オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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30話「責任」

「シィナ、さっきからどうした?」

 

 早速件の山道にやってきたヤマダイコン両手のキリヤだったが振り向けばどうにもシィナの様子がおかしかった。

 落ち込んでいるのか。道中も言葉を発せずにいて流石にキリヤでも様子がおかしいことは分かる。

 問いかけると後ろを歩くシィナはそっと顔を上げ、

 

「キリヤさんはいつの間にかたくさんの友達が出来たんですね……」

 

「ん? まあそうかな。でもシィナは一番の友達だぞ」

 

「えっ!?」

 

 この言葉にシィナも目を見開く。

 それもそうだ。〈碧の野薔薇〉に来て一番最初に友達になったのだから一番の友達だろう。

 他意はないがシィナは何故か一気に元気を取り戻す。

 

「張り切っていきましょう!」

 

「お、おう」

 

 これも女心は複雑怪奇というものなのか。

 とにかく元気になったので良しとし、先を歩くシィナにキリヤもついていく。

 

 だが、ふとキリヤはシィナの傍にある大きな蕾が目に入る。

 今にも花が咲きそうな蕾に何かとてつもなく嫌な予感を感じたキリヤは――

 

「シィナっ!!」

 

 シィナを突き飛ばし、花が咲いた途端に噴き出た花粉を浴びてしまう。

 何度か咽るもそれ以上何も無く、転びそうになったシィナはすぐに振り返る。

 

「キ、キリヤさん大丈夫ですか!?」

 

「……うーん、特に異常なしだな!」

 

 花粉を浴びたものの特に異常はなく、これならば突き飛ばす必要もなかった。

 大丈夫だと親指を立てているとキリヤの目に今度は大きな足跡が映り込む。

 

「これが例の魔法生命体の足跡?」

 

「その可能性は大きくありますね」

 

 修行時様々な野生動物を見てきたキリヤは足跡の形状と歩幅さえ見れば大抵の見分けはつくもののこんなものは見たことがない。

 つまりこれが今回の目的である魔法生命体。となれば土の固まり具合からしてこの場を去ってからそれほど時間は経過していない。

 

「よし急ごうぜ!」

 

「はいっ!」

 

 今なら充分に追いつける。

 キリヤとシィナは即座にその場から走り出した――

 

 ◎

 

「アレか……」

 

 少ししてキリヤ達は討伐対象である魔法生命体の姿を草陰から捉えていた。

 全長四、五メートルほどで目撃情報と同じく背中には夥しい黒い棘で全身は鎧のようになっている。

 ハリネズミに類似しており、どうにも今は身を休めているようだ。

 

「よし、それじゃオレが前に出て戦うからシィナは後方支援頼む」

 

「分かりました。任せてください」

 

 握り拳でやる気を見せるシィナと拳を合わせればキリヤも草陰から飛び出す。

 魔法生命体はその気配に気付き、身を起こすと唸り声を上げ、キリヤもシィナも構える。

 

「恨みはねえけど仕事なんでブッ飛ばさせてもらうぜ!!」

 

 迷わずキリヤは真正面から走ればすぐさま魔法生命体の背が爆ぜる。

 飛ばされた黒い棘は上空から降り注ぐもシィナが影を展開し、駆けるキリヤの上空に影の笠を作り出す。

 黒い棘は笠に飲み込まれれば消え、キリヤは魔法生命体に肉薄を果たす。

 

 対人戦でなければ相手から魔力を得ることなど出来ない。

 ならば素の状態で倒すしかなく、キリヤは魔法生命体の側頭部に拳を打ち込む。

 刹那、鈍音が響くも魔法生命体にはダメージは見られない。手応えはあったものの鉄に拳を打ち込んだと同じように響き、恐らく背中と同様に魔法生命体は全身が硬い。

 

「援護します!」

 

 影創成魔法"影模者(かげもしゃ)"。

 先ほど影に飲み込んだ魔法生命体の棘を再現し、連続して射撃。

 再生した棘を撃ち出し魔法生命体も迎撃するが撃ち損ねた影が肩口に直撃する。

 

「打ち込んでください!!」

 

「おう!!」

 

 同じ素材同士ぶつかれば相殺する。

 ノームとの戦闘で分かっているキリヤは影を蹴り込めば魔法生命体から出血とも思われる(マナ)が飛び出す。

 キリヤはさらにノームのことを思い浮かべば、

 

「ノーム! オレの拳にダイヤ纏ってくれ!!」

 

『御意』

 

 キリヤの言葉にノームが魔導書(グリモワール)から出て肩に乗ればキリヤの右拳を金剛石で覆う。

 意外にも盲点だったがサキムニ達が自立状態でも魔法を扱えていたのならば当然だ。

 

 改めて更なる戦闘スタイルを身に付けたキリヤは軸足を次々に変えながら回転し、遠心力をつけながら魔法生命体に距離を詰める。

 当然魔法生命体もただ接近を許すはずがなく、腕を振り上げ迎撃しようとするもののシィナの影拘束魔法がそれを封じる。

 

「サンキュシィナ!! ――ってことで!!」

 

 魔力格闘技”獅子独楽拳骨(スピンフィニッシュライオネル)”。

 高速回転したキリヤの拳が真正面から魔法生命体の顔面を捉え、その威力によって魔法生命体の顔面は勢い良く折り畳まれ顔と尻が圧縮され一枚の紙のようになる。

 

「うし! 終わり!」

 

「あ、相変わらずめちゃくちゃですね……」

 

 単純なパワー押し戦法なキリヤにシィナも呆気に取られる。

 やはり魔法生命体程度では鎧を纏う必要もなかった――そう思うキリヤだが一瞬視界が揺れる。

 

「キリヤさん?」

 

 何か身体がおかしい。

 言葉を変えそうにも視界は徐々に朧になっていき、意識も薄れていく。

 体温は自分自身でも高いと感じるほど。むしろ全身が炙られているかのように熱い。

 

「――――っ!!」

 

 シィナが何か言っているがキリヤには聞こえず、その身は倒れていく――

 

 ◎

 

「……これは”ダッコウバ”のアレルギー症状による高熱だね」

 

「”ダッコウバ”……?」

 

 倒れたキリヤを連れ〈碧の野薔薇〉拠点に戻ったシィナはすぐにシャーロットに医者を手配してもらい、来た女医はベッドで呆然とした目で天井を見つめるキリヤを診てそう言い、シィナは言葉を返す。

 

「”ダッコウバ”はどこからともなく育ち、花が開けば人体に有害な花粉を発する。その花粉は人体にある(マナ)と極めて相性が悪くてね。拒絶反応を引き起こし高熱が襲い掛かる。洗浄しない限り常時拒絶反応に襲われ熱は下がらず、眠ることも出来ず食事もとれなず――死に至る」

 

「どうすれば治るんですか!?」

 

「落ち着けシィナ」

 

 胸倉でも掴み上げそうな勢いで女医に迫ろうとするシィナをシャーロットが宥める。

 キリヤは自らを庇ってこうなってしまったのだ。本来は自分がなっていたにも関わらず、それが焦りとなってしまっている。

 

「治すにはグランドドラゴンって言うサシガレ高山帯に棲む竜種の背から取れる果実が必要になる。だが今のグランドドラゴンは凶暴期に入っていて危険そのものだ。取り貯めも出来ないために備蓄もない状態だ」

 

「そんな……」

 

『ご主人、ご主人……』

 

 すっかり元気を失ってしまったキリヤにサキムニ達は心配そうに声を上げる。

 こうなってしまったのは完全に自らの責任。シィナは拳を握れば、

 

「私が行きます」

 

「グランドドラゴンは凶暴期になれば一個部隊を出してもまだ足りないほど、それでも行く気なのか?」

 

「はい、キリヤさんがこうなってしまったのは全て私が油断したせいです。だから私がキリヤさんを助けなければなりません」

 

 言ってシィナが部屋から出ようとすると肩に何やら重みを感じる。

 見ればサキムニが一匹乗っていて、

 

『ボクもご主人助けたイ!』

 

「それでは一緒に行きましょう」

 

 にこりと笑んでサキムニを受け入れると部屋から出て行き、曲がり角を曲がろうとした寸前に女魔道士達の声が聞こえてきた。

 

「聞いた? あの男、任務でやらかして今高熱患って死にそうなんだって!」

 

「聞いた聞いた! きゃはは! 上級魔法騎士になったからって調子に乗るからそうなるのよ!」

 

「結局大した実力もなかったわけよ。運が良かっただけ!」

 

 それは〈碧の野薔薇〉でも過激派とも言える女魔道士達の言葉だった。

 キリヤ一人だったらあんなことにはなっていない。それなのに今までのキリヤの実績を嘲笑われ、シィナは憤りで飛び出そうとするがその横から誰かが先に過激派達の元へ行ってしまう。

 

「なあなあ、その話もっと聞かせろよ」

 

 飛び出したのはソルだった。

 陰口を叩いていた二人の女魔道士の間に入って肩を組めば女魔道士の顔は青ざめて黙ってしまう。

 

「どうした? さっきの盛り上がってたんだから私に聞かせてくれてもいいじゃん」

 

「そ、それは……」

 

「よし、じゃあ私から質問すっから答えろよ」

 

 ははは、と笑うソルだがその目は全く笑っていない。

 

「一つ目、任務でやらかしたって誰が? キリヤは立派に任務を達成してるけど。シィナを庇ってああなったけどそれは誰かを守るためだ。自己犠牲も厭わないってオマエらに出来んの?」

 

 右腕を引き寄せ、片方の女魔道士に目を合わせるも女魔道士は目を逸らす。

 

「二つ目、調子に乗ってるってどこが? アイツはいつもあんな感じだし上級魔法騎士になってからもアイツは下級共にも分け隔てなく接してるんだけど」

 

 左腕を引き寄せ、今度はもう片方に問いかけるも気まずげに目を逸らすだけ。

 

「三つ目、運が良かったって何が? だったらオマエらは運で〈七剣総統〉を倒せんのか? 明らかに実力差があって私は出来なかったけどオマエらがそう考えられるってことは私は運が悪かったんだなぁ」

 

 へぇーそうなんだー、とわざとらしく声を上げるソル。

 今にも謝罪を口にしそうな女魔道士達に構わず言葉を続ける。

 

「いいか、星っていうのは確かな実績を出して、初めて魔法帝から与えられるもんだ。そこに運なんてものはない。一つ一つの働きを吟味した上で渡される。そんでキリヤは実績を積み上げ今じゃ姐さんも認める三等上級魔法騎士で〈碧の野薔薇〉最強格だ。一方のオマエらは陰口ばっか叩いてるが何の実績もまだ挙げていないただの下級魔法騎士、陰口叩く前にすることあると思うけどなぁ……――で、まだ言いたいことはあるか?」

 

「…………」

 

「だったら最初から陰口なんざ叩くんじゃねえよ。そんなんだからオマエら弱い女は集団で陰口叩くことしか能がないって言われんだろうが」

 

 腕を放せば二人の背中を押して追い払う。

 ふん、と大きく鼻息を鳴らしたソルに一部始終を見ていたシィナは礼を言おうとするがソルは適当に手を振りながら通りすがりに軽くシィナの背を叩き、

 

「ま、頑張れよ。キリヤのことは任せとけ」

 

「っ! ありがとうございます!」

 

 シィナは去っていくソルに頭を下げ、自らも成すべきことのために走り出す――

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