オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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4話「魔法騎士団入団試験」

「……今まで数多の魔法を見てきたが貴様の魔法は初めて見るものだな」

 

「そ、そうスか……」

 

 岩山に移動し戦闘開始してから十数分。

 メレオレオナは興味深そうに言うがキリヤは地面に埋まっていてそれどころではない。

 今までも強かったのに魔法を使えばメレオレオナはさらに強く、普通に完敗。

 だがおかげでキリヤは自身の魔法がどんなものなのか理解出来た。

 

「これからより研鑽していくことでさらに強くなるだろう。魔法騎士団入団試験まで残り半年だが――」

 

「魔法騎士団に入るまではレオナ様のお世話になりまァす!!」

 

「その思い切りの良さは嫌いじゃないぞ。決めたなら早く立て!! 実戦はこんなものではないぞ!!」

 

「うすっ!!」

 

 一喝されればキリヤは即座に地面から立ち上がり、もう一度身構える。

 こうして残り半年間もキリヤはメレオレオナの下、修行を続けたのだった――

 

 ◎

 

 魔法騎士団入団試験前日。

 深夜、眠るキリヤを背にメレオレオナは通信魔道具でどこかへ連絡を取っていた。

 

『……姉上から連絡とは本当に珍しいですね』

 

「明日、魔法騎士団入団試験に私の弟子が行く。気に入れば〈紅蓮の獅子王〉に入れてやれ。ヘマするようなら容赦なく落とせ」

 

『え、弟子……姉上がですか?』

 

「用件は以上だ。切るぞ」

 

『ちょ――』

 

 自らの用件だけを伝えると一方的に連絡を切り、メレオレオナは空を見上げる。

 数々の星が輝き、今夜の月は一層光を帯びているように見える。

 隣で眠るキリヤはよほど安心しているのか緩みきった表情、しかしその身は一秒たりともマナスキンを途絶えさせることはない。

 

「――まぁ、マナスキンを常時出来るようになった時点で貴様はそこいらの魔道士を超えているんだがな」

 

 本人に言えば調子に乗るために絶対に言わないが。

 メレオレオナは眠るキリヤの頭をぽんぽんと撫でるとまた輝く星々を見上げるのだった――

 

 ◎

 

「何だったのだ今の連絡は……」

 

 私邸で休息を取っていた額に浮かぶダイヤの印が特徴的な男――フエゴレオン・ヴァーミリオンは困惑の表情を浮かべていた。 

 

「先ほどの連絡、姉上からでしたか?」

 

 声が聞こえていたのか近くにいた弟――レオポルド・ヴァーミリオンが問う。

 その問いにフエゴレオンが頷き、

 

「ああ。何でも弟子を取ったようで、その弟子が明日の入団試験に来るらしいが……」

 

「あ、あの姉上が弟子を……ですか?」

 

 信じられない、言葉にせずともレオポルドの意はフエゴレオンに伝わる。

 何せ姉のメレオレオナは過剰なスパルタだ。

 獅子は我が子を谷底に投げ落とし這い上がることが出来た強い子だけを育てるという有名な話があるがそれを本当に実行しようとした女性だ。しかもその時のレオポルドはまだ三歳にも関わらずだ。

 

 自らにも他者にも厳しいメレオレオナが『弟子』と認めた者。

 それはつまり過剰スパルタを乗り越えて鍛え抜かれているということ。

 

「これは少し楽しみになってきたな……」

 

 正直、裁定する立場だが明日の入団試験は気乗りしていなかった。

 しかし一体どんな者が現れるのか、フエゴレオンの中で一つ楽しみが出来てしまったようだ。

 

 ◎

 

「うぅぅ……レオナ様とお別れなんてオレ……ぶっちゃけ寂しいっス」

 

「何を腑抜けたことを言っておるかァアア――ッ!!」

 

 魔法騎士団入団試験当日。

 暫しの別れに咽び泣くキリヤだが対照的にメレオレオナは朝から厳しかった。

 

「貴様、私を超えて『参った』と言わせるのだろう? ならばさっさと入団試験など突破して来い!! まだ始まってすらいないと分からんのかァアアアア――ッ!!」

 

「それは分かってるんですけど……魔法騎士団になったら寮で暮らすようになるって聞いたしぃ……レオナ様の顔見れなくなるの寂しいです!!」

 

「今生の別れでもあるまいし早く行かんかァアアア――っ!!」

 

「最後まで厳しい!!」

 

 尻を蹴り飛ばされたキリヤは地面を転がる。

 別れの時でもメレオレオナらしい振る舞いにキリヤも立ち上がると、

 

「行ってきます!!」

 

「行ってこい!!」

 

「……でも落ちたら帰ってきます!!」

 

「何を弱気になっておるかァアア!!」

 

 結局、本当に最後まで怒られた。

 

 ◎

 

 平界の城下町にある闘技場。

 その闘技場を貸しきって魔法騎士団入団試験は行われる。

 

「魔力が低いヤツに集る試験会場名物のアンチドリ……くそーうぜーなぁ」

 

 などと見知らぬ少年が言っている中、キリヤは何故かアンチドリに集られないのでむしろ追いかけていた。

 

「待てよ待てよ! 焼き鳥にして食ってやる!」

 

 見事な野生児ぶりを発揮し、逃げるアンチドリを追いかけているとアスタ達の姿が見えた。

 追いかけるのをやめて近くに止まるとキリヤは軽く手を挙げ、

 

「よっ未来の魔法帝達!」

 

「ん……? ああ、キリヤか!」

 

「って、ものすごく集られてんな……」

 

 思わずキリヤも呆れて見てしまったがアスタはめちゃくちゃアンチドリに集られていた。

 アスタの言葉は半分以上アンチドリの羽音やつつく音に阻まれ聞こえず、そう思えばユノの方は全く集られていない。

 

「うぉおおお! 何だこの鳥! すまんキリヤ! ちょい追い払ってくる!!」

 

「お、おう……あっ!」

 

 言ってアスタはアンチドリを振り払いながら駆け出せば少し進んだところで誰かと激突してしまう。

 異邦人、というのだろうか。黒い前髪を後ろに下げた髪型の目つきの悪い大男。

 人殺しの目つきに太い首。筋骨隆々としたその姿は明らかに入団試験を受けに来た受験生ではない。

 それなのに――

 

「いやぁーオマエすんごいフケ顔だな! 今までどんだけ苦労したんだい?」

 

 アスタはめちゃくちゃフレンドリーに接しに行ってしまった。

 ユノもキリヤもやらかしたな、といった目で見つめると案の定顔面をアイアンクローされてしまい、キリヤはアスタの成仏を切に願う。

 

「お、おいあれ……〈黒の暴牛〉の団長――ヤミ・スケヒロじゃねえか!?」

 

 周りにいた少年が驚きの声を上げる。

 有名人なのだろうか、キリヤにはさっぱり分からずユノに問いかける。

 

「知ってる?」

 

「知らない」

 

「だろうな、わっはっはー」

 

「わっはっはじゃねえよ! 今から入団試験なんだから事前に団のことは調べて来いよ!」

 

 ユノもキリヤも知らず、この会話はこれで終了と思っていたが驚いていた少年が割り込んでくる。

 そういえばこの少年は魔導書(グリモワール)塔でもキリヤの質問に答えてくれた気がする。

 

「いいか〈黒の暴牛〉ってのは武功よりも被害額の方が上回るならず者騎士団でまともな奴は誰一人いないらしいぜ」

 

「ふーん」

 

 まあ確かにあの風体で生真面目だったら驚きだが、ヤミを見ながら素直にキリヤはそう思う。

 他からも〈黒の暴牛〉にだけは入りたくないなど聞こえてくるが――

 

「――待たせたね」

 

 聞こえてきた青年の声と共に受験生に絡んでいたアンチドリが一斉に飛び立つ。

 受験生達がいる場所よりも高い場所――闘技場の観客席に八人の団長、受験生達がいる場にいたヤミも跳べば合計九人の団長が集結する。

 

「今回の試験は私が仕切らせてもらうよ」

 

「あれは……現最強の魔法騎士団〈金色の夜明け〉団団長のウィリアム・ヴァンジャンスだ!」

 

 受験生達が声を上げ、それを拾うとどうにも仮面を着けた……というより被っているあの青年はすごい人間のよだ。

 次期魔法帝最有力候補だとか団員からの信頼も厚いだとか、ともかくすごいらしい。

 

「……”魔樹降臨”」

 

 魔導書を開き、魔法を唱えたかと思えば空から木の根が無数に現れる。

 軽く唱えただけでこの規模。次期魔法帝最有力候補と言われるだけあって、納得のものだ。

 木の根からは箒がそれぞれ手渡され、キリヤは箒を見ると疑問符を浮かべる。

 

「……今から掃除しろってこと?」

 

「そんなわけねえよ!」

 

「それではこれより魔法騎士団入団試験を始める。まずは手短にルールを話そう」

 

 隣の受験生にツッコミを入れられながらもヴァンジャンスの話が始まれば二人共押し黙る。

 

「諸君らには今からいくつかの実技試験を受けてもらう。その様子を我々九人の魔法騎士団が審査し、後に九人各々の欲しい人材を採択してもらう。誰にも選ばれなければ――言わずとも分かるだろう?」

 

(レオナ様に超拳骨を受けることになると……)

 

 魔法騎士団に入団出来ないよりも先に浮かんだのはメレオレオナの拳。

 思い出すだけで身震いするキリヤだが、ヴァンジャンスの説明は続く。

 

「一次試験は手渡された箒を使って飛んでもらう。魔力を操作出来る魔道士なら感覚で出来ることだ。魔道士の最も基本な移動方法だが箒飛行が出来ないようなら話にならないよ」

 

 と、言われてもキリヤは正直箒で飛行したことなどなかった。

 例としてヴァンジャンスの背後で一人の魔道士が実際に箒に跨って浮いて見せ手本となるが股間が痛そう以外に何も浮かばない。

 ともあれ飛ばなければいきなりアウトだ。

 すでに周りは飛び始めていてユノも見事に飛び上がって、キリヤは出遅れた形になっている。

 

「よしっ! やるぞ!」

 

 箒を武器のように掴んだままキリヤは自らのマナスキンの魔力放出量を調整。

 靴裏が地面から離れればキリヤの身体は浮かび上がってユノと同じところで静止する。

 

「あいつ……箒なしで飛んでる……」

 

 これには受験生達はおろか団長達も少し驚いた様子を見せる。

 視線が集中してしまったためにキリヤはあたかも当然のことのように、

 

「昔は適当な枝で飛んでたんスけどレオナ様が『そんなものなしで飛ばんかァアアアア!!』って怒られてそれ以来こうやって飛んでて……それにほら! この方が両手空いてて攻撃も出来るし」

 

「ぶわっ!?」

 

「あ、ごめんっ!」

 

 と、適当に箒を振るっていると他の受験生の顔面に直撃。

 しかも張り切ってしまったために結構な勢いで相手は空へ飛んでいってしまった。

 

「……ま、まあこのとおりいつでも戦えるように……的な?」

 

 などと適当な言い訳をして団長達の視線を受けないようにそそくさ人混みの中へ避難。

 すると不意に地上にいたアスタの姿が見える。

 

「ふんぬぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……っ!」

 

(アスタ、一ミリも浮いてねぇ……)

 

 物凄く気合いが入っているものの箒は浮く気配がない。

 確かどんなに才能がなくとも少し浮くぐらいは誰でも出来るとメレオレオナは言っていた気がするが――

 

(もしかしてアスタって……魔力がない?)

 

 そんな疑問を抱きながら次の試験へ――

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