オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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48話「最高のプレゼント」

「断る」

 

 事情を説明した後、メレオレオナの開口一番がそれだった。

 正直何の意外性もなく魔獣の森までやってきていたシィナ、シャーロット、ソルは皆同様に『やっぱり……』という感想を抱く他なかった。シィナの肩に乗っているサキムニでさえその威圧感にいつもはピンと伸びた長い耳がへなっとしてしまっている。

 あとさりげなく賄賂のつもりでシャーロットがメレオレオナ好みの酒を差し入れるもそんな忖度が通じる相手なわけがない。

 

「そもそもあの莫迦弟子の誕生日など一度も祝ったことはない」

 

「……え、でもキリヤさんは誕生日の日だけメレオレオナ様が本当に優しいと言って……いなくともなくはなかったかとぉ……」

 

 言葉の途中からメレオレオナの眼光が鋭過ぎて逆に忖度させられてしまうシィナ。

 ”ダッコウバ”事件の時もそうだが何だかんだメレオレオナはキリヤのことを気遣っているし大切にしていることは言葉にせずとも分かっている。だが多分その点を突いたら最後燃やされて灰すら残らないだろう。

 

 幹事であるシィナがあまりの威圧感に口ごもってしまい、メレオレオナの視線はシャーロットに移る。

 

「シャーロット、貴様もその話に乗った口か?」

 

「……結果的には」

 

「男だ女だと線引きしていた割には随分と丸くなったな」

 

「いえ、そういうわけでは……キリヤスフィールは入団以降数々の戦績を上げ、一年も経たず上級魔法騎士になりました。その弛まぬ努力と成果を認めただけであり、そこに男や女などと線引きをするつもりはありません」

 

「そうだそうだ! 何やかんやでキリヤは使える男だ! キリヤの師匠って言うんなら認めて褒めてやってもイイと思うけどな!」

 

「下らん。あの莫迦は魔法騎士団に入る前から実力は充分過ぎるほどにあった。上級魔法騎士になったのも当然の結果でわざわざ認めるも褒めるも何もない」

 

「〈紅蓮の獅子王〉団長の姉って聞いてたけど意外と冷たいんだなー……」

 

(いえ、今のは……)

 

 ソルが口を尖らせるもシィナには今のメレオレオナの言葉が違った意味で聞こえた。

 一見冷たく聞こえるだろうが一から十までスパルタなメレオレオナがすでにキリヤの実力を認めているのだ。それも魔法騎士になる前から。

 結果はその延長線で、元々認めているのだから褒めるも何もないというのも当然だろう。

 

(何だかんだ言って誰よりもキリヤさんのことを認めてるんですよね……)

 

「何だその目は?」

 

「い、いえ何でもありません!」

 

「何でもないなら早く帰れ。貴様らに構っているほど私は暇ではない」

 

 返事も聞かずに踵を返すメレオレオナにシィナ達は萎縮してしまう。

 シャーロットもシィナも昔から一応付き合いはあるものの畏敬の念を抱いているのは確かだ。だがここで引くわけには行かず、何の成果もなしでは帰れない。

 もうそこから何も考えシィナは背後からメレオレオナに抱きついてしまう。

 

「待ってください! メレオレオナ様を連れて行くまで帰れません!」

 

「……ほう。この私に背後から来るか」

 

(はわわ、思わず抱きついちゃったけど怖い……っ!)

 

 猛々しく燃え上がる炎の如き(マナ)と威圧感でそれはもう身体が震えてしまう。

 いつもキリヤは何かある度に抱きついていたそうだがよくこんな威圧感を受けて平気でいられる。ある種尊敬の念を抱いてしまうほどだ。

 色んな感情が入り混じって固まるシィナを剥がし、メレオレオナは振り向いてシィナを見下ろす。

 

「イイだろう。気が変わった。そこまで言うなら行ってやる」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「――ただし、貴様らが私に実力を見せたらの話だがな」

 

「「「……へ?」」」

 

 突然の提案にシャーロットも含めて三人は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「ここの魔獣は手応えがなくて刺激を求めていた頃だ。丁度良い。シャーロットがどれだけ成長したか団員諸共に見てやる」

 

「し、しかし……」

 

「怖気づいたのか? ならば帰れ。私は弱者の言葉に耳を傾けるつもりはない。私を動かしたければそれ相応の力を見せろ」

 

 圧倒的実力主義者。

 王族でありながら血統や魔力で人を計らず、俗世から離れ自らの研鑽を続けているだけあって言葉の重みが違った。

 ただクローバー王国随一と言っていいほどの実力者を目の前にしてシィナは申し出に言葉を詰まらせれば代わりにシャーロットが一歩前に出る。

 

「いいえ、せっかくです。団員にも良い経験になるでしょうし私自身今のあなた様にどれだけ通じるか試したいと思います」

 

「安心しろ、加減はしてやる。それに今回は遊びだ。私に一発でも当てれば貴様らの勝ちにしてやる」

 

「な、何かとんでもない展開になったな……」

 

「は、はい……でも正直予想はしていたんでやるしかないですよ」

 

 これでも開口一番の「断る」からだいぶ譲歩されている方だ。

 予想していたためにそれほど驚きはなく、シャーロットは魔導書から柄を抜く。

 

「ソル、シィナ、私の援護に徹しろ。怪我をしたくなければ全力で行け、あの方の遊びは遊びではない」

 

「「は、はい!」」

 

「作戦会議は終わったか? ならかかって来い」

 

「全力で行かせて貰います!」

 

 こうしてキリヤの誕生日会を祝うために何故かメレオレオナと戦うことになったシィナ達。

 メレオレオナが魔力を少し解放しただけで魔獣の森から一斉に魔獣達が逃げ出したのは言うまでもない――

 

 ○

 

「キリヤ先輩このお菓子美味しいですねー。〈碧の野薔薇〉の先輩に聞いて気になってたんですよ~」

 

「確かに美味いな。オレあんまり甘い物とか食べて来なかったけど」

 

 キリヤとフィオレナがやってきたのはキテンと呼ばれるダイヤモンド王国との国境付近にある街だった。

 資源も豊富にあるということで平界の中でも市民の生活は比較的豊かであり、キリヤは知らなかったがフィオレナの調査によれば女子受けするスイーツを取り扱う店も多いようだ。

 連れられて入った店でワッフォルという焼き菓子を食べながらも街の風景に目をやれば他の地域に比べ外壁が分厚いように見える。その上には魔法騎士による警備部隊も見え、キリヤは片肘をつく。

 

「やっぱり国境付近ってだけあって警備も厳重だな」

 

「当たり前ですよ。ここ取られちゃったらダイヤモンド王国が一気に有利になっちゃいますし私が指揮官だったらまず拠点に欲しいところです」

 

「スペード王国って〈七剣総統〉だけが動いてるイメーシあるけど軍隊とかあるの?」

 

「ありますよー。ただベレラファスラもアタシも任務の場所が場所でしたから大人数連れて行けなかったんです」

 

「確かにあの魔宮も地底帝国も大人数で行くには向いてないしなー」

 

 ベレラファスラは本人の性格的に部下を引き連れているイメージは湧かない上に地底帝国も行くまでが大変だ。むしろフィオレナ自身よく辿り着いたと思うもそこは〈七剣総統〉たる実力だからだろう。

 

「あ、先輩今アタシがよく地底帝国に行けたなとか思いましたね!? 行けますとも! 落ちてくる岩程度なら鞭で叩き落とせますし!」

 

「思った以上に解決方法が凄かった」

 

 メレオレオナがどうしていたかは不明な部分もあるが少なくともキリヤは(マナ)や氣を読んで躱していた。それを上回る脳筋的解決方法にキリヤも素直に感心する。

 

「そういや〈碧の野薔薇〉の皆とは仲良く出来そうか?」

 

「まるでお父さんみたいな心配ですね……ダイジョウブですよ。〈碧の野薔薇〉って女性多いですから若干ギスってるところもありますけどソル先輩とかシィナ先輩とかいるんで何とかなりそうです!」

 

「ギスってるってのがよく分かんないけどそれなら良かった」

 

「キリヤ先輩は基本誰とでも仲良くしてそうなんでギスるとか無縁そうですねー……」

 

「……? 何か知らないけど女子の世界って面倒そうだな」

 

「全くです。キリヤ先輩と話してる方が気が楽ってもんですよ」

 

 にししと笑みを浮かべるフィオレナにキリヤも笑い、そろそろ店から出るかと立ち上がると――

 

「ダイヤモンド王国が攻めて来たぞォーッ!!」

 

 突然上空から響き渡る魔法騎士の声。

 空を見上げれば箒に乗って複数の魔法騎士が外壁に向かって飛んでおり、氣を探れば外壁の外に多数の気配を感じる。フィオレナも異様さに気付いたのか立ち上がり、

 

「ダイヤモンド王国、こんな時に……っ!」

 

 魔法騎士大人数によって創られた魔法障壁も起動し、どう見たって訓練の類ではない。

 キリヤはフィオレナを抱えればすぐに足を踏ん張り、

 

「様子を見る。飛ぶぞ」

 

「はいっ!」

 

 非番だが緊急事態を見過ごすわけには行かない。

 その場から跳んだキリヤはすぐさま外壁の上に到達すれば周りにいた魔法騎士も驚きを見せる。

 

「な、貴様! ここで何をしている!?」

 

「〈碧の野薔薇〉の団員だから偶然だけど手助けに来た」

 

「この男……まさか新人でありながら破竹の勢いで三等上級魔法騎士なったあの――」

 

「そういうのいいから! 一般市民避難させるとか色々あるだろ!」

 

 見ればダイヤモンド王国の一部隊ともあって二、三十人はいる。

 中でも先頭にいる三人の魔力は周りに比べれば段違いでどう見たって只者ではないようだ。

 

「フィオレナ、あの三人に覚えないか?」

 

「あれは……〈八輝将〉ですね。クローバー王国で言ったら魔法騎士団団長でスペード王国だったら〈七剣総統〉クラス、実力者であることは確かですー」

 

「まずは雷魔法の将を狙え! 撃てーっ!」

 

 一人の魔法騎士の声を筆頭にあらゆる属性の魔法が〈八輝将〉三人のうち一人に向けて放たれる。

 しかし、〈八輝将〉それぞれに部下となる魔道士が複数人配備されており、その魔道士達が発生させた魔法障壁を貫くことは出来ずに防がれてしまう。

 

「何と弱々しく醜い魔法……いいか、魔法は――こうやって射つのだ」

 

「ノーム、オレ以外の連中と街を守れ!」

 

『御意』

 

 雷創成魔法”雷鳥戦騎・烈空魔弓の装”。

 土精霊創成魔法”網状敷の絶対防御壁(ネイワークダイヤ)”。

 〈八輝将〉の一人から放たれた光速の矢は魔法騎士達が創り上げた魔法障壁を容易く貫くもすでに射撃点を見抜いていたノームが完全に防御。いくら速い魔法であれノームの防御は崩れず、キリヤは自らに飛んで来た雷の矢を片手で掴み取る。

 

「あれ、誰も撃ち抜けてませんけど?」

 

「貴様……っ!」

 

 さぞかし自慢の魔法だったようだが氣と(マナ)の動きを読めるキリヤにとって速度はもはや誤差だ。

 それにこれが最速で撃った魔法ならば今まで強者達と戦ってきた中で言えば〈八輝将〉は大したことはない。敵の中で最も強いランキングはやはりサイルがダントツで一番だろう。

 雷の矢から魔力を吸収すれば矢は消え去り、

 

「悪ィけどあんたらに足止めされるほどオレは弱くねぇ!」

 

 淡々と事実を告げればキリヤは不敵に笑う――

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