「行くぜ〈
”吸魔の銃”を構えたキリヤは目の前に銃を向け黒い闇が噴き出す。
駆けてくる〈
「無駄だよ……今の君では彼らには敵わない」
「……無駄、無駄。リヒトが言うんだから」
精霊魔法”サラマンダーの吐息”。
先ほどよりも強い火力で打ち出された莫大な炎の塊にキリヤは銃剣を薙いで斬り裂く。
キリヤの想いに呼応したのか、キリヤは全身に魔力を保持しながらも銃剣だけであの莫大な魔力を吸収出来た。持ち主の想いに応える――”吸魔の銃”に住まうのがどんな者か知らないが今は使わせて貰う。
サキムニ達を合わせずレベル3でいるのも”吸魔の銃”が今はこの方が効果的だと言った気がするからだった。
「喰らえ!!」
”サラマンダーの吐息”を打ち返せば対応するのはファナではなくライア。
側面から放たれた模倣精霊魔法”サラマンダーの吐息”がキリヤの一撃を相殺し、呆気に取られた瞬間をキリヤの横腹をヴェットが打つ。
「ぐ、うぅ……っ!」
「過去とは違い隙だらけだぞ」
「っるっせぇ!!」
鎧などもはや防御になっていない。
襲い来る鈍痛にキリヤは吹き飛ばされ、歯を食い縛る。
今ので肋骨がやられたのか、呼吸するだけで腹部が痛みまともな思考にならない。
だが相手は手を休めることはない。バラバラに見えるようで連携は取られており、例え魔力を吸収出来る銃剣を持っていようともキリヤは追い詰められる一方だった。
(オレは負けねえ……負けられねぇんだよ!!)
再会した時、メレオレオナは言った。
――弱い者には興味がない、と。
サイルに一度敗北を喫したことを伝えた時、メレオレオナは怒っていて失望させてしまったとキリヤは敗北したことを酷く悔いていた。
「どうした、動きが止まっているぞ!!」
獣魔法”チーターチャージ”。
瞬く間に肉薄してきたヴェットにキリヤはカウンターで銃剣を振るうも容易く躱されてしまう。
「剣の扱いがなっていないな……ッ!!」
獣魔法”ベアクロウ”。
宙へと弾き飛ばされたキリヤに容赦なく叩き込まれる”サラマンダーの吐息”。
連発で撃ち込まれればあまりの魔力量に吸収しきれない。
地面に頭から落ちたキリヤの鎧は各所が砕け素顔が露わとなり、銃剣は離れた場所へ落ちる。
気を失ったように思えたキリヤだが土を掴みすぐさま起き上がろうとする。だが即座に気付いたヴェットによる追撃がキリヤの背中を打つ。
「が、は……ッ!」
「諦めろ。今の貴様と我らでは差は歴然だ」
ヴェットはそう言い放ち、倒れたキリヤの前にライアが屈む。
「……本当に瓜二つだねアルーグくんと。これ以上戦んのもメンドーだし同郷の仲間を傷つけたくないしね、捕らえさせてもらうよ?」
◎
ライアの言葉などキリヤの耳に届いていなかった。
聞こえたのは――諦めろという言葉だけ。
『あなたが求めたのはたったこれっぽっちの力なの?』
どこからか、そんな声が頭に直接響いた。
誰の声か分からない。聞いたこともない。だがその問いは否定しなければならなかった。
「違う……オレはもっと、強くなるんだ」
『うん、そうだね。もっと、もっと、強くなるんだ』
薄れていく意識の中、目の前に広がっていたのは洞窟の光景ではなかった。
何もない、地面も空もなくただひたすら何もない空間。そこにキリヤは浮遊していた。
気付けばキリヤの前に立つのは黒い影に覆われた女性。
『私は誰よりも”あなたの強さ”を知ってる。だからこんなところであんなヤツらに負けるのなんて見たくないの。ホントならあのサイルの時にだって出てやろうと思ったけど思った以上に魂の
「魂の
『あなたの身体進化魔法はレベル3以降何かを身に纏うだろう? その間あなたは精霊と魂が繋がっているのさ。だから使い込めば使い込むほど
ま、これは説明しなくていいかと女性はキリヤに近付くなり腕をキリヤの背に回して抱きしめてくる。
『魔法帝だって、魔法騎士団長だって、〈
「誰にも負けない強さ……」
『メレオレオナ・ヴァーミリオンに嫌われたくないんでしょ? だって嫌われちゃったら会話すらしてくれなくなっちゃうんだし。好きな人に嫌われるのは何事にも勝るほどツライでしょ? 彼女言ってたじゃない――あの程度の女に負けてれば絶縁してたーって、下手すりゃ今回もそうかもよ?』
どこまで知っているのか、この女性はキリヤの全てを把握しているように思える。
影に覆われて表情は見えないが口元に手を当て、くすくすと女性はキリヤの不安を煽りながら笑う。
『別にそうなってもあなたには私がいるんだし私的にはイイと思うんだけど、やっぱりこのまま負けるのも癪だしね。あなたの感情次第だよ』
「オレは……レオナ様にだけは嫌われたくねえ」
と、聞けば女性はキリヤの背後へ自然な動きで流れるとキリヤの右手を取る。
『だったらほら、最も基礎的なこと。人差し指から順に、最後は親指で支えて拳を作ればそれを突き出す。あなたが求める限り力は無限に供給されるから――ほら、言ってごらん』
「オレは――」
◎
「もっと強くなるんだッ!!」
「っ!?」
真っ直ぐ突き出した拳はライアの顔面を真正面から捉えていた。
無意識のうちに殴り飛ばした一撃。だがそのおかげで喝が入った。あれだけ激痛を訴えていた身体も痛みを発するどころか全快し、これまでにないほど調子が良くなっている。
「どこにこんな力が……」
顔面に受けた一撃で怯んだライアは一旦光魔法によって距離を取り、ファナが”サラマンダーの吐息”を撃ち出す。
腰を捻り拳を構えればキリヤは真正面から”サラマンダーの吐息”を殴り吹き飛ばす。
「こんなもんじゃねえ! オレが求めてる強さはァ!!」
ただ吹き飛ばしただけではない。”サラマンダーの吐息”に込められていた魔力全てを銃剣なしでキリヤの身に吸収していた。
加速し肉薄してくるヴェットにキリヤは拳を打ち当てる。本来ならばヴェットが持つ強大な魔力で阻まれるだろうが今のキリヤに魔力は意味をなさない。
『もっと!!』
「もっと!!」
先ほどまで意識の空間にいたはずの影に覆われた女性がキリヤの傍に現れる。
だがキリヤにしか声は聞こえず姿も見えていない様子。それでも戦闘に関係はない。
一撃、二撃、拳による打撃がヴェットの顔面と横腹を捉えれば蹴り飛ばす。
『誰も敵わないぐらいに!!』
「強くなるんだァ!!」
ファナが炎の魔力を纏い突貫してくるがキリヤは躱し、裏拳を叩き込む。
すると消えたかのような速度でファナの身体は洞窟の壁へと叩きつけられる。
「もっと、もっとだ。もっとオレは強くならなきゃなんねえんだよ!!」
◎
「ダメよアルーグ……それ以上その力を使えば――あなたがあなたじゃなくなるわ!!」
アルーグの額には魔力で形作られた眼が尾を引き、しかも一つではない。合計して三つの魔力の眼が額に収まらない分、頭頂部付近で揺らめいていた。
あの〈
今アルーグをを突き動かしているのは間違いなく”吸魔の銃”、いやその中にいる悪魔そのもの。
かつてのアルーグならば善悪の区別はつけ、あの悪魔との距離感も知っていたはずだが今のアルーグはそれを知らずに使っている。
傷は浅くないがサイルは立ち上がるなり激戦の合間を突き進んでアルーグへと肉薄し、その両肩を掴む。
「オレの邪魔をすんじゃねえ!! オレは……強くないといけねえんだ!!」
「そんな強さに意味はないって過去のあなたは言っていた! 私にそう教えてくれたじゃない!!」
「オマエはオレの敵でしかねえ!! エラソーな口利くんじゃねえよ!!」
不意の衝撃にサイルの表情が苦悶に歪む。
アルーグが放った拳が腹部を打ち、口端から血が零れる。
それでもサイルはアルーグから離れない。このままでは確実にアルーグは自分を見失ってしまう。
例え今のアルーグがキリヤとして生きていて、自分のことを何も覚えていなくとも。敵だと蔑まれようとも。サイルにはアルーグを見捨てる選択肢などどこにもない。
いくら殴られようともサイルは離れず、アルーグを抱きしめ続ける。だがアルーグは止まらない。
『ほら、あなたの強さを否定する女が現れた。壊さないとまたいつ邪魔するか分からないし――殺しちゃえ』
「離れねえんなら容赦はしねえぞ!!」
悪魔――ベルゼヴィーヴィアはアルーグからサイルを強引に引き離してくる。
すでに現世に介入出来るほどの
「ッ!」
拳の連撃、後ろ回し蹴りの全てがサイルの身体を捉え吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられ、血を吐きながらもサイルは倒れそうになる身体に鞭を打ちながら立ち上がる。
こんな身体に走る痛みなど容易いものだ。だが目先の強さに縛られ、苦しむアルーグをまた失えば今度こそサイルの心は持たない。
「まだだ……もっと強さが必要なんだ!!」
キリヤの身体に残った鎧の各所が一斉に黒い闇を噴き出させる。
今まで貯めに貯めた魔力が火花を散らし、闇を裂いて現れたキリヤの姿は大きく変化していた。
まるで鎧と人が一体化したようにその姿は人間から離れ、背中から大きな一対の鋼鉄の翼が広げられる。
生ける災厄とも言われた魔神――いくら禁術を重ねたところで到達出来る人間など片手の指で容易に足りるほどしかいない究極形態。
「ルゥアアアアアアアアアアア――ッ!!」
「……これはまずいね」
莫大な闇の力の奔流に回復中のリヒトでさえ冷や汗を隠しきれていない。
この力はまだ使うべき時ではないのだ。さらにアルーグのものとなればイレギュラーも甚だしい。
『きたきたきたーっ!!』
こちらの気持ちなど伝わるはずもなく黒い影に覆われていたベルゼヴィーヴィアもその正体を現す。
妖艶で見る者を魅了して止まない容姿をしているがその体色は薄い紫色と人外そのものであり、目も人間の色では表しきれない色をしている。
「そんな……アルーグ」
『一途な愛ってのはヒトを盲目にさせんのよ。あなたよりもメレオレオナって女の方が愛されてるって証拠かしら?』
アハハと哄笑するベルゼヴィーヴィアは勝利を確信したと言わんばかりに両腕を広げ、
『どんな魔力の持ち主でも私の前ではただの食糧。手始めにこの一帯の
「――昔と何一つ変わってないわねベルゼヴィーヴィア」
高らかに勝利を宣言しようとするベルゼヴィーヴィアにサイルは回転式自動拳銃に一発の銃弾を込めて放つ。
その銃弾はアルーグへ向け放たれるがベルゼヴィーヴィアはけらけら笑う。
『ははは! そんなチンケな銃弾一発でどうしようっていうのかしら!』
「貴様にとって
『っ!』
魔弾創成魔法”
着弾すれば如何なる魔法でも打ち消す無属性の弾丸。
魔神と言えど強化魔法。そして今の状態はアルーグ自身が魔神になったのではなく身に纏っている鎧が変化しただけに過ぎない。
『しまっ――』
気付いたところでもう遅い。
アルーグが身に纏っていた”
同時に現世に顕現していたベルゼヴィーヴィアも消え、サイルはアルーグの身体を地面に触れる寸前で受け止める。
「もっと強くなる……そうせざるを得ない環境にいるのね」
凄まじいまでの強迫観念。
人間といるからこそアルーグはこれほどまでに苦しむ、それならば――
「帰りましょう、アルーグ」
だが、瞬間莫大な魔力の奔流が三つに渡って放たれる。
アルーグを抱えたサイルを避ける形だったが現れた新たな人影三人にサイルは忌々しげに声を上げる。
「魔法騎士団……ッ!」
そこに現れたのはクローバー王国が誇る魔法騎士団団長三人が立ち並んでいた――