オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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41話「地底帝国の支配者」

「しっかし奇妙なことになっちまったなオレの魔導書……」

 

 地下帝国の道中、キリヤの注目はやはりサイルのものと合体してしまった魔導書だった。

 開いてページをめくれば今までのキリヤの魔法は存在し、見たこともないものは恐らくサイルのもの。つまり本当に二冊の魔導書が一つになってしまったのだ。

 

 困惑するキリヤにサイルはと言えば何だか嬉しそうな様子。

 だが、気になることはもう一つあった。

 

「てかたまに光るの何なんだろ?」

 

「それは多分中にいる精霊が出てこようとしてるのね。駄目よあなた達、今のアルーグはまだ私達のことを信じきってくれていないの」

 

 と、サイルが声をかければ魔導書は仕方ないといったように光を止める。

 その様子にキリヤも思い出し、

 

「前も何かいっぱい来てたなそういえば」

 

「アルーグは数多の精霊を使役していたのよ。精霊を愛し、愛されて、アルーグの純粋な心は悪魔……あの”吸魔の銃”にいるベルゼヴィーヴィアにも見初められて契約してたの」

 

「そっか、アイツも」

 

 彼女が言っていた約束、キリヤにはまるで分からないことだがアルーグならば真相を知っていたのだろうか。

 今のキリヤには何のことかまるで分からず、ともあれ先ほどからサイルがキリヤの手に触れようとして一歩手前でやめているのが何度も視界に入る。

 遠慮しているのだろう。それもそうだ。今共に行動しても敵同士の関係には変わりない。

 

 ただキリヤは暴走した際にサイルが止めてくれたのも知っている。

 恩を感じているのだから返さなければならないと、それでも線引きはしっかりしなければならないと思い、

 

「アルーグって呼ぶのやめてキリヤって呼んでくれたらオレに触ってもイイけど」

 

「っ! ほ、本当に……?」

 

「オレに二言はねえよ」

 

「……リヤ、キリヤっ!」

 

「早いっ!?」

 

 てっきり躊躇うかと思えば何の迷いも無く抱きしめられる。

 手を繋ぐ程度かと思えばいきなり抱きしめられ、心底愛おしそうに頭を撫でられる。

 においまで嗅がれやりたい放題だがここは地下帝国ですでに敵の陣地だ。何があるか分からな――

 

「うわ何かいる! ミサイル女後ろ後ろ!」

 

 サイルからは背後になっているがキリヤにはこちらに近付く四足歩行型の魔法生命体が近づいてくるのが見えた。

 首には首輪が付けられており、見るからに番犬で口元から覗かせる牙や涎が明らかにキリヤ達を食糧として見ている。

 キリヤの声にサイルは番犬に一瞥をくれたかと思えば――

 

「消えろ」

 

 乾いた音が響く。

 ただ見ただけで番犬の頭部が炸裂して吹き飛び、頭部を失った身体は地面へと倒れる。

 

「これでもう大丈夫よ」

 

「え、今何したんだ……?」

 

 見ただけで爆発、流石にそんなことはありえない。

 よく見ればいつの間にか手に拳銃を持っており、気付かぬ速さで引き金を引いていたようだ。

 どうにも魔導書が一体化したものの互いの魔法には何ら影響はないらしい。

 

「……キリヤ、少し隠れるわ」

 

 状況を理解出来ないままキリヤはサイルに連れられて物陰に隠れる。

 サイルの胸元に押し付けられているせいで何が起こっているか見えないが足音は聞こえてきた。

 巨乳だ……いやそれはこっちの話で、あっちは巨体だ。

 何とかサイルの胸から顔を上げると番犬に大型の何かが近付いていく。

 

「あれはトロールね……」

 

 見えたのは獣の皮を腰に巻いただけで白い肌が目立つ巨躯を持つ生命体だった。

 頭部は一見して豚のよう、しかし二足歩行で手は人間の頭部を軽々と握り潰せるぐらいに大きい。全体的に脂肪が多いように見えるが総じて筋肉にも見える。

 片手には棍棒を持っていて、どこか間抜けな目で番犬を見つめる。

 

「アイツのペットってか?」

 

「……まだ分からないわ」

 

 サイルが目を配った先、今現れたトロールとはまた別のトロールが現れる。

 そのトロールは全身に鎧を纏わせており、先ほどのトロールとは別種に思える。

 

『侵入者、侵入者。番犬、やられた』

 

『分かってる。報告、フィオレナ様、報告』

 

 相談し合うトロール達にサイルは怪訝げに眉を顰める。

 

「おかしいわね……トロールは知性が低くてキングトロールを筆頭にそれ以下は全て同じ地位のはず。でもあの二人には明確な地位の差が見える。しかも糞尿垂れ流しな彼らの身なりがあれほど綺麗だなんて」

 

「アイツらの長のキングトロールがそんだけ賢いってことか?」

 

「突然変異種、その可能性はあるけど今はまだ何とも言えないわ」

 

 現状判断するには材料が乏しい。

 だがキリヤはぽんぽんと頭を撫でられ、

 

「何が来ても大丈夫。私があなたを守るわ」

 

「はー? オレ一人で何とかなるし!」

 

「こら、あまり大声あげないの。気付かれてしまうわ」

 

 文句を垂れようにもまた胸に埋められて発言権を失う。

 騒いでしまったがトロールには気付かれておらず、彼らは彼らで勝手に話し出す。

 

『木偶人形に守られたウンディーネの秘宝、今日こそ入手。それ、おまえ担当』

 

『理解、向かう』

 

「秘宝……ってことは魔石のことか! だったらアイツら追いかけて……」

 

「待って」

 

 またサイルに止められてしまう。

 見ればトロール達の周りにはそれぞれ蝙蝠のような魔力で創られたものが飛んでいる。

 

「恐らくあれはトロール達を監視するためのもの。下手に動けば私達の行動は筒抜けになってしまうわ」

 

 キリヤもおかげで地下帝国のあちこちを飛び交う監視の目に気付く。

 始めにあれだけ騒いでいたので今更隠密に行動したところで無駄かもしれないがこれはキナ臭くなってきた。

 

「とにかく慎重に進めましょ」

 

「おー」

 

 何だか分からないが異常に息が合うキリヤとサイル。

 キリヤも言われるがままに賛同してしまう。敵なのに――

 

 ◎

 

「それでぇー進捗はどうなの?」

 

 甘ったるい少女の声が玉座に響く。

 軍服を身に纏い、目元に深い傷痕を残す少女はところどころ跳ねた長髪を弄びながら問う。

 

『面目ありません……まだ、決着つかない』

 

「はあ?」

 

 四つん這いで椅子にされていたキングトロールが正直に話せばいきなりその身を鞭が打つ。

 さらにキングトロールから下りた少女は魔力を纏った蹴りが何度もキングトロールの腹部を蹴り飛ばす。

 

「グズ! ノロマ! ゴミ!! いつまで時間かかってんのよ!!」

 

『ごふっげふ……っ! ず、ずみません……』

 

「謝罪の言葉はもー聞き飽きましたー。こんな豚小屋みたいな場所で豚共をせっかく管理して導いてやってんのに恩を仇で返すつもり? 死にたいの?」

 

 すでにこの地底帝国にやってきて数週間、何の成果も得られていないのが現状。

 少女がこの場を支配した時点ですでに無限の金銀は手に入ったも同然だが邪魔な存在がいる。

 それをトロールを使って排除しようとしているのだがやはり低能な生物なために予想以上に時間がかかっていた。

 

 少女が狙っているのは金銀に勝る秘宝。

 そこに繋がる唯一の道を塞いでいる者がいるのだ。

 四大精霊の一角ウンディーネとそれを守護する鋼の巨兵ジブラウスト。

 ウンディーネは別にどうでも良いが問題なのはジブラウストの方だ。あれがいるせいで計画は狂いっぱなし。

 

「全く、本当に憎たらしいわジブラウストッ!!」

 

 追加でキングトロールの腹部を蹴り飛ばす少女の名はフィオレナ。

 十六歳にて〈七剣総統〉で徹底的な管理によって他者を導く独裁者――

 

 ◎

 

「どこに向かってんだ……?」

 

 あれからキリヤとサイルはトロールや監視魔法の視界に入らないように尾行していた。

 トロールは次々と合流して数を増やし、向かっているのは帝国の中でも一際目立っている塔。

 

「アルーグ危ないわ!」

 

「……へ?」

 

 いきなり隣にいたサイルが発砲。慌ててキリヤも足を退かす。

 あと少しでサイルの魔弾が掠っていたところで何だとキリヤがサイルを見れば、

 

「アルーグが躓きそうな石があったのよ」

 

「わざわざ魔弾を使うほどのことなのかそれ……」

 

 何が来ても守るだとか言っていたが少し過保護過ぎるのではとキリヤは思う。

 シィナも過保護な面があったがサイルはそれ以上。今だってキリヤの肩を手で自らに寄せるようにしており、片時も離れる気はないらしい。周りに対する警戒心もすごい。

 

「そんな警戒しなくったって石程度じゃ死なないし」

 

「アルーグもそう言って昔崖から落ちたことがあるの、何が起こるか分からないわ」

 

「な、何かすまねえ」

 

 よほど活発な少年だったのか分からないが謝るとふとサイルと目が合う。

 その瞬間尾行中だというのにまた抱きしめられて頭を撫でられる。

 

「今私は最高に幸せだわ……」

 

「それは良かったけど見失うって!」

 

 あれだけの大所帯早々見失うことはないがこのサイルの緩みっぷり。

 初めて戦ったのが嘘のように何と言うか周りにハートがいっぱい溢れているというか。何とも気が抜けた感じというか。

 ともあれ、後を追うとトロール達は塔へと入っていき、キリヤ達もまたその後を追う。

 

「これって……」

 

 気付けばキリヤ達は塔の中に入ったというのにまた開放的な空間に立っていた。

 目の前に広がるのは地底にはありえない草原。そしてその先に見えるのは広大な湖。

 

「これが地底湖ってやつか?」

 

「そのようね。トロール達の視線の先、何かいるわ」

 

 トロール達から遥か先、丁度地底湖の真ん中に位置する場所に何やら小島が浮かんでいた。

 そこにはトロールの巨躯をも凌ぐ体長をした鋼の巨兵が存在した。

 遠目だがその身体に傷など一つもなく、キリヤの傍にノームが現れる。

 

『提示。あれは魔法で創られし造兵(ゴーレム)

 

「つうことはソルの魔法みたいな感じか?」

 

『否定。あの存在は魔法で創られし一時的なものではなく、魔法で研磨されし鋼で出来た体躯。すなわち魔道具の一種なり』

 

「なるほどな。でもどうしてあんな小島に?」

 

『不明。しかし、鋼の造兵の背後。何かあることに違いなし』

 

 ノームの言葉で目を凝らし、流れを感じて見れば確かに何かあるように思える。

 とてつもない魔力量。その魔力量は今隣にいるノームと同じほどで――精霊のように感じられる。

 

「キリヤ、トロールに動きがあるわ」

 

「ん、おう」

 

 トオールの目的もその精霊に関わっているのか、様子を見ていればトロール達はいきなり雄たけびを上げて走り出す。

 

「え、マジかよ!」

 

 直後、トロール達は一斉に湖に向かって走り出す。 

 湖がどれほどの深さは不明だが――トロールの何体かがいきなり全身を水面に沈めてしまう。

 それでも同じ場所を走る別の個体は無事で一心不乱に走る。

 

「何かあるよなあの湖」

 

「ええ、恐らく罠魔法の一種ね。何を基準にしているかは不明だけど」

 

 そして部隊で言えば半数に近い数を失ったが何体かのトロールは小島に上陸。

 だが鋼の巨兵はトロールを凌ぐ体躯。簡単に蹴散らせるかと思えば――背後にあるものを庇うように身を屈める。

 

「え?」

 

 あれだけ強そうに見えた鋼の巨兵はそこからトロール達によって滅多打ちにされることになる――

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