オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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50話「女の因縁」

「貴様らの実力はそんなものかァ!!」

 

 メレオレオナ発案による”遊び”が始まって数分、シィナ達は劣勢を強いられていた。

 シャーロットの動きに合わせシィナとソルが援護しているもそもそも属性的に荊魔法のシャーロットと炎魔法のメレオレオナでは相性があまりにも悪い。

 

(やはりメレオレオナ様はめちゃくちゃです……っ!)

 

 数多蠢く荊も真正面から炎で燃やし、その光源を利用し影魔法を伸ばしたところで野生の反射神経を持つメレオレオナは見ずに空中へ飛び出して躱す。

 怪獣、そんなイメージすら湧くとんでもない動きでソルが生み出すゴーレムも対応出来ず、このままではジリ貧も良いところだ。

 

(だったら――)

 

 影魔法”影人形(シャドードール)”。

 メレオレオナ本人の影に魔力を送ってメレオレオナの影に実体を与える。影とは本体と表裏一体の存在、すなわち今のメレオレオナと同じ実力を持っ――

 

「次だァ!!」

 

 通じる通じないを考える以前にメレオレオナの一撃で影人形が吹き飛ばされてしまう。

 

「嘘……」

 

「所詮は影だ。私が私に負けるはずがないだろう」

 

 もう言っていることがよく分からない。ついでにやっていることも。

 シィナは一度下がるとシャーロットの傍に行き、

 

「(団長、私が何とかメレオレオナ様の動きを抑えます。そのうちに私ごと攻撃してください)」

 

「しかしそれでは……」

 

「(大丈夫です。最近便利な魔法覚えたんで!)」

 

「……分かった」

 

 シャーロットも頷けばシィナの身体から影の如き魔力が揺らめき覆う。

 影創成魔法”影重ノ天衣(カゲノエノアマゴロモ)”。

 ”ダッコウバ”の一件で習得した魔法であり、真正面からメレオレオナに向かって駆け出す。

 

「ほう」

 

 突撃するシィナに対しある種感嘆の声を上げたメレオレオナは炎を纏った拳を振るう。

 炎魔法”灼熱腕(カリドゥス・ブラキウム)”。

 今までの魔法全てを燃やし尽くしたメレオレオナの魔法は拳ごとシィナの身体を貫通し炎を上げる。

 

「シィナ!」

 

「平気です!」

 

 ソルが声を上げるもシィナ自身にダメージはない。

 確かに腹部は貫かれているも”影重ノ天衣(カゲノエノアマゴロモ)”を纏ったシィナは実体があるようでない不可思議な状態となっている。

 現にメレオレオナの拳は効かず、しかしメレオレオナの腕は捕まえる。腹部に違和感を覚えるも構わずシィナは影で地面に根を張り、

 

「”底なし影大沼(ボトムレス・シャドゥンプ)”!!」

 

 メレオレオナの身体ごと自分を影の中に沈めて動きを止める。

 あの巨体を持つグランドドラゴンでさえ沈めた技。あの時はかなり範囲を広めてさえ沈められたのだからただ一人の人間サイズで絞ればその拘束力は言わずもがなだ。

 

「なるほど。自分の身ごと撃たせるつもりか」

 

 気付いたところで遅い。

 シャーロットの荊とソルのゴーレムがシィナごと打つつもりで迫り、この距離ではどうしようも――

 

「この程度どうにも出来んと思ったか?」

 

 途端、メレオレオナの全身から魔力が爆発的に放出される。

 そのため圧倒的な光量を受けた場に影の存在は許されず、シィナは後方へ飛ばされ同時に荊もゴーレムも弾き飛ばされる。

 だがシャーロットはそれを見越していたのかさらに地面から一条の荊を伸ばし、爆発し終えたメレオレオナの顔を狙う。

 

「――ッ!」

 

 それでも反応するのがメレオレオナだ。

 一歩退いて荊を躱し、拳を構えるもシィナはその瞬間を逃さない。

 荊が伸び、メレオレオナの身体に荊の影が出来たということは――

 

(影魔法で捉えられる――っ!)

 

 荊の影を切り離し、躱した先でさらに影の荊で追撃する。

 それでもメレオレオナは反応してくる。首を捻って荊の影を躱し、炎によって荊本体を崩す。そうして影は途切れ、シィナの操作範囲外となってしまう。

 

「これでどうだ――ッ!!」

 

「不意を打つ時に喋る者がいるか莫迦者が」

 

 土創成魔法”暴れ地母神”。

 ゴーレムの拳が届く暇もなく”灼熱腕(カリドゥス・ブラキウム)”の連打で崩されてしまい、落ちたソルにメレオレオナの拳骨が炸裂する。

 

「だイっダぁあ――っ!!」

 

「戦い方が雑過ぎだ」

 

 次いでシャーロットもシィナも拳骨を喰らう。

 

「容易く燃やされるな。貴様がその気になれば属性相性など崩せる」

 

「は、はい……精進します……」

 

「貴様は前よりかマシになったがまだまだだ。光すらも飲み込めるようになれ」

 

(め、めちゃくちゃな……)

 

 と思いつつも頷くシィナ。

 いつの間にか修行を受けていたようになっているもこれまでの”遊び”ではっきりと分かってしまった。

 ――これ無理だ、と。

 団長と合わせて不意討ちに不意討ちを重ねたところで反応され、正面きって戦えば正面から叩き伏せられる。

 最強の女性魔道士の名は伊達ではなく、これではキリヤの誕生日パーティも――

 

『シィナ、少し私と変わりなさい』

 

「え――」

 

 精霊魔弾創成魔法”転移無方弾(ワープレスバースト)”。

 シィナの意識が途切れた瞬間、シャーロットとソルの姿がこの場から消える。

 その光景にメレオレオナも多少驚いたようだが変化したシィナの姿に笑みを浮かべ、

 

「その魔法……なるほどな。貴様が莫迦弟子が言っていた魔弾の使い手か」

 

「ええ、あの二人は遠くへ飛ばしたから当分はここには来ない。私個人としても貴様に話がある」

 

「奇遇だな。だが私は話などよりもコッチだがな」

 

 拳に魔力を灯し、轟々と炎を滾らせるメレオレオナ。

 対してシィナ――いやサイルも魔導書から取り出した銃を構え、

 

「奇遇ね。私も話じゃなくてこっちだったわ」

 

 二人の戦意はとんでもない魔力量の放出となってぶつかり合い、空間に歪みすら生み出す――

 

 ○

 

 炎魔法”灼熱腕(カリドゥス・ブラキウム)”。

 魔弾創成魔法”激流驟雨弾(アクアバレッジバースト)”。

 炎の連撃、水の弾雨、数多もの魔法がぶつかり合えばあたり一面に衝撃で水蒸気が噴き出す。

 弱点属性でありながら容易く相性を覆しながら迫るメレオレオナ。放たれた拳を躱せば追撃で背後から迫る炎の一撃にサイルは踵の銃を撃ちその反動で跳んで躱す。

 

(マナゾーン……なるほど。キリヤが地底帝国で見せたのはこの女の影響ね)

 

 クローバー王国の人間には不可能だと思われていたがどうにも出来る者がいたようだ。

 あたりの(マナ)を掌握し、全方位への魔法攻撃を可能とするマナゾーン――だが、それは一方的に支配していた場合でありこちら側も使えるとなれば話は変わる。

 

「ッ!」

 

 魔弾創成魔法”乱反射光明弾(ミラーバウンドバースト)

 放たれた光の魔弾はメレオレオナの周りで乱反射、そして反射する度に速度を上げると共に分裂してその数を増やす。

 

「ほう、あの莫迦弟子を負かしたとだけあってやるようだな」 

 

 拳を振るい”灼熱腕(カリドゥス・ブラキウム)”を連発して光すら燃やし尽くすメレオレオナ。

 マナゾーンの使い手同士がぶつかれば必然的にどちらが大気中の(マナ)を掌握するか、それこそが勝敗を分ける。

 

「次はどうする?」

 

(人間にしてはやるわね……)

 

 混じり気のない純粋な強さ。

 流石俗世から離れ一年のほとんどを森で暮らしていたともあり(マナ)の扱いが上手い。

 接近戦を繰り広げながらサイルは時計に目を向ける。

 

(ここから拠点まで戻るには一時間ほどかかる……そろそろ決めないとキリヤが拠点に戻る時間になってしまう)

 

 個人的な恨みはあるも今回はキリヤのためにメレオレオナを拠点へ送る、それが目的だ。

 ならば四の五の言ってはいられず、

 

「クロノス!!」

 

「ッ!」

 

 魔導書から現れた時間の精霊クロノスによる時間停止。

 魔力消費は激しいが半球状の範囲内の時間を停め、サイルのみが動くことを許された世界とする。攻撃する際には時間停止を解除しなければならないが躱せる者などいるはずもない。

 しかし、

 

「この状況でも反応していたなんて、化物のレベルね……」

 

 見れば時間が停まる瞬間、メレオレオナはすでに後方へ跳んでいた。

 あと数センチのところで範囲外に出られており、そうなればさらなる苦戦を強いられていただろう。

 だが今回は――

 

(私の方が一手上だったわねッ!!)

 

 魔弾創成魔法”迫撃堕落弾(ゼルファーバースト)”。

 時間停止解除と同時に魔導書から迫撃砲を顕現し、メレオレオナの腹部に向かってほぼ零距離からの一撃。

 その衝撃はサイルも後方へ飛ばすほどでその直撃を受けたメレオレオナはさらに遥か後方へと飛ばされる。

 ただその靴裏は地面から離れず、やがて制止すれば魔弾は腹部に直撃していながらも両腕で挟み込むようにして受け止めており、もはや人間ではない反射レベルにサイルも鼻で笑ってしまう。

 

「どうした、まだ戦いは終わってないぞ。早くかかってこいッ!」

 

「いいえ、終わりよ」

 

「……何だと?」

 

 すっかり高揚してしまっているのかサイルの言葉に尚も炎を巻き上げるメレオレオナ。

 キリヤの一つのことに集中すれば他のことを忘れてしまうのは師匠譲りか、などと思いながらサイルは息を吐く。

 

「一発当てたらこちらの勝ち、今回は”遊び”なんでしょ?」

 

 その言葉にメレオレオナの闘志が薄れ、魔法も止む。

 

「……ふ、なるほどな。最初からそれが狙いだったのか」

 

「私はもう〈白夜の魔眼〉じゃない。アルーグの……いえ、キリヤの味方よ。だからリスクを背負ってでも表に出てあなたと戦った――シィナの代わりに」

 

「それだけじゃない気迫だったがな」

 

「当然。あなたの言葉がキリヤを追い詰め暴走させたことは事実なのだから」

 

 あの時、もしサイルがいなければキリヤは死ぬまで暴れ続けていただろう。

 その原因となる強くならなければならないと強迫観念を抱かせたメレオレオナにずっと憤りを感じていた。だが同時にサイルは分かっていた。

 

「あの子の中にもう私はいない――だけどあなただけはあの子を見捨てないであげて欲しい。キリヤにとってあなたこそが生きる意味なのだから」

 

「……そんなことは貴様に言われずとも分かっている」

 

 戦意はなくなり、メレオレオナは手近な岩へと腰を下ろす。

 

「キリヤは私と出会ってから真っ直ぐに育った、愚直なまでに。アイツは私の手から離れ、思っていた以上に成長している。自らどう進むかを考え、そのために何をすれば良いか分かっている。師としての役目は終わりだと言って良い」

 

「それが誕生日会に出ることを渋った理由……?」

 

「すでに独り立ち出来たアイツにとって私はもう不要の存在だ。私は恐らくアイツが死ぬまで傍にいてやることは出来ない。だからこそ他の若い女でも見つけろとでも思っていた――」

 

 だが、とメレオレオナは言葉を区切り、

 

「必要か不必要か、そんな損得勘定をあの莫迦は持ち合わせていないことなど私もよく知っているはずだった。だが私自身が忘れかけていたようだ。それにシャーロット達が来たということは分かりやすくあの莫迦が凹んだのだろう。……全く手間のかかる糞莫迦弟子だ」

 

「そう言う割には嬉しそうね」

 

「そんな風に見えたならそう思っておけ。場所は〈碧の野薔薇〉の拠点で良いのか?」

 

「ええ、シィナがそう言っているのを聞いたわ」

 

 そうか、と言ってメレオレオナは立ち上がり歩き始める。

 普段どうか知らないためにはっきりしていないがその足取りは軽そうに見え、

 

「少しはキリヤの素直さを見習ったら?」

 

「逆だ。あの莫迦はもう少し隠すことを覚えねばならん」

 

 それもそうね、とサイルもどこか嬉しそうに笑い、そしてシィナへ身体の主導権を戻すのだった――

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