オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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38話「裏切り者」

 リヒトの頭上から急襲を仕掛けたヤミ――だが、その動きは予想されていたのかリヒトの手には光の球。ヤミならば確実に狙ってくると予想していたのだろう。

 完全なるカウンター、しかしどんでん返しは終わらない。

 (アンチ)魔法の剣を構えた少年が地上を走ってリヒトに肉薄していたのだ。

 

「何故ヤツがそこに!?」

 

 皆が一斉に驚きを見せる。魔力がないからこそ誰の魔力感知にも引っ掛からない唯一の存在。

 それでもサイルの反応だけは違った。

 リヒトがヤミに急襲された瞬間から狙撃銃を構えていたのだ。まるで乱戦によって巻き起こった爆煙の中を少年が走ってくるのを想定していたように。

 

「死になさい」

 

 魔弾創成魔法”死榴弾(デッドバースト)”。

 引き金を引く瞬間――引かれるはずの引き金にサイルのものではない第三者の指が突っ込まれる。

 

「な、アルーグっ!?」

 

「行けアスタ!!」

 

 きっと状況など理解出来ていないだろう。

 だが友のためだと身体が自然に動き、そして守った。

 魔弾は放たれることはなく――

 

「諦めないのがオレの魔法だァ!!」

 

 大剣の一撃はリヒトの左腕から横腹を巻き込む形で直撃する。

 倒れ込むリヒトに各所で動揺を見せる〈三魔眼(サードアイ)〉だがサイルはすでに標的をキリヤに絞っていた。

 

「アルーグ、正気に戻ったのね!」

 

「だからオレはアルーグじゃないって――ぼはっ!?」

 

 すぐにでもキリヤを捕獲しようとするサイルだが精霊との同化がいきなり解ける。

 気付けば周りで戦っていたサイルの精霊達は戦うのを止めて皆一斉にキリヤへと飛び込む。

 

「な、何だ!? 誰だよオマエら!」

 

 猛烈な勢いでじゃれついてくる精霊達に流石のキリヤでも困惑を隠せない。

 

「待て待て覚えてないから反応に困る!」

 

「待ちなさいあなた達! まだアルーグはあなた達のことを――」

 

 サイルが止めに入ろうにも精霊達は聞き入れずキリヤと戯れる。

 だが今までにないほどの魔力の塊を感じ振り向けばリヒトの魔力はとてつもないものへと変貌を遂げていた。

 

「あんなもの放出されればこの辺り一帯が吹き飛ぶぞ……」

 

 王族ですら見たこともない魔力量。あれだけの力を隠し持っていたことにも驚きだがどうにも制御出来ていない様子。このままではあれは生きた爆弾だ。

 

「く、今回はここまでのようね……」

 

 魔導書を開いたサイルはキリヤに集っていた精霊達を全て戻すと〈三魔眼(サードアイ)〉もまた三人揃ってリヒトの元へ集う。

 三位一体封印魔法。

 〈三魔眼(サードアイ)〉全員の魔力をもって封じ込められたリヒトの魔力は結晶化し、

 

「今回は我々の敗北だな」

 

「というワケで撤退しますか。ほらヴァルちゃん」

 

 ようやく鼻の止血が終わったライアは模倣空間魔法を使用し、〈白夜の魔眼〉に属するメンバーの足下に次々と空間を創り出していく。

 サイルは撤退の言葉に哀しそうな顔をしながらキリヤへ手を伸ばすが適当に構えたキリヤに触れるのは諦めたのか、

 

「私はあなたが幸せならそれでいい。でもあなたが苦しむなら私はどんな手を使ってでもあなたをクローバー王国から連れ出して守るわ」

 

「……何でオマエは敵なのにそこまでしようとしてくれんの?」

 

「…………」

 

 その問いにサイルは何も答えなかった。

 ただ自らが首に下げていた古びたペンダントをキリヤへ手渡せば空間魔法によってこの場から去っていく――

 

 ◎

 

「えーっと、何ですかこの状況?」

 

〈白夜の魔眼〉との交戦を終えた後日、キリヤは呼び出された魔法騎士団本部地下に来ていた。

 早速扉を開けるなり地下室はボロボロで〈紫苑の鯱〉団長らしきハムみたいな頭部をしている大男が地面に絵のような感じになって埋まっている。

 他の団長やアスタもいる中で魔法帝はキリヤに気付くと軽く手を挙げ、

 

「よく来てくれたねキリヤくん。〈白夜の魔眼〉の交戦ご苦労だった」

 

「うす、それはイイんスけどこの状況は……?」

 

「見たら分かんだろ。裏切りもんの吊るし上げだ」

 

「わお」

 

 ヤミが端的に言えばキリヤもどの件か納得する。

 王都襲撃の一件、あれは魔法騎士団側が関与しなければ到底成し得ないことであり常々裏切り者の存在は示唆されていた。

 どうにも確認方法は事情聴取ではなく前に一度会ったきのこ頭の男性による記憶交信魔法というものを使うらしい。

 

 今魔法騎士団や魔法帝は裏切り者について過敏になっている。

 そしてキリヤにも少なからず疑いの目は向けられているようで察したキリヤは自ら手を挙げると、

 

「だったらオレも調べてくださいっス! オレ裏切りもんかもしれないんで!」

 

「は?」

 

 と、言いながらすぐに身構える〈翡緑の蟷螂〉団長ジャック・ザ・リッパー。

 その腕にはすでに魔法と思われる刃が装着されていて今にも襲ってきそうなのでキリヤは両手を向ける。

 

「待って待ってカマキリーマン団長!」

 

「オイ今冗談聞いてる余裕はねえんだが?」

 

「すんません!」

 

 すでに団長の一人が裏切り者だった時点で空気はめちゃくちゃ厳しいものだった。

 このまま引き伸ばせば襲われかねない。主に〈銀翼の大鷲〉と〈翡緑の蟷螂〉両名の団長に。

 

「発端は王都襲撃だったんスよ。そこで会ったサイルがオレのこと”アルーグ”とか言い出して、つい先日会った〈白夜の魔眼〉の〈三魔眼(サードアイ)〉もオレのこと知ってる口振りで。何より頭領のリヒトなんてオレの親友らしいんですよ」

 

 そんで、と言葉を付け加えながらキリヤは懐からペンダントを取り出して開ければそれを皆へ向ける。

 

「これは……」

 

「サイルが去っていく前に渡されたヤツです。サイルとオレがツーショットなんですけど全然身に覚えなくて。それにこの古びた感じというか焼けた感じというか最近作ったものとかには思えなくて」

 

「他人の空似……というわけにはいかないようだね」

 

 キリヤが見せたペンダントには仲睦ましげに写真に写るキリヤとサイル。

 覚えがない分、自分でも初めて見た際は不安になってしまったもので身の潔白を示すには一つしかない。

 どんとその場にキリヤは座り込む。

 

「自分でも知らないうちに裏切っちゃってる可能性あるんでどうか記憶を見てください! あ、心配なら拘束魔法とかかけてくれても全然構いませんし……ってそうかその気になれば吸収出来ちゃうしな。そうだアスタ! 反魔法の剣オレの身体に当て続けといてくれ!」

 

「お、おう」

 

 アスタの(アンチ)魔法ならばキリヤに抵抗する術はない。

 頼まれたアスタもやや困惑の表情を浮かべながらも胡坐をかいて座るキリヤの足に大剣を添える。

 

「お、おお……」

 

 大剣が触れた途端に魔力が上手く扱えなくなる。初めての感覚に若干気分も高揚するキリヤだがそれどころではない。

 魔法帝側近のきのこ頭の男――マルクスは戸惑うように、

 

「魔法帝、よろしいのでしょうか?」

 

「彼が身の潔白を証明したいならばするしかない。というより今回彼を呼んだのもこうして調べるためでもあったんだけどね」

 

「……分かりました。それでは記憶交信魔法を始めます」

 

 ◎

 

「何だこりゃ……」

 

 記憶を見始めて数分、まず口を開いたのはヤミだった。

 初めはやや緊張する雰囲気を感じていたシャーロットや他の団長だったが結論から言ってキリヤの記憶は本人の言う通り二年前から始まっていた。

 

 それ以前の記憶は一切なく、マルクスも困惑の声を上げていた。どんな人間でも忘れることはあるが深層心理には全て残っているもので記憶交信魔法はその全ての記憶を見ることが出来る。

 

 なのにキリヤのは見れない。防護されているわけではなく本当にないのだ。まるで破かれた本のページのように跡形もなく消えてしまっている。

 

 だが何も十三歳以前から裏切っていたという確証もない。

 ただキリヤの過去は思った以上に凄まじいものだった。

 

「マジで出会って数秒でプロポーズしてたのか……」

 

「毎日拳骨三昧で谷底に蹴り落とされたり強魔地帯に連れてかれたり……」

 

「……よく生きていたな」

 

 あのノゼルですらキリヤの修行光景を見て言う始末。

 結局二年はあっという間に経過し、魔法騎士入団試験に突入してしまう。

 

「分からねーからってテキトーに団選ぶかフツー」

 

 ここでもキリヤが適当に団を選んでしまったことが発覚。

 ヤミも思わず真顔で言うがそうしてしまったものは仕方がない。

 

「パシリランク決定戦なんてどぎついことしてんなぁ」

 

「黙れ。力を見せれば良いだけの話だろう」

 

 ジャックがそう弄ってくるが一蹴。

 ここからはシャーロットもほぼ把握しており〈七剣総統〉を打ち倒したこと、そして件のサイルとの出会い。

 

「全属性による魔弾魔法、か。是非見てみたいなぁ……」

 

「魔法帝、こんなところで興味持たないでください」

 

 すっかり緊張感がなくなった雰囲気になってきたがシャーロットは何か致命的なことを忘れている気がする。

 魔法騎士団本部から逃げ出した〈七剣総統〉を一撃で仕留めたメレオレオナ。その後、キリヤの新たな力となるノーム。

 そこまでは良かったが――

 

「――あ」

 

 思い出したところで遅かった。

 キリヤが熱で倒れた際に付きっ切りで看病した記憶が思い切り皆に見えてしまった。

 これにはジャックもカカカと笑う。

 

「あの男嫌いな荊の姫君が男の看病なんてな。気に入った男は可愛がるタイプかぁ?」

 

「……殺す」

 

「まあいいじゃないか。シャーロットも成長してるということだよ」

 

 裏切り者以前にからかってくるジャックを荊で削り取ってやろうと思ったがユリウスに止められてしまえばそれ以上何も出来ない。

 恥を甘んじて受けるとしてまた記憶は進み、とうとうつい昨日のことへと進展していく。

 だがその最中、裏切りとは関係ないことで事態は深刻化する――

 

 ◎

 

「……ん、終わった感じですか?」

 

 しばらく意識を失っていた気がするがどうにも記憶交信魔法は終わったようだ。

 前を見ると魔法帝ユリウスは何やら少しばかり険しい表情をしており、その他の団長も何やら深刻そうな表情を浮かべている。

 アスタもまたキリヤにどう声をかけていいか分からないでいるようだ。

 中でもシャーロットは一歩前に出てキリヤへ近付くと膝をつき屈んでキリヤと視線を合わせる。

 

「キリヤスフィール、結論から言って貴様の潔白は証明された――だが」

 

「だが……?」

 

「”吸魔の銃”、あれは今の貴様にはあまりにも危険過ぎる。貴様が制御するに値するまで魔法帝含め我々団長で話し合いにより魔法騎士団本部にて封印することが決定した」

 

「え……」

 

 それは唐突な言葉だった――

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