オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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42話「鋼の巨兵」

 あれから一時間に渡ってトロールの猛攻は続いた。

 キリヤは飛び出そうにもサイルに止められ、何も出来ずただ見ていることしか出来なかった。

 だが鋼の巨兵は傷一つ付けられず、疲弊したトロールは帰っていく。

 

 再び沈黙を取り戻した湖。

 監視魔法もこの場から消え、キリヤはすぐに小島へ向かおうとするがサイルが前に手を出して止める。

 

「下手に踏み込めばキリヤもさっきのトロールと同じように沈むかもしれないわ」

 

「だったらどうしろってんだ」

 

 と、キリヤの肩を叩く者がいた。

 見れば小さいが身体の各所に氷を纏った精霊がいて、ちょいちょいと服を引っ張ってくる。

 

「セルシウス……まだ駄目だって言ったでしょう」

 

 サイルが呆れた声で言うが氷の精霊――セルシウスは聞かず、キリヤを湖の近くまで近付ける。

 近付ければふぅとセルシウスは一息吹き、だがそれだけで湖全体が凍りつく。

 

「うわすげえ!」

 

 キリヤが感心の声を上げるとセルシウスは何やら頭を差し出してくる。

 これは褒めて欲しいのだろうか。流石に手全体ではいけないので指二本でセルシウスの頭を撫で、

 

「ありがとなセルシウス」

 

 言葉は発せずとも喜ぶ様子を見せるセルシウス。

 これで湖を渡れると思いきや今度は魔導書(グリモワール)からまた別の精霊が現れる。

 全身に雷を迸らせている豹のようでキリヤの服を噛んで己に集中させると、

 

「うおっ速ッ!」

 

 瞬きする前に雷豹は向こう側の小島に着いてしまっていた。

 鋼の巨兵はまだ身を屈めているので気付いておらず、そのうちにも雷豹はキリヤ達の元へ戻ってくる。

 

「ヴォルト……あなたまで」

 

 雷豹――ヴォルトと呼ばれた精霊は首を自らの背の方へ向けてキリヤに目で訴えてくる。

 どうにも背中に乗れという意味らしいがこれにセルシウスが近付いて何やらヴォルトに反論。ヴォルトはそっぽを向いて完全に無視。終いには氷と雷で喧嘩が起こってしまう。

 

「こらこら、喧嘩すんなって」

 

 キリヤが二体の喧嘩を止めていると今度は葉や根を纏った女性型の精霊が現れる。

 木の根を生やして凍った水面よりも高い位置で木製の橋が出来上がり、これまたセルシウスやヴォルトの喧嘩に巻き込まれる。

 

「ドリアードも喧嘩するなら戻りなさい!!」

 

 最後はサイルの一喝で魔導書に戻ってしまう精霊達。

 そう思えばサキムニが沢山出てきて何をするのかと思えば連なって橋のようになり、

 

『ご主人、ボク達が橋になるからその上歩いテ!』

 

「出来るか! 精霊保護団体が黙ってねえぞ!」

 

 そんな団体実在するかは不明だが絵面は完全にアウト。

 キリヤはサキムニにも魔導書に戻ってもらい結局辿り着いた答えは、

 

「木の橋渡るか……」

 

 最も安全そうなドリアードが創り出した橋だった。

 一瞬で創ったとは思えないほど精巧な木橋。キリヤはサイルよりも先に歩き始めると湖の水面上になった瞬間――

 

「うおっ!」

 

 木橋がいきなり音を立てて崩れた。

 それだけではない。まるで水面に吸い込まれるように引っ張られる。

 セルシウスが張った氷も意味は簡単に砕け、この様子にサイルも焦りを見せる。

 

「キリヤっ!!」

 

「だぁーいじょうぶだった!」

 

 てっきり何体かのトロールと同じように水面に沈むと思ったがどうにもキリヤは何もせずとも水面に立っていた。

 その光景を見てサイルも胸を撫で下ろし、

 

「何もなくて良かったわ」

 

「ミサイル女の言うとおり何かの基準があるみたいだな」

 

「…………」

 

 キリヤが水面を何度か踏んで確かめていると唐突に無言になるサイル。

 見てみるとキリヤの方をジト目で見ており、キリヤも首を傾げる。

 

「急にどうしたんだよミサイル女」

 

「…………私はミサイル女じゃないわ。あなたは私にキリヤと呼ばせてるのにあなただけ私のこと”ミサイル女”から変わってないわ」

 

「……結構今さらな話だけどな」

 

 地底帝国でも何度かそう呼んだ記憶があるもサイルはどうにも気に入らないらしい。

 これも女心は複雑怪奇というものなのか。とにかく不満そうなサイルにキリヤは少し照れくさそうに、

 

「えーっと、じゃあ……サイル?」

 

「っ! ええ、ええ! 私はサイルよ!」

 

 尻尾があればぶんぶん振っていたぐらいに一気に雰囲気を明るくするサイル。

 あれだけ戦闘中は冷徹に敵を撃つ魔弾の射手だというのに今はその見る影すらもない。

 キリヤとサイルは敵同士。関係は一切変わっていないためにどうにもキリヤの調子は狂わされる。

 

「ま、まあともかく行くぞ」

 

 手招きするとサイルもまた水面に降り立つ。

 サイルもまた沈むことはなく、だがサイルは数秒何かを考えたと思えば爪先で何度か水面を確かめ始める。

 

「……? 何してんだ?」

 

「キリヤ、私沈むかもしれないわ」

 

「え、マジで?」

 

「ここから一歩でも歩いたら私は……」

 

「わかったわかった。そんなカオすんなっての」

 

 だったらそれまで爪先で感触を確かめていたのは何だったのか。

 キリヤは気になるもののサイルの元へ戻れば彼女の身体を抱きかかえる。

 お姫様抱っこというのだろうか。とにかくそうやってサイルを抱きかかえれば突然サイルはご機嫌な表情を浮かべる。

 

「ん、どうした?」

 

「いいえ、何でもないわ。早く行きましょ」

 

 何だか分からないが進まないことには始まらない。

 キリヤはサイルを抱えたまま水面を歩いて小島を目指していく――

 

 ◎

 

『ど、どうして……?』

 

 小島に着いた途端に鋼の巨兵は驚く素振りを見せる。

 その反応にキリヤも首を傾げ、

 

「どうしてって言われてもな。普通に渡って来れたけど」

 

『ミナモについたトキ、ヨクボウがあればシズむのに……トクにニンゲンなんて』

 

「なるほど。だからさっき沈んでたのは鎧を着たトロールばかりだったのね」

 

 キリヤから下りたサイルは鋼の巨兵の言葉を聞いて納得の素振りを見せる。

 そのことにキリヤはよく分からず、それが分かったのかサイルは教えてくれる。

 

「トロールは知能が低いんだけど特殊なカーストがあるこの群れでは鎧を着たトロールは少し知能が高いように見えた。だからこそ秘宝に対する欲も芽生えてあの湖に落ちる可能性が高かったのよ」

 

「へー、よく見てんなぁ」

 

『オ、オデ、ウンディーネをマモる。ゼッタイ、テダしさせない!』

 

 キリヤが納得すれば鋼の巨兵は背後にある結晶を庇う姿勢を見せる。

 その様子にキリヤはそれ以上近付かず、地面に座り込む。

 

「キリヤ?」

 

「いいからサイルも座ってくれ」

 

 声をかければサイルもその場に座り込む。

 秘宝だとかウンディーネだとか、そういった話をする前にキリヤには疑問がある。それを解消しない限り次には進めない。

 

「なあ! 何でさっきトロールに襲われた時反撃しなかったんだ? オマエみたいな巨体ですげぇ硬かったらあんなヤツら殴り飛ばせたんじゃねえの?」

 

 純粋な質問。

 問いに対し、鋼の巨兵は一瞬警戒心を見せるもやがて両腕を下げる。

 

『オデ、オクビョウでブキヨウだから、こうすることしかデキないんだ』

 

「でもよ、それだとオマエはボッコボコにされるだけじゃねえか」

 

『オデ、ガンジョウだからダイジョウブ。それに、オウジョサマとヤクソク……したんだ。どんなことがあっても、オデ、マモる。オウジョサマやウンディーネがマモりたかったモノ、オデがマモるんだ』

 

「だったら少し話を聞かせてくれよ。どうしてここがこうなってるとか、オマエの友達についてとかさ」

 

『でも、おまえヒホウがホしくてここにキた。そうだろう?』

 

「うーん、じゃあ一つ聞くけど秘宝ってそれじゃねえのか?」

 

 キリヤが指を差したのは鋼の巨兵――ではなく、その後ろに結晶体となって存在していたウンディーネが首から下げている魔石。

 純粋な質問に鋼の巨兵は首を横に振るう。

 

『チガう。ヒホウはこのミズウミのシタにあるキンやギンがムゲンにトれるバショのこと』

 

「なーんだ、そんなもんいらねえや! 食えねえし!」

 

『え、でも……』

 

「オレはそんなもんに興味ねえし。つうかもし欲しくなったとしてもノームに頼めばいいしな。なあノーム?」

 

『肯定。我こそ無限の鉱石を生み出せる者』

 

 言って魔導書から出てきたノームは金銀をいとも容易く出してみせる。

 鋼の巨兵もこれには驚き、キリヤは金を手に取ると適当に後ろへ投げて湖に落とす。

 

「オレにとっちゃこんなもんただ硬い石だからな。これなら食える肉の方がよっぽど価値があるっての」

 

『傷心。何気ない主の言葉、我傷ついた』

 

「ご、ごめんなノーム……でも戦闘だったらオマエの魔法すげぇ役に立ってるからな?」

 

 落ち込む素振りを見せるノームにキリヤは失言だったとノームを励ます。

 だがどうにも鋼の巨兵は何故キリヤがこの帝国のことを知りたがるのか理解出来ない様子だ。

 腕を組んだキリヤは一言――

 

「オマエやウンディーネは今オレの”手の届く場所”にいる! だからオマエが助けを求めてんならオレは手を伸ばす!」

 

『オデタチ、ミずシらず。なのにナゼ?』

 

「至極単純な理由だ――オレがそうしたいから!」

 

『えっ?』

 

「オレはもう二度と後悔したくない。だからここで見ず知らずだろうがオマエらのことを知らねえフリする気には一切ならねえ」

 

 でも、どうしても鋼の巨兵が理解しようとするならば――

 

「オレの名前はキリヤスフィール・フィン・ガルガン。長いからキリヤでいいよ! で、こっちがサイルだ。つうことでオレと友達になろうぜ! そしたら友達が友達を助けるのに理由なんていらなくなるし!」

 

 笑みを浮かべながらキリヤは鋼の巨兵に手を差し伸べる。

 にこっと屈託のない笑顔を向けられた鋼の巨兵は一瞬躊躇う姿を見せるもやがてキリヤの手にそっと触れる。

 

『オデのナマエ、ジブラウスト』

 

「よろしくな!」

 

 はっはっは、と笑いながらキリヤはジブラウストと握手を交わす。

 その様子にサイルも納得する様子を見せ、

 

「キリヤがそう決めたなら私も協力するわ」

 

「ありがとなサイル。ホントは敵なんだけど」

 

「そんなの些細なことよ。私はあなたの味方で〈白夜の魔眼〉よりもあなたの想いを優先するわ」

 

 至極当然のように言われてしまえばキリヤはそれ以上何も言えなくなってしまう。

 というよりサイルはキリヤと行動するようになってからよく笑うようになった気がする。

 そんなことを思いながらもキリヤは本題に戻る。

 

「じゃ、この帝国のこと教えてくれよジブラウスト」

 

『ワかった』

 

 頷くとジブラウストはゆっくりと言葉を紡ぎ始める――

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