より、愛した
”生”か”死”か、そんな世界でその男は自らを失うことも泣く、狂うこともなく優しさを持ち続けていた。
その男に女は憧れ、いつしか”愛”するようになっていた。
愛は女の胸を焦がし、傷ついてもいないのに”痛み”を覚えていた。
それでも――女の気持ちは届かない。
すでに男には婚約者となる女性がいたのだ。国王が認め、より強い戦士を生み出すための――政略結婚。
男は女の手の届かない場所にいた。
ただ男を想えれば女は満足だった――なのに、男は婚約者と共にスペード王国から逃げ出した。
理由は分からない。だが国としては逃がすわけにはいかない。
女は部隊を率いて男とその婚約者を追った。
追って、男によって胸元に酷い傷を受けることになってしまった。
――痛い。痛い。痛い……。
愛するが故に痛い。愛した者から受けた傷が痛い。
何だ。結局人間の全ては”痛み”によって形成されているではないか。
ならばこの
女のタカはそこで大きく外れてしまった。
男も、その婚約者も、同じように嬲り殺し、女は――狂った。
(随分懐かしいことを思い出したわね……)
あの時、
(この程度、私を抑えるにはまだまだ足りない)
見張りはこの時間帯一人となる。
ならばすぐさま女は牢屋の壁を思い切り蹴り込む。衝撃は壁を伝い、牢屋の壁を背もたれにしていた見張りの背中から心臓を破裂させる。
即死だ。女は器用に倒れた見張りの腰元から鍵を奪えば自らの拘束具を外す。
「待ってなさいボーヤ……私はあの程度じゃ終わらない」
名はベレラファスラ。
キリヤスフィールによって地下深くで拘束されていた〈七剣総統〉――