『ポンコツ糞魔法騎士共聞けェエエエエエエエエエエエエエ――ッ!!』
水晶創成魔法”
拡声器を片手に声を上げたフィオレナの声は高らかに響き渡り、魔法騎士達の耳に届く。
『今からアタシがこの場の指揮を取る! 拒否してもアタシの魔法で無理矢理言うこと聞かせるから筋肉痛になりたくなかったら素直に聞け!』
水晶強化魔法”
配備されていた魔法騎士達の背中を水晶が先に付いた鞭で瞬時に叩き、強制的に強化させ魔法騎士達の身に纏う魔力量が一時的だが大幅に強化される。
そして水晶の蝙蝠がフィオレナから飛び立ち、空をあらゆる角度で見渡す。
『魔法騎士に告ぐ! 伏兵はない! 我々の士気を下げるためにわざと正面突破をしようとしている! 外壁上にいる魔法騎士は三列横隊に並び一列ずつ魔法で迎撃し撃てばすぐに後ろに変われ! それを繰り返し敵に反撃の隙を与えず時間を稼げ!! 援軍を待て!!』
「その容姿、水晶魔法、そして指揮能力……まさか貴様は――」
『ただの新人魔法騎士だ!! 者共ちんたらしてる暇があるなら動けぇえええええ!!』
ダイヤモンド王国の魔道士に気付かれかけるも響くフィオレナの声に魔法騎士は新人相手に圧されて指示通りに動き出す。強化されているために一人一人の魔法の威力も底上げされ、ダイヤモンド王国の部隊は思うように動けずにいた。
円滑な指揮にキリヤも驚く。
「やっぱり元〈七剣総統〉は伊達じゃないってか」
「〈七剣総統〉の中でもアタシの専門は現場指揮なんで。というよりダイヤモンド王国とは何度か戦ってますからアイツらの戦法大体分かるんです。いっつも真正面から猪みたいに突撃してくるんですよ」
「なるほどね。で、オレはどうすればいい?」
「先輩は遊撃をお願いします。というか倒してくれても全然おっけーです。フレンドリーファイア喰らっても先輩の魔法だとむしろプラスですよね?」
「シンプルでイイな。とりあえず防御用にフィオレナ、オマエにノームを預ける。ノームもフィオレナのこと任せたぞ」
『首肯。我、幼子の相手は得意ぞ』
「ちょっと子ども扱いしないでくれます!?」
フィオレナの監視から少し離れるもノームがいれば安心だろう。
その場から飛び出せば〈八輝将〉に向かって突撃するキリヤ。その隣に魔導書からウンディーネがひょっこりと顔を出す。
『ねね、だーりん! 今サキムー全員揃ってないしノームも今フィオレンのところにいるしジブリンは今回パスって言ってるからあーしの鎧使ってくれるよね!? ね!?』
「はは、分かった分かった。力を貸してくれウンディーネ」
『がってん承知よーっ!!』
手を合わせ握ればすでに戦いで大気中に満ちた
――身体進化魔法”
全身広大な海を示すような蒼で彩られ、珊瑚の如き桃色の装飾が各部を飾る。兜から伸びた鎧とは正反対の紅い髪の一束がより全身の蒼を引き立てていた。
「エッエッエ! 先ほどデカイ口を叩いてた餓鬼が一人で突撃してきよったわ!」
「その勇敢さだけは認めてやるが無謀だなァアア!!」
『さあだーりん暴れて! 水ってのは何にも縛られない自由な属性なんだから何でも出来ちゃうし!』
「ああ!」
思い浮かべるだけで水が飛び出し、幾重にも螺旋を刻み道を創り出せばキリヤの身体は内側の激流と共に加速して〈八輝将〉の周りにいる魔道士達に迫る。
その拳は水の魔力で形取られた鮫が大口を開け、逃げようにも鮫が喰らいつけば離さず次いでキリヤの拳が追撃で殴り飛ばす。そうせずとも道となった水がその激流をもって敵を飲み込み地面に叩きつける。
「オレ泳げなかったけどこれで弱点克服だな!」
『いぇいいぇーいっ! もーっといっちゃいましょーっ!!』
と、昂ぶる気分のまま次々とダイヤモンド王国の魔道士を倒していくキリヤ。
しかしその動きは突然水の中で止められてしまい、見れば水の中に何やら粘性の強い液体が混じってキリヤの動きを止めていた。
「エッエッエッエ……粘液魔法の味はいかがかな?」
「うわきったね!」
ただ纏わり付いただけではない。
粘液に触れた途端にキリヤの魔力が著しく弱め、鎧も強制解除されて地面に落ちてしまう。
キリヤの魔法の性質上粘液はすぐに魔力を吸収して水と変わらないが――
『だーりん前から来てるっ!』
「がーっはははははははは! 行くぞ若造!!」
赭土創成魔法”大猪猛激進”。
赤い土で形成された大猪が〈八輝将〉の一人を乗せキリヤへと突撃し、真正面からその衝撃を受ける。
足を踏ん張るもその勢いに押され外壁を突破してしまい、ブロッコスも高らかに笑う。
「ダイヤモンド王国万歳~っ!! いくら精霊を使役しようとも魔力を奪われればその程度よ!!」
「よく見ろよおっさん!!」
直撃を受けはしたが獣道の先キリヤは立って持ちこたえていた。
逃げる人々を守り、魔力が奪われようとも筋力だけでキリヤは相手の魔法から魔力を吸収しつつ持ち上げる。
「だあらっしゃぁあああああああ――ッ!!」
「ぬおっ!!」
そのまま力任せに投げようとした途端、嵐の如く吹き荒ぶ風が〈八輝将〉ごと猪を破壊し吹き飛ばす。
――風魔法”暴嵐の牙”。
新手かと思い振り向けばそこにいたのは――
「ユノっ!? 何でここに!?」
「……仕事」
「そりゃそっか!」
立っていたのはアスタの友人で〈金色の夜明け〉に属するユノ。
元々才能があるタイプだと思っていたが今の一撃で分かる。初めて会った時とは比べ物にならないほど強くなっているようだ。
キリヤを見るなりユノは極めて淡々と言う。
「苦戦してるから手を貸した」
「いやいや苦戦はしてないって。今から楽勝だったんだけど!」
「無理するな」
「はぁーこの野郎! ちょっと強くなったからってこのこの!」
「おいやめろ。オレはそんなキャラじゃない」
『こらーっ! ユノをイジメないでよーっ!』
澄ました顔のユノの横腹をつっついて茶化すと唐突に現れたのはユノの顔ほどの身長をした精霊だった。
身に纏う魔力からして風、そしてその魔力の純粋性はノームやウンディーネと同じようで――
「ユノも精霊と契約してたのか!」
「……ああ」
『無視するなーっ! 四大精霊なんだぞ私はーっ!』
「うるさいけど一応」
『一応って何なのよーっ!』
『何だかピーチクパーチクうるさいのがいるって思ったらシルフじゃん! 相変わらずちっさ!』
『げ、ウンディーネ!! あんた何でこんなところにいるのよ! てかちっさいって何よ!』
四大精霊は意外と仲が悪いのか、すぐさま喧嘩を始めてしまうウンディーネとシルフ。
キリヤは額に手を当て、
「……何かごめんな」
「……こっちこそ」
普段絶対に謝ることをしなさそうなユノが謝罪するほどのうるささ。
別に騒がしいことは悪いことではないが今はそれどころではない。が、市民達は〈金色の夜明け〉の援軍に恐怖よりも高揚が勝っているのか声を上げる。
「〈金色の夜明け〉が……最強の騎士団が来てくれたぞォオオ!!」
「うわスゲー人気」
他の団員やヴァンジャンスの気配、
フィオレナもそれを察して迎撃態勢は取りつつも市民の避難にも魔道士を割くも迎撃を潜り抜けて外壁の穴から〈八輝将〉が侵入し、
「〈八輝将〉の一人ともあろう者が美しくない……下がれブロッコス」
「ぬ、ラガス! 吾輩の邪魔をする気か!?」
「邪魔ではない。任務を全うしているだけだ」
雷魔法の〈八輝将〉――ラガスは雷創成魔法で創られた雷鳥に乗ったまま雷の弓を構え、その弓にはいくつもの矢が番えられている。今にも放たれそうな一撃に対しキリヤはユノに視線を向け、
「防ごうか?」
「いや、自分で出来る――ベル」
『ホイきたーっ!』
ウンディーネと喧嘩していたシルフ――ベルは呼ばれるとユノの傍らに戻り、ユノもまたラガスと同様に風属性の魔力で創られた弓を構える。
風魔法”疾風の白弓”。
ベルが息を吹きかければ通常よりも遥かに威力が上がり、雷の矢と衝突しても貫通。相手が張った魔法障壁すら貫いてラガスの周りにいる魔道士達を撃つ。
「将を名乗るぐらいなら仲間を護ってみせろ……っ!」
「ガハハ! 身体も温まってきた頃だ! 吾輩も加勢してやる!」
「相手はちょうど二人、ぶっちゃけオレ一人で充分だけどどっちがイイ?」
「どっちでもいい。早い者勝ちで」
「イイなシンプルで。あ、恨みっこなしな」
「そっちこそ」
にしし、と笑えばキリヤも再び”
赭土を纏い巨大化したブロッコス、ラガスは雷鳥に乗ったまま空を羽ばたきユノも風の鳥に乗ってその後を追う。
「貴様がどの程度の強さか吾輩が見極めてやろう!!」
「いらねえ世話だな!」
しなる水の道に飛び込めばブロッコスの視界を撹乱し、一瞬でも視界をキリヤから外せば水の道から飛び出した鮫がブロッコスに喰らいつき、鮫に意識が向けばキリヤ自身が直接殴り飛ばす。
「小賢しい真似を……っ!」
怯み片膝をついたブロッコスに肉薄するキリヤ。
その手には直径十センチほどの球状の水があり、それをブロッコスの腹部へ押し付ける。
「炸裂しろ!!」
水精霊魔法”
押し付けた球状の水がブロッコスの腹部で泡立ち炸裂。もはや火属性と言っても過言ではないほど爆発し、ブロッコスの身体は大きく弾き飛ばされる。
「おとなしく撤退した方がいいぞ。オレに勝てないようじゃヴァンジャンス団長にも勝てねぇだろ」
「ダイヤモンド王国に撤退の二文字などないわァアアア!!」
雄叫びを上げ、尚も潰えぬ戦意。
だがそんな戦意はすぐさま現実に押し潰される――
「樹は熟した――今大樹が芽吹く」
ヴァンジャンスの滅茶苦茶な魔力によって形成された大樹の根や枝が周囲にいたダイヤモンド王国の魔道士を捕まえ樹の一部にして成長を繰り返す。
世界樹魔法”ミストルティンの大樹”。
あまりにも巨大な大樹は新たなシンボルかのように荘厳でキリヤも感心の声を上げる。反対に〈八輝将〉は絶句しているようだが。
「わ、吾輩の軍がほぼ壊滅だと……っ!?」
「残念。あともうちょいで全滅だよ」
拳を地面に叩きつければ間欠泉の如くブロッコスの足下から水が噴出。その勢いにブロッコスが纏っていた赭土は引き剥がされ、勢いのまま空へと打ち出される。
丁度時を同じくしてユノとラガスは空中戦を繰り広げており、そこにブロッコスが打ち上げられラガスの雷鳥と激突し、大きくバランスを崩す。
「何だかんだ言って決めるのは同じタイミングだな!」
「……みたいだな」
声音からあまり感情の機微を感じないもののやや悔しそうなユノ。
だが今は戦闘の最中、ユノ自身も割り切って考えており、キリヤが片脚に水で創成した輪をいくつも出せばその身体をベルの力を使った風で一気に押し出す。
――精霊複合魔法”轟風刃の激流槍”。
水の道を回転する輪と風の推進力を経て最大級に加速したキリヤの蹴りはラガスとブロッコスを捉え、衝撃の瞬間に魔力の放出も加えこれでもかと威力を底上げする。
いくつもの建築物を貫き静止したブロッコスとラガスだが完全に意識を断ち切られ起き上がることはない。
「よぉしオレ達の勝ち! ほらユノ」
「…………」
キリヤが拳を向ければユノも仕方ないといった様子で拳を合わせ、キリヤは笑う。
複合魔法は初めてだったが上手く行き、何だかんだウンディーネとベルの相性も良――
『やっぱり割合で言ったらあーしら7であっちが2くらいじゃない?』
『何言ってんのよ! こっちが7よ! ってこっちが2だったらあとの1誰の活躍!?』
『あーしら?』
『だったら8じゃないの!! 本当はこっちが8だけど!!』
訂正、やっぱり駄目なようだった――