オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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3話「魔法騎士団と魔導書授与式」

「そもそも魔法騎士団って何なんですか?」

 

 メレオレオナに連れられて入ったのは野生動物の肉を調理し提供するジビエ料理専門店だった。

 正直いつもと変わらない気がするがよく分からない葉っぱが乗っていたり、フォークやナイフなどよくわからない刃物を使いながら食べるなど初めてのことばかりだ。

 ぎこちない動きのキリヤに対して手慣れているメレオレオナは一度ナイフとフォークを置く。

 

「魔法騎士団は命を懸けて国や民を守る戦闘に特化した者達のことだ。それぞれ九つの団に分かれ、団長と呼ばれる者達の指示の下に動く」

 

「民を守るはずの魔法騎士団がさっきの親子を殺そうとするんスか? そんなヤツらが魔法騎士になれること自体おかしいと思いますけどね」

 

「貴族、王族は生まれつき魔力が豊富だ。対し下民、平民のほとんどがそれほど魔力を有していない。だからこそ多少難があろうとも騎士団に入れるのだ」

 

「何かやだなぁ……」

 

 先ほど見た光景はキリヤにとって本当に気分が悪くなるものだった。

 国民を守るべき存在が国民を虐げる。どんな理由があれ許されない行為そのものだ。

 そう考えていると不意にメレオレオナと目が合う。

 

「だったら貴様の手で変えてみたらどうだ?」

 

「へ?」

 

「魔法騎士団に入ろうとする者の誰もが国民のためなどと殊勝な考えを持っていない。当然得た権力を笠にして横暴に振るう者もいる。結局世界は弱肉強食だ。弱ければ搾取されるしかない――先ほどの親子のようにな」

 

 だがそれを変えたければ、

 

「魔法騎士として実績を積み上げ、魔法帝になればままならぬ現実を変えられるだろう」

 

「興味ないです!!」

 

「……即答だな」

 

 魔法帝、キリヤにとって確かに響きは良かったかもしれないが同時にそれは違うとも感じた。

 

「オレの目的はレオナ様を超えて結婚すること。それにどんな力があってもさっきの親子を助けられたのは偶然だし、どんな人間にだって手の届く範囲しか守れない。魔法帝なんて結局オレの夢とは路線が違うし!」

 

「ふ、意外と現実主義者(リアリスト)だな。だが何も魔法帝を目指せるだけが貴様にとっての利益ではない」

 

「?」

 

「魔法騎士団の任務は命の駆け引きが多い。その分自らを高められる上に様々な人間と出会うことでヒトとして成長することが出来る」

 

 様々な人間、成長、その言葉の数々にキリヤはふと考えてみる。

 このままメレオレオナに修行をつけてもらうばかりでは彼女は超えられない。いつしか彼女の元を離れて自らの力で強くならなければとは考えていた。

 ならば――

 

「オレ、魔法騎士団に入ります!」

 

「生半可な覚悟で入れるほど甘くはないがな。だが、目指すとすれば〈紅蓮の獅子王〉にしておけ」

 

「何でですか?」

 

「〈紅蓮の獅子王〉には私の愚弟がいる。愚弟からは貴様にとって学べることも多いだろう」

 

「了解しました! ぐれーのしんし、ですね!」

 

「……全く原型を留めていないが」

 

 呆れた表情を見せるメレオレオナだが対照的にキリヤはやる気満々に。

 魔導書(グリモワール)授与式まであと――一年と少し。

 

 ◎

 

 蛍タンポポの綿毛舞う三月。

 年に一度全国各地に存在するその年で十五歳になる者を集めて持ち主の魔力を高めるための魔導書が授けられる。

 ということでキリヤは魔導書(グリモワール)塔にやってきていた。

 

(やっぱりいっぱい来るんだなぁ……)

 

 社会見学以来また修行に入ったので大勢の人間を見るのが久しぶりなキリヤ。

 周りを見ながら歩いていると――

 

「のわっ!」

 

「ん?」

 

 何かにぶつかった。

 まるで岩にでもぶつかったような感覚だが見てみるとそこにはキリヤよりも遥かに身長は低い少年が。

 よそ見していた自分が悪いのだからとキリヤは軽く頭を下げる。

 

「ごめんね、ちょっとよそ見してた」

 

「いいっていいって気にすんな。やっぱり緊張するもんな!」

 

 やけに元気の良い少年だった。

 小さくて、灰色……だろうか。とにかく煤けた髪に額に巻いたバンダナ。

 恐らく連れであろう見た感じ爽やかといった風体の黒髪の少年ともふと目が合う。

 

「ということはそっちも緊張してんの?」

 

「まあな。でもこれが魔法帝になる第一歩だからな!」

 

「へぇー……っと、オレの名前はキリヤ。未来の魔法帝くんの名前は?」

 

「オレはハージ村から来たアスタだ! よろしくな!」

 

 これまた元気良く自己紹介したアスタは手を差し伸べてきてキリヤもその手を握る。所謂握手というものだ。

 だがその手に触れた途端にキリヤはすぐに察する。

 

(うわ、結構鍛えてるな)

 

 アスタ、そう名乗った少年は確かに身長は低いが腕も脚も筋肉がしっかりと付いている。

 魔法帝になる、どうにもただの戯言ではなく鍛練を欠かさなかった賜物だろう。

 

「頑張れ未来の魔法帝、オレは応援してるぜ?」

 

「おう、ありがとな!」

 

「魔法帝になるのはアスタじゃない――オレだ」

 

「……なぬ?」

 

 てっきり魔法帝を目指しているのはアスタだけかと思ったがそうではないらしい。

 今まで黙っていた連れの黒髪少年もどうやら魔法帝を目指しているようだ。

 

「だったら二人目の魔法帝の名前も教えてくれよ」

 

「……ユノ」

 

 黒髪の少年――ユノは小さくそう言うとアスタを置いて先に魔導書塔の中に入っていってしまう。

 

「あっユノ! 置いていくなって! それじゃまた会おうぜキリヤ!」

 

「おう、オレも行くか」

 

 走って行ったアスタにキリヤも続いて魔法塔の中に入っていく――

 

 ◎

 

『ようこそ受領者諸君――今日からそれぞれの道を歩む道へ進む君達へ「誠実」と「希望」と「愛」を……』

 

 魔法塔に入って少し待つとどこからかしわがれた老人の声が聞こえてくる。

 中にいる少年少女はそれぞれ期待に胸を膨らませ、中には孤児だからとアスタ達を蔑むような声も聞こえた。

 だが魔導書を授与する老人の話が中盤になれば皆耳を澄ませる。

 

『それでは――魔導書(グリモワール)授与』

 

 周りは全て本棚に囲まれていた空間だったがどうにもどれもこれもが魔導書だったようで輝く魔導書はそれぞれ持ち主を求めて浮遊し降りてくる。

 

「あ、あのー……」

 

 少年少女が魔導書に一喜一憂している中、不意にアスタの声が聞こえてきた。

 見てみると魔導書を迎え入れるポーズのまま固まっているアスタがいて、

 

「魔導書が来ないんスけど」

 

 その言葉で一瞬、この場全てが沈黙してしまった。

 どうにも異常事態(イレギュラー)だったようで聞こえていた老人は少し悩むと、

 

『また来年』

 

「ええええええええええ!?」

 

 一斉にアスタの周りにいた連中が笑い始める。

 よほど稀有なことなのか魔導書塔は爆笑で包まれるがすぐに眩い光と共に沈黙が支配する。

 

(すっげー光ってる……)

 

 今まで授与された魔導書の中でも際立って輝いている魔導書。

 それを持っているのは先ほどアスタの隣にいたユノであり、その魔導書の表紙には四葉のクローバーが描かれていた。

 

「なあなあ、アレってすごいの?」

 

「すごいどころじゃねえよ……。あれは初代魔法帝も授かったっていうとんでもない力が秘められた魔導書だ……四つ目の葉には『幸運』が宿ってるって」

 

 気になったので近くにいた少年に聞いてみれば想像以上に凄いもののようだ。

 初代魔法帝も授かったということはアスタとユノの魔法帝への夢の一歩は大きくユノに軍配が上がったということだろう。

 少年達がユノを讃え騒ぐ中でアスタと同じく魔導書が来ていないキリヤも思わず首を動かして自らの魔導書を探す。

 

(流石にオレも貰えませんでしたーじゃレオナ様に何て言われるか……)

 

 どんなものでもいい。

 とにかくメレオレオナに失望されたくないキリヤの目の前に――確かにあった。

 だが、それは――

 

「ちょっと待ってくれよー……」

 

 想像以上のものが、来てしまった。

 

 ◎

 

「フフフ……アッハッハッハッハ!!」

 

 魔導書授与式を終えて森林に帰り、成果物を見せるとメレオレオナはいきなり笑った。

 そんなに笑ったところを今まで見たことないほどに笑っているがキリヤにとっては笑い事ではない。

 

「笑わないでくださいよレオナ様!」

 

「ハハハ! 何せそんな魔導書未だかつて見たことがなかったからな!!」

 

 尚も笑うメレオレオナ。

 結論から言えばキリヤの魔導書は――めちゃくちゃ小さかった。

 メレオレオナの魔導書と比べれば二分の一どころではなくもはや四分の一。

 何かメモする時にでも使うのかと言わんばかりにコンパクトサイズな一品だ。

 何より――

 

「魔法が一個しか書かれてないんスよ!!」

 

「莫迦者がァアアアアアアアア――ッ!!」

 

「ぎゃあああああ!? ナンデェエエエエエエエエエ――っ!?」

 

 あれだけ愉快そうに笑っていたのにいきなりぶん殴られ困惑のキリヤ。

 

「貴様、自分の魔導書をよく見ろ」

 

「……?」

 

 メレオレオナが何を伝えたいのかいまいち分からないが見てみると一ページ目に魔法が一つ。

 二ページ目以降には何も書かれていない白紙状態。しかも小さなサイズだというのにとんでもなく無駄にページ数が多い。

 

「……何が分かった?」

 

「全く分かりません!!」

 

「こんの大莫迦者がァアアアアアアアア――ッ!!」

 

「ひぇえええええ!!」

 

 また顔面に拳をブチ込まれ青天。

 しかも今回はいつにも増して強く、大の字で倒れてキリヤは動けなくなる。

 

「結論から言って貴様の魔法は増える可能性がある」

 

「え、マジですか!?」

 

 即座に復活。

 両頬を叩いて顔面を元に戻すとメレオレオナは頷く。

 

「本当に一つしか使えないならば魔導書は一ページしか存在しない。つまり貴様にはまだまだ成長の余地があるということだ。魔導書は持ち主の成長によって魔法を増やすことがある」

 

「え、じゃあオレ二年修行したけど魔法一個分だったんスか!?」

 

「そうだ!! 貴様はまだまだ弱い!! だからこそより強くなれるということだァア!!」

 

「割とショック!! でも今よりもっと強くなれるならそれはそれで嬉しい!!」

 

「もし仮に貴様の魔法が一つならばそれを極めろォオオ!! 極めてのし上がれ!! 諦めるなど死んでからいくらでも出来る!!」

 

「レオナ様!! オレ、頑張ります!!」

 

 メレオレオナ流の激励を受け、今までやれ小さい魔導書やれ魔法が一つしかないなど嘆いていた己を恥じる。

 ますますやる気を出したキリヤは立ち上がると「うぉおおお!!」と声を上げ魔力を放出。

 そのやる気を見たメレオレオナは腕を組み、

 

「せっかく貴様が魔法を使えるようになったのだ。これからの修行には私も魔法を使ってやる」

 

「………………え?」

 

「……何だその反応は」

 

「い、いえ、何でもないです……」

 

 ただでさえ通常のメレオレオナですらボコボコもいいところなのに。加えて魔法が追加されたら現状死んでしまうかもしれない。

 だが、キリヤの想いとは裏腹にメレオレオナは戦う気満々の様子で、

 

「よし、ここで私の魔法を使えば森が焦土になる。裏にある岩山へ行くぞォオ!!」

 

「ウッス!!」

 

 もうこうなればやけくそだ。

 キリヤはそう言いたげな様子で拳を振り上げればメレオレオナに連れられ岩山へ旅立つ――

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