34話「全力のリベンジマッチ」
「ちょいちょいちょーいっ!! タンマタンマ!! 何でいきなりやってきて逮捕!?」
「キリヤさん、先ほども罪状は言いましたよね? キリヤさんを誑かしこんないかがわしい店に連れてくるなど言語道断。団長としての責任感は皆無であり、情状酌量の余地もありません」
「それにオマエは謹慎中だからさっさと帰るぞ」
「ソル待ってくれって! こんなの誤認逮捕だ!!」
逮捕され手に拘束魔法をかけられるヤミの背中からとんでもなく哀愁が漂い、キリヤは懸命に弁明する。
だがソルも全然聞いてくれず、シィナも何故かえげつなく厳しい。
「とにかく――」
『魔法騎士団本部より緊急連絡――』
唐突にヤミの周りで映像が展開され、その映像に人が映る。
どうにもその人物は国王の護衛に付いていた一人できのこのような髪型が特徴的な男性だった。
聞けばノエルが通報したようでこの近辺の町で子供達が連れ去られる事件が発生し、子供達の情報によれば相手に増援が来ており〈白夜の魔眼〉が関与していると。
そして現場に一番近い団が〈黒の暴牛〉。現場の状況を判断して後ほど他の団も後に増援として来るらしい。
「さて、行くか」
「オレも行くっス!」
「おう来い」
てっきり帰れと言われると思ったが一応実力は認められるらしい。
拘束魔法を腕力だけで破ったヤミは「オマエらはあのトゲツン姫にでも報告してろ!」と追い払うも、シィナはキリヤに目を合わせてきて、
「キリヤさん、謹慎中ってこと忘れてませんか……?」
めちゃくちゃ怖い目で見られてしまい、キリヤもしれっと目を逸らす。
解放されたヤミはキリヤのことを脇に抱えれば、
「〈碧の野薔薇〉クビになったら〈
「そういう問題じゃなくて――」
「よォし行くぞキリヤ! こうなりゃクビ覚悟で行くぞォ!!」
「姫様ごめんなさい!! オレまた一から頑張ります!!」
すっかりキリヤはヤミの熱に当てられてしまい、後先考えずにやる気に火が点いた。
それにキリヤだって〈白夜の魔眼〉と聞けば黙っていられない。
フエゴレオンのこともある。何より――キリヤ自身は認めていないが自分を負かせた女がいる。
「まずはウチの
◎
アスタは窮地に立たされていた。
雪が降りしきる中、突如として子供達が行方不明となりその後を追いかけて誘拐犯を含めた〈白夜の魔眼〉の一員を打ち倒した。
だが次いで現れたのは〈白夜の魔眼〉頭首――リヒト。その傍らには王都襲撃の際にも姿を現した空間魔法の使い手――ヴァルトスもいた。
共にいた〈黒の暴牛〉団員のゴーシュもリヒトの圧倒的な速度で放たれる光魔法で深手を負い、シスターも子供を庇って重傷。また自らも足に光魔法が突き刺さって軽傷ではない。
大剣を盾にしながら真っ直ぐ突き進むことで致命傷を防ごうとするが――
「――無駄だ。その
一瞬の閃光。
瞬間、アスタは死を悟る。
遠距離でさえ目にも留まらぬ一撃だったのが零距離ともなれば躱せる道理もない。
だが――アスタとリヒトの間に一本の剣が飛び出す。
同時に現れたヤミが剣で光魔法を防ぎ、アスタも驚きで思わず目を丸める。
「ヤミ団長、何でここに……?」
「何でってオマエ……集団迷子です。ちょっと道教えろや」
◎
「キリヤも……」
「おう。オレとヤミ団長二人でキャバクラ行ってたら呼び出しがあってな」
「え、団長オレも呼んでくださいよ!?」
「うっせぇオマエ合コンでいなかっただろうが」
付き添いだった〈黒の暴牛〉の空間魔法の使い手フィンラルは文句を言うがアイアンクローで一瞬で黙らされる。
状況を掴めていないアスタにヤミが説明しているうちにキリヤはアスタよりも後方で倒れている老女のシスターに目が行くと駆け寄る。
「サキムニ、治療開始!」
『うン!』
恐らく背にいた子供達を庇って敵からの攻撃を受けてしまったのだろう。
息も浅い。年齢からして老女の生命力に賭けるしかないがサキムニ四匹がかりで治療を開始。
「オマエらは怪我ないか?」
「う、うん。シスターが守ってくれたから……」
「それなら良かった」
「ババア……っ!」
子供達に負傷はなく安堵するが身体を引き摺りながらこちらに迫る〈黒の暴牛〉団員の青年。
片目が前髪で隠れているのが特徴的だが青年の身も決して軽傷ではない。肩と足、上手く致命傷は外しているが出血が酷い。
「テメーが死んだらマリーが悲しむだろうが……オレも、気分ワリィだろうが……ッ!!」
「気持ちは分かるがあんまり動かないでくれ。サキムニ、この人も治療しながら運んでやってくれ。そんでフィンラルくん空間魔法早くして!」
「わ、分かってるって!」
青年にサキムニ達を配備しながらフィンラルを呼びつければフィンラルが新たに空間魔法の扉を開く。
子供達は次々に空間魔法の中へ入っていき、負傷者はサキムニが運んでいく。
「フィンラル、オマエちゃんと戻って来いよ?」
「……了承しかねます!」
「テメー絶対戻って来いよ!?」
飛んでくる光魔法を刀で弾くヤミ。
そのうちにフィンラルは負傷者共々一時撤退し、この場に残されたのはアスタ、ヤミ、キリヤの三人。
対する〈白夜の魔眼〉のリヒトは驚いたような表情を見せる。
「アルーグ……?」
「出たその名前! 前のサイルっつう女もオレのことそう言ってたけど違うっての!!」
「何オマエの知り合いか?」
「いやいやオレだって全然分からないんですって! とりあえず刀向けるのやめてください!」
ヤミに闇を纏った刀を向けられればキリヤは待った待ったと両手を挙げる。
その様子を訝しげに見ていたリヒトは、
「そのローブ、どうして君がクローバー王国の魔法騎士などに……」
「だから――」
「リヒト、あの子は昔の記憶がないの!」
ヴァルトスの空間魔法から現れたのは銀髪の麗人――サイル。
その姿にキリヤの中で闘争心に火が点くがサイルはそんなこと露知らず、リヒトの隣に立てば胸に手を当てる。
「私が彼を連れ戻すわ。だから――」
「ああ、頼んだよ。連れてきてくれれば私の力で彼の記憶を呼び覚ませるかもしれない」
意味深長なリヒトの言葉。
しかし、まるで記憶にはないがサイルの時と同様にどうも初対面という気がしない。
だが――
「ゴチャゴチャうっせぇよ! 今のオレは誰が何と言おうとアルーグじゃねえ!!」
いいか耳をかっぽじってよく聞きやがれ、とキリヤは親指で己を指し、
「オレの名はキリヤスフィール・フィン・ガルガン! よく覚えとけ!! そんで――」
三日という短い期間だったがキリヤはメレオレオナとの修行によって新たな力を得た。
相手の魔法だけでなく大気中の
「初っ端から全力で行くからな!!」
「――ッ!!」
"
始めから全力で地を蹴ったキリヤはその身に鎧を纏い、瞬間的にサイルと肉薄して腹部に蹴り込む。
「そんじゃヤミ団長! オレこの女だけには負けられないんで
蹴り飛ばせばどこかの洞窟だったのか分からないがサイルは壁を突き破って飛び、キリヤ自身も洞窟を抜ける。
追撃するために空中でさらに蹴り込めば魔力放出によって足下に足場を創ればさらに踏み込む。
サキムニ達の力を借りたキリヤの初速はもはや爆発。瞬間的に肉薄を果たせば自ら錐揉み状に回転し、サイルに蹴りを叩き込む。
刹那、キリヤの足に具足越しに伝わったのは
見ればキリヤとサイルの間に銃口から放たれた魔弾がキリヤの蹴りを阻む。
これは完全に魔力だけで形成されたもの。構わずキリヤは蹴りを振り切るも衝撃は殺され、雪の上に着地したサイルは追って着地するキリヤを見据える。
「……ガルガン、本当にそれがあなたの名なの?」
「ああ、手紙にそう書いてあったらしいからな」
「あの女……まさかあの時に、そうか」
キリヤの返答に一人で納得したサイルは忌々しげに一つ息を吐く。
次いで右腕に手を当てればいくつかあるうちの留め具を一つカチリと外し、雪上に落とせば――サイルの魔力の質が変わる。
今まで抑えられていた魔力は解放されればより濃く、より大きく膨れ上がり、その魔力は団長クラスにさえ匹敵するほど。
「――アナタを殺す気で行くわ」
前回のようにキリヤの素顔を見た途端に見せた動揺などもうどこにも見られない。
一欠片の迷いもなく、すでにその目には確かな覚悟の炎が灯っていた。
「上等だ。今度オマエに負けたらレオナ様に嫌われちまう……ッ!」
"
兜のV字は残したまま鎧は凶悪な形状へと変化し、拳銃も銃剣へと変化すればキリヤはその場から飛び出す。
サイルは前回とは違いキリヤの拳が届かない中距離で戦おうとはしない。
銃器を扱うにも関わらずキリヤの肉薄に距離を開けようともせず、
銃剣の振り下ろしに二丁拳銃の片手で受け止めたサイルは返しに空いた右手の銃口をキリヤへ向けるがキリヤの左手は右手首を捉えて上空へ上げる。
同時に銃口が火を噴けば夜空に向けて火の竜が撃ち上がり、しかしそれだけではない。
サイルの肘にも銃は仕込まれており、キリヤは強引に足を前方へ滑らせてサイルの股下を抜けて躱す。
今度は靴裏に仕込まれていた銃口が火を噴き、キリヤは身体を横回転して連射を避ける。
(全身銃器人間だな……ッ!)
両手両足ついた体勢でキリヤは銃剣を振り上げるも手首にサイルの靴裏が押し当てられ勢いを殺される。
即座に銃剣を離し、今度は踏みつけてきた足首を掴んで雪上に叩き込む。
衝撃は雪が逃げ場となり、思うようにダメージは入らずサイルは身を回転させキリヤの手を振り払えば腰元、両手、靴裏から魔弾が一斉に火を噴く。
「チッ!!」
拾った銃剣を振り回し、片っ端から魔弾を防いでいくものの逃した一弾がキリヤの肩を捉える。
触れた途端に爆発を引き起こし、仰け反ったキリヤの顔面にサイルの拳が炸裂。同時に拳に仕込まれていた魔弾も暴発して勢いを凄まじくする。
頭が千切れそうな衝撃にキリヤは首に力を込めて堪え、自らが飛ばされる前にサイルの腹部に蹴りを入れる。
「ぐ……ッ!!」
だが圧倒的な魔力によって壁が出来ているために蹴りの威力はそれだけで半減されてしまう。
キリヤとサイルに一度距離ができ、キリヤは首の骨を鳴らす。
「流石に一筋縄じゃ行かねえか……」
今のところ"
キリヤは "
「……諦める気になったの?」
「いんや、ここからだ」
敗北した時とは違う。
すでにその時から進化して得た一手、
「――ここからがオレの
魔導書から飛び出したノームが肩に乗ればキリヤは兜の中で不敵に笑ってみせる――