40話「魔導書合体」
「ここが地底帝国がある強魔地帯……」
と、キリヤは指定された場所にやってきたが渋い表情をしていた。
それもそのはず。今目の前に見えるのは――
「メッチャ見たことある光景!!」
岩片が雨霰の如く降り注ぎ、人間など容易く挽肉してしまうほどの猛威。
端的に言えばメレオレオナと修行をし、ノームに出会った場所だった。
「えー……ここかよ。ノーム、地底帝国なんてあんのこれ?」
『返答。正確には名の通り地下に存在する』
と、ノームは
岩片が当たってもびくともせず、
『推奨。我が案内する、ついてまいれ主』
「おう!」
ノームの案内のもと楽々と岩が降り注ぐ道を突き進んでいく。
進んでいくうちに前には分からなかったが荒れ狂った道でも地面に描かれた一筋の線だけはどれだけ岩に打たれようが消えず、ノーマもそれに沿って進む。
『解明。これは遥か昔に偉人がこの地に付けた道標』
「なるほどな。確かにこんなんだったらどこに何があるか分かんねえし……っていや無理だろ」
冷静に考えるまでもなくこんな道を普通に歩こうとすれば即死も良いところ。
よく昔の人間は死ななかったなと思いつつ、さらに進むこと十分足らず。ようやく線が途切れ、その先には今までになかった洞穴のような空洞が見える。
「これが入り口?」
『肯定。これこそ地下帝国に至る入り口』
「よぉし、飛び込むか」
だがここでキリヤはあることに気付く。
この強魔地帯では地属性の
(〈白夜の魔眼〉……もう来たのか)
数にして四つ。しかも一つが桁違いな魔力量をしている。
恐らくだがこの桁違いな魔力は――と考える前にこんな場所で戦うわけにもいかない。
「よし、行くぞ!」
一体どんな場所か皆目検討つかないがキリヤは意気揚々と洞穴に向かって飛び込む。
だがすぐに浮遊感に襲われ、
「うわマジか!!」
思い切り落下していった――
◎
「――っとセーフ! あぶねえあぶねえ……」
身体進化魔法”
着地地点に何か罠があるとも考えたがそこまではなく、肩に乗っていたノームが向こう側を指差す。
『注目。あれを見よ』
「あれは……」
見てみれば地底だというのに何一つ明るさは失われていなかった。
むしろ地上よりも空は澄んでおり青空で、地に広がるのは真新しい煉瓦で作られた建築物の数々。
「どうなってんだ……?」
『回答。あの空は
「ノームにも分からないってのか?」
『首肯。我、この地のこと知らず。されど知識として鉱物が盛ん、無限の金銀が得られることは知識に存在。人が住む時代もあったそうだが滅びたとされる』
「無限の金銀ってどこの国も欲しがりそうだな」
だが外のあの状況。ノームの金剛石やキリヤの流れを読む力があれば容易く進めるだろうが普通はそういかない。
だからこそこの光景は誰にも触れられず守られているはずだが――
「何か気配がいっぱいするんだよな」
人が滅びたとノームは言っているがこの気配の数、とてもそうは思えない。
すでに誰かの手が施されているのか、はたまた――しかし、今はそこに注視している場合ではない。
「来たな」
言った直後に降りて来たのは――〈白夜の魔眼〉の魔道士四人。
その中にはサイルもいてキリヤの鎧姿を見るなり驚愕の表情を見せる。
「ア、アルーグ!」
「出たなミサイル女!」
一直線にサイルへ向かいたいところだが周りにいる魔道士が邪魔だ。
地を蹴れば即座にキリヤはその場から消え、壁を蹴って魔道士達へ肉薄。宙にいるうちに二人に蹴りを叩き込み、壁へ新たな彫刻と化す。
だが一人だけ正面からの蹴りを防ぎ、反撃の魔法を構える。
(レオナ様みたいに後ろから獅子の手が出せれば――)
「どりゃァ!!」
前方に張られた防護壁に対し正面からキリヤは拳を打ち、防護壁に触れる寸前相手は不敵に笑うが――その背後から魔力で形取られた獅子の手が飛び出して魔道士の背中を打つ。
「ばはっ!?」
「出来た!」
何だか分からないが出来てしまった。
魔道士は背中からの打撃に反応出来ずに直撃、前方に飛んだ魔道士の顔面にキリヤが突き出した拳が突き刺さる。
「今のは……」
「うし、後はオマエだけだ! ……ってその前に」
「……?」
サイルはキリヤの態度を見て怪訝に思う素振りを見せるがキリヤは構わず頭を下げる。
「この前は悪かった。ほとんど覚えてねえけど暴走した時迷惑かけた」
「いいのよそんなこと。あなたが無事で何よりだわ」
敵であるはずなのにサイルはいつもこうだ。
自分達は会えば戦う仲にあるはずなのに今のサイルからは微塵も戦意が見られない。それどころか声音から真に安堵しているようにも思える。
「許してもらったところで……オレは怒ってる!」
「え……?」
「オマエ! オレと戦った時また手を抜いただろ! 殺す気で行くとか言ってたくせに姫様と戦ってた時にいた精霊オレには使ってなかったし!!」
キリヤが気に入らなかったのはそれだ。
気が付いた時、キリヤの目には偶然シャーロットとサイルの戦いが見え、その中でサイルは精霊を使った魔弾を使っていた。つまりキリヤとの戦いではあえて使わなかったものだ。
しかも精霊と同化までして自らの肉体を強化していた。結局キリヤとの戦いでサイルは何一つ実力を見せていなかったのだ。
「ごめんなさい、私にはやっぱりあなたと本気で戦うことは出来ないの。そして精霊達もそう。皆あなたのことを愛してるからこそ誰もあなたを傷つけたいとは思っていないわ」
「ぐぬぬ……」
素直に悔しいとしか思えないがそれ以上責めることは出来ず、だがこうして再び出会ってしまった以上戦うしか他にない。
と、思えば不意にサイルは自らの
「……?」
「今の私にあなたと戦う気はないわ」
「何でだよ。オレはクローバー王国の魔法騎士団でオマエはクローバー王国を滅ぼそうとする〈白夜の魔眼〉、それにオレを連れて行くとか言ってたじゃねえか」
「……事情が変わったの。それに私は確かにクローバー王国に憎しみを抱いてるけどそれはアルーグの仇を討つため。こうしてアルーグが生きていれば私にとって後のことなんてどうでもいいの。だから私はもうあなたと戦わないわ」
疑うなら魔導書を取ってくれても構わない、と付け足すサイルにキリヤはいきなり殴りかかるわけにも行かずに鎧を解除する。
思えばこうしてサイルとまともに話すのは初めてのことだ。色々と事情を聞くのも選択肢として充分にある。
「なあ、オレはアルーグじゃないけどアルーグってどんなヤツだったんだ?」
「今のあなたと同じよ。実直で、勇敢で、自分を曲げない優しい子」
「でもオレはアルーグじゃない」
アルーグとキリヤを重ね合わせるサイルにキリヤは改めて否定する。
「どれだけ似てるか知らねえけどオレはキリヤ、そっちのはアルーグ。歩んだ道も違えば愛した女も違うんだ」
断言するキリヤだがそれでもサイルは首を横に振るう。
「魔力を視る力を極めれば魂すらも把握することが出来る。それは元々
サイルの言葉にキリヤは疑問符しか浮かび上がらない。
さらにサイルは「それに……」と言葉を続ける。
「他の誰を愛していようとも私はあなたを愛してる。もうあなたの傍から離れたくないわ」
いつの間にか接近していたサイルはキリヤを抱きしめようとするがキリヤはそれを躱す。
「オマエの話をどこまで信用してイイか分かんないけど今はとにかく魔石を手に入れるのが先だ」
サイルは強敵だ。そんな彼女が魔導書を自ら置いたのだからありがたく没収しておく。
躱されたサイルは特に傷ついた様子を見せず、
「ついていってもいいかしら……?」
「いやいやいやダメだろ。オレら敵同士だし」
「何をすれば信用して貰えるかしら。今の私はすでに武器も持ってないけど」
「何もないところから銃いっぱい出してたじゃねえか!」
「それも魔導書から出してたの。あ、靴裏のは仕込み銃よ」
「武器発見! 今すぐ靴脱げコラァ!!」
やや強引にサイルの靴を脱がせるとその裏には本当に銃口がいくつも存在した。
ともあれ靴を奪われ素足を曝すサイルにキリヤは――
「……サキムニ、何か靴用意してあげてくれ」
『あいあいサー』
サキムニ達が魔法で創った革靴をサイルに履かせるとサイルはどこか照れた様子を見せる。
「アルーグからのプレゼント……」
「そういうわけじゃないし、素足でいるのも可哀相だなって……っておいオマエ肘とか腰にも銃あっただろ!」
「よく覚えてたわね。何なら全身見てくれても構わないわ」
キリヤは次々とサイルから銃を外していき、サイルは自ら進んで身体に触れるように催促してくる。
だが数分経って――
「もういいや! こうなったらオマエの言葉を信じる!」
「いいのかしら……?」
「こんなみみっちいことはやめだやめ! オマエが不意討ちしてきてもオレは今度こそオマエに勝つし! おら魔導書も返して――んん?」
腰元の銃や何だ返している時にふとサイルの魔導書が目に入る。
まるで辞書のような分厚さでしかも普通の魔道士のものよりも大きい。何より表紙に不思議な凹みがあった。
四角形の凹み、そのサイズがどうにも見たことがあるような気がして不意に自分の魔導書を見る。
「……? どうかしたの?」
「いや、この凹みにオレの魔導書嵌めれそうだなーって思って」
丁度サイズがぴったり合いそうで何を思ったのかキリヤは自らの魔導書をサイルのに嵌め込んでみる。
すると驚くほどすんなり嵌まってしまい、
「え?」
これまでにないほどの光を放ったかと思えば光の中でその形が変化していく。
少し経って光が止んだかと思えばキリヤとサイルの本は形状を変えて普通の魔導書のサイズとなり、その分厚さは健在で――
「いやいやいや待って待って!!」
完全に一つになってしまった。
これにはサイルも驚き、キリヤは焦りを見せる。
魔導書の表紙には多種多様な紋章が刻まれており、もはやどちらが所有者なのか分からない状況に。
「えーっと、とりあえず……一緒に行くか?」
「っ! ええ!」
罪悪感からかキリヤはサイルの同行を了承してしまった。
一方サイルはこの上ない笑みで頷く――