オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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39話「新たな魔宮への誘い」

 はっきり言って〈三魔眼(サードアイ)〉との戦闘はほとんど覚えていない。

 誰かの声を聞いて、メレオレオナに嫌われたくないと思って、とにかく強くならなければならないと感じて。

 気付けば気を失っていて戦いは終盤に差し掛かっていた。

 

 団長達の反応を見る限りあまり良かったものではないらしい。

 それに意識を失っていたとなれば暴走していた可能性がかなり高い。というよりこのような反応を見せられればそうとしか思えない。

 だからこそ今キリヤは”吸魔の銃”を差し出すように言われている。

 

「どうした、さっさとしろ」

 

「う、うす」

 

 正直、今まで”吸魔の銃”には助けられた場面は多い。

 サイルとの初戦も、その後の〈白夜の魔眼〉の魔道士達との戦いも、ノーマとの試練も、助けられてばかりだ。

 それに”吸魔の銃”にもはっきりとは覚えていないが何かがいる。ここで見捨てるのは恩に反する行為だ。

 

『ダメよ』

 

 シャーロットの言葉を否定したのはキリヤではなく”吸魔の銃”だった。

 勝手に魔導書(グリモワール)から出たと思えばその銃口から闇を噴き、闇が形を成せば女性の形を作り出す。

 

『私がこの子と離れるなんてあり得ない。だって次負けちゃったら絶縁よ絶縁。キリヤが大好きなメレオレオナに嫌われちゃって戦う意味だってなくなっちゃうんだし!!』

 

「それは……」

 

「メレオレオナ様がそのようなことするはずがない。誰にでも敗北することはある。だが重要なのはそこからどう立ち上がるかだ。キリヤスフィール、貴様が信じるメオレオレオナ様は一度でも失敗したオマエを見限ったことがあったか?」

 

 一抹の不安が過ぎりそうになった瞬間、シャーロットがその思考を遮断してくる。

 確かに今思えばキリヤは修行中幾度となく失敗したりメレオレオナに敗北してきたが見限られたことは一度もなかった。怒られはしたが魔力放出による加速も出来るまで付き合ってくれたり、負けた時だって改善点を教えてくれた。

 結局メレオレオナはいつもキリヤが倒れた瞬間から起き上がり方を教えてくれていたのだ。

 

「――信じろメレオレオナ様を、自分を。そして貴様は魔法騎士団に入ってまだ一年も経過していない若輩者だ。何も焦ることはない。自らの弱さを認めることもまた大切なことだ。挫けても、躓いても、とにかく一歩ずつ進んでいけばいい」

 

 そっと、シャーロットに優しく抱きしめられるキリヤ。

 ほんのりと香る薔薇の匂い。どうしてシャーロットは一団員であるキリヤにここまでしてくれるのか。

 だがおかげで目が覚めた。強さを求めるばかりにどうにも焦ってしまっていたようだった。

 

「オレは団長の意に従います」

 

『ハァアアアアアアアアアア!? 何言ってるのよ今のキリヤはとんでもなく弱っちいのに!! 私の力がなかったら〈三魔眼(サードアイ)〉にやられちゃってたっていうのに!! 何で拒絶するのよ! 何で何で何で何で何で!?』

 

「ごめんなオレが弱いばっかりに」

 

『別にキリヤを責めてるわけじゃない! 私さえいればあなたは最強なの! 昔だってそうだった! なのに自分から捨てるって正気の沙汰じゃない!!』

 

「捨てるわけじゃない、今のオレじゃまだ力不足だ。だからもう少し時間をくれ。必ずオマエの力を制御出来るようになるからさ」

 

『嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌!! あなたがいなくなってどれだけ待ったと思ってるの!! 私はあなたがまた現れるまで何度も人の手に渡って気付けばよく分かんない大魔道士の宝物庫に入れられて! やっと会えたのにまた待てなんて出来ない!!』

 

「身勝手なのは重々承知してる。今ここでオレのことを見限ってくれてもいい」

 

『違う違う違うの!!』

 

 頭を抱え苦しむ様子を見せる女性。

 葛藤があるのか。すでに警戒の色を濃く見せる団長達など意に介さず、

 

『あなたと私には約束があるの……どうして忘れちゃったのよ。あの女に、ガルガンに何をされたってのよ……』

 

 どれだけ闇に包まれていようともその涙だけははっきりと見えた。

 キリヤはどう答えれば良いか分からず、だが女性は返答を求めていなかった。

 

『もういい! あなたがそうするなら私もあなたが強くなった時に全ッ部真っ向から否定してやる!! 謝ったって遅いんだから!!』

 

 憤怒の表情を見せた女性はすぐさまキリヤに肉薄。

 シャーロットが咄嗟に荊を放つも触れた途端に吸収されてしまい、女性はキリヤの魔導書(グリモワール)を開く。

 ページをめくり、”吸魔の銃”について書かれていたページに掌を当てるとそのページが黒に染められる。

 

「これは見過ごせないね」

 

『見過ごさざるを得ないのよ! 魔法帝だろうが私には絶対敵わない!!』

 

 ユリウスが放った時間魔法に女性は真っ向から受け止める。

 時間魔法だろうが何だろうが魔力であれば吸収出来る、キリヤの知っているとおり魔法帝の一撃だろうとも女性は完封してしまう。

 

『じゃあねキリヤ! あなたが強くなったと私が判断したらまた出てくるから!!』

 

 べーっと舌を出した女性はそのまま”吸魔の銃”ごと一瞬で消えてしまう。

 再び沈黙になったこの場でヤミが一言。

 

「またとんでもねえのに好かれたなオマエも」

 

「……まあ、それも否定出来ないっスけどね」

 

 最近の女性関連のことを思えば本当に否定出来ないキリヤだった。

 

 ◎

 

「先ほどはすまなかったね。”吸魔の銃”に関しては私の部下が追跡を行うよ」

 

 でも、ユリウスは付け足す形で言葉を続ける。

 

「ゲルドルの件は悲しいね。一緒に戦ってきた仲間が裏切るというのは慣れるものじゃない。僕は全力で走ってきたが故にたくさんの間違いを、見落としをしてきたのかもしれない」

 

「そんな話するんなら残す人選間違ってますぜユリウスのダンナ」

 

 魔法帝の言葉で一時は解散したアスタやキリヤを含めた団長達だったがキリヤとアスタ、ヤミだけは別室に呼び出されていた。

 

「実は話には続きがあってね。捕虜の〈白夜の魔眼〉二人に尋問した際に私が彼らのアジトで見た石版のことも教えてくれたんだ」

 

「石版?」

 

「そう。いくつか石が嵌められていてね、キリヤも一つ手にしたことがあっただろう」

 

「あーあの時の……ですか」

 

 初任務の際に〈白夜の魔眼〉が商人の荷から狙っていた石。

 そのことを思い出すとユリウスも頷く。

 

「あの石のことを彼らは魔石と呼んでいて、全て集めると彼らは(マナ)と密接に繋がった真の姿に生まれ変わり強大な力を得られると信じてるんだ」

 

「ということはもしかしたらオレも進化しちゃうってワケですか?」

 

「いやオマエの魔法自体進化してんだろ」

 

「それもそうっスね!」

 

「……話を進めさせてもらうよ。真偽はどうであれ彼らが見せる執着心は本物だ。絶対に先に入手させてはならない」

 

「ほうほう、それで?」

 

「残る魔石は三つ、そのうち二つはすでに奴らが場所を突き止めていた。強魔地帯の一つ、海底神殿と地底帝国だ」

 

 ユリウスから言われた二つの強魔地帯。

 だがアスタはいまいちピンと来ていない様子で、

 

「強魔地帯……って何ですか?」

 

「オマエこの頭もういらねえんじゃね?」

 

「ぐああああああっ! ま、待ってくださいヤミ団長!」

 

「アスタ、強魔地帯ってのはな……アレだ。とにかく(マナ)が超凄くて超荒れてるところだ」

 

「オマエもか?」

 

「ぎゃーっす!!」

 

 何故か説明したキリヤもアスタ共々アイアンクローを喰らう羽目になり呻き声を上げる。

 状況を見かねたユリウスが人差し指を立て、

 

「強魔地帯とは(マナ)の力場が強くなり災害のような魔法現象が起きている特定地域の総称さ。海底神殿も地底帝国もどちらも強魔地帯でも屈指の危険性を持っている」

 

「……で、〈白夜の魔眼〉より早く行ってかっさらってこいってことか」

 

「そうだ。家柄などのしがらみに囚われない者の多いヤミ率いる〈黒の暴牛〉がうってつけだと私は考えた」

 

「ハイ質問! それなら何でオレも呼ばれたんですか!?」

 

「魔法騎士団内に裏切り者がいる可能性はまだある。その中でキミは皆の前に記憶を曝し、身の潔白を証明した。何よりキミは単独行動に長けている。独自の思考と機動力を持つキミならばきっと地底帝国でも遂行出来ると私は判断した」

 

「……それって裏を返せば姫様のこと信頼してないってことっスよね」

 

 思わずキリヤはユリウスをジト目で見てしまう。

 シャーロットはメレオレオナの次に好きで尊敬している女性だ。男嫌いなのにシャーロットはユリウスのことを認めているようにも思える。なのにユリウスはそんなシャーロットを疑っている。

 

 加えて言葉にはしていないが多分これはキリヤにとってさらなる身の潔白を証明するため、それとも単独行動させて〈白夜の魔眼〉を誘き出すため、なのかもしれない。自らが莫迦なために深く考えることは出来ないが。

 

 はっきり気分の良いものではない。

 だが団長の裏切りは現に起こってしまった上にキリヤも”吸魔の銃”の一件で信頼を失っているも同然。

 記憶を見せたところでまだ一手足りていない状況だ。ここで一発かましておかなければシャーロットに対する疑念だって晴れない。

 だったら――

 

「オレは姫様のために頑張るって決めたんで例えオレが過去にやらかしてようとも今のオレはオレの意思に従います。というわけで強くなるためにも頑張ります」

 

 完全に間違った敬礼をしてしまっているがユリウスは薄く笑みを浮かべ、

 

「そうか。ヤミは……やってくれるかな?」

 

「アンタは魔法帝だ。オレはその指示に従う。そんでオレはオレの力でアンタが間違ってないって証明するだけだ」

 

「ふ……ありがとう二人共。そしてアスタくん、海底神殿に入るにはキミの(アンチ)魔法が不可欠になるだろう。それに〈白夜の魔眼〉との戦闘経験も役に立つはずだ。よろしく頼むね」

 

「ハイっ!!」

 

 ヤミに続いてアスタも敬礼し、その場は解散となる――

 

 ◎

 

「アルーグ……」

 

 撤退して以来アジトでサイルはアルーグのことばかり考えていた。

 気を失っているうちに連れ去ろうと思ったがそれも失敗し、監督不届きでライアを殺そうにもリヒトに止められてしまった。

 だがあのままクローバー王国に戻ってもアルーグは〈白夜の魔眼〉との繋がりを疑われるに違いない。

 

(やはりあの時、彼の気持ちを無視してでも……)

 

 もしかするとアルーグは今牢に囚われているかもしれない。

 そう考えればいてもたってもいられない。すぐクローバー王国に乗り込むべきだと立ち上がる。

 

「サイル、少し良いかい?」

 

「……リヒト」

 

 そこに現れたのはリヒトだった。

 柔和な笑みを浮かべ、サイルも怪訝げな表情を浮かべる。

 

「何の用かしら?」

 

「魔石についてのこととアルーグのことについてさ」

 

「……魔石なら海底神殿と地底帝国、海底神殿にはヴェットが行く予定のはずだけど」

 

「地底神殿にはサイルに向かって欲しいと思ってる。何人か部下を手配しよう」

 

「それは構わないけど――で、アルーグについてってどういう意味?」

 

 サイルの問いにリヒトは少しばかり表情を暗くする。

 

「キミがアルーグに抱く愛の深さを私も理解しているつもりだ。だけど今の彼に全力は注げない、その意味は分かるね?」

 

「……ええ、分かってるわ。でも次こそは必ず捕らえる」

 

 あくまで〈白夜の魔眼〉は抱く宿願のために動いている。

 どれだけ親友であったとしてもリヒトはついてきてくれている者達のためにもアルーグを一番に考えることは出来ないとサイルも重々承知しているつもりだ。

 

「もし捕らえて連れて来れたとしても彼の記憶が戻らなければ――殺すしかない」

 

「そんな……ッ!」

 

「そのことを頭に入れて行動して欲しい。僕も頭領の身だ、どうか了承して欲しい」

 

 リヒトの立場も慮れば責めることも出来ず、サイルは返事をせず踵を返す――

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