オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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35話「過去と今の俺」

「行くぜノーム!! 力を貸してくれ!!」

 

『御意!!』

 

 キリヤの言葉にノームが呼応すればキリヤの全身が光に包まれる。

 光の中でキリヤの鎧は変化する。今までにないほど篭手は分厚く、巨木の如き太さになれば拳さえも元々のキリヤの拳を上回り、V字だった兜に新たな直線のラインが刻まれる。

 

 身体進化魔法”兎剛石の重鎧(レベル6・ラビィルモンドアルナブ)”。

 ノームの持つ金剛石の絶対防御がありながらサキムニの瞬発力を失っていない。

 剛と柔、二つ合わさりし鉄壁の鎧が顕現する。

 

「四大精霊ノーム、そんなものまで……でも!!」

 

 サイルは新たな鎧にも構わず直進で迫り、キリヤの首筋に蹴りを打ち込む。

 魔弾創成魔法”弱除弾(スリングバースト)”。

 王都襲撃の際にキリヤの身体強化魔法を解除し、決め手となった一撃。

 あの時と変わらず打ち込まれた瞬間に靴裏の銃口が火を噴く――が、キリヤはまるで動じない。

 

「っ!」

 

 目を見開いたサイルは気付いただろう。

 キリヤの首の少し前にはよく目を凝らさなければ見えないほどの透明度を誇った金剛石の壁。

 撃たれたのはキリヤ自身ではなくただの壁であり、キリヤには傷一つ付いていない。

 

「ならば――」

 

 撃ち出される魔弾の数々。だがそれらはキリヤの身体に衝撃すら与えず、キリヤは両拳を地面に叩き込む。

 直後、サイルの足下から金剛石が噴き出しその動きを拘束し封じ込める。

 土精霊拘束魔法”金剛石の重縛(ダイヤモンドクレバスラ)”。

 全身を金剛石が纏わりついたサイルの動きは封じ込められ、これではどこに銃器を隠し持っていようとも魔弾を撃ち出すことは出来ない。

 

 魔力放出を断発的にし、軸足を一歩ずつ変えながら独楽のように回りながら肉薄。

 魔力格闘技”獅子独楽拳骨(スピンフィニッシュライオネル)”。

 接近と同時に拳を打ち込めばサキムニ達の力が解放され、金剛石同士がぶつかったことによって相殺しサイルの身体を天高く飛ばす。

 

「オレの勝ちだミサイル女――だから前にオマエが勝ったのはナシな!!」

 

 ◎

 

『サイルの魔法って綺麗だな!』

 

『そうかしら。自分だとよく分からないけど……』

 

『オレの魔力ってさ。皆と違って色もねえからサイルみたいに何でも出来るってのが羨ましいぜ!』

 

 二人で丘にある綺麗な花畑を訪れた時の話だった。

 アルーグには生まれつき(マナ)の色というものがなく、出来るのは身体強化魔法だけ。

 だからこそ憧れが強かったのだろう。全ての属性をサイルはそんなアルーグに気遣って色々な魔法を見せた。

 その度アルーグは喜んでくれて、魔弾魔法も今思えばアルーグとの繋がりが生んだものだった。

 

『ねえアルーグ。どうしてアナタはそんなにも私の魔法を見たがるのかしら……?』

 

 サイルは知っていた。

 色を持たないアルーグだったが彼を愛する精霊が多く、すでに多くの精霊はアルーグの傍にいたのだ。

 精霊達の力を借りればサイルが見せていた魔法など容易く再現出来る。

 それなのにどうして、純粋な疑問からの質問だった。

 

 質問を投げかけられたアルーグは顔を俯かせ、考える素振りを見せる。

 そうしているうちにも精霊がアルーグの周りを漂うがアルーグはにこっと笑ってみせて、

 

『だってさ、サイルと一緒にいる口実欲しいじゃん』

 

『っ!』

 

 本当に単純なことだった。

 ただ一緒にいたいから、いつも直球に物を言うくせにこんな時だけ気持ちを隠して。

 サイルもつられて笑みを浮かべてしまう。

 

『アナタは莫迦ね。口実(そんなこと)なくても私はアナタと一緒にいるわ。それに私はアナタより強いからアナタを守ってあげる』

 

『オレだって頑張ればサイル守れるし!!』

 

 遠い記憶の光景。

 身体に浮遊感が襲い掛かる中、サイルの手はゆっくりと届くはずのない月へ伸ばされる。 

 

(やっぱり本気になれるわけないじゃない……例えアナタが私のことを全て忘れてしまったとしても私がアナタを殺す気なんて起きるはずもないわ)

 

 ◎

 

「今どんな状況っスか!?」

 

「おー戻ってきやがったか。ま、見ての通りだ」

 

 サイルに勝利したキリヤは洞窟へ戻るとヤミやアスタ、負傷していたゴーシュがいた。

 ヤミに言われた通り周りを見ればサイルが倒れているのは無論〈白夜の魔眼〉頭領のリヒト、空間魔法の使い手ヴァルトスも倒れており、どうやら一通り勝てたようだ。

 

「分からないことだらけだがとにかくコイツら全員拘束すっからオマエも手伝え」

 

「オレ自身何にも拘束魔法持ってないっス!」

 

「そこは精霊の力借りろよ」

 

「あ、そうでした」

 

 少し精霊達が使える魔法を失念していたキリヤだがすぐにサキムニを出してサイル達を拘束するように指示を出す。

 ヤミも闇拘束魔法を使いリヒトを捕らえようとするが――

 

「っ!」

 

 ヤミ、アスタ、キリヤの三人は同時に新たに現れた気配に気付く。

 見ればヴァルトスは倒れているはずなのに全く同じ空間魔法が展開され、そこから新たに三人の人影が現れる。

 

「うわちゃ~大変なコトになってるよ。メンドくさがりなウチでも――マブダチは助けないとな」

 

 一瞬の光の瞬き。

 気付けば完全に不意討ちで現れた男の一人がヤミの前に現れており、魔導書(グリモワール)に手を触れる。

 

「変わった柄だな~」

 

「てんめぇ……ッ!!」

 

「おっと、危ない危ない」

 

 キリヤが咄嗟に回し蹴りを放つがヤミの魔導書に触れた男は即座にその場から離れる。

 と、上から頭を押さえられたキリヤの上からヤミの斬撃が放たれる。

 

 闇魔法”闇纏・無明斬り”。

 闇を纏った刀から放たれた斬撃は男に向かって飛び、間合いを見間違えた男の肩を掠める。

 

「イッタ! ま、こんくらいならチョチョイで治せちゃうけどね」

 

「あの魔法、さっきアイツが使ってたのに何で……」

 

 光魔法”癒やしの光粒”。

 光の粒が触れた肩はすぐにその傷を癒やし、その様子にアスタも驚く。

 恐らくアスタが戦っていたリヒトも光魔法を使っていただろう。聞くだけで光魔法が希少なものと分かるがあの不誠実そうな男がどうにも光魔法と一致しない。

 

「……すまない、君達の助力を借りることになってしまうとは」

 

 だが今は冷静に考えている暇はない。

 援軍である一人の少女が使った炎回復魔法”不死鳥(フェニックス)の羽衣”はリヒトの身体を覆い、その傷を急速に治癒させていく。

 

「リヒトくん、何でも一人で抱えてたらメンドーだよ」

 

「よくも我が友を……八つ裂きにしてやる……ッ!!」

 

「憎い……リヒトを傷つけたヤツが憎い……」

 

 前髪だけが白色になった黒髪の男。

 筋骨隆々としたまるで獣の如き野生味を帯びた男。

 どこか朧気な双眸の少女。

 その誰もが見た目だけでは計り知れないほどの魔力を持っており、下手すれば団長クラスをも凌ぐほど。

 

「な、何だコイツら……」

 

「紹介しよう。彼らは〈白夜の魔眼〉でも最強の三人。戦闘能力においては私を上回る存在――〈三魔眼(サードアイ)〉だ」

 

「じゃ、とっととその実力を証明しますか」

 

 先ほどヤミの魔導書に触れた男がそう言えばその手にはヤミのものと瓜二つな闇を纏った刀。その刀に皆が驚かされる。

 

「君達の王国はクローバーを象徴しているが……クローバーの葉には君達に似つかわしくない言葉が秘められているね。『誠実』、『希望』、『愛』……彼らにはその対と為す意味の言葉を名に冠して貰った」

 

『不実』のライア。

 先ほどヤミが使っていた闇魔法”闇纏・無明斬り”を完全に模倣した形で闇の斬撃を繰り出すライア。

 

「テメー人の魔法パクってんじゃねえぞ!!」

 

 ヤミも横振りに飛ばされた闇の斬撃に縦振りの斬撃で迎え撃つ。

 だがすぐさまキリヤは”兎々戦の鉄鎧(レベル3・ビビットアーマアルナブ)”を纏いヤミの側面に出る。

 

「ほう、我の動きに対応するか!」

 

『絶望』のヴェット。

 獣魔法”ベアクロウ”で自らの腕に魔力を纏い獣の爪を模した乱舞。

 その動きにキリヤも応戦するが蹴りと爪が真正面から衝突した途端――

 

「その程度か!!」

 

(ヤベェ力負けしてる!!)

 

 あの〈七剣総統〉ですら”兎々戦の鉄鎧(レベル3・ビビットアーマアルナブ)”で圧勝出来たというのに今では完全に負けている。

 腕に薙ぎ払われたキリヤは飛ばされヤミに激突してしまい、ヤミが持つ刀の刃を折ってしまう。

 

「すんません!」

 

「言ってる場合か!」

 

 ヤミが向いた方向からは莫大な炎の塊が迫っていた。

 

「ノーム!!」

 

『御意』

 

 キリヤの魔導書から飛び出したノームは手を正面へ翳す。

 金剛石精霊創成魔法”網状敷の絶対防御壁(ネイワークダイヤ)”。

 寸前で炎の塊を防いだがノームは怪訝そうに、

 

『驚愕。この火力は……』

 

『憎悪』のファナ。

 先ほどの一撃は炎精霊魔法”サラマンダーの吐息”。

 現に肩には全長三十センチほどだろうか。小型のトカゲが乗っており、その口から煙を吐いている。

 四大精霊サラマンダー。ノームとも顔見知りだったのだろう。だが、他の精霊と違ってまるで意思が感じられない。

 

「その鎧を着てるのはアルーグなの!! お願い〈三魔眼(サードアイ)〉、あの子は……アルーグは『ガルガン』に何かされたから私のことや皆のことを覚えていないだけなのよ! だから彼だけは生きて捕らえて!!」

 

「何だって? ……確かに、あの鎧は昔とは違うけどアルーグくんのものだよね」

 

「真偽はともかくサイルが見間違えるはずもない。ついでだ、捕まえてやる……ッ!」

 

 もう気が付いたのかサイルは声を上げ、その言葉で〈三魔眼(サードアイ)〉の目が一気にキリヤへと向けられる。

 このままでは皆がキリヤの巻き添えを喰らってしまう。

 ならば――

 

「皆を守れノーム!! オレの分に魔力は回さなくていいから全力でやれ!! オレがいいって言うまで何があっても絶対出すんじゃねえぞ!!」

 

『……承知』

 

 金剛石精霊創成魔法”金剛鉄壁陣(ダイヤサークルウォール)”。

 ノームはキリヤから離れるとこの場にいたクローバー王国の者全員を囲うようにして金剛石の壁を創造する。

 ヤミが中で何か言っているが防音性も完璧なのか何も聞こえない。

 

「……何故そんなムシケラを庇う?」

 

「オレの後ろには今トモダチがいるんだ。尊敬する人もいて、今は知り合いじゃないけどいつか知り合うかもしれない連中もいる――ほら庇う理由が三つもあるだろ」

 

「貴様とリヒトも同じだ。唯一無二の親友であるにも関わらず、何故矛を向けるのだ」

 

「それにガルガンっつったらウチらにとったらこれまでにない忌み名だ。もっとも、今のキミにしたら”母親”なんだろうけどね」

 

「憎い……リヒトから親友を奪ったガルガンが憎い」

 

「…………」

 

 あれだけ敵意を持っていた〈三魔眼(サードアイ)〉がキリヤに向ける声音には仲間に向けるものがある。なのに今のキリヤには何も分からない。

 だが明確に分かっていることはある――

 

「オレの母さんがどんなヒトかも知らねえし、オマエらにとってアルーグがどんな存在かも知らねえしリヒトやサイルがオレのことをどう思ってたかも分からねえ。でもな、今のオレにとって生まれや名前なんて些細なことなんだよ」

 

 そう。過去は過去。

 覚えていない過去よりもキリヤにとって何より重要なのは生きる意味を見出せた二年前からだ。言えばキリヤの人生は二年前、メレオレオナに出会った時から始まった。

 だから――

 

「オレはもう二度と負けたくねえ――ただ惚れた女に『カッコイイ』って認めてもらいたいだけのヤローなんだよ!!」

 

 キリヤは強大な魔力を持つ〈三魔眼(サードアイ)〉相手に”吸魔の銃”を取り出す――

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