魔法騎士団本部から一報を受けてシャーロットは〈銀翼の大鷲〉団長ノゼル・シルヴァと〈翡緑の蟷螂〉団長ジャック・ザ・リッパーと共に戦場へ赴いたが事態は思った以上に芳しくないようだった。
ノームの防壁に閉じ込められた状態のヤミやその他は負傷が見え、奥では魔弾の使い手に抱きとめられているキリヤが見える。
状況から察するにキリヤはヤミ達を庇い、一人で戦った。今のキリヤからは魔力が感じられず、何があったかは不明だが敵に囚われているのは事実だ。
一度ヤミの方へ振り返れば金剛石の壁に手を触れ、
「ノーム、壁を解除しろ」
『……拒否。主は我に指示があるまで何があっても絶対に出すなと言われている』
「そうか……」
と、防壁の内部でいきなり荊が溢れ出す。
そのまま内側から金剛石の壁を持ち上げ、半球状の金剛石の壁を無理矢理地面から引き離す。
「これで話が出来るな」
「おたくの団員どうなってんだ。団長差し置いて一人で突貫しやがって」
「黙れ。元はと言えば謹慎中だったあの莫迦者を連れ回す真似をした貴様がそもそもの原因だ」
「それ言ったら謹慎の意味すら知らなかったアイツに止められなかった〈碧の野薔薇〉のせいなんじゃねーの?」
「……ともかくいつまで尻餅をついている気だ。男のクセに情けの無いヤツだな」
「おい誤魔化したろ今」
ヤミの言葉を途中で切り上げ、背を向けるシャーロット。
その心の中ではヤミに対して何故こんな悪態しか吐けないのかと悔いながらも今はそれどころではない。
あの様子であれば敵はキリヤの命を取ることが目的ではなく、どうにも連れて行こうとしている様子。
「我が国を襲った逆賊のトップが雁首を揃えているとは……またとない好機だ」
「オレもまだまだ戦いまァす!!」
「引っ込んでいろ下郎」
戦功叙勲式にもいた――名前は思い出せないが
「我々団長が出張った戦場に魔力の無い下民など必要ない」
「……っ!」
「新手か……良いだろう! 果てしなき闘争の果てに真なる絶望がある!!」
「あーヴェットくんやる気なのはメンドーだけどウチ今無理……」
「何を言っているライア」
敵もまた戦意を見せるが鼻を手で押さえたライアと呼ばれる男は「タンマタンマ」と手を軽く挙げる。
地面にも垂れているがどうにも鼻血が止まっていないようだった。
「光魔法で治癒しようにもアルーグくんに殴られた鼻まだ止血出来ないんだわ。悪いけど今回はパス」
「……ベルゼヴィーヴィアの能力ね。魔力を奪われた箇所は一定時間あらゆる
「メンドーだなホント……ってことで流石にバトることになれば鼻血って支障出まくりだしサイルいけるかい? アルーグくんのことならウチが見とくし」
「分かったわ。丁度私もあの女に話があったところよ」
拳銃を携えたサイルだが一度振り返り、
「もしアルーグに何かあればあなたを殺すわ」
「ひえーアルーグくんのことになればホントに盲目になるというか……まあ大丈夫だって」
「ふん情けないヤツめ。まあ良い、我も魔力を回せない箇所がいくつもあるが丁度良いハンデだッ!!」
その言葉を火蓋に洞窟内で一斉に莫大な魔力が迸る。
ノゼルはサラマンダーを肩に乗せた少女と、ジャックはヴェットと呼ばれた大男と。
そしてシャーロットはサイルと対面する。
「貴様が全ての属性を使う魔弾の射手か。何故キリヤを狙う?」
「決まってるわ――あの子が苦しんでいるからよ。強さばかりを求められ、アルーグは悪魔の声を聞いてしまった。だから私は彼を戦場から引き離す。もう二度とアルーグにあんな
「その口振り……キリヤの過去を知る者ということか」
キリヤは自ら二年前以降の記憶がないと言っていた。
つまりこのサイルという女はそれ以前のキリヤを知っているということだが――
「アイツの今の名はキリヤスフィール・フィン・ガルガンだ。アルーグではない」
「……その名を口にするな!!」
サイルは憎々しげにシャーロットへ銃口を向ける。
「貴様と私では種族も生きる場所も違う……そして思想も。だから私達は殺し合うしかない」
「単純なことだ」
シャーロットは柄しかない西洋剣から荊を出して構え、サイルは
一見光の球にしか見えないが確かな生命の息吹を感じる不可思議な生命体。十センチ程度の体躯の各所に氷を輝かせる生命体。成人女性に見えるも衣服は全て葉や根で作られている木の生命体。豹の体躯を持ち全身に雷を迸らせる生命体。その他にも多数の生命体がサイルの周りを浮遊する。
そのどれもがとてつもない魔力を内蔵しているのが見て取れる。
「この子達はアルーグと共に生きていた精霊よ。どの子もアルーグを真に愛していた、アルーグもこの子達に愛情を注いでいた。なのにこの子達から、私から、アルーグを奪ったのはクローバー王国の……貴様達人間だ!!」
精霊魔弾創成魔法”
撃ち放たれた魔弾は精霊の力が乗ってさらに加速。撃ったと思った時点で――
『うりゃーッ!!』
「な、サキムニ――」
シャーロットの眼前で魔弾は飛び出してきたサキムニによって防がれる。
その後も続々と現れたサキムニ達は何体か集まれば手を合わせ、輝けば続々と少女の姿になってシャーロットの前に立つ。そこに現れたノームを合わせて相手と同数になる。
『兎精霊強化魔法”
『賛同。義によって加勢する』
「貴様達……」
シャーロットの言葉を聞く暇もなく突撃したサキムニ達とノームは相手の精霊を巻き込んでさらに戦闘を激化させていく。
ようやくこれで一対一の状況を作られたシャーロットは荊の切っ先をサイルへ向ける。
「貴様がどんな信念を抱いてるか知らん。だが私の団員をそう易々と奪わせるものか」
◎
始めから互いの魔力の衝突は全力だった。
柄を軸に荊を展開し、地面から幾度と無く荊を飛び出させ連撃を仕掛けるがサイルもマナスキンによって底上げされた身体能力によって躱していく。
何より魔力の扱いが群を抜いて上手い。一定量の魔力を放出してまとうだけでなく、時にまるでキリヤと同じように身体の各所から魔力を一気に放出して加速または減速を行って空中だろうが地上と変わらない身軽さを見せている。
(ならば――)
全ての角度から覆い、逃げ場をなくす。
荊創成魔法”身縛りの荊牢”。
サイルの地面から飛び出す荊の他の円状に飛び出してあらゆる角度から逃げ場をなくそうと荊が飛び出すが――
「クロノス!」
サイルは再び魔導書を輝かせればそこから新たな精霊が飛び出す。
時計に酷似した体躯を持つ精霊はサイルの周りに浮遊すれば新たな弾丸が放たれる。
精霊魔弾創成魔法”
着弾した箇所から荊の色が変化したと思えばその動きは酷く緩慢なものへと変貌してしまう。
(対象の時の流れを遅める魔弾か)
新たな精霊に気付いたサキムニが分裂してクロノスを捉えて爆煙の中へ消えていくがサイルがまだ精霊を隠し持っている可能性は充分に考えられる。
これまでの攻防、キリヤからの情報で何発か魔弾の種類は把握しているがまだまだ底知れず、魔導書のページ数が桁違いなのも頷ける。
(これが
全ての属性を持つサイルはシャーロットに対し常に優勢に立ち回れる。
属性不利は当然だと思っていたがその上精霊まで使役していたとは。それもどれもが歴史に名を残すほどのものばかり。
(悲観しても仕方がない。今は倒すよりもキリヤの身が先決だ)
今もキリヤはライアとかいう男の傍で倒れた状態だ。
遠くで空間魔法の使い手も気を失っているがこのままだといつ連れ去られてもおかしくない。
だがそれは当然サイルも分かっているはず。現に戦いながらもキリヤへの配慮は何一つ衰えることはなく、むしろ感覚が研ぎ澄まされているようだ。
それほどまでにサイルはキリヤに執着している。
何があってそうなったのかはまるで不明だがシャーロットとしてもキリヤを奪わせるわけにはいかない。
今まで地面から湧き出ていた荊は攻撃するだけでなく、一種の視線誘導。一筋の荊が地中深くからキリヤに向かって伸びていたが――
「サラマンダーッ!!」
サイルが何かに気付き叫べば少女の肩に乗っていたサラマンダーが主人の元を離れ、サイルの肩に乗る。
次いでサイルは拳銃を消したと思えば弾丸ではなく杭が装填された重火器を地面に向け、
「精霊魔弾創成魔法”サラマンダーの爆撃”!!」
撃ち放たれた魔弾は地中に勢い良く突き刺さり潜り込めば地面から炎が噴き出す。
シャーロットも荊に乗って噴炎を躱すが今ので地中を進んでいた荊も燃やし尽くされてしまった。
「魔力を抑えて慎重に進めていたみたいだけど無駄よ。私には魔力の流れが手に取るように分かるわ」
「だったらこれはどうだ」
サラマンダーが持ち主の元へ戻っていく中、サイルの側面から岩塊が襲う。
巻き起こる爆煙のせいで直前まで気付かなかったサイルだが――
「精霊同化”スピリット・パンサード”」
雷豹が即座に戻ってくれば弾倉に装填されサイルは自らを撃ち抜く。
しかしそれは傷つけるものではなく、サイル自身が迸る稲妻の如き速度で駆けて岩塊を躱す。
その姿はまさにキリヤが使う身体進化魔法の鎧。雷を鎧として身に纏ったサイルは地に足をつけ、シャーロットを見据える。
「これが精霊と魂を繋げる
「ッ!」
拳銃の引き金を引いてもいないというのに魔弾が背後、いやシャーロットのあらゆる面から襲い来る。
荊で防ぐもののあまりの数に身を掠め、シャーロットは膝をつく。
「これが基礎魔法の最終形態。努力を知らない血に選ばれただけの貴様が私に敵うはずあるものか」
「くっ……」
恐らくこれはマナスキンを極めた先に到達するマナゾーンと呼ばれる極地。
マナゾーンは本来の間合いを超えた位置から魔力放出出来る領域のことであり、シャーロットの劣勢はさらに加速度を増す。
(これほどまでの力とはな)
どうにもサイルは元々の魔力量に加え、精霊の力を借りることで王族よりも高い魔力を誇っている。そしてあの戦闘能力。圧倒的な場慣れ、どれだけの戦闘を経ればあれだけの力を得られるのか。
とにかく出し惜しみしている場合ではないことは何よりも確かなことだった。
だが――
「――リヒトッ!!」
何かに気付いたサイルは咄嗟に声を上げる。
瞬間。〈白夜の魔眼〉頭領リヒトの頭上に空間魔法による穴が生まれ、そこから刀を振り上げたヤミがリヒトを急襲する――