オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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51話「ハッピーバースデー」

「よっアスタ! オマエも来てたのか!」

 

「おう……お? だ、誰だ……?」

 

「あ、鎧着てるから分からなかったか」

 

 あれから途中からやってきた〈黒の暴牛〉アスタ達の活躍もあって三人目の〈八輝将〉を捕らえることに成功し、キテン戦役は見事にクローバー王国魔法騎士の勝利となった。

 アスタ達に手を挙げながら挨拶するキリヤだが鎧姿はアスタにとって初見だったようで解除する。

 

「キリヤだったか! 何だそのカッケェ鎧!」

 

「これがオレの身体進化魔法さ! んで新しい友達のウンディーネ」

 

『どーもー! だーりんのトモダチ兼精霊カノジョのウンディーネでーすっ!』

 

「何かめちゃくちゃ騒がしいやつだなー」

 

『元気が取り得なのよ! ってあんたも随分ファンキーな怪我負ってるわね……』

 

 アスタを見れば両腕にギプスを嵌めていて明らかに重傷だ。この状態でよく戦場に来たとさえ言える。

 ただそれを見ていつも無表情に近いユノは笑い、

 

「オマエがそれだけボロボロになってるってことはまた更に強くなったんだな――負けないぜアスタ」

 

「オレだって負けねーぞユノ!」

 

 互いにライバルを公言しているだけあって認め合っている二人。

 と、ウンディーネがアスタの腕を見て気になったのかそろそろと近付き、

 

『男同士イチャついてるとこごめんだけどー』

 

「いやイチャついてないけど!?」

 

『まーまー置いといて。ちょっち腕見せて。だーりんのトモダチみたいだからついでに治してあげる』

 

「え、マジで!?」

 

『まじまじ~。水の四大精霊ナメとったらいかんぜよ~』

 

 精霊水回復魔法”水精ノ泡衣(ウンディーナケアル)”。

 ウンディーネの指が触手のように蠢き、包帯越しでアスタの折れた両腕に触れる。

 

『あーなるほどね……これ呪いがかかってるから余計に重傷化してるからで……あー、カンタンな重傷だったら治せるんだけど呪いか……どうやって解呪するんだっけこれ。何せ超古いやつだから……』

 

 何やら不穏な雰囲気。

 やがてウンディーネは魔法をやめて腕を組むと、

 

『一旦この国の医者に診て貰いなっ! あーしちょっと久しぶりすぎて回復魔法のやり方忘れちった!』

 

「ええ!? さっきまでの思わせ振りな台詞は何だったの!?」

 

『あーしでも調子悪い時あるしー。ねーだーりん!』

 

「流石にわからねぇけど!」

 

「せんぱ~いっ! 街の復興とか被害者の治療の手配とか色々終わりましたー。疲れたんで帰りましょー」

 

「ん、ああ。お疲れフィオレナ」

 

 新人魔法騎士だというのにすっかり仕事を押し付けてしまったフィオレナが疲れた様子……には見えない元気な声のまま抱きついてくる。

 付き添っていたノームも一礼の後に魔導書に戻り、周りを見れば壊されていた建築物も見事に元通りとなっていた。ノームの魔法で修復したのだろう。

 

「ノームもお疲れ」

 

「あれ、そんな子いたっけ? 前会ったのは黒髪の女の子だったけど」

 

「ああ、これオレの後輩。何だかんだかくかくしかじかあって魔法騎士になったフィオレナだ」

 

「うぉおお! オレがバカ過ぎてキリヤが何説明してっかわかんなかった!」

 

「何も説明してないけどな」

 

「じゃ、後輩も疲れてることだしオレら帰るわ。また会えたら会おうぜ」

 

「おう! じゃあな!」

 

 アスタ達に別れを告げればアスタ、ユノ、キリヤはそれぞれ別方向に踵を返して歩いていく――

 

 ◎

 

「報告します。ダイヤモンド王国の〈八輝将〉三人含めた部隊がクローバー王国のキテンを襲撃。しかしクローバー王国の返り討ちにあったようです」

 

 スペード王国王城内会議室。

 そこに集められた〈七剣総統〉五人の前に部下が跪く。

 

「戦力は魔法騎士である〈金色の夜明け〉、風の四大精霊シルフの使い手に土の四大精霊ノーム、水の四大精霊ウンディーネの使い手も。さらにその使い手は精霊を鎧として身に纏う魔法のようです。そして……《七鞭》フィオレナ様の姿もありました……」

 

 少年の声に言いにくそうに返す部下。

 刹那、それまで黙っていた〈七剣総統〉達から威圧的な雰囲気が場を支配する。

 裏切ったわけではない部下の喉が干上がるほどで震え、そんな部下を尻目に一人の少年が息を吐く。

 

「まさかあれだけ忠誠心を植えつけられていながら裏切るなんて」

 

「彼女はこの国を嫌っていましたから去る可能性はありました。仕方のないことです」

 

「……ゼネルラ様」

 

 少年――《四拳》ステイクが目を向けた先、そこに〈七剣総統〉の頂点たる女性がいた。

 白銀の髪を腰ほどにまで伸ばし、端整な顔立ち。その身を包む髪と正反対な漆黒の鎧。携えているのはこのスペード王国の至宝とも称される剣だった。

 スペード王国一の強さを持つ女性――《一剣》ゼネルラ。

 憧れて止まない存在にステイクはすぐさま頭をゼネルラに向けて垂れ、

 

「ゼネルラ様、是非この僕に裏切り者の始末をお申し付け下さい。すぐにでも殺してこの場に首を差し出してみせましょう!」

 

「その必要はありません。確かに単騎行動に向いていた《六斧》、優れた指揮能力の《七鞭》を失ったのは手痛いものですが誤差の範疇。今はダイヤモンド王国を攻め落とし我が領土の拡張を行うのが先です」

 

「では例の拠点製作を開始するということですか」

 

「その通りです。《二槍》と《四拳》は魔女の森へ。《三矢》と《五扇》は竜穴へ。それぞれ軍を率いて攻め落とし、ダイヤモンド王国侵攻への準備を」

 

「はっ!」

(必ず成果を挙げゼネルラ様へ捧げる……如何なる者が邪魔しようが僕の拳で打ち砕く!)

 

 惚れて憧れた人間へ少しでも近付くために。

 そして超えた先の約束を果たすために。

 ステイクは拳を握り締め、やる気と共に魔力を滾らせる。

 

 ◎

 

「先輩もうすぐですよー」

 

「何で帰るだけなのにオレ目隠しされてんだ……?」

 

「いいからいいから早く行きましょー」

 

〈碧の野薔薇〉の拠点に帰る最中、キリヤは何故か目隠しをされた状態で運ばれていた。

 目隠しされているも大気中の(マナ)や氣を感知すれば目で見ていなくとも瞼を開けている時と大差ない状態で動くことが出来る。

 

(ん、やけに人がいるな……)

 

 拠点内の氣を感知すればやたら人がいるようでフィオレナが扉を開けてもとても静かなものだった。

 いつもの女性達の話し声が一つもせず、不思議に思うも目隠しを外される。

 

「それでは目を開けてください先輩!」

 

「ん……」

 

 言われるがまま目を開ければ――

 

『お誕生日おめでとうキリヤっ!!』

 

 一斉にクラッカーの音が鳴り響き、皆の声が一斉に響き渡る。

 見れば〈碧の野薔薇〉の団員のほとんどがキリヤの誕生日を祝福し、シャーロットもまたその場にいてソルに促されるままクラッカーを鳴らしていた。

 

「みんな……」

 

「どうだ驚いたか!? べ、別に私はしなくてイイって思ったけどシィナがどうしてもって言うから――」

 

「も~うソルちゃんってば無粋よ! みんなでお祝いしましょーって話だったじゃない!」

 

「とりあえずキリヤさんお誕生日おめでとうございます! ケーキもありますよ!」

 

 と、出てきたのは何段重ねにもされた巨大なケーキ。

 キャンドルが丁寧に挿されており、見ればキリヤの年齢と同じ数が灯っていた。

 

『ささ、消しテご主人!』

 

「おう!」

 

 サキムニ達に肩車されてケーキ上まで上回れば息を吹きかけてキャンドルの灯火を消す。

 すると拠点内で大きな拍手が巻き起こり、今度は次々と料理が運ばれてくる。

 

「さあ食べましょう騒ぎましょう! 今日の主役はパンチボーイなんだからハイこれ!」

 

 プーリから手渡されたのは『今日の主役ダヨ!』と書かれた襷。

 それを肩から下げれば続々と団員達がやってきて、

 

「はいこれプレゼント!」

 

「ありがとな!」

 

 何が入っているかは分からないが沢山の丁寧な包装が成された小包みを渡され、シャーロットもやってきてキリヤに一つの兜を差し出す。

 

「入団したての頃に散々盗られたからな。これを機にひとつやろう」

 

「本当ですか! ありがとうございます! でも壊さないために部屋に飾っときます!」

 

「匂いを嗅ぐのはやめろ!」

 

 被っていたものをくれたのか匂いを嗅げばしっかりと薔薇の香りがして小突かれるもキリヤは笑う。

 それからもプレゼントは山盛りになるほど渡され、最後に――

 

「これは我がヴァーミリオン家に伝わる家宝の一つだ。受け取れ」

 

「え、そんな大事なもの貰っちゃってイイんです……か」

 

 紅い宝玉が埋め込まれた腕輪を渡され、その顔を見上げればキリヤは言葉を奪われる。

 何故ならそこにいたのは絶対にいるはずもないはずなのに――

 

「やっぱりキリヤさんが喜ぶと言えばこの方だと思ったので」

 

「仕方ないから渋々来てやったぞ――糞莫迦弟子が」

 

「レオナ様っ!!」

 

 そこに立っていたのは間違いなくメレオレオナだった。

 あまりの嬉しさに突撃して勢い良くメレオレオナに抱きつく。

 

「泣くな莫迦者。祝われる者がそんな顔をしてどうする」

 

「やざじぃいいい……いづもなら絶対拳骨なのにぃ……」

 

 この日ばかりは本当に優しく抱きしめられ余計に涙腺が崩壊してしまう。

 祝われないとばかり思っていたためにこうして来られるとあらゆる感情が爆発してしまって頭まで撫でられてしまえばもうパニックだ。

 

「あと礼を言うならばシィナ達にしろ。わざわざ私を呼びに来たんだからな」

 

「ありがとうシィナ!」

 

「わ、わわっ! べ、別に私が何か出来たというわけでは――」

 

 メレオレオナから離れれば今度はシィナとハグし、そうすると魔導書からウンディーネが飛び出す。

 

『あーずるいずるい! あーし特に何の準備もしてないけどハグしよだーりん!』

 

「おう!」

 

 やけに心地良いひんやりとした身体のウンディーネも抱きついてくるので抱きしめ返し、そうしているとウンディーネを見たメレオレオナが「ほう」と感嘆の声を上げる。

 

「あれは水の四大精霊ウンディーネ……そんな者も引き入れたのか」

 

「ええ、何かと好かれるようで。本人はどれほどの偉業なのか知る由もないでしょうが」

 

「こうなったら一人ずつパンチボーイと熱いハグをしましょーっ!」

 

「賛成さんせーいっ!」

 

 次々と女性団員達がキリヤをハグしていき、ジブラウストやサキムニに胴上げされたりして〈碧の野薔薇〉は開設以降初かもしれないほど騒ぎ、時間はあっという間に過ぎていく。

 

「みんなありがとう! 今日は一生の思い出になるよ!」

 

「大袈裟だな!」

 

「レオナ様も来てくれてありがとうございます! 大好きっス!」

 

「そんな歯の浮くような台詞は修行時に聞き飽きた。次に進みたくばさっさと私に『参った』と言わせるんだな」

 

「頑張りまーすっ!」

 

 嬉しそうにキリヤは笑って夜は明けていくのだった――

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